男として
ぼくは、まだ1時間ほどある待ち合わせまでの時間を、ホテルのカフェで過ごすことにした。
すごい。
劇団の上演後に、馴染みのファンが駆け寄ってきてくれることはあったが、みんなマダムだったし、孫のように可愛がられただけだ。
この扱いはなんだろう。超絶気持ちいい。
いつものぼくなら、迷い込んだアリを扱うかのような店員の態度だったはずだ。
しかし今、ニッコリと微笑みかけてくれ、足元に気を配られながら席へエスコートされている。
ぼくも、綺麗な立ち振る舞いに見えるように気をつけた。
そうか。こういう扱いを受けるには、こちらも美しくあらねばならない。
店員と客の双方の心掛けによって、この素敵な時間が生まれているわけだ。
挨拶のために叩き込んだテーブルマナーで、スマートに注文もできた。
劇団のおっさん連中は、こんな堅苦しいことするなら俺らは居酒屋でいいね!だいたい客なんだから高級ホテルだろうと好きに過ごさせろ!とか言って、鼻つまみ者になるんだろうな……
ぼくは、愛おしさとおかしさでククッと笑った。そういう人たちはそういう場で楽しめばいい。誰にも何も強制されていない現代、どうありたいかは自分で選べる。
ぼくは男として、誇らしげな気持ちになっていた。
ユカちゃんを、このカフェに連れてこられる男。
あとは財力をもっとつけて、社会的地位も高められれば……
ぼくは、ぼくのことが、今よりずっと好きになる。
だって、ユカちゃんに惚れてもらえる。ユカちゃんを救う力を持つ、ヒーローになれるから。




