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三人の魔王  作者: 零夜
第二章 吹き荒れる風
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第二十一話 魔王『様』の逆鱗

「あれだよねぇ、儀式やってるところ。もっと早く着いたんじゃなかったのかな」

「すまん」


 イライラを隠さずにわざと聞こえるようにつぶやけば、リアンが気まずそうに視線をそらしながら謝罪してくる。

 あの後なぜそんな経緯に至ったかを説明されたのだが、感情的になっていてまったく意味が分からない説明だった。らちが明かないと悟ったルチルはキレて牢の壁を一部壊すという暴挙に出た。


 いきなりルチルが剣を抜いて壁につき立てさらには黒炎を這わせるという三人とってはまったく予想外のことをしたので、驚いたらしく怒涛のように吐き出されていた言葉が止まる。

 落ち着いたのを見て、ルチルはにっこりと額には青筋バックには黒い炎というオプションをつけながら一言尋ねた。


「何が言いたいんだ?」


 ルチルがキレているということを瞬時に判断した彼らは話し合い、カーネが簡潔になぜ怒ってあんなことを言い出したのかを説明してくれた。

 

 カーネ曰く、自分たちのことを馬鹿にされたから猛烈に腹が立ち目にもの見せてくれるという結論に達したということだった。

 ルチル的にはそんなことで一々時間を食うなと言いたかったが、落ちついたが相変わらず殺気をみなぎらせる魔王たちに言葉を飲み込むしかなかった。

 なので、ルチルも別の意味で怒りをため込んでいるのである。


 そんなこともあり牢屋から抜け出したルチルたちはジェイドの力により空を滑空しながら風の町のシンボルの大きな風車を目指すしたのだ。

 魔力が立ち上っているので指で示しながら問えば、問われたリアンは静かにうなずく。その表情は冷たい微笑に彩られていたが。


「何やってるんだ、あれ?」

「魔力をメテロに集中させて、風車にある俺の封じられていた宝石に献上するんだよ。魔力を」

「それでどんな効果があるんだ?」

「しらねぇ。俺は膨大な魔力がもらえるけど受け取るには限度がある。余剰分を風にして発散してたら、いつの間にか風の恵みという、御大層なものになってた」


 瞳を冷たく煌めかせていたルチルの問いかけに、どう猛な笑みを宿したジェイドが指を鳴らしながら答える。戦いたくてしょうがないという顔だ。


「ルチル、行ってもいいか?」

「少し待て」

「えー」

「待て」


 不満そうな声を上げたジェイドをにらみつけながら一言静かに発すれば、はいと冷や汗をだらだらと流しながら視線をそらす。

 魔王たちとは別の意味で、無の魔王「様」も怒っているのだ。それでも状況を理解しようとじっと眼下の儀式を見つめている。


 白いローブをまとった数十人の男女側になり、真ん中の小さな祭壇のようなものに置かれたメテロに手をかざし魔力を注ぎ込んでいる。


「カーネ」

「なんだ?」

「メテロは魔力をためられるのか?」

「一時的にな」

「そうか、ならばその魔力俺が有効活用してくれる。行け、好きに遊んで来い」

 

 俺はもう少しここで眺めていると、牢の中にいた時に見せていた怯えた子供のような雰囲気を消し去り、魔王たちを従える冷然とした雰囲気をまとった無の魔王(ルチル)


 彼からの許可が出た。


 カーネとジェイドは歓喜の表情を浮かべてほぼ同時に魔法を放ち、炎の竜巻を出現させ地上に降りる。リアンだけは心配そうにルチルのことを見つめてきたが、行けと視線だけで促せば頷いて彼の頭を一撫ですると地上に降りた。


 地上ではメテロに純分な魔力がたまった頃合を見計らい少しずつ風車の中の宝石に魔力を流していた。例年ならば少しずつ風が吹いてきて風車が回るのだが


「なぜ、今年は風車が回らない?」


 白い祭事服ローブを着た一人がつぶやく。例年通りに宝石に魔力を流し込んでいるのがが、今年は風車が一向に回らない。それもそのはず、自分が受け取らない分の魔力を使って風を吹かせていた宝石ジェイドはもういないのだから。


「風の恵みがなければ、住民からの信頼が失われるぞ」


 祭事を行う組織の者たちは町の本来は政治を司る者達を押さえ込み政治を行ってきたのだ。それは彼らが風の恵みを与えることができるから。

 だが、回らないということは絶大なる信頼を得ている者たちが、彼らの元から離れ本来の統治者たちのほうにいってしまう。さらに統治者たちはこの組織を壊そうと、漬け込む隙を虎視眈々と狙っているのだ。


 誰もがまずいと思ったときに、少しだけ風車が回った。全員の顔が喜びに輝くが、それは絶望と恐怖の表情にすぐに変わった。

 いきなり風車が、火の気がないはずなのに業火に包まれたのだ。上から降ってきた業火によって一瞬にして燃え上がり、訳が分からないといった表情の面々を熱風が叩く。


「な、なんだ!?」

「イヤッハー!!」


 楽しそうな笑い声とともに長身の男二人が空から降りてきて、炎をバックに陰影のある表情で唇の端を釣り上げて笑う。

 彼らを飲み込むようにして放たれるのは、膨大な魔力。もしここで魔力の質を測れるものがいたらすぐにわかっただろう。

  

 魔王の「赤」の魔力だと。


「おいおい。あんまりデカイ火柱にするなよ。気づかれるだろうが」

「んなこといわれてもよ。久しぶりの自由に暴れられるんだからよ、ついついテンションがあがっちまってさ」

「その気持ちはわからなくもないが、少しは自重しろボケ」

「んだと!?」


 さらにもう一人、空から先に降りてきた二人よりは落ち着いた雰囲気を持つ男が降りてきた。正面を向いた途端にあふれ出したのは炎をも凍てつかせそうなくらい冷たい殺気。


 ゆっくりと三人は歩み寄ってくる。一人は深紅の長髪を熱風に揺らし、一人は獰猛な獣のような笑みをその顔に浮かべ、一人は冷え切った銀色の瞳に殺意をみなぎらせている。

 それを上空から眺めている小柄な影あることを彼らは知らない、突如として現れた命の危機にどうすることもできないのだ。


「我らが主を騙した罪、ただではおかんぞ」

「さらに我らを侮辱した罪」

「我が同胞を良いように扱った罪」


 長髪を揺らす男は掌に炎を灯しそこから細身の剣を二本取り出す。深紅の柄をつかんで神速で振るえば、放たれる衝撃波。その隙に近づいた男の白銀の瞳がきゅっと細くなると同時に仲間が一人宙を舞い、空中で身動きできぬまに獰猛な笑みを浮かべる男が短刀を数本投げ絶命させる。


 どさりという音を立てて地に倒れ伏す体から流れ出る血。それを見て、鉄臭が流れはじめて、ようやく時は動きだす。

 悲鳴を上げて逃げ惑う白い人影を逃すものかとリアンが魔法を放つ。


「逃がしはしない!」


 彼らの前方に高い炎の壁が生じる。あわてて水の魔法を使うものの、一向に消える気配がない。実力が違うので当たり前である。

 数人は逃れれたようだが、大半は炎の壁の中に取り残される。リアンを中心に大きな円形の炎壁が出来上がる。


 勢いを増した炎をバックに背負った三人は酷薄に笑う。


「逃げられると思うなよ」

「この魔力、殺気。……ま、まさか『魔王』?」

「正解」

「馬鹿な、封印されていたはずだろう!」

「解放されたのさ。後三人とも魔王だからな」


 眼前に来たジェイドに震える声で疑問を投げつけてくる。それに丁寧に答えてやりながら腕を一閃させると同時に大量に飛ぶ短剣。

 刺さると同時に舞い散る赤い雫。それを受けないように避けながら次の標的を見つけて一歩踏み出す。


 リアンは双剣を縦横無尽に振るって次々と屠り、カーネは俊敏に動きその肉体から繰り出される苛烈な体術により次々と仕留めていく。


 その様子をルチルは上空から眺めていた。


 冷え切って感情のないその深紅の瞳が動き、運良く逃げられたものたちを見つめる。散り散りにはならず固まってどこでもいいから逃げようとする滑稽なその姿。


「本来の統治者がこの町の政治を行うらしいな」


 一度瞼を閉じると少し悩む。悩んだ結果、瞼を持ち上げ、刃のような光を深紅の瞳に浮かべ風を操り運良く逃げられたものたちの元へ冷たい微笑を浮かべながら向かった。


 リアンはそれに気づき上空を見上げたが、ルチルの向かった方向に気づき彼一人でも大丈夫だろうと判断し、殺戮に戻った。

 でも、本心としては……


「カーネ、ルチルについていっていいか?」

「お前、本当に変わったよなぁ」


 ルチルをあんまり一人にしたくないのであった。それに対してカーネは何とも言えない表情で、生ぬるい微笑を浮かべた。

2012/5/12 ほぼ修正

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