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三人の魔王  作者: 零夜
第一章 目覚めて踊る双炎
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第三話 魔力の質

 目が覚めた瞬間にルチルが見たものは、相変わらず仮面のような無表情で鼻と鼻が触れ合いそうなくらい近くにあるリアンの顔だった。

 絶叫を発しかけるが、それは未遂に終わる。


 なぜなら……、


「うるさいぞ、それにまだ朝早い。他の奴らに気づかれたくないんだがな」

「うー! うー!」


 リアンが片手で、ルチルの口をふさいだからだ。さりげなく鼻もふさがれかけて呼吸が困難になる。思いっきり睨みつけるとすまんとつぶやいて、手が離れる。

 

 思いっきり深呼吸すると、軽く咳き込みドンドンと胸をたたく。

 その様子を静観しているリアン。背中くらいさすってくれてもいいのにと恨めしげなまなざしを向ければ、素知らぬ顔で無視する。


「なにしてたんだよ」

「ちょっとな」


 そういってまた額に触れてくる。好きなようにさせていると、何かが流れ込んでくる嫌な気配がし思いっきり手を振り払う。


「ふむ、やはりか」

「なにが」


 袖を捲り上げてみると、鳥肌が立っている。背中には冷たい汗をかいており、思わず身震いをする。

 リアンはゆっくり腕組をすると、目を細める。


「ルチル、魔法は使えるのか?」

「使えないけど、使える」

「はっ?」


 やって見せたほうが早いかとつぶやくと、ベッドから降りるとリアンに自分に向けて魔法を使ってくれと告げる。

 彼は何を馬鹿なことを思ったが、ルチルの表情が真剣なので片手の手のひらをルチルに向ける。

 その手のひらに火炎球が生まれすごい速さで打ち出される。


「それをまともに受けたら、火傷じゃすまないぞ」

「見ればわかる」


 ルチルも片手を突き出すと、その手に力を込める。手に触れるか触れないかのところで、火炎球は跡形もなく消え去った。


 彼の手には火傷はおろか傷の一つもない。反対の手を出すと、また力を込める。すると、その手から消え去った火炎球が黒に変わりリアンに向かって打ち出される。

 リアンにぶつかる前に、彼が同じ魔法を使い相殺させてしまう。一撃目よりも威力は強かったが。


「こういうこと」

「つまり?」

「自分で魔法は使えないけど、俺に向かって使われた魔法を消すこともできるし、そのまま相手に返せる」

「やはり、黒か」


 あごに手を当ててリアンは納得したように言う。うんうんと一人で納得している彼を横目で見ながら、寝巻きから普段着に着替え始める。


「黒って何が?」

「魔力の質だ」

「魔力の?」


 シャツを着ながら、リアンを振り返る。彼は宝石を弄びながらそうだと頷き説明をしてくる。


「人間に流れる魔力には質がある。六つな」

「それで?」

「一番弱いのが、白。次に緑、青、紫、赤。そして最強の黒」

「リアンは?」

「赤、二人で黒」


 二番目なのかとぼんやりと思いながら、今しがた彼に言われたことを復唱する。なんだかそのまま聞き流してはならないことが聞こえた気がしたのだ。


「リアンは赤」

「そうだ」

「俺は?」

「黒」


 片腕に上着を通したままの格好でまじまじとリアンを見詰める。何か問題のあることいったか? といわんばかりの表情でルチルを見返してくる。


「俺が黒?」

「そうだ。魔力の質が最強の黒。それを持って生まれるのは滅多にいないぞ、というよりもこの世に三人・・しかいない」

「意味がよく飲み込めないんだが」

「魔法に関することを習っていないのか?」

「才能なしといわれた」


 ぶすっとした表情でつげれば、リアンは口元をゆがめて笑う。冷たい笑いに彼の背筋は凍りつく。美形が微笑むと怖いとルチルは震えながら思う。


「人間も堕落したものだ」

「なんで?」

「黒は一人で世界を根本的に変えることのできるものだぞ」


 またもやさらりと告げられた自分の知らない事実に、硬直する。ベッドから立ち上がると、滑るように近づいてきて目の前で大きく手を広げる。

 するとその指先に、白、緑、青、紫、赤の光の玉のようなものが現れる。


「これが魔力。五つ出しているのはわかりやすくしているだけだがな」

「黒は?」

「さっき二人でといったんだがな。カーネと二人で複合魔法を使うときに黒の魔力と同等の力が発揮される」

「黒はどれくらい強いんだ?」

「白を小石を壊せるくらいとしておこう」


 手を振って出現させていた魔力を消すと、腕組みをする。自分よりも高い位置にある黄金の瞳を見上げながら次に言葉を待つ。

 リアンは、窓のそばに行き窓の外を指差す。


「黒はあそこの山を跡形もなく消し、さらにその向こうの地まで消すことができるにすることができる力がある」


 指差した方向に目を向ければ、兵士たちが訓練にいくかなり大きな山があった。それを跡形もなく消す力が自分にはあるという。

 思わず自分の手を見つめるルチル。


「今のは例えだがな。使いこなしたいか?」

「いや、そんな力を持っていても無駄なだけだ」

「お前もおろかだな。宝の持ち腐れだ」

「……いいんだよ」


 両手を握りこみ、色々な含みのある言葉を空気に溶かす。何かをあきらめているような憂いを含んだ表情に不愉快そうな顔をするリアン。


「このことについてはおいおい説明しよう。さて、私を見つけた場所へ連れて行け」

「見つけたというよりは、拾ったんだがな」


 窓の前に立つリアンから視線をはずし、ベッドの上で輝いている赤い宝石を手にとり、上着のポケットに入れる。

 音を立てないように部屋を進み、ゆっくりと扉を開ける。扉の隙間から滑り出ると、ゆっくりと閉める。リアンは扉をすり抜けて出てきた。


「この体は幻に過ぎない。本体はそっちだ」


 ぎょっと目を開いたルチルに含み笑いをしながら上着のポケットに入っている宝石を示す。

 そうなのかと納得し、廊下を走りだす。


 城の廊下は分厚い絨毯が敷かれているの、足音は吸収される。更にルチルの部屋は他の家族とは離れた場所にあるので、気づかれることもない。

 朝の静かな空気を吸いながら、彼は中庭に急いだ。


「ここだ」


 昨日、ぼろぼろ不満をこぼしていた場所にたどり着くと深呼吸する。

 朝から全力疾走をしたので、息を荒げる。対するリアンはずっとふわふわとい浮いていたので全く息が乱れていない。


「ここか」

「そう。俺が色々と不満を言っていたら頭に落ちてきた」


 ものすごく痛かったぞと文句を言い、じろりと睨みつける。

 リアンはそんな視線をものともせずに、いぶかしげな表情をしている。


「私は、宝物庫に安置されていたはずだぞ」

「そうなのか?」

「まさか、宝物庫に入ったことがないなんて」

「言ったりするぞ」


 心の底から哀れんだ眼差しを向けられ、そっぽを向く。


「私が色々と教えてやろう」

「本当に?」

「手伝ってくれている礼だ」


 朝の清々しい光だけが、哀れんでいる魔王と憂いを帯びている表情をした第二王子の会話を聞いていた。

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