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三人の魔王  作者: 零夜
第二章 吹き荒れる風
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第二十二話 終劇

「ここまでくれば」

「ここまでくればなんだって?」


 抜け出した数人のうちの一人が言葉を吐き出すと同時に、ルチルの冷たい声がその場に響く。真冬に降る雨のように冷たい言葉は、一瞬にしてその場の空気を凍らせる。

 一瞬にして四肢を言葉によって絡めたとられたかのように動けなくなる。


「えっ?」


 誰かが言葉を発した瞬間、それが引き金になったかのように黒炎が彼らを囲むように燃えあがる。一人が後ずさりしすぎて燃やされる。断末魔の声すらもなく燃やしつくされる。

 ふわりと逃げた者たちの目の前に、青年が降り立つ。


 闇のような漆黒の髪に、焔の様な輝きを宿す深紅の瞳を持った青年こと、ルチルは降り立つと同時に冷たい眼差しで平睨する。


 その姿を認めるなり、叫ぶように問いかけてくる。


「何者だ!!」

「何者といわれて答えるほど、愚かじゃあないんでね」

「君は」


 と不意に声を上げたのは、ルチルたちに声を掛けてきた二人組の男のほうだった。

 さらに温度を下げた眼差しで、その男を刺すように睨むと怯んだように一歩下がる。反省の色がないところを見ると本当に騙したらしい。

 煮えたぎっていた怒りに油が注がれる。めらめらと彼らを取り囲むような灼熱の怒気が彼の全身を取り巻く。


「俺達を利用していたんだな?」

「そうだと答えれば」

「殺す」


 何のためらいもなく言い切り、深紅の瞳に苛烈な光が宿る。剣を引き抜き構えれば、黒い炎に照らされ鈍く輝く。深紅の瞳に慈悲の欠片も見いだすことができず、睨まれた者たちは凍りつく。

 蛇ににらまれた蛙のように指一本も動かすことができなくなり、ただ終わりの時を待つだけだった。


「と言いたいが、お前らは俺の獲物じゃないしな」


 ふっと力を抜きカチンという音を立てて刃を鞘に戻した。片腕を一閃して黒い炎を消す。

 だが、逃すことはせずジェイドの力を借りて暴風を生み出すと、彼らを宙に放り投げる。彼のアドバイス通りに魔力を流し続ければさらに威力を増し、平衡感覚を奪う。


「うわあ!?」

「あいつらのもとに連れて行ってやるよ。そこで断罪、受けておいで」


 指を鳴らして風を魔王たちのもとへ動かす。風に弄ばれている白い影が、燃え上がる炎柱のほうへ飛んで行くのを見ながら、軽く溜息を吐く。

 風がジェイドの魔力に触れたので、そちらにコントロールを任せ自分の魔力の放出を止める。


「俺も行くか」


 ものすごく嫌だけどとつぶやき、風を手招くと自分の周囲に取り巻かせふわりと浮きあがる。

 ゆっくりと遅すぎず早すぎないくらいの速度で風を動かし、業火の宴へ向かう。宴の上空にたどり着くと彼らがどうなっているかをのぞきこむようにすれば、踊るように動き回っている三人。


「うまいこと操れたか」


 先ほどの男がいるのが見えて、小さく言葉を吐く。なぜ見えるのかといえば、彼が魔王たちと契約したことによってすべての能力が上がっているからだ。ルチルもそれには気づいているようで気づいていない、当たり前のようにその感覚を行使している。

 彼が気づかない要因があるのかもしれない、眠っている力が目覚める(かくせいする)かのように。


 銀色のものが上空に舞い上がり、雨が降るように大量に降り落ちるさまを見る。誰が行っているのかはすぐにわかる、ジェイドが操る風によって短剣が雨のよう降っているのだ。一本一本が計算して落とされているので、意外と繊細な技が使えるらしいとちょっぴりひどいことを思う。


「ぶえっくし!」

「汚いな……」

「ルチルにひどいことを思われた気がする」


 盛大にくしゃみをしながらも、一番長い短剣をつかみ振り回す。あっという間になぎ倒されるのを見つめながら鼻を鳴らすリアン。


 その光景をすごいなと思いながら、ゆっくりと自分の体を炎の囲みの中に降ろすルチル。ぶわりと熱い空気が全身をたたいたので眉間に皺よせながら、ぼんやりと宴が終わるのを眺めていると


「ルチル!!」

「ん?」


 自分を呼ぶ魔王たちの声が聞こえた。

 ぼんやりとしながら視線を動かせば、撃墜できなかったらしい魔法がこちらへ飛んできた。当たったらそれなりに傷を負いそうだが、ルチルはむしろ感心していた。


「へ~、魔法は重なると強くなるのか」


 三人が慌てたのを見て、次々にルチルめがけて魔法を放ってくる。どうやらルチルが弱点だと思ったのだろう。だがそれは間違いである。


 彼はめんどくさそうな表情をすると、剣を抜き刃を天に向ける。重なりあった魔法が一つの大きな力となって飛んでくるが 刃に自分の黒の魔力をまとわせる。

 魔法は引き寄せられるように、ルチルの掲げる剣に向かって飛び魔力に触れると吸収されるように消えていく。


 ルチルが飛んできた魔法をを己の力の特性を利用して吸収したのだ。剣を使ったのは、単純に魔法に触れたら怪我をしそうだと、のんきに考えた結果だ。

 すべてを吸収すると、彼は剣を構え横一文字に空間を切るようにする。


 剣の通った軌跡から吸収された魔法が飛び足し、黒の魔力を纏いさらに威力を増して、愚かな者達めがけて飛んでいった。その色を黒に変えて。


「早く終わらないかな」


 人が焼かれる臭い、断末魔、血の臭い、苦しみにうめく声、そんなものを嗅いだり聞いたりするのが嫌になってきている。


 ルチルに向かって魔法を放ったことに関して、逆上した魔王たちから冷静さが失われるのを感じ取り彼は三人に呼びかける。

 だが、気付かないので彼らめがけて殺気を向けた。


「お前たち、いつまで遊んでいる」


 驚いてルチルのほうを見てきた魔王たちに、冷たく淡々と問いかける。


「さっさと終わらせろ。こんなことに時間をかけていては感づかれるだろう」

「しかし」

「しかしでもなんでもない、俺の言葉をすっかり忘れやがって……」


 唸るように呟けば、気まずそうに視線をそらす三人。ルチルは全身から黒の魔力を放出する、それを見て誰かが「黒の魔力を持ちしもの?」とつぶやいたのが聞こえたが、ほうっておく。


「あまり派手にするなって言ったはずなんだがな、俺」

「……そーですね」

「で、なんでそれが守れないんだ? お前たちは」

「それは……」

「何か弁解があるのか? ただし、久々に暴れたかったからとか、逆鱗に触れたからとかいう言い訳は受け付けないぞ」


 低い声ですごむルチル。今まさに、ルチルのいった言い訳をしようとしていた三人はしどろもどろになる。

 普段はほわほわとした雰囲気を持つ子供の様なのに、戦闘時になると一転して鋭く冷たい殺気を放つ。

 

「あと10秒以内に終わらせろ。さもなくば」

「さもなくば?」

「俺自身が魔法を放つぞ」


 刃に魔力を注ぎ込んでいけば、徐々に黒くなっていく刀身。びりびりと空気が震え始めるのを感じた三人は、そんなことはさせんと言わんばかりに身を翻す。今ここでルチルが魔法を放つのはどうしてもやめさせたいらしい。


 二種類の炎が躍り、その炎をあおるかのように暴風が吹く。ものの数秒で、白かったローブは黒と赤のまだら模様に染まった。地に伏す塊からは生の気配はなく、死の色だけが取り巻く。

 その真ん中に三人は瞳をぎらつかせて立っていた。


 その姿にほんの少しだけ、恐怖を覚えるルチル。まだ心がついていけないのかと、軽く瞼を伏せた。死の色には慣れているが、ここまで凄絶なものを見たことがない。

 蹂躙というのはこういうことを言うのだろうかと、どこか痺れた思考の中で考えつつ呟いた。


「終劇」


 どこかつらそうな雰囲気を纏うルチルを、じっと見つめる翡翠の瞳があった。何やら話し込んでいる双炎の魔王は気づいていない。


「おもしろくねぇな」


 そんなジェイドの小さな言葉は悲しみにそまっいて、彼の起こす風に吹かれて消えた。

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