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幽霊船

翌日、御付きのミレイが真っ青になる噂が海賊たちの中を飛び交っていた。

「姫さんが仲間になっただ?」

「どうもお姫様は海賊船に乗ることを決めたらしい。仲間になるってよ。」


朝食後、厨房に食器を返しに行っていたミレイは戻ってくるなり真っ青な顔でリナに問い質した。

「ひ、姫さま。誠でございますか。海賊の仲間になるなどと・・・」

本人はあっさりと首肯した。

「本当だ。レオと約束した。」

眩暈が、眩暈が・・・。

ミレイは手近な椅子に腰かけた。

「姫様、海賊の仲間になるということは、悪事を働くということです。人をだましたり物を盗んだり・・・」

「うむ。いざとなれば盗みのひとつもしてみせようぞ」

リナの決心は堅いようである。

「ミレイ、其方もわかっているであろう。ここの奴らはそう悪い者たちではない」

「それはそうでございますが・・・」

それに、私たちはどこに行くのか、とその目が聞いていた。

ミレイは押し黙る。確かに、海を移動していれば居場所を突き止められる可能性も少ない。

「それに本にもあったであろう。外の世界を知り勇気と知恵を授かって立派に成長するのだ」

リナは明るく言った。リナが言っているのは恐らく、盗賊に捕まった王子が、仲間となって数々の冒険を経て立派な王子になって国に帰る、というお話のことだろう。リナ様、それは絵本の中のお話でございます、とは言えなかった。

たしかに、行く宛てもないふたりを置いてくれるというのだ。ミレイは渋々了承するよりなかった。



快調に進んでいた進路が止まったのは2日後のことだった。

その海域をうろうろするばかりで一向に進む気配を見せない。


船長室で、レオはうーむと腕組みをして唸っていた。手元の机には海図やらコンパスやら筆記具が散らばっている。

お前さん向きの仕事じゃて、と依頼されたのは難破船の回収だった。

予定日になっても港に着かないのでどこかで嵐に遭い行方不明になっているのではないか、という話だった。

海には難破船など五万とあり、それをいちいち回収しになど行かない。今回この件に手を出したのは、その難破船はどうやら曰くつきらしいということだった。表には出せないお宝を積んでいるらしい。

船の航路は分かっているので、ここ最近の天気と照らし合わせればだいたいどこら辺りで嵐に遭遇したか予想がつく。そこから潮の流れと日数を数えれば、ここらで出会ってもおかしくはない、というところまで来ていた。

ここらの海域に詳しい仲間に聞いて、嵐の後の詳しい潮の流れまで計算に入れている。

昨日からずっと張っているのだが、海は果てしなく広がり、船影ひとつ見えなかった。

完全に手詰まりだ。

レオはどうすっかなと宙を睨んでいたが、コンとドアがノックされた。

「ああ、入れ」

「夕食ですよ」

ドアを開けて入って来たのは夕食の盆を抱えたフロンだった。スープのいい匂いがしている。横からひょこっとリナも姿を現した。

リナから、レオの姿が見えないからどうしているのかと聞かれたので船長室に籠って悩んでると言ったら見に行くと言うから連れて来たのだ。

「ああ、悪いな」

ざらざらと机上の道具を退けてトレイを置く。早速スプーンを取り上げた。リナは物珍しそうに船長室を見回している。

「どうです?」

「いやーなかなか・・・この辺であってるはずなんだがなあ」

スプーンでジャガイモを取り上げたレオは一瞬怯んだ様子を見せた。瞬きの間にフロンとの間で無言の攻防が繰り広げられたが、黙って口に放り込んだ。

「難破船を探していると聞いたが本当か?」

ざらっとした口当たりのそれを、しつこく舌に残る皮までよく嚙み潰して飲み込む。

「・・・ああそうだな」

「なぜそんな船を探しているのだ?」

リナはレオの様子にはまったく無頓着だ。この世間知らずを一瞬どうしてくれよう、と思わないでもなかったがレオは諦めて質問に答えた。

「・・・お宝が乗ってんだよ。」

「それはこの間襲ったような船のことか?」

「いや、あんなチンケなモンじゃねえ。今回のは特別よ」

今回探しているのは、人と荷を運ぶ通常の海上輸送船だが乗客の中に身分の高い貴族が含まれていた。しかもどこからから逃れて来たらしく財産一式を乗せている、という噂が立っている。

貴族ともなれば財産も桁違いだが、それだけでは喰いつくには足りない。レオの興味をそそったのは、その財産の中に、古代魔法を宿した道具が含まれているのではないかという噂があったからだ。というのも、その貴族の身元というのがどうにも怪しい。どこの国とはっきりしないのだ。最近クーデターが起きたある国から逃れてきたのではないかと言われていた。

その国にはこちらの世界では失われた古代の魔法がまだ息づいているとは、レオも耳にしたことがある。そうなれば荷の中に古代魔法がかかったお宝があるという話も俄然信憑性を帯びてくる。

古代魔法の技術はこの世界では失われて久しく、稀に発見されると目の玉が飛び出るほど高く売れるのだ。国から逃げてきたという貴族の財産と言ってはいるが、勝手に持ち出してきた盗品も交じっているのではないか、荷の中にかなりの量が含まれているではないかとも見て取れる。盗品を運ぶために一艘仕立てたのではないかとまで言われているのだ。


「ってなワケで、アナトリアのお宝が乗っているはず・・・なんだがな」

レオはいくつもの船が引かれた海図をじっと見る。計算は間違っていない筈だ。何度もやりなおした。海図と潮の流れを重ね合わせれば、だいたいこの辺りのはずなのだ。

ここでまんじりともせず待って既に二日。

船が本当にいないのであれば時間を喰うだけでいづれ食料も尽きる。

こりゃ出直すかなという選択肢もレオの脳裏に掠めていた。


救いの手は、ごく身近にあった。

「ならばこの石で探せる」

「お?」

リナは左の耳飾りを外した。


リナが夜の甲板に上がり、道案内をするとレオが伝えると舵を取っていたガイは渋い顔をした。

「いいから、言うとおりに進め」

不審げな顔をしながらも、ガイは言われたとおりに舵を回し始めた。


少女は、甲板で耳飾りを掲げ佇む。耳飾りの鎖の先に付いた石がぼうっと光を放っている。リナの周りだけが淡い光に包まれているようだ。闇の中でも、導かれるように船は進んでいた。


目当ての獲物は、少し先をゆっくり進んでいた。


嵐に遭ったというのは本当らしく、船は半分沈みかけながらゆらゆらと進んでいた。

「これはこれは・・・」

海賊たちは静かに、感嘆の声を上げた。

通常の海上輸送船というには豪奢なつくり。財産を持ち逃げするために一艘仕立てたと言われても過言ではない。

載っていた人は投げ出されたのか助け出されたのか、何人も見当たらない。

小島の海流に捉まったらしく、島の周りをずっとまわっていたようだ。どうりで海洋では見つからないはずだ。

早速乗船の準備を始める。


リナは手の中でぶら下げていた耳飾りを耳に戻した。

「やめておけ。あれには呪いがかかっている。」

「呪い?」

そうだと頷く。

「私たちの道具は国の土地を出た瞬間から呪いがかかるようになっている。外部の者に悪戯に利用されぬようにな。解き方は私も知らぬ。」

「・・・お前のソレは?」

「これは国を出るときに私が持っていたからだ。」

持ち主に反応するということか。あり得ぬ話ではない。古代魔法なら。

レオはリナの話をあっさり信じた。

喜び勇んで乗船しようとする仲間たちを、やめだの一言で諫めた。

海賊たちは不服そうな顔をしたが、お頭の命令には逆らえない。流れていく難破船を名残惜しそうに見送った。



後日、港へ戻る途中の航路でふいにレオが聞いた。

「でもお前、戻らなくていいのか?」

クーデターを起こされたとは言え国唯一の王女なのだ。クーデターの正当性を外部に示すためにも反乱軍は必ず王族を保護しようとする。

「いいのだ。私は最早あの国に必要とされていない。」














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