反転
私は、固まった体が、大きな脈でドクン、ドクンと波打つのを感じていた。
一歩も動けない。思考ができない。
「こんばんは。初めまして、菅野です。お邪魔します」
いやいやいや、待って。初めましてではない。
菅野くんの代理が菅野くんで、その顔はパパ……
固まる私の脇を通り、その男はスルスルと部屋の中へ入っていく。
そして、料理教室のあるリビングへ辿り着くと、後ろに手を組んで、ゆっくりと見回していた。
「これが、ユカのつくった料理教室なんだね」
もはや、隠す気がないのか。それとも若い頃の父親にそっくりな、ただの無礼な人物なのか。
「パパ……?だよね?」
私は、リビングのドアにもたれかかって、貧血を立て直しながらやっと言った。
「ああ、ユカのパパだよ。久しぶりだね。といっても一年ぶりかな?良かった。パパの葬儀で呆然としているユカたちを見て、心が痛んでたんだ。こんな立派な教室を立ち上げて……」
ドサッ
私は、目の前の男が言い終わらないうちに、ソファのクッションを投げた。
「なんで?何しにきたの?菅野くんは?彼は誰なの?」
私は涙が抑えられなかった。
ガタガタと体が震えた。
これまでのこと、ぜんぶが悪夢に変わった。




