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上陸 3

一方の安宿では、フロンがレオを問い詰めていた。

「あなた、わかってましたね?」

「あんなに上手く行くたあ思ってなかったけどな」

クククと笑う。

金の都合がつかぬ女たちを集めて聞いてみれば、みなこの港街近辺の出身だと言う。貧しさから、浚っても訴えられはしまいと踏んだのだろう。

レオは女たちに幾ばくかの金を与え解放した。親元に戻ったら、役所に娘が浚われたと訴え出るようと言い含めて。まあうまく行くとは思っていなかったが、そのうちの数人は本当に訴え出てくれたらしい。加えてリナを連れていたことが幸いした。リナを証人としてとんとん拍子に事が進んだ。もともと警備隊が目をつけてはいたのだ。ただ街一番の大手商人だったのでなかなか手が出せずに居た。商人らしい小狡い手を使って尻尾も掴ませない。

「まあ、いい商売だったな」

「今回のことはうまく行ったからいいようなものの、次からはおかしな依頼は受けないようにしてくださいね」

「何言ってんだオレたちは海賊だぜ?お宝が海にあると聞きゃ分捕りに行くに決まってんだろ」

ニヤっとレオは笑った。海賊らしい笑みを見た。


気を利かせた女将がライの部屋にもお茶を運んできてくれたのだが、ドアの前で突っ立っているライに呆気に取られていた。

「大丈夫っす。このまま続けます」

届けられたお茶を、カップを取ってごくごくと飲み干した。


見かねた女将が使いをやったのか、夜には交代要員がやって来た。

「なーにやってんだか、お前はよお」

生真面目にドアの前に立っているライを見て、ガイは呆れたような顔をした。体格の良い髭面の男である。船の舵取りを任されており、襲撃時には海賊団の頭目として振舞っていた。何せウチの船長は、見た目だけで喧嘩を売られたことは星の数。無用な争いを避けるためにそういうことになっていた。

慣れた顔を見て、ライは初めて困ったように眉を下げた。そうは言われてもベッドに寝っ転がって見張りなど続くわけはなし・・・。

「姫さんがいいって言ってんだから、気楽にやってりゃいいだよ」

言うなり手近にあった椅子を引き寄せると、ポケットから出したものをにやっと笑って見せつけた。

ガイの持ち込んだカードで一戦やってから帰ろうか思っていたのだが、声でわかったのかリナの部屋からお招きがあった。それなら、ライはお茶を一杯ごちそうになってから帰ろうと思っていたのだが、リナからふたりは何をしていたのだという話になった。

ガイがカードを見せると、リナはやったことがないと言う。

それならと嬉々としてガイが教え始めた。リナの相手役として抜けるに抜けられなくなった。最初侍女であるミレイは遠慮して控えていたのだが、四人でないと遊べないゲームになるとリナに促されてテーブルに着いた。

ゲームは夜遅くまで続いた。

聞けばリナは、これまで夜更かしをしたことがないと言う。初めての夜更かしに付き合ってくれと請われ、ガイは様々なゲームを教えた。

リナは時折目を瞬かせながら、一生懸命起きていた。そんなに頑張るものでもなし寝たらいいと言うと、いや起きていると決めたのだと言う。再三睡眠を促すが、決心を揺るがすようなことは言うべきではないと頑固だ。

一晩中起きている四人のために、何度もお茶が取り換えられた。

空が明るくなりはじめた頃、夜更かしは成功したからもう寝てもいいと説得したが、頭をグラグラさせながらまだ起きていると言い張った。ガイとライは微かに視線を交わす。朝が早い船乗りには、いろいろと船の支度があるのだろうと思われた。

窓から明るい日差しが差し込む頃になって、女将が差し入れてくれた紅茶を飲むなり、リナは眠ってしまった。結局朝まで付き合ってくれたライを戸口まで見送って、ミレイは部屋に戻った。カップから微かにブランデーの香りがした。


そういうわけで、レオとフロンのふたりが迎えに来たとき、リナはまだ夢の中だった。

しどろもどろで言い訳するミレイにレオは気安く手を振った。

「ああいいってことよ。ならあとオレ見てるわ。オレは今日は特になんにもねえしな。ガイもお役目ご苦労さん」

後の見張りをレオが引き受けると言うと、ふたりは戻って行った。

「あんたも寝てねえんだろ。」

あっちの部屋にいるから何かあったら呼んでくれと、レオもさっさと姿を消した。お言葉に甘えて、ミレイも仮眠をとることにした。


リナが目を覚ましたのは、昼も回った遅い時間だった。

仮眠から覚めていたミレイが、少し部屋を離れていた間のことだ。


モゾリとベッドが動いたのに気づいて、膝の上の商業誌に目を通していたレオンは、テーブルに投げ出していた長い足を降ろした。

もぞもぞとベッドが動いて毛布から頭が持ち上がる。

「・・・起きたか?」

リナはまだ頭が回っていないようだ。

「・・・頭ががグラグラする。ミレイの言う通り、夜更かしはするものではないな・・・」

もごもごと言って再び頭が落ちそうになる。レオがいることもわかってなさそうだった。

そこへミレイが帰ってきた。

「リナ様、お目覚めですか」

足早にベッドに歩み寄るミレイに何やら甘え始めた。夜更かしなどするからですよと宥められている。これからいろいろと支度もあろうとレオは部屋を後した。


船に戻ると待ち構えていたガイに案内された。

「おっと姫さんはこっちだ。」

「お前たちは私の素性を知っているのか?」

ガイはにやっと笑った。

「ま、海賊やってりゃいろんな情報が入ってくるんでね。」

案内された部屋は短い間だったが人質生活を送った部屋だった。だたし内装はすっかり変わっていた。寝台も新しいものが取り付けられ、壁板も新しいものに変わっていた。鉄格子は取り外されていた。ミレイの小部屋も隣に用意されていた。

「お、きれいになったな」

すっかり改装された部屋をレオが覗きに来る。今後リナの私室として使うにはいろいろと、いろいろと不都合があったので取替ることにしたのだ。もともとこの船を買ったときに付いていた部屋だがあまり用がなく使っていなかった。せいぜい海賊稼業で人質が出た時にだけ放り込んでいた。後で窓に鉄格子を取り付けたのだ。人質商売は危険も大きいので手を出すことは滅多にない。空いているときの方が多くなり、レオ専用部屋と化していた。宿代をケチって女を呼んでいたのだ。

そんな部屋にこの少女を住まわすのは・・・何というか気が引けた。上陸するなり業者を呼んで夜通し作業させたのだ。部屋に備え付けの、船上には不相応な、ただの物入れと化していた巨大クローゼットも改装し、リナの従者の個室とした。

「私は悪党のことはよく知らないのだが、お前たちはあまり悪党のように見えぬ。悪党とはこういうものか?」

部屋を見回していたリナが真剣な顔をして聞くのだからおかしくてたまらない。

「海賊のオレたちが悪党じゃあねえなら誰が悪党だってんだ!おもしろいな姫さんは!」

ガハハハハっとガイが笑った。

「悪党が悪党の顔してたってすぐバレるだろ。本当の悪党ってのは善人面して近づてい来るものさ。」

「そうか・・・うむ、気を付けよう」

リナは至極真面目に答えるのだ。ミレイからすれば一体誰のことを棚に上げてそんなことを言っているのかと思うが、嚙み合わない会話に言った張本人の肩が震えている。悪い笑いではなかった。世間知らずな子供をちょっとからかって楽しんでいるだけだ。

・・・一体どうなってるのかしらこの海賊たちは。

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