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三人の魔王  作者: 零夜
第二章 吹き荒れる風
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風の楽天家

「ルチル、もう少し構えを小さくできないか? そのままでは大振りになって隙になりやすい」

「わかった、直してみる」


 開けた空き地のような場所で剣を構えたルチルと双剣を構えたリアンが稽古をしている。聞いた話では強くなるために、リアンに師事をしているのだとか。現在のメンバーでは剣を使うのはリアンしかいないので、彼に師事をするのは間違ってはいないが。


「よくやるねぇ」

「ルチルか?」

「いや、リアンのほう」


 頭の後ろで手を組み地面にどっかりと座った俺は二人の様子をじっと観察していた。俺の隣に暇そうな顔をしたカーネがしゃがみこむ。


「昔はあんなことしないやつだったのに」

「ルチルの境遇が昔のあいつに色々と似てるからだろう」

「つまりは、自分と同じ道を進ませたくない親心ってやつか? 過保護だねぇ」


 クククと皮肉るように笑えば、ちらりとカーネが白銀の瞳を動かして俺を見つめてくる。まるで睨みつけるかのように。

 うっと顔をしかめる、カーネの顔立ちはリアンと瞳の色と雰囲気以外はそっくりだ。性格はまるで合わせ鏡のように反対なのにもかかわらず、同じような表情をすれば瓜二つという。


「俺は何も言わないさ。あいつがしたいことなんだからよ」

「そうなのか、てっきりお前もなのかと思ったが」

「俺はただ静観するだけさ、あいつが暴走しないようにな」


 よっといいながら立ち上がると周囲を見てくると言いながら、片手を振ってその場を離れるカーネにじっと視線を向けてみるが、振り返ることはない。

 意外と鋭い奴だからわかっていて無視しているのかもしれないなと小さくつぶやけば、かなりの熱量を伴った風が頬をたたく。


「なんだ?」


 カーネの去っていった方向から視線を正面に戻せば、ルチルは黒、リアンは深紅の炎をぶつけ合っている。その余波がこちらにまで飛んできているらしい。

 熱いと呟いて風の壁を作り上げると熱さはなくなる。


「まだ魔法に慣れてないみたいだよな」


 頭の後ろに回していた腕を前に戻して腕を組みながら、ルチルの悪戦苦闘ぶりを評価する。どうやら自分たちの魔力を介して今は魔法を使うようにしているらしい。だが訓練次第で自分の魔力だけで魔法を生み出せるだろう。彼は底知れない力を持っている、確証は得られないがとある存在だと認知している。

 

目覚め(・・・)はいつになるかなぁ」


 期待感によって唇が笑みの形を作るのを感じる。ルチルといるのは楽しそうだし、面白そうだからついてきた。

 予感は的中したなぁと鼻歌を歌いだそうとしたとき、苦しそうなルチルの表情が浮かび上がってきてやめた。まだ割り切れていないところもあるし、俺たちがすべてを話していないという点もある。


「それが命取りにならなければいいんだけどな」

 

 そこは不安に感じると一人ごちていれば、


「うわっ!?」

「うおっと!?」


 今まで一番の威力の魔法をリアンが発動させ、その威力にこらえきれなかったルチルが吹っ飛ばされた。しかも自分のほうに飛んできたので、慌てて立ち上がって距離を詰めると抱き留める。


「おーい、ルチル―。無事かー?」

「……」

「あーあ、気絶してるよ。少し手加減というものをしてやったら?」

「これでも手加減をしていたのだがな、やはりもう少し威力を抑えるか」


 双剣を炎に紛れさせて消しながら近づいてくる。相変わらず憎たらしいほど綺麗な面をしている。力を合わせれば強くはなるが、性格上そりが合わない。

 それはリアンも同じらしく、二三歩離れたところで立ち止まると探るような眼差しを向けてくる。


「なんだ?」

「お前はなぜルチルについてきた?」

「そういうお前はなんでだよ」

「……守るためだ」


 これでいいかというようににあっさりと返答をしてくると、さっさと答えろと言わんばかりに殺気をまとう。これでも意識を飛ばしたままのルチルはよほど強い衝撃だったのか、それとも気づいてないだけなのかはわからないが目覚める気配はない。


「おもしろそうだから」

「相変わらずの楽天家が」

「意味わかって言ってるか?」

「自らの境遇をあるがままに受け入れ、くよくよせずに人生を楽観する物のことを言う。お前の考えはいつも楽観的であり、そして自分が面白いと思うことしかしない」


 皮肉をたっぷりと含んだ言葉を投げつけてみれば、力の性質とは真逆の氷のような声でバッサリと俺の言葉を切り捨てながら、指摘してくる。

 冷静な観察力と洞察力でと吐き捨てたくなるがルチルが今起きるかわからない今余計に火に油を注ぐのは憚れる。


「まぁそうかもな」

「先に言っておく。ルチルを害することがあれば、その時は……」


 吹いていた自然の風が凪ぎ、重苦しいほどの殺気がその場を満たす。そこで気づく俺にだけその殺気が向けられれていることを。相変わらず器用な男だと睨み返す。


「私がお前を半殺しにする」

「へぇ、昔は殺すとかいってたのに随分と丸くなったもんだな」

「ルチルのためにもお前は必要だからな」

「なるほど、とりあえずの腕は買われているんだな。安心しろよ、ルチルと一緒にいるのは楽しいし、契約を結んだ時に家族になるという約束したから、害するなんてことはしねぇよ」

「その言葉違えた時には、煉獄の炎で焼いてくれる」

「やってみろ」


 殺気をまといながらさらに睨みつけると、リアンはイラついたように額に青筋を浮かべて、一歩踏み出すと同時に俺たちの間を裂くように炎球が飛んできた。

 地面に落ちる寸前にはらりと花弁がほどけるかのように炎球は消え、代わりに威圧的な声が響く。


「ルチルを間に挟んで喧嘩するな」

「カーネ……」

「言い訳は聞かない、どっちも同罪だ」


 歩み寄ってきたカーネは俺の腕からルチルを受け取ると、木にもたれかけさせてペシペシと頬を叩き始める。だんだん力が強くなってきているのは気のせいじゃないよな。


「ルチル~、おきろー」

「打ち所がまずかったか?」

「頭打つ前に俺が受け止めたぞ」


 先ほどまでの威圧的な様子は見せずに、さも呑気そうな風体でルチルの頬をつまんで伸ばしたり、叩いたりするカーネ。


「おお、伸びる伸びる」

「カーネ……」

「よく伸びるほっぺが悪い」


 確かによく伸びてるけど、赤くなってきてるぞと突っ込んでみるが聞く耳を持たれない。どんどんリアンの眼差しが冷えてきている。

 よくのんきに笑って入られるなと逆に感心する俺。


「炎の力に氷の心」


 昔感じ取ったことをポロリともらせば、冷えた殺気がこちらにも漂ってきたが素知らぬふりをする。これに刃のような視線が混じったら危険サインだ。


「う~」

「おきた」

「痛い」


 そりゃそうだろうなと賛同する。のばされた頬は赤くなっているし、その前にもぺしぺしと叩いていたので痛いのは当たり前だろう。


「少し休憩を入れるか」

「わかった」


 ほっとしたような顔を一瞬見せたので、あ、やっぱりあいつ(リアン)はスパルタなんだなと再認識した。そしてそのスパルタ野郎はカーネに連れられてどこかへと、というよりも襟首引っ掴まれて引きずられていっただけなんだが。


「ルチル、大丈夫か」


 荷物をあさって水筒を取り出すと投げ渡してやる。へたり込んだままそれを受け取りのどを潤すルチルの隣に座れば疲れたというお言葉一言返ってきた。


「筋はいいんだけどな」

「そうか?」

「ん?」

「爺様にはあまり剣を握ってほしくないって言われてから、俺には才能がないのかと」


 そういいながらまた一口水を含む。そのルチルを愛してくれた爺様については何も聞かされてはいない、記憶を見た時に知っただけだ。

 あえて傷口を穿り返して泣かせでもしたら、双炎の魔王に何をされるかたまったもんじゃない。


「たぶん、お前に過酷な道を進ませたくなかったんじゃないのか?」

「そうなのか?」

「まぁ、普通は何の恐れもなく苦しみもなく悲しみもなく生かしてやりたいっていうのが愛する者への考え方だと思うぞ」


 んな思い出無いから、よくわからんがと続ければルチルはじっと不思議そうな色を深紅の瞳にたたえて見上げてきた。俺なんか変なこと言ったかと首を傾げれば


「ジェイドに親はいなかったのか?」


 言外に自分と同じだったのかと問われあーとかうーとかいう唸り声を絞り出す。


「正直言うと覚えてねぇ」

「どうして?」

「どうしてもなにも、相当昔の話だよ」


 ピンと鼻をはじいてやれば顔をしかめて鼻頭を抑える。痛いというように撫でるルチルの髪をかき混ぜるように撫でてやり、ふっと小さく息を吐く。


「ルチル~」

「な~に~?」


 俺が間延びさせるように名前を呼べば似たような感じで返事をする。空に視線を固定しながら俺はさらりと言った。


「俺みたいになるなよ?」

「なろうと思ってなれるわけないと思うよ」


 二人が帰ってきたといって立ち上がって駆けていくルチルの背に視線を投じながら、皮肉気に唇をゆがめる。


「わりぃな、俺は自分が楽しいと思うことしかしないんだよ。過去の思い出話なんて面白くもなんともない」


 でもお前はそんな風になるよ、思いっきり伸びをしてから立ち上がり空に向けてからりと笑った。


「俺は俺なりに楽しみながらついていくよ」


 無邪気に子どものように笑うルチルの横顔に視線を投じて俺はつぶやいた。


「せいぜい楽しませろよ? 俺をな」

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