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新たな旅立ち

王国全域に通達が出ていた。王から皆へ大切な知らせがあるから心して聞くように、と。

その日はみんな農作業や仕事の手を止め、家や仕事場の通信板の周りに集まっていた。国中が見守る中、それぞれの通信板に王の姿が映し出された。

「皆、忙しい中、手を止めさせてすまない。集まってくれてありがとう」

いつもの、公務の際に着衣する公式衣装に身を包んだ王がそこに居た。

「今日は皆に、とても重要なことを問いたい。・・・我が国の、行く末についてだ」

束の間の沈黙により人々の気持ちが集中するのを待つと、王は続けた。

「皆も知っての通り、我が国は魔法の力を宿した大地に根付いており、その幸運をこれまで享受し発展してきた。そして我が王家は、その力を民のために使う者として栄誉ある地位を授かり継承してきた。」

いつになく王の瞳、その声に力が宿っていた。

「鉱石の力は偉大だ。水を生み出し土を豊かにし作物を実らせる。家畜を肥えさせ病気を防ぎ、嵐さえも追い払う。かつて貧しかった私たちの国は豊かに育った。みながそうありたいと望んだように。皆が夢見た国に」

王は一度言葉を切ると、表情を緩め優し気な声音で続けた。

「そう、私たちは、夢を見ていたんだ。とても、長い長い夢だ。誰もが幸せになりたいと願った。だからあの石が夢を見させてくれた。・・・・・・わたしたちに都合の良い夢を。」

王の瞳が見つめていた。逸らすことを許さない強い眼差しで、心の奥底までを見通すような澄んだ目で。

「どうか、私の声を真剣に聞いてほしい。私は外の世界でたくさんの人々を見てきた。皆、石の力などなくとも協力し合って幸せに暮らしていた。決して裕福とは言えないが、自分たちのも手で作った生活を誇らしく思っていた。私たちの幸せはわたしたちの手で作っていけるのだ。まがいものの力に頼らず、私たち自身の手で。」

話す王に、淀みも迷いもないことはその声の確かさ、瞳の強さが語っていた。

「どうか、もう一度考えて欲しい。夢から目覚めたときのように明瞭な頭で。わたしたちの幸せは石に頼らずとも掴めるはずだ。私はそう信じている。」

リナは言葉を切り、人々が話を受け止めるだけの静かな時間を待った。

「そしてもうひとつ、皆に大切な知らせがある。」

そう言ってリナは少し身を引いた。そこに現れるもうひとりの少女。王とそっくりの。

「彼女はエレーナ。私の双子の妹だ。私が不在の間、私に代わって務めを果たしてくれていた。今後の王位は、エレーナ、彼女が継続する」


通信を終えると、国中がひっくり返ったような騒ぎが起きた。知らぬ間に王が二人いて、しかも譲位まで行われているのだ。どちらに着くのか、どちらを利用するのか、或いはどちらかに利用価値があるのか。議員たちの間では利害関係の調整で揉めるだろう。だがこれまで通り国が滞りなく運営されると分かれば、人々も貴族層も落ち着くと二人は見ていた。

「本当にいいのか、姉様」

二人はまだ、発表を終えたばかりの部屋にいた。重要な発表なので一人きりに願いたい、と側近も兵士も議員も遠ざけていた。そこへキースの手引きでレナをこっそり迎え入れることができた。そのキースも退室して今はいない。

レナは窓から村を見下ろしている姉の後姿に問いかけた。

「・・・私は石を守ることで頭が一杯だった。それが国を護ることだと信じていた。」

リナは振り向くとこちらに歩いてきて、レナに真剣に向き合った。

「だが、お前はいつも残される民のことを考えていた。私に国を治める資格などない。お前は私が見捨てようとしたにも関わらず逃げずに皆を守ってくれた。真に王に相応しいのはお前だ。」

レナが頷くと安心したように微笑み、ここで茶目っ気を出した。

「それに、私はもうレオンのものなのだ。」

「へっ?」

「国に留まっても良いと言われたがレオは海に出るそうだ。ならばレオのものである私も付いて行くのが道理だ。そうだろう?」

そう言う姉の顔は、重責から解放されたからか見たことがないような清々しさを湛えていた。



数日後、またもや国がひっくり返るような騒ぎが起きていた。

王国上空に、船が現れたのだ。

「あ!」

リナは唐突に思い出していた。

以前、空飛ぶ船を体験して驚愕していた船員たちにそんな難しいことでもないぞ、と新たに刻印を刻み船を浮かせてやったのだ。船員たちは喜んでいたがレオはあまり嬉しそうではなかった。海の上を走るのが船だ、と言って。

以降、レオはその技を使わないので忘れていた。姿隠しの技ならまだしも、空を飛んでいる船を見られたらえらい騒ぎになる。挙句どこの船か特定されればいらぬ問題を引き寄せる。実質あまり有益な使い方はないのでお蔵入りの技となっていた。

リナの決意からまだひと月も立っていない筈だが、せっかちな海賊はさっさと行動に移したらしい。


どこの者ともわからない船が、この国の場所を知っている。襲撃か乗っ取りかと上を下への大騒ぎとなったが、王の、私の客人である。出迎えよ、の一言に城内は沈静化した。

レオの船は、空飛ぶ魚号の隣に静かに着岸した。兵士たちが出迎えの整列を作っている中、桟橋を降ろしてさっさと降りてくるその見知った顔ぶれたち。

「どうして・・・」

「迎えに来てやったんだよ。お前があんまりにもグズグズしてっから」

言葉とは裏腹に何の含みもないカラッとした顔がそこにあった。




王国が落ち着くまで、レオは少しばかりの猶予をくれた。

議会では連日の長い会議が開かれていたが、結局レナを王とすることで決着した。もともと二人で産まれ共に育ち同じ教育を受けていたので、王としての素質は申し分ない。それ以上に、要因は国民に交代を宣言してしまっていることにある。これ以上の混乱は無用だろう。


王位を引き継いだレナは宰相としてキースを指名した。これから鉱石に頼らない国づくりを進めていくにあたり、外界での見聞が広いキースは最適であるとの認識から周囲にも抵抗なく受け入れられた。

また、レオの出現が鉱石に頼らない国、という考えに拍車をかけていた。もともと交易を絶っていた国ではあったがこれまで場所を知られてこなかったのは幸いだった。外の世界では発明が進んでいる。この出来事は、この国の場所が外に知られるのもそう遠くはない未来であることを人々に実感させた。そしてその時に、外界に対して無防備ではいられないのだ。少しづつでも交易を始め、外の世界の情報、状況を知っておく必要がある。それには魔法の石、鉱石の力はないものとしておかなければこの国が略奪・征服されてしまうことは十分に考えられた。


リナの出立の日、レナとキース以外にも双子であることを知っていたごく限られた古参の貴族議員たちが見送りに来ていた。

レナはレオに交易権を示す証書を渡した。議会で承認された正式なものだ。これで、この船はアナトリア王国初の、今のところ唯一公式に認められた交易船となった。

つまりいつでも行き来できるのだ。

「いつでも遊びに来るといい」

「ええ、姉様も」

二人は抱擁を交わすと、リナは足取り軽く桟橋を渡って船に乗り込んだ。


よかったとレナは思う。幼い頃は共に育ったが、姉に王位継承権が正式に認められた頃から重苦しい顔をするようになったから。共に笑い転げ合った半身がいなくなってしまったように感じた。

今は、それを取り戻した気がした。

また、会いに行こう。近いうちに。






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