第十六話 宝石探し
「宝石探しね」
「俺らの捜している宝石とは、また違ったものらしいけどな」
ルチルとカーネは、宿の一室で若干疲労気味に会話する。
リアンはというとまだ探しているか帰ってこないのだが、カーネは腹の中で煮えくり返る怒りを消化するためにどこかで暴れているのではないかと推測している
「祭事のために必要な宝石が行方不明か」
昼間に自分たちを追ってきた男女の話を思い出し遠い眼をする。
―回想―
「宝石を捜してほしいんです」
「宝石?」
道端で話すのもなんだからという理由で風の街に入ってすぐの小さな喫茶店に入ると、そう切り出された。
まさか、自分たちが捜している宝石と同じものではないのかと、若干警戒の色が混じる眼を向ける。ルチルの考えを呼んだ二人も無表情ながらに、警戒心を抱く。
「どんなものだ?」
「大きさは握り拳ひとつ分くらいの大きさで色は白いんです。あと金色の粒子が星のように表面についている、美しい宝石なんです」
「それは、宝石じゃなくて石なんじゃないのか」
そんな宝石を見たことがない、ルチルはぼそりとつぶやく。それに気づいたカーネがルチルに小声で教えてくれる。
「一般には流通していない魔力を帯びた宝石のことだ」
「そんな宝石あるの?」
「あるぞ。名前は『メテロ』っていうんだが、色は基本は白で稀に他の色のメテロが掘り出されるらしい」
「他の色は?」
「魔力と同じ色。青、緑、紫、赤、黒。黒と赤なんて俺らが封印される前に、一度しか見たことがないくらい希少なものだったぞ」
カーネが小声でルチルに知識を与えているのを横目で見ながら、リアンは話の続きを聞く。本当は自分が教えてやりたかったのだが、こういう知識はカーネのほうがあるので間違った知識を与えるよりはましかと判断して聞き役に徹する。
「その宝石をなぜ捜すんだ?」
「実は一週間後に祭事を行うんです」
「祭事とは?」
「風の守りをいただけるように、年に一回の祭事です」
「風の守りね……」
風といわれて思い出すのは、濃い緑の髪を持った風の魔王の面差し。若干薄れてはいるが、あの翡翠色の瞳はしっかりと覚えている。そしてむかつく性格も。急に不機嫌になったリアンに若干恐怖を抱いたルチルは、こっそりとカーネのほうに寄る。
「それよりも。なぜ俺たちの後をついてこられたんだ?」
「それはあなたたちが普通の人では持ち得ないほどの、魔力の量を持っていたからなんです」
「僕たちは他人の魔力を感じられます。だから、膨大な魔力の軌跡を追ってあなたたちを見つけたんです」
「俺たちが、助けになるとは思えないが」
めんどくさそうにリアンが言えば、二人は身を乗り出してくる。熱を帯びているがどこか空虚な眼差しにルチルは眉間にしわを寄せる。熱心に探しているに入るが、催事を行うために必死になっているというわけではないらしい。
「いえ、あの宝石は魔力に反応するんです」
「だから膨大な魔力を持っているあなたたちならば、宝石は引き寄せられるはずなんです」
「私たちの感知魔法だけでは、時間が足りなくて。この街にも膨大な魔力の塊が、あるせいで感知しずらくて」
女性の言葉に三人はそれぞれ反応する。ルチルはそれが風の魔王の宝石のことだと感づき、リアンも同様の表情を見せる。ただ、カーネだけは何かを隠している二人組の顔を探るようにじっと見る。それぞれ別の表情をしながら代表でルチルが問う。
「この街にも膨大な魔力の塊があるといったよな」
「えっ、ええ」
「いつごろからこの街にあるんだ?」
「えっ? この街ができる前からずっとらしいですが」
素直に喜びの声を上げる女性と違い、男性のほうは疑いの眼差しを向けてくる。手のひらを返したような言葉に警戒心を持ったのだろう。
男性の眼差しに気づいたりアンが、言葉を付け加える。
「我々もこの街に探し物をしに来たんだ、それは魔力の塊にも似たようなものでな。もしかすると、私たちの探しものかもしれない。そっちが場所を知っているなら、その場所を教えてもらえればいい。後はこちらが探す。その代わり、そっちが捜している宝石とやらを探すのを手伝えばいいのだろう?」
断るならばどうなるかわかっているだろうと、リアンの黄金の瞳がギラリと輝く。その輝きに気圧されたのか二人組は首肯して、話し始める。
魔力の塊の場所の特定はできないが、街の中のどこかにあるということは明確だということだけはわかった。
―回想終了―
「あの後、男のほうは中々首を振らなかったらからね」
「意外と警戒心が強かったんだろ」
ベッドに横になりながら、カーネはそうぼやく。今にも寝そうな声で話すので、ベッドに腰掛けていルチルは枕を手に取ると、彼の顔めがけて思いっきり投げつける。
ボフッと音を立てて、枕はカーネの顔に命中し彼は若干苛立った顔で枕を投げ返す。
「何しやがる」
「寝そうだったから」
しれっとした顔で言うルチルにため息を吐き、扉のほうを見る。リアンが帰ってくる気配はない。
ルチルは、腰に下げている刀を鞘ごと外すと刃を少しだけ抜く。鈍い輝きが彼の顔を照らし、刀身が深紅の瞳を映す。
しばらくそれを見つめていたが、カチンと言う音を立てて刀身を鞘にしまう。
「どこにあるんだろうね。宝石」
「さてな。あいつらは答えなかったからな」
「記憶調べればよかったのに」
あれをやるのはそれなりの気力がいるからやだと、上半身を起こしながらカーネは言う。そんなカーネにルチルは思ったことを聞いてみた。
「ねぇ、カーネ」
「ん?」
「風の魔王ってどんな人?」
「どんな人ね」
思い出すように眉間にしわを寄せると、深く考え込む。なんと説明すれば良いか迷っているのだ。
「あー、一言で言えば常に不機嫌な奴?」
「違うな。乱暴だ」
「あっ、リアンお帰り」
散々悩んだ後告げた言葉を、ざっくりと切り捨てるリアン。ルチルのお帰りという言葉にただいまと返し、こちらもまた不機嫌そうに眉間にしわを寄せる。
「どういうこと?」
「口は悪いわ、動作は乱暴だわ、最悪な奴だ」
「といいつつも、仲がいいんだぜ。風の魔王とリアンは」
「どこが?」
「ほら、よくいうだろ。喧嘩するほど仲が良いって」
心底嫌そうな顔をすると、ふいっとそっぽを向いてしまう。その様子をおかしそうにカーネは笑い、眼を丸くしているルチルに更に一言付け足す。
「面白い奴だから、会うのを楽しみにしてろよ」
「ルチルの教育に悪いから、あまり会わせたくない」
二人の対照的な言葉におかしそうに笑うと、楽しみにしてるよと告げた。
ガタガタと窓を風が鳴らし、まるで何かを告げるように聞こえた。




