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三人の魔王  作者: 零夜
第三章 闘争する水
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第二十四話 驚きの知らせ

「すごいな、これほどの水はいったいどこから出てくるんだ」

「それはわからないが、この程度で驚いていてはこの先もっと驚くようなものを目にしたときに気絶してしまうのではないか?」

「こんなにすごいものを初めて見たんだから、仕方がないだろう」


 リアンの茶化すような言葉に文句を言いながら、手を伸ばし水しぶきを手で受ける。二人がいるのは滝のすぐ近く。

 正確にはリアンに背負われているルチルと、相変わらず軽く細い体に若干の苛立ちを抱いているリアンが宙に浮きながら滝の真ん中あたりで落ちてくる滝を眺めているのだ。


「髪が濡れて、はりつくな」


 うっとうしそうな顔で頬に張り付く髪を払うリアン。そんな彼の頭に顎を乗せて、途切れることなく落ち続ける大量の水をきらきらした目で見つめ続けるルチル。その表情はとても二十一歳に見えない。


「ルチル、そろそろ降りるぞ」

「もう少し」

「風邪をひく。それに」


 とそこで言葉を切り、黄金の瞳を動かして自分たちの足元に視線を落とす。つられるように見下ろせば、カーネとジェイドが二人を見上げていた。視線に気づいたのだろう、二人が手招きをする。


「そろそろ降りてこい!」

「わかった!」


 カーネの声にこたえると、リアンは垂直に落ちていく。リアンの真紅の髪とルチルの漆黒の髪が舞い上がりバサバサと音を立てた。地面に激突する前にジェイドが風を放ち衝撃を緩和させる。

 ふわりと二人の前に降り立ったリアンは、ルチルを地面に下ろすと手櫛で髪を梳く。ジェイドに視線だけで礼を言えば肩をすくめという返事が返ってきた。


「どうだったんだ?」

「一言でいえば厄介なことになっている?」

「そんな嫌そうな顔をするな」


 カーネの言葉に表情をゆがめて、回れ右をしそうになればジェイドが先回りしてカーネのほうを向かせる。リアンはと見れば、腕組みをしてほんの少しだけ表情をゆがめただけだった。

 はたから見れば、嫌そうにしているだけに見えるのだが、対であるカーネは二歩ほど後ずさりをする。


「んな、今すぐここら辺一帯を焦土化してくれるみたいな顔すんなよ」

「よくわかったな」

「お前の対を何年やっていると思っている? お前の考えなんかお見通しだ」

「では、その言葉をそっくりそのまま返そうじゃないか。貴様の対を何年もやっているのだから、わかるのだがな」


 なぜかルチルのほうに歩いてきて、彼をかばうように前に立つと剣呑な光を黄金の瞳に宿す。その身に宿す力は炎のはずなのに漂ってくる殺気は氷のように冷たい。

 対するカーネからはピリピリとした殺気が漂ってくる。なぜか自分のほうに重点的に向けられている気がしてひくりと唇をひきつらせる。


「今すぐ誰かに盛大に八つ当たりしたいというような考えを消せ」

「別にルチルにしようとは思っていないぜ?」

「お前の八つ当たりの仕方は、ルチルにとっては害だ」


 話についていけないルチルは何をしたんだという意味を込めてじっとジェイド見つめてみるが、彼はいつものように楽しげな笑みを浮かべて肩をすくめるだけである。


「二人の心温まる会話は放っておいて、なにがあったんだ?」

「心温まるというよりは、背筋が凍る会話だがな」


 彼らの周囲だけ氷点下の温度になりつつ、この二人は炎の魔王なんだけどなと考えつつジェイドはルチルの前で片膝をつき、臣下の礼をとる。

 その姿だけで、すっと表情を引き締めるルチル。


「ご報告があります」

「そうしなければならないことか?」

「はい」


 顔をあげてルチルの真紅の瞳を射抜くジェイドの翡翠色の瞳には苦渋が満ちていていた。先ほどまでの楽しそうな薄ら笑いは消え眉間のしわはいつもよりも深く刻まれている。


「水の魔王の封印が解けております」

「なに?」

「すべてが解かれているわけではないのですが、あいつは普通に動き回れるようになっているようなのです」

「どうしてわかる?」


 問うルチルの言葉には戸惑いと動揺が含まれていた。ジェイドは立ち上がると、少しだけかがみこみルチルと目の高さを合わせる。厳しさは消えていない翡翠の瞳は変わらないが、口調はいつものように軽快なものに戻る。


「魔力の波動が違うからだ。封印されているときは静かな波のような感じの波動なんだが、封印が解けている今は迸るというか、なんというか」


 う~んと少し悩んだ後、片腕を一閃させて風を操り滝壺の水の表面を一時的に割る。すぐに大量の水が降り注いで割れた水面は消えるが、片腕を一振りしただけであの威力を出せるのかと戦慄するルチル。


「こんな風に魔力を使っているのがわかるんだ」

「俺にはよくわからない」

「慣れればわかる」


 まげていた背中を伸ばして、ルチルを見下ろすと寄せている眉間のしわの本数をさらに増やし苦々しい言葉で伝えてくる。


「ここから先にいった大きな都市ではな、武闘大会をやっていてな。あいつはそこの王者に君臨している。大方封印を解いたやつが、莫大な金欲しさにあいつの力を使っているんだろう」

「言うことを聞いているのか?」

「契約はしていないようだがな、完全に封印が解けてないし。だけど厄介だな、あいつの力は強いんだ」

「そんなに強いのか?」

「肉弾戦だったらカーネの次に来る」

「そんなに強いのか?」


 意味がわからないという顔をすれば、ちょいと失礼と言いながらジェイドはルチルを抱えると上空に逃げる。十分に距離を取ったところでわけを説明してくれた。


「俺たちは人間にまぎれて行動する必要があるんだ。だから武器も持ってるし、体も鍛えている。んで一度力試しということで戦った結果。カーネが一番強い。そしてその次となると?」

「二番手?」

「そういうことだ。あいつと戦えば普通のやつではすぐに叩き伏せられる。カーネが戦えばいいんだが、多分しないと思うからな。自分から進んで戦うというよりも、はむかってきたやつをたたきのめすほうが好きだし。そのカーネが戦わないってことは誰が戦う?」

「俺が戦うってことか?」

「正解」


 盛大に表情をひきつらせ、肩をがっくりと落とせば慰めるようにポンポンと頭をなでられる。リアンに師事をしているとはいえ己はまだ未熟な身だとわかっている。それなのに戦えと言うのかと悶々と悩み始める。

 と、そこに炎の塊がジェイドめがけて飛んできた。


「危ね!」


 それを間一髪でよけると、風の塊をぶつけて相殺させる。次いで第二波が飛んできたので、ルチルが手を伸ばしてそれを吸収する。


「降りようか」

「あぁ」


 冷や汗をかいているジェイドに抱えられながら地面に降りれば、双炎の魔王がそっくりな顔に冷たい微笑を浮かべてそれぞれの手に業火を発生させていた。

 ルチルが睨めばそれはすぐに引っ込めたが、冷たい微笑は消えない。さりげなくジェイドがルチルの後ろに来たのは黙認した。


「ジェイドから聞いて大体話はわかった。とりあえずその場所に行こうか」

「了解」


 ジェイドはすぐさまうなずき、二人はジェイドを睨みつけた後ゆっくりとうなずいた。


 何を話していたか答えろよと言わんばかりの表情で睨みつけられて、実力の話だと簡潔に答える。それだけで納得したらしい二人は、視線を逸らした。

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