危ない橋
あれは、素敵な夜だった。
役者はそろっていた。
美しいダンディなおじさまと
それなりに小綺麗にした私
ワインとラザニアが間接照明に照らされて、まるでヨーロッパが舞台のようなひととき。
私はうっとりしていた。
ドラマのような恋愛をするならばこの人しかいない。
たとえ性急な関係でも…
だけど、気がついてみればやはりオヂだった。
「その言い方やめなよ」
経営者仲間のユキ姐が、呆れながらシャンパンを口にする。
「あんた、恋愛の軸が美しいセックスになってんよ。そんなさ、結婚するなら毎回キラキラしてらんないんだから、そろそろ地味な恋探したら?」
いや、まだこの身体で楽しみたいことがある。
ユキ姐の言ってることは正しい。
でも、万が一に、キラキラした夫婦関係になれる相手もいるかもしれないじゃないか。
ユキ姐は、パスタを食べ終え、シャンパンを飲み干すと、ここは私がもつねぇ〜、とウエイターを呼ぶ。
「いつもありがとう。ユキねえ、お仕事順調そうだね」
しまった。なんか嫌味な言い回しになったんじゃないかと不安になったが、ユキ姐は気にせず答える。
「そうだね。最初が肝心だよ〜。いかに固定客にいい印象もってもらうかだね。常連になれば、こっちが困っても助けてくれるから。その人たちを大事にしなきゃダメだよ〜」
私は、耳が痛い。
いつもフォローしてくれる主婦さんが目に浮かんだ。
「新規客なんて、金置いてくれさえすればいいんだから。全員を固定客にしようと思わない方がいいよ。変なやつに粘着されたらよけい大変だから」
私は、耳が激痛だった。
こちらから変な客を招いてへんな関係で引き留めようとしていたわけだ。経営者、失格。目を覚まさなければ。
そういえば、あのオヂ、夜の対価払ってなかったな。ダサ。でもお金もらってたら売春になってたし、セーフセーフ…
私は、危ない橋から引っ張り出してくれたユキ姐に改めて感謝した。




