第二十七話 王者
「これは」
対戦者の様子が変貌したのを感じ取りラピスは薄い金の瞳を細める。今まで強気な表情をしつつも、及び腰だったのだが今は表情が抜け落ち空虚な顔になっている。
こんな芸当ができるのはと、頭上を仰げばカーネがルチルを抱えてふわふわと浮いていた。
「久しぶりに骨のある戦いができそうじゃないか」
にやりと、今までまとっていた雰囲気には似合わない笑い方をすると大剣を一閃させた。
「なんか、ラピスうれしそうだな」
「そりゃそうだ。俺らは基本的に強い相手をぶちのめすのが好きなんだ。弱い相手に飽き飽きしてるんだろ」
「俺ら?」
「俺とラピスとジェイド」
誰がと言わんばかりの表情で見上げれば、三本指を立てて名前を挙げる。へー好戦的なんだぁと若干遠い目をしながら試合に目を落とす。
「さぁ、俺たちの力を見せてやれ」
「我らの力を見せてやろうか」
カーネはラピスを見ながら、ラピスはカーネの隣にいルチルを見上げながら似た様な言葉を言い放った。
「にしても相変わらず、先制攻撃が好きだな」
試合のゴングが鳴ると同時に、普通ではありえないほどの跳躍でこちらへ飛びかかってきた男を軽く大剣で吹き飛ばすと距離をとる。
『おぉーっと! 挑戦者いきなりチャンピオンに斬りかかった! 勇気があるぜ!』
アナウンスをする男の音をうるさそうにしながら、聞き流し飛んできた魔力の塊を水の壁を作りあげ防ぐ。
「だが、それも楽しめるということだ」
声をあげて笑い大剣を振り回しその風圧で相手を吹き飛ばす。ラピスの楽しげな笑い声は響き渡る。その笑い声は空中に浮かんでいるルチルとカーネにしか届かない。
なぜなら大歓声がその場を支配しているからだ。いつもの挑戦者のようにすぐにやれるような相手ではなく、ラピスと対戦できるほどの相手だから全員興奮しているのだろう。
ルチルはそれを見ながら無意識のうちに全身から魔力交じりの殺気をほとばしらせ始める。身の内から湧き上がる得体の知れない怒り。ルチルの深紅の瞳に黒い炎のような怒りが灯る。
「ルチル?」
異変に気付いたカーネが静かに声をかける。ルチルはちらりとカーネを一瞥しただけで何も言わない。
ぞっとするほど冷たい無機質な眼差しだった。
「カーネ」
「へい!」
「変な返事だな。まぁ、いい。この戦いが終わったら俺はやつに会いに行くその旨を伝えろ」
「ラピスにか。正気かよ、戦闘後は気が高ぶって何するかわからないやつなんだぞ!?」
「なにかいったか?」
カーネが若干青ざめながら叫べば氷のように冷たい視線が彼に向けられる。さすがは元王族、威厳が半端ない。と彼は思う。
と、同時にかなりおしく思う。もしもルチルが認められていれば、周囲にその存在を認められていればきっとあの国は大きな国になっただろう。
ルチルは王になりえる器をもっているとカーネは考えた。
「だからといって帰さないけどな」
「なにかいったか?」
眼下でラピスと死闘を繰り広げる男を操りながら、冷たい声を出す。それが聞こえたらしいルチルが先ほどと同じ言葉で問うてくる。
なんでもないと首を振り、ルチルを抱えなおす。そして彼に言われたことをラピスに伝えるべく操っている男を口を使う。
「ラピス」
「カーネか」
鍔迫り合いを行いながら声を発すれば気付いたように視線を頭上に向けてくる。愛想良く手を振ってやれば鼻で笑われる。
「なにようだ」
「この戦闘が終わったらルチルが会いに行くと」
「ルチル?」
「我らが主」
ラピスはもう一度視線を頭上に向ける。外套のフードを目深にかぶった小柄な少年を見る。深紅の瞳と薄金の瞳が交差する。かなり距離が開いているはずなのに先ほどまでは感じなかった、威圧感を感じる。
まるで品定めをするかのような視線に、ごくりと思わず唾を飲み込む。
「わかった。ただし私は気が高ぶっているぞ」
「なんでかわからないが、ルチルのほうが」
「それは感じる」
冷たい冷気のような殺気が全身にまるで雨のように降りそそぐのを先ほどから感じていた。なるほどと感じたことのないものだったが、これで謎が解けたと小さくつぶやく。
一人納得していると、急激に記憶が流れ込んできた。
驚いて相手を弾き飛ばし、凄絶な過去の記憶をじっくりと吟味する。その間も戦いの手は休めない。
「戦闘狂め」
「そのことばそっくりそのまま返す。誰の過去だ」
「我らが主」
ラピスは息をのむ。カーネは穏やかに聞いてくる。その言葉のなかに抑えきれない怒りを感じ取る。
「どう思う?」
返答次第ではどうなるかわからないぞと暗に匂わせながら告げる。
「ひどいな。相変わらず人間の心は」
「ついてくるか? あの子の家族として」
「ついていってやるが、条件がある。私と戦え」
そいつは本人に言いなというと、戦いの手を緩め始めた。それがわかったラピスは魔力を開放する。
広がる魔王の赤の魔力。
「私の本気を見せてやろう!」
大剣を高く掲げると石造りのリングの周りに十二本の大きな水柱が立ち上がる。水柱は上空まで伸び上がると一本になる。そして竜の形を模した。
会場から大歓声が上がる今までラピスが魔法を使ったことがなかったのだ。何をやらかすのかと全員がリングの上空に出現した竜を見つめる。
「すごいな」
ポツリとつぶやく。それが聞こえたカーネはニヤニヤと楽しそうに笑うと男を操りラピスのほうへ向かわせる。
「行け」
ラピスが吼えるように命ずると竜は垂直に降下する。カーネが操る男はそれを間一髪よける。客席からは大歓声が巻き起こる。
「さすがにカーネが操っているとなるなぁ」
少しだけぼやくと思いっきり跳躍し、竜の頭に乗るとそのまま高く飛翔する。
「一気にけりをつけるつもりか」
「そうだ」
「うわぁ!」
めんどくさそうな表情をしたラピスが目の前に現れ驚くカーネ。どうやら飛翔したついでに挨拶に来たようだ。大して驚かず目の前にある水の竜に触っているルチル。
「久しいな」
「あぁ、てかいいのか? 戦わなくて」
「カーネ、あれ」
ルチルが指を指した方向を見れば、水の槍が大量にリングを埋め尽くさんばかりになっているというところだった。
カーネが手を振るとすさまじい炎が起こり水の槍を蒸発させる。
「私はリングの真ん中にいるとしよう」
ルチルを見ながらいうと、竜に乗ったラピスはそのまま急降下をしていく。彼が竜から降りると、竜は滝となり降り注ぐ、身動きが取れない男をすれ違いざまに斬るラピス。
鮮やかに舞う赤き雫。
『勝者! チャンピオン!』
わぁー! とすさまじい大歓声が轟きラピスはそれを避けるように選手入場口に戻っていった。
「二人の元へ帰るぞ、カーネ」
「へーい」
「一人で行くからついてくるなよ」
「うぃーっす」
ルチルを抱えたままカーネは宙をすべるように飛ぶ。ルチルは闘技場を振り向く、そしてカーネを見上げる。
「ないすんだよ」
「なんとなく」
カーネの右ほほを引っ張って伸ばしてみた。対して痛くはないのだがいきなりやられて、疑問に思いながら見下ろす。
どこかぶすっとした表情のルチル。仕方がないということでほうっておいた。こういうときに話を聞きだすのは対の役目だ。
ちゃんと自分で聞けと言いつつもルチルの話を聞くだろうと、簡単に想像できてカーネは軽く笑った。
どうもこんにちは、零夜です。
82000pvとお気に入り登録110件ありがとうございます。
もうすぐテスト期間が終わるので、更新速度は速くなると思います。
今回ルチルは結構いらだっていますね。
なので八つ当たり気味カーネのほっぺを引っ張っています。最終主的には両ほほを伸ばしてカーネに思いっきりにらまれます。
テスト期間が終われば週一更新ができそうなのでがんばります。
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