第二十六話 カーネの実力
約2週間ぶりの更新です。
ずいぶんと間隔をあけてすいません。
四人が街に着いたときには、夜になっており本来ならば静まるはずの街は明るい声がどこからでも聞こえてくる。
町の中心部には大きな円形の闘技場があり、そこから大歓声が響いてくる。
「みんな平気?」
「無理」
「……」
「気分悪い」
魔王は人よりもすべての感覚が鋭敏らしいので、すさまじい大歓声は耳に痛いらしい。ルチルも契約してすべての能力が上がっているのだが、なぜか大して苦にならない。
なんでだという顔をしていると、
「おい、もうそろそろ時間だぞ!」
「あぁ、チャンピオンの戦いが見れるんだからな!」
何やら興奮しまくっている集団が彼らの前を通り過ぎていく。チャンピオンという言葉にルチルはわずかに反応する。脳裏に描くは霧の中で会った青年。
ルチルは物言いたげに顔をしかめているカーネを見上げる。カーネは銀色の瞳を動かしてルチルを見下ろしてくる。その後ろで何かを話しているリアンとジェイド。
「見たいのか?」
「ラピスが王者として君臨するって言ってた。こういうことなんだな」
こっくりと静かな問いにルチルはうなずく。カーネは視線を彷徨わせると何やら険悪な雰囲気を垂れ流しにしている後方の二人を振り返る。
「お~い。誰が宿取りに行く」
「二人で行って来い」
「こいつと一回決着つけねーとな」
今にも取っ組み合いを始めそうな二人にルチルはゆっくりと目を細めると、カーネに何かを耳打ちする。
彼は数回、瞬きをするとにやりと唇の端を持ち上げた。その様子に笑みを浮かべると風を操り先に行くと呟き、闘技場のほうへ飛んで行った。
「二人ともここで騒ぎを起こすなよ」
「んなことするか」
「喧嘩もするな」
「なんで?」
「ルチルが『喧嘩したら、俺が寝た後に好きなだけ制裁していいよ』って言ってたから」
ピシリと固まるリアンとジェイド。にやにやと悪い笑みを浮かべているカーネを振り返る。
目が笑っていない状態の彼に、二人は宿をとると同時に言いその場から逃げた。
「やれやれ、さてとルチルを追いますかね」
ふわりと浮きあがると街が小さくなるほど浮き上がりまっすぐ宙を翔る。パサパサとリアンと同じ色の髪が乾いた音を立てる。
「あれ、いない」
闘技場の近くに来てもルチルの魔力を感じられず、首をかしげればその場から少し離れた露店の集まりのほうからルチルの魔力がかすかに感じられた。
「ん~?」
建物の陰に降りると、ルチルを探す。彼が歩くたびに様々な視線が刺さる。ほとんどが好奇の眼差しなので別段気にしないが、寄ってくる者には睨みを利かす。
「ル~チ~ル~」
微妙に間延びさせて名前を呼べば、「こっちだー」という声が返ってきた。
さらに歩を進めれば、見慣れた外套をかぶった姿が。そこからちらりと黒髪が流れているのを見て、足早に近づいてフードを深くかぶらせる。
「二人は?」
「たっぷり脅しをかけといた。うまそうな物食ってんな」
「うん。食べる?」
「もらう」
ルチルは手にしていた肉団子を丸めて焼いたものを三つずつ串にさしタレを絡めたものをカーネに差し出す。すでに二本食べていたらしく、空の串を反対の手に持っている。
「腹減ってたのか?」
「おいしそうな匂いがしたから」
「そういえば、お前リアンに金もらってたな」
「安かったから三本買った」
「ふ~ん。リアンだったらお小言が降ってきただろうなぁ」
俺別にそんなこと言わないし、めんどくさいしな。と続けながらあっという間に食べてしまう。ルチルが手に持っていた串を受け取ると一瞬で灰も残さず、燃やしつくしてしまう。
「なぁ、カーネ」
「ん~?」
「ジェィドが言ってたんだが、魔力なしだとカーネが一番強いんだって?」
「あ~? あいつそんなこと言ってたのか。……本当だと言えば、本当だな。でもトルマのほうが強いと思う」
「トルマ?」
知らない名前にきょとんとした顔で見上げる。唇の端にこびりついたタレを舐めとると、複雑そうな答える。
「雷の魔王」
「あと何人魔王いるの?」
「大地の魔王アンバーとトルマと、ラピス」
「つまりあと三人か」
「あぁ」
はぐれないようにと手をつないで、二人は人の波をすり抜けるようにして歩いていくが、不意にルチルは人にぶつかった。いや相手がぶつかってきた。
「あぁ! てめぇ何ぶつかってんだ!」
「すいません」
抑揚のない声で、謝罪すれば男は下品な笑い方をしながら手を出してくる。
いぶかしげな顔をすれば、男は怒声を浴びせてくる。
「てめぇ、ぶつかっといて何の謝礼もなしかよ!」
「そっちがぶつかってきたんじゃないのか?」
「あぁ!?」
男のダミ声にうるさそうに片目を細める。思わず抜刀しそうになるがその前にカーネが動いた。
「お前が先にぶつかってきたんだろう。ぎゃあぎゃあ騒ぐな、うるさいんだよ」
最後の一言ともにぶわりと殺気が周囲に広がる。おもわずカーネの顔を見上げれば銀色の瞳には冷たい刃のような光が宿っていた。
「な、なんだと!」
「虚勢張っているのがバレバレなんだよ」
男がナイフを取り出しかけると、カーネはルチルの手を離しその場で一回転し遠心力をつけるとその勢いで回し蹴りを男の無防備な腹部に叩き込む。
男はまっすぐ飛んでいき地面に伸びる。と、そこにわらわらと男の仲間らしきやつらがやってきた。めんどくさそうに指の関節を鳴らすとルチルを一瞥する。
「動くなよ」
「人質に取られたらどうするんだ?」
「助けてやるよ。俺の怒りに触れるものはすべて我が豪炎で焼き尽くしてくれるわ」
この言葉を聞いてやっぱりリアンの対だな、考え方そっくりと内心怯える。
「相手してほしい奴はさっさと来い。俺らは急いでいるんだ」
「やっちまえ」
そこから先の戦闘をルチルは唖然とした。
いきなり飛びかかってきた男二人を裏拳で吹っ飛ばすと、背後から忍び寄ってきた三人回し蹴りをたたきこむ。
どういう原理かわからないか、カーネが掌を前に突き出すと離れた場所にいる男たちがかなりの勢いで吹っ飛ばされる。
このままじゃ埒が明かないと思ったらしくカーネを囲むと一斉に飛びかかってくる。カーネはその場で大きく跳躍するとまるで舞うように、体を動かす。
ざっと見て20人くらいの男たちが5人ずつまとめて宙に舞うのだ。ポカーンと開いた口がふさがらないルチル。
カーネが拳を振るうたびに、蹴りを放つたびに倒れていく人数は増えていく。一分もかからないうちにいちゃもんをつけてきた男たちは地面に延びていた。
ルチルはジェイドの言っていた意味をようやく理解した。
「相手の実力を見てから言うんだな」
パンパンと手をはたくと言い、ルチルを振り返るとおいでおいでをする。ルチルはそろそろと近寄りつま先でツンツンと気絶している一人を突っつく。
「んな、汚いものを突っつくな」
「汚いものって」
ルチルが呆れたように言えば軽く笑い、ふとカーネは、喧騒に耳を傾けるように目を閉じる。
「どうした?」
「……」
何も答えずたたずむカーネ。先ほどずれた外套のフードを引っ張り上げると目立つ黒髪を隠す。好奇の目で見られるのがいい加減嫌になったのだ。
「よし、行くか」
「うわ!」
急に引っ張られ体が前に傾く。軽々とカーネがルチルの肩を掴んで地に足を着かせると、今度は大丈夫だなとうなずき引っ張っていく。
「何をしていたんだ?」
「記憶見てたの。入場券が必要かどうか」
「で、どうだった?」
「いらんが見ずらそうだから、なんとかする」
「どうやって?」
ニヤーっと悪戯を思いついた時にするような笑みを浮かべるカーネ。まぁ、まかせとけ、というとぐいぐいと引っ張っていく。
闘技場に近づけば、その大きさとそこから漏れる声の大きさに圧倒される。
何を思ったのかカーネは、ルチルを抱き上げるとふわりと宙を浮く。
「ん?」
「上から近付けば問題ないだろう」
「いいのか」
若干呆れたように言えば、喉の奥で笑う。人目が届かないところに行くとすいーっと宙を浮いて闘技場の上のほうに行く。
「見えるか~?」
「微妙」
「始まってんな」
「本当に」
少々高度を下げてやれば、ルチルの目にもラピスが大剣をふるっている様子が見えた。それは準備運動のようにも見える。
「ちと、つまらんな」
「え?」
「おもしろい事を教えてやるよ。こいつはトルマが得意なんだがな、特定の人間を魔力で強化し操ることができるんだよ、魔王は」
ぎゅうっと手を握るとぽたりと血のように赤い滴が拳の隙間から落ちる。それはまっすぐに落ちていき対戦者の頭に落ちる。
びくんと体を硬直させて、赤い魔力をうっすらと纏う。
「さぁ、ショータイムの始まりだ」
カーネの楽しそうな声に、ルチルはただ眉根を寄せるだけで何も言わなかった。
PV750000とお気に入り登録105件ありがとうございます。
前書きにも書いたとおりにずいぶんと間をあけてすいません。
ですが来襲がテストのピークなので、また間が空きます。
今回はカーネが少しだけ闘いました。彼の実力はこんなもんじゃありません。
もっと強い(設定)です、はい。
次回はラピスが戦います。としか言えません。
感想・評価お持ちしております。
また間を空けることになってすいません。




