私の王子様
ひどく身体がフワフワする。
起死回生のチャンスを、必ずものにしなければならなかった。
そんな矢先、当然のように頼っていた彼の姿が消えた。
不測の事態はいくつも考えていたが、まさか彼がいなくなるとは思わなかった。それに、どう説明されても不自然さは消えない。私を騙すなら、お金を出させるなりしてから姿をくらますものじゃないだろうか。
「菅野くん……」
それに、こんなに私の心に迫ってきておきながら、ずるい。
私は、彼が白馬に乗った王子様に見えていた。
父とは違う。私を救い、共に歩んでくれる王子様……
私の母は、ハンサムだと評判だった父に熱烈なプロポーズを受け結婚した。
確かに美しく優しい父は、王子様に違いなかった。
でも、母を実家に連れ帰り、ドレスを奪って働かせ、決して母をお姫様にはしてくれなかった。
DVは、粗暴な人だけが起こすものじゃない。父は、祖父母と一緒になって、柔らかい檻の中に母をそっと閉じ込めたのだ。
母は、父が王子様であり続けるために尽くす人生だった。それでも、お料理が大好きと言って、いつも私と歌いながら台所仕事をしていた。
弟が社会人となった年、母の癌がわかった。
父も祖父母も、体が弱いのは母の家のせいだと遠回しに言い、結局、治療費は母が契約していた保険と母方の祖父母が出す形になった。
そんな時でも、父と祖父母は穏やかに微笑みながらただ傍観していた。
一度も声を荒げず、暴言も吐かず、でも母をひどく痛めつける。そんな『王子様』もいるのだと、子どもの私は暗く理解した。




