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三人の魔王  作者: 零夜
第二章 吹き荒れる風
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第十七話 呼ぶ声

「本当に、こんなんで見つかるのかな?」

「さぁな」


 ルチルとカーネは翌日から、町の通路という通路を歩いていた。通路だけでは足りないので、建物と建物の間の路地にさえも入ったりした。

 さすがに一日で見つかるわけもなく、二日間何の収穫もないまま終わった。いろいろと見て回ったりするも、メテロを探すのに集中していてなんの面白みもない。


「本当に見つかるのか」

「さぁてな。メテロは希少価値の高い石でもあるから、誰かが隠し持ってたりするぞ」

「リアンは?」

「何か考えることがあって一人で出歩いてる。んで、俺がルチルのそばにくっついてるの」


 ゴロゴロと向こうが用意してくれた宿のベッドに二人で転がりながら、グダグダと会話をする。体力的には問題はないが何の収穫もないということにイラつきを覚える。

 つまらないと言わんばかりにふくれっ面になれば、それに同意するようにカーネもつまらないとつぶやく。


「風の魔王の情報もないし」

「ルチル。あんまりリアンの前で風の魔王のことをいうなよ?」

「なんで?」

「性格上そりが合わないんだよ」


 げんなりとした表情でため息を吐いたカーネに、ルチルはきょとんとした表情をするがとりあえずわかったということを示すために頷いた。

 そうしてくれてと疲れたような微笑を浮かべるカーネだった。


 翌日。またリアンとは別行動であり、自分は風の魔王を探すと言ったきり朝からいなくなっていた。

 そんなに早く会いたいのかなと、カーネに朝食時に問うてみると、彼は飲んでいた紅茶を気管に入れたらしく盛大にむせた。


 カーネ曰く、なんかストレスたまってるからストレス発散相手がほしいというわけらしい。


「リアンがストレスをね……」

「相当あの二人組に腹が立ったらしいな。あいつかなり短気だし、しかも探すのが石ころ一つ」

「見た目は短気じゃない気がするんだけど」

「外見に騙されるなよ~、外面よくても腹の中真っ黒つー奴いるし」


 その人物を思い出したのか、若干青ざめて身震いする。魔王の一人だなと、あながち間違っていない予測を立てそうなんだと適当に返事をしておく。


 ふらふらと朝食の時のことを思い出していると不意に強烈な突風が吹きルチルの外套のフードが外れかかった。咄嗟にカーネが抑え、自分の体で壁を作り彼を突風から守る。

 道行く人も突然の突風に悲鳴を上げて店内逃げたり、その場にとどまったりする。


「凄い風だな」

「カーネ大丈夫なのか?」

「平気だ、これくらい」


 そんな事を話している間も突風は強くなり、止まる気配を見せない。さすがに二人は訝しみカーネはルチルの腕をつかんで引っ張ると路地に押し込むと、ここから出るなと念を押しどこかに駆けて行った。


「なんだろう、この風。まるで誰かが意図的に発生させた物みたいだ」


 フードが外れないように片手で抑えていたルチルの耳に行き成り


『ふぅん。お前がカーネとリアンと一緒にいたガキか』

「っ!?」


 カーネの明るく快活な声とも、リアンの落ち着いた声とは違う、どこか不機嫌そうな低い声が忍び込んできた。あわてて後方を振り返るがそこには誰もいない。

 剣の柄を握り、いつでも抜刀できるようにしながら周囲を見回す。しかもその声に聞き覚えがあった。


『おぉ、それなりにできるようじゃねぇか。おもしろい』

「誰だ」


 ルチルの誰何には答えず、声は楽しそうに笑う。だが、その笑声に含まれる冷たい棘のようなものに警戒を緩めず、徐々に殺気を全身から迸らせ始める。

 思い出した、あの二人組の話を聞いていた時に急に聞こえた声だった。つまり……


『そう怒るなよ、ガキ。んなんじゃ老い先短くなるぜ、人生楽しく生きよーぜ』

「……」

『だんまりか。つまらないな』

「あんた。魔王か」

『……』

「今度はそっちがだんまりだな」


 どうやらルチルの言葉は核心をついたらしく、姿の見えない声の持ち主はただ黙りこむだけ。いなくなったわけではないらしく、突風は止まっていない。砂が飛んできて痛いから止めてくれないかなと、目を細めて砂が入らないようにしながら思う。


 突風が吹き始めてから声が聞こえたので、さらに風にはかすかにだが魔力が混じっている。これぐらい強い突風を人間が魔術を使って起こせるかどうか、自分の中にある知識で考えた。

 だが、魔術に関する知識はほとんどないに等しいのでほとんど勘で言い切ったのだが、それが正解だったらしく内心ホッとした。やはりあの時の声は風の魔王のものだったらしい。


『結構頭いいんだな』

「そりゃどうも。一つ言っておくが俺は21だ、あんたらから見たらガキかもしれないが、ガキ呼ばわりされるのはいやだ」

『そうか。じゃあ名前は』

「ルチル」

『そうか。ガキ、お前双炎の封印解いたみたいだな。契約もしていると見る。ならば俺の封印を解きに来てくれ』


 姿なき声、こと風の魔王の願いに間髪いれずに


「断る」


 と言い張つルチル。

 その場に沈黙が落ちる。ルチルはどこかすっきりとした顔をしていて、風の魔王はどう対処しようか考えているような雰囲気が伝わってきた。間髪いれずに断りの返事が返ってくるとは思っていなかったらしい。


『なんで?』

「人のことガキ呼ばわりしたから」

『それは謝る。だがいい加減封印されているのも嫌になった。だから自由になりたい、それに動けねーのつまんねーし』

「どこにいるんだ。今晩二人を置いてあなたのもとに行くよ」

『なら、深夜迎えの風を出してやる。気づかれるなよ……でもあいつは勘が鋭いからなぁ』


 その言葉とともに突風は止み、風の魔王のかすかな気配もどこかに行ったようだ。パンパンと外套についた砂埃をはたいて落とす。

 一度フードを脱ぎ、長く伸ばしている髪についた砂も払う。


「あいつってどっちだ?」


 路地から抜け出して外套を被ると歩き出す。突風によってまばらになった道を一人でのんびりと歩いていれば、空から二人が降ってきた。


「何かあったか?」


 ものすごく不機嫌そうな顔のリアンに聞かれたが、内心びくびくしつつも何もなかったと嘘をついた。ここで風の魔王と会話をしたということを言えば、絶対に機嫌が急降下すると感じ取ったからだ。カーネいわく、リアンは短気らしいのでこれ以上不機嫌になればどこかに八つ当たりするかもしれない。


 ちらりと視線をカーネに向ければルチルの考えに気づいたように、盛んに瞬きをする。それはルチルの考えを肯定しているように見えた。


「すさまじい突風だったけど、原因は?」

「あいつの魔力を感じた。どうせ面白半分で吹かせたんだろう」

「……ぶっ飛ばす」

「この話題はもうやめにして帰ろうか、ルチル」


 つかむしろそうしてくれと言わんばかりの表情を向けてきたのでうなずき、行こうとリアンを促す。不満たらたらという表情をしていたが、ルチルの視線に促されて仕方なく足を動かした。


 その日の深夜。

 

 二人が眠ったのを確認し、ルチルは外套を羽織ると音を立てないよう扉を開け廊下へ出た。足音を忍ばせて、ゆっくりと階段を下りると外に出る。


 ふわりと風が彼を誘うように吹いているのを感じる。二人は付いてこない。本当に眠っているのか、気づいてあえて好きにさせてくれているのどちらかだろう。


「希望としては前者がいいな」


 こっそりと一人で夜中に抜け出してリアンのお説教を食らいたくはない。

 げんなりとした表情で一歩を踏み出せば、行き成り突風が吹き体が宙に持ち上がる。驚いて体勢を崩しかけたが、風に包まれているので倒れはしなかった。


 そのまま、まるで風に舞う羽のようにルチルの軽い体は風の魔王が封印されている宝石がある場所へと連れて行かれる。

 深夜なので、肌寒く感じる。さらに風に包まれているので寒さは倍増する。


 こんなときにカーネかリアンのどちらかがいたらよかったなと思う。

 炎の魔王なので、炎の魔術で暖めてくれただろうと思い自分の考えに小さく笑う。だがその笑みはすぐに消して身震いする。カーネは普通に承諾してくれそうだが、リアンは負の感情の交じる炎を出してきそうだと考えたためである。


「あれ? ここって」


 ルチルが連れて行かれたのは、風の町のシンボルである大きな風車であった。彼はリアンがここに封じられていたらいやだなと言っていたのを思い出す。


「リアン当たってるよ」


 思わず遠い眼をしてつぶやき、実は意外と短気な髪の長い静炎の魔王を思い出す。今頃はルチルのいないことに気づいてカーネに八つ当たりをしているかもしれない。

 カーネ、ごめんと心の中で呟き合掌をしていた。


「よう」


 そんなことを考えているうちにいつの間にか風車の中に入ったいたらしい。気がつけば、目の前には台座があり深い緑色の宝石がその上に鎮座していた。風車の内部構造はよくわからないが、階段を上っていた気がする。

 

 きょろきょろと周囲を見回していれば声を掛けられた。引かれるように視線を上げれば宝石よりも少し上の空間に、胡坐をかき見るからに不機嫌ですという顔をした半透明の男がいた。じっとこちらを観察すように見つめてくる。その眼差しを正面から受け止めて問いかける。


「風の魔王か」

「その通りだ。お初にお目にかかるな、無の魔王」


 そう言って風の魔王は楽しげな表情で唇の端を釣り上げて見せた。

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