問題の生徒
私は、体験入会の生徒を目の前に、倒れかけていた。
キラキラして眩しい。美形だ。
ここは私の自宅兼、料理教室で、他に生徒が2人、横に並んでいる。
近くに住む60代の主婦と、アラフォーの独身男性だ。
この独身男性もやたらと求婚を匂わせてくる厄介な存在だったが、いつも主婦さんがナイス防衛をしてくれていた。
ただ、この美形は厄介の性質が違う。
むしろ求婚して欲しい。抱いて。今すぐ抱いて。
私はクラクラしながら、今日のレシピを説明していた。
彼は、申し込みデータでは男性ということだったが、ほっそりした体型で、手指もゴツゴツしていない。肌はきめ細かで白く、陶器のようだった。
髪は艶のあるロングヘアで、軽くお団子にしたハーフアップにしている。
顔立ちはスッキリとしていて、眉は長く整い、まつ毛がビックリするほど長かった。
うわ、どうしよう。
何でこんな人が私の料理教室に通おうと思ったの?
それは、主婦さんが聞いてくれた。いつもながらファインプレーである。
「あの…親に言われて…引きこもるなら家追い出すって…」
美形くんは、初対面ではやや反応に困るところまで教えてくれた。実直すぎて、社会ではうまくやっていけなかったタイプだろうか。
主婦さんも、笑いながら若干引いていた。
独身男性の目は死んでいる。
誰もフォローできないまま、料理作りはスタートした。
チャッチャッチャッチャッ…
みんなで卵をかき混ぜ作業タイム。
美形くんはなかなかの器用さで、卵の割り方も綺麗だった。
独身さんは、心なしかイライラしていて、美形くんにボウルの持ち方はこうだとか指導しはじめる。本当に面倒くさい。
主婦さんも主婦さんで、美形くんに話しかけるときは、孫に対する猫撫で声のように甘かった。
どうしよう、いつもに増して教室の空気が乱れている。
私は調味料を入れるよう皆に指示すると、フライパンをそれぞれのコンロに用意する。
その時、レシピの紙が落ちたので、立ったまま上半身だけをかがめて床から拾い上げた。
お尻を突き出す形になってしまうが、昔バレエを習っていた私の癖だ。
あれ……?
いつも独身さんの視線を感じて、この姿勢にしまったと思うことはあるが、美形くんもこっちを見てなかったか……?
いや、美形の彼が私なんかに興味を示すはずがない。
気を取り直して、オムライス作りの続きを説明した。