もめごと
ぼくは、2つの揉め事を抱えていた。
ひとつは、企画書の決済。
高木先輩の名前で提出したが、別のお局さんから「それ、菅野くんが作って菅野くんがやるんでしょ?」とつっこまれていた。
こんな時は…そっと見逃してくださいよ菩薩さま…
「菩薩」
ぼくのあだ名は菩薩になっていた。菩薩さまはぼくのことじゃないっつの。
高木先輩は明らかに機嫌が悪い。
「お前さ、俺に恥かかせんなよ。こんな企画当たるわけねーから」
企画書に名前を貸さないと言い出した。
支店長は、本社でのパワハラ研修を終えて戻っていた。
「菅野くん、きみ契約社員だけど、この前まで体調不良とかで長期休んでバイト扱いだったよね?できるの?」
言葉はソフトだが、声の圧が怖い。これじゃあパワハラと変わらない。
でもぼくは、戦闘モードなのだ。
ユカに、さすが菅野くんって抱きつかれたかった。
「やれます!」
「じゃあ企画は通しとくけど、新規3件以下だったら高木くんの名前で不足分の経費落とすからね」
なんで俺が…というジリジリした熱い視線を感じる。高木先輩が人質だ。失敗すれば、いよいよぼくはここにいられなくなる。
「はいよろしくぅ」
支店長は、またすぐに外出していった。あの立ち振る舞い、絶対カタギじゃない。
ぼくは張りつめた息を吐き、気合いを入れ直した。
そしてふたつめの揉め事……
これが厄介だ。
「あのさ、もうちょっとだけここにいてほしいんだけど……」
ぼくは、美形のクォーター男子に向かって懇願していた。
「あとちょっとだからさ、まだ成仏しないでほしいんだ……」




