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三人の魔王  作者: 零夜
第一章 目覚めて踊る双炎
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静炎の守護者&豪炎の傍観者

Side:リアン


「ルチル、平気か?」


 言葉少なにうなずくルチルを見つめて微笑む。彼の表情が緩んだので、どうやら優しく微笑めているらしい。笑みを作ることにあまり慣れてはいないが、そのうち慣れるだろうと頭の片隅で思う。


「少し疲れた」

「少しどころではないだろう。今日はもう休みなさい」


 ベッドの端に腰かけなるべく声を荒げないようにそっと言葉をかければ、頷いて素直にベットにもぐりこむ。

 あの城から離れ、数十分ほど空を飛んだあとルチルが眠そうに欠伸をしたので、眼下に見えた街の宿屋に今晩は泊まった。

 不幸中の幸いというべきは、ルチルの顔は表には知られてはいないので部屋の確認に手間取ったがすぐに休ませることができた。


「眠ったか?」


 そっと眠りについた疲労を宿す面差しを覗き込めば、安らかな寝息を立てている。本能的に安心して休めると判断したのだろう、あの城にいた頃よりはずっと穏やかな寝顔だ。

 ほっと軽く息を吐くと、そろりとルチルの黒髪をなでる。手入れをしていれば上質な絹糸のような髪は手の中で、さらさらとこぼれる。


「まぁ、ルチルはそんなことに元から頓着しないような性格みたいだがな」


 そんなことより剣術を磨いたり、学問に興じていたほうがはるかにましだと嫌そうな口調でつぶやく姿が、普通に想像できて思わず吹き出す。

 喉の奥で笑いをかみ殺し、ゆったりと足を組む。


「いったいどれほどの月日が流れたのか」


 指を折ってかぞえてみるが、途中でやめる。そんなことを数えても詮無きことだと、頭を振ればさらさらと自分の深紅の髪が揺れた。

 そっとルチルの白い頬に手を当てる、少し冷たい体温が掌を通して伝わってくる。外にいたからだろうかと思いつつ、毛布をもう一枚かける。


「すべてを燃やしてきてしまいたかった」


 怒りと憎しみのほの暗い炎が宿る瞳で、窓の外を見透かすように見つめる。人間とは違い、五感が鋭く身体能力が桁外れなので遠くで煙がまだ吹き上がっているのが見える。


「殺してはいないが」


 あの状態からの立て直しはきついだろうと呟き、そっとルチルを起こさないように立ち上がる。

 窓を開ければ柔らかな夜風が頬をなでてくる。窓から身を乗り出した私は自分の対であるカーネを呼ぶ。

 先ほどから姿が見えないのだ。


「カーネ、どこだ」

「ここ」


 さらに身を乗り出して、空を見上げるようにすれば宙にしゃがみ込んである一点を見つめているカーネ。

 何を見ているのかと視線をたどってみれば、先ほど自分が見透かしていた方向。なるほど、と口には出さずにつぶやくと声をかけるが、眉間にしわを寄せる。外にいるのならば一言声をかけて行けと言ってやりたいが、今はそんなことを聞きたいわけではない。


「情報は正確に理解できたか」

「まぁ、ある程度はな」

「曖昧な返事だな」

「仕方ないだろう、短時間ですべてを理解できるわけじゃないんだからよ」


 見下ろしてくる白銀の瞳を鼻で笑ってやる。そんなことを言っていたとしていても、既にすべてを理解していたりするのだ、自分の(カーネ)は。

 そんな私の思考を読んだのかはわからないが、口をへの字に曲げてルチルを示す。


「おまえはルチルのことでも見ておけよ、俺のことは放っておけ」

「……わかった」


 それだけ言うとふいっとまた視線を戻し、じっと睨むかのように見つめ続ける。放っておけといった時点で、何を聞いてもこたえてはくれない。それは経験からわかっているので、何も聞かずに上半身を部屋の中に戻すと窓を閉める。


 熟睡しているルチルのもとに戻れば寝返りを打っていて、少し毛布がはだけていた。そっと起こさないように毛布を掛けなおすと、またベッドの端に腰かける。

 ゆっくりと安心して眠れるように、ぎこちなくルチルの頭をなでてやる。


「おまえは私が守るよ、ルチル。何があっても、必ず」


 聞こえないとわかっていつつも、静かな声で私はルチルに誓いの言葉をかけた。


Side:カーネ


 ルチルを寝かしつけるリアンの穏やかな声が耳に届く。あんな声も出せたんだなぁと、あきれと感心を半分ずつ抱く。


 部屋に入らずにずっとルチルがいた城を眺めている俺だが、実際は眺めているわけじゃない。飛んでいる間も処理していた情報をまとめている。


「ルチルは寝たか」


 穏やかな寝息が聞こえ始め、リアンが本人は気づいていないだろうがかすかに笑ったのを感じつつ、まとめる作業を終える。


「すべてを燃やしてきてしまいたかった」


 負の感情を大量に含んだ自分の(リアン)の言葉に軽く眉間にしわを寄せる。それは自分も同じだが、あまり派手にしすぎると何らかの拍子でルチルの存在がバレ追手を差し向けられてしまうかもしれない。


「そうなったらめんどうだしな」


 道中、警戒しまくれば気を緩める隙もなくピリピリとした空気をまとうたびになってしまう。そんなことを自分は望んでいるわけでもないし、リアンはルチルを危険にさらしたいわけでもない。

 だからある程度抑えてきたんだろうなと思いながら、いまだ黒煙の上がる場所を見つめる。


「ルチルがいたという痕跡はぬかりなく消してるだろうし……」

「カーネ、どこだ」

「ここ」


 ぶつぶつと独り言をつぶやいていれば、名前を呼ばれた。短く返事をし、視線を下に投じれば窓から上半身を出しているリアンがいた。

 よく見れば不機嫌そうに眉間にしわが寄っている。


「情報は正確に理解できたか」

「まぁ、ある程度はな」

「曖昧な返事だな」

「仕方ないだろう、短時間ですべてを理解できるわけじゃないんだからよ」


 矢継ぎ早に繰り出される問いに対して曖昧な返事を返せば、嘘をつくなと言わんばかりにさらに眉間にしわを寄せる。

 それに対して口をへの字に曲げ、ルチルを示す。リアンの興味をそらすためにごめんなとルチルに心の中で謝っておく。


「おまえはルチルのことでも見ておけよ、俺のことは放っておけ」

「……わかった」


 視線を戻せばしぶしぶといったように顔を引っ込めたリアン。窓を閉める音が小さく響く。


「何というか、母親だよな」


 父性じゃなくて母性が芽生えたかと自分の考えに苦笑を浮かべ、それはありえないと首を振って、浮かんだ考えを否定する。


「まぁ、ルチルも世話を焼かれてうれしそうだし。あの子が嫌じゃないならば放っておくか」


 さすがにやりすぎだと思った時には注意するけどと、呟いて立ち上がると空を見上げる。


「俺は傍観者。ルチルの行く先に何があるのかを見守る、その前に敵が現れるならば、彼の力が足りないのならば助けよう」


 それが俺の役目。自分に言い聞かせるように俺は言葉をしっかりと口にした。

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