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相談

ぼくは、劇団が活動している雑居ビルへ向かった。


ここに来るのはいつぶりだろう。

体調を崩して休職してからは、ここの最寄駅にすら来なかった。


だが今はすぐにでも行かねばならぬ。

『魔法』をあみだすきっかけとなった、師匠がいるからだ。


「師匠!」


師匠はあだ名だった。ヒラ団員の彼は、妻子と別れた独り身の冴えないオジサンだ。

しかし、演技力は奇怪なほど凄まじいときがある。


「おぉ、菅野くん」

師匠は、見る影もなく痩せこけていた。やっぱりだ。日に日に生気が失われている気がする。


「あの…ここの幽霊の話って…」

ぼくが話題にすると、師匠の首の辺りが痛むようだった。人のいい師匠はそれでも話をしてくれた。


劇場には、霊が棲みつきやすいという。

オペラ座の怪人のような存在が、ここにもいた。


それは、単体ではなく、いくつもの霊が混み合ったような集合体らしかった。


師匠は、もらった役とその中の霊とがシンクロしたとき、霊にのりうつられて役を演じさせられているようだった。


役を全うした霊は、だいたい昇天していく。

しかし中には、上演が終わっても彼の中に居座る者もいたり、霊の集合体も新たな霊を呼び寄せ大きくなったりして、師匠は常にその霊障に蝕まれていた。


ぼくは、そんな師匠の姿にヒントを得て、魔法と称していいとこ取りの憑依を利用していたわけだが、目の前にいるボロボロのおじさんを思うに、下手をすれば廃人一直線だというのは改めて身に染みた。


ぼくは、倉庫にいるあの怪しい霊には手を出すまいと心に決め、最寄駅へ向かった。


雑居ビルを出るときに、大勢の客が地下にある劇場の開演待ちをしていた。


地下に続く階段にも並んでいるだろうから、かなりの人数だ。

ぼくの劇団は、師匠の怪演で喰いつないでいるようなものだ。数奇なものだな、とまるで他人事のようにぼくはそこを去った。


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