一触即発
時は来た。
ユカに似た花のような笑顔で出迎えてくれたお母さんと……
鬼のような禍々しいオーラを放ち、ひきつる笑顔をみせる弟……
ぼくは、スンと魂を抜き、役者モードに入った。
「失礼します。せっかく弟さんがお帰りの団欒のときに、お邪魔してすみません」
その通りだという顔で、弟が床を睨みつける。
「あら〜!聞いてたよりずっと男前じゃないの〜!その髪型どうしたの?昔の銀幕スターみたい!」
「お母さん!」
弟さんは、小さく引き締まった声で一喝した。
もう怖い。
ぼくは意識の入っていない目で、微笑みをつくり、戦闘ロボのコックピット席に自我を座らせた。
「どうぞ、これ、うちで焼いたハーブクッキーなの。ハーブ苦手でしたら普通のもあるわよ〜」
小花を散らすようなお母さんのオーラで、なんとか息が吸えている。
「で、うちの姉がお世話になってるみたいで」
しまった!先手を打たれた……
「あ、はい。申し遅れました。菅野一貴です。水を売る会社で働いています。ユカさんとは……」
「え?ウォーターサーバーでしょ?」
「ちょっと、おうちゃん!」
ユカが、弟さんの腕を抑える。
「僕、弟の旺介といいます。外資系の輸入業ですけど、アクアリンスって知ってます?」
「あ……!あの、今話題になってるシャンプーですか!あの」
「あの商品、うちで販売してるんです」
ぼくの言葉に被せるように言い放つ。
たぶんすごく儲かっているはずだ。旺介くんの腕には、高そうな時計。上着を脱いだスーツ姿も、オーダーのものだとはっきり判る。
何より、目鼻立ちがハッキリしていて、ユカちゃんの美貌に劣らない美男子だ。
「旺介、ちょっと言い方強いよ」
ぼくはユカのツヤツヤの茶髪に目をやる。染めているはずなのに、その髪は小学生の女の子みたいにストンと滑らかで、天使の輪がまろく光っている。
これは、弟さんが育てたものに違いない……
それを断りもなく堪能しているのだから、怒られても仕方あるまい。
「ユカさんは、とても素敵な方ですね。旺介さんがとても羨ましいです。ユカさんの素晴らしさをたくさん知っていて。ぼくは一生、ユカさんにとって旺介さんほどの存在にはなれないのだろうなぁ」
ぼくは芝居を打った。吉と出るか凶と出るか……




