本気
ぼくは、ウォーターサーバーの顧客名簿をめくり倒した。
ぼくが担当している顧客をピックアップし、営業の予定を立てる。
「おら、菅野、何やってんだ」
パワハラ先輩が覗き込み、厄介だなと思いながらも提案を話した。
「は?お客様感謝イベントで、料理教室の無料体験?お前、その金どっから出すんだよ。大体、バイトの分際で企画が通ると思ってんの」
ぼくは、ノールックで先輩に頭を下げながら、企画書をタイピングする手は止めない。
「しかもお前これ、既存顧客にはお友達紹介しての特典だろ?無理な営業かけると解約されっぞ」
先輩は椅子を足でどついてくる。
この企画が大コケしたとして、その時はこんなブラックな会社辞めてやる。
事務の女の子がお手洗いから戻ってきた。
先輩は蹴るのをやめて姿勢を立て直す。
「菅野さん、今週支店長いないっすよ」
事務の女の子は、話を聞いていたのか、いつもの虚な目で言ってきた。
もし予算10万円以下でも企画をやるなら、支店長の決済が必要だ。
「高木さん」
ぼくは、コピー機から企画書の束を持って戻り、パワハラ先輩に一枚差し出した。
「ぼくはまだ、契約社員の身です。だから社員の高木さんの名前を貸してください!必ず成功させます!どうか、よろしくお願いします!!」
パワハラ高木は、呆気に取られている。
「いいんじゃないの、高木くん、なんか新しい企画考えて来週出しとけって言われてたじゃないの」
お局様が後押ししてくれた。
いつもそうだ。ぼくはおばちゃんに助けられてきた。




