美しい人
パパは、弱い人だった。
ママを保険の外交員として働かせ、自分には家業の文具屋があるからと、誰も客の来ない店で本を読みふける毎日だった。
おじいちゃんとおばあちゃんはずっと実家にいるパパに甘く、至れり尽くせりの世話をしていた。
何が、うちの家系は経営者だから裕福だ、だ。
何件か残っていた、学校用品の納入で食いつないでいたが、少子化で閉校があいつぎ、経営は火の車だった。
ママはそこに連れてこられて、おじいちゃんおばあちゃんを引き継いでパパのお世話係になっただけだ。
私と弟は、美形兄弟として評判だった。
パパもハンサムね、と言われ、幼い頃は自慢の父だったと思う。
でも、思春期になると、パパが携帯で女の人と連絡を取り合っていると勘づいてしまった。
それからは嫌いになり、ママにべったりくっつき、一緒にお料理をする毎日だった。
私が就職し、しばらくして起業すると言うと、これはパパの保険だから、お前がどうしても苦しい時に遣いなさい、と言って証書を渡してきた。
私は、生命保険なんだから、すぐ使えるわけないじゃん、と苦笑いして受け取った。
でも、その数ヶ月後、パパは行方不明の後、川で見つかった。
事故死と確定して、保険金は支払われた。
なんで……
癌を生き延びて、虐げられてでも笑って生きてきたママ。
なぜ、パパの方が死ぬの?
パパに死ぬ権利なんてない!
私は、暗く心を閉ざした。
お惣菜を買うようになったママ、悪いことじゃない。でも、パパがいた頃は、あんなに楽しそうにお料理してたのに……
「ごめんな、ユカ。パパは寂しかったんだ」
「パパに寂しがる権利なんてない。でも、パパを失ってからママは、もう楽しく料理できなくなってしまった」
男は、虚な目になった。
「私がしたいのは、周りの人を料理で楽しませること。そう、ママが私にしてくれたみたいに。そしていつか、ママにもう一度お料理の楽しさを思い出してもらうために」
パパの姿をした男は、いっそう寂しそうな顔をした。
「いつもママばかり愛されていて、パパは不甲斐なかった。それに、ママのこと幸せにしてあげられなかった」
私はカッとなって、言い返した。




