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救出

リナに案内された船の発着地は、山々に囲まれた霧の深い谷間にあった。周囲に村落はなく、完全に外界からは切り離されていた。

待つこと暫く、霧の中にその姿が現れた。

空に浮いているそれは尾びれと背びれを持つ魚のような形をしており、船体の中腹部分を巨大な鉱石が占めていた。時折、ぼうっと淡い光を放っている。

船は、その船腹を、突堤となっている崖の端に静かに接岸した。

扉が開き桟橋が渡される。

リナはすたすたと桟橋を渡った。その後をミレイが従う。

船内は無人だった。一緒に入った海賊たちも目を白黒させている。

船は万能石で動いているので、人手は必要ないらしい。決められた道を決められたとおりに行き来しているのだという。

一行が客室に落ち着くと、程なくして船は動き出した。

作戦はこうだ。

アナトリアに着いたらリナは王宮に入り侯爵の目を引き付ける。その間に海賊たちはフロンの案内で王宮に忍び込みリナの妹、エレーナ姫を探す。

定期船の出航前に、全員船に戻る。リナも王宮に張り巡らされている裏道を通って脱出してくる。(以前もこの通路で脱出したらしい)

「ンな簡単に抜けて来れンのか?」

「大丈夫だ。奴らの狙いはこの石だ。石さえ渡せば、私に用はない」

帰りに同乗者が居たらどうするんだ?という質問には、国の外に出るには王の許可が必要だからまずそれはないと思うが、万が一居たら少しの間目を閉じて静かにしていてもらおうという誠に海賊らしい答えに、一同笑いを禁じ得なかった。もちろん、目を閉じて静かにさせるのは海賊たちの役割だ。


やがて船は静かに其の国の船着き場へ到着した。

予想通り、事態を読んでいたのであろう数名の出迎えがひっそりと船着き場に待っていた。

リナは外套に付いているフードを被り髪を隠した。間違っても国民に王様が国外へ脱出していたなどと知られるわけにはいかない。ミレイの緊張した面持ちにひとつ頷いて見せると、桟橋へ踏み出した。


リナおよびミレイが数名の出迎えたちと共に王宮らしき建物に入っていくのを見届けると、海賊たちは船の裏口からわらわらと降り、建物の裏手に回った。侵入者などというものは想定もしていないのだろう、見張りはほとんどいなかった。だが王宮内で立ち働いている者たちはいる。うっかり出くわさぬよう足音に聞き耳を立てながら用心して進む。一行を先導して迷いなく歩を進めるフロンは、どうやら狙いがあるらしかった。

フロンは、古いリネン類を置いておく小部屋らしき部屋に入るなり床の絨毯を跳ね上げ床板から取っ手を抜き出した。貯蔵庫かと思われたそこは地下へ降りる階段が続いていた。

「二手に分かれましょう。一方は王宮内部へ、一方は書庫へ続いています。王宮内部へは私が行きます。姫を見つけたら笛をお願いします。」

海賊たちは次々に階段を下りていった。書庫への道を取っていたレオは次第に上へと続く階段を登っていくと、天井で道が止まった。天板らしき部分に手を当てそっと押し開けると、天板が浮いた。隙間から目だけで確認するが、しんと静まり返っている。板を押し上げ地上に頭を出すと、ずらっと並べられた棚に本やら巻物やら羊皮紙の束やらがぎっしりと詰め込まれているのが見えた。板をずらして床から這いあがる。後ろを付いてきたダンも上がってくる。

「ホントにこんなトコにいるんスかね」

「まあ待て」

使われている様子はなく、人の気配すらなかった。ちょいと頭を働かせる必要がある。何の目算もなくフロンがこの道を案内するはずがない。書庫というのは書物を仕舞っておく場所だ。大抵大図書館に併設か、文官の執務室が近い。部屋を見渡しながらウロウロと歩き回ってみると、奥まったところに小さなドアがあった。試しに取っ手を回してみるが開いている。開けてみるとそこもまた小部屋だった。部屋の調度品には白い布がかけられ埃をかぶっていた。使われなくなった文官の事務室の様だ。その奥にもまた小さなドアがある。どうやら文官の連絡用のドアらしい。レオは遠慮なく次々にドアを繰っていくと、にやっと笑って足を止めた。

連絡通路は大図書館に繋がっていた。書架がぎっしりと立ち並ぶその奥に、人の動く気配があった。

見張ってろ、とダンに目で反対側の入口らしき大扉を示す。ダンは心得たようにすすすと進んで大扉の手前の棚に身を潜めた。それを見てレオは足音を忍ばせ奥に進む。ページをめくる音がはっきりと聞こえた。

件の人物はそこに居た。リナにそっくりな少女がつまらなそうに開いた本を眺めていた。レオの目にはリナよりも若干子供っぽいように映った。

「あんた、エレーナ姫?」

レオがそっとささやきかけたときには、はっと本から目を離すとレオを認めて顔を強張らせた。

「何者だ」

警戒させないよう、レオは極めて軽い調子で続けた。

「お迎えに来たのさ。リナがあんたを助けてくれって言うから。」

「・・・姉様を知っているのか?」

「知ってるも何も、さっきまで一緒にいたぜ?」

「姉様が来ているのか!?」

椅子を蹴倒さんばかりの勢いで立ち上がるので、シーっとレオは声を潜めるように諫めなければならなかった。

「・・・あ、すまない」

「自分が王宮で侯爵の目を引き付けて時間を稼ぐから、その間にあんたを探して助け出してくれって。」

「・・・なんてことを」

顔を伏せると、力なく椅子に座り込んだ。うめくように口の中で言った。手紙など出すのではなかったと。

「あんまり、リナを悲しませるようなことはしてくれるなよと言いたいとこなんだがな・・・」

歯切れの悪いレオの物言いに、敏感に察したようだ。はっと顔を上げた。

「・・・知っているのか?」

「大体な。リナに逃げるように言ったのはあんたなんだろう?それが何で反対派の最先鋒のダート侯爵なんかを執政にしてるんだ?この国じゃあ15で成人なんだろ?」

リナから話を聞いたときにはおかしなことだと思ったのだ。リナをこの国から逃がした張本人が、反対派に利用されていることを分からない筈がない。

少女の目に、行き場のない哀しみがみるみる盛り上がってきた。

「・・・っ仕方がなかったんだ!あいつを認めないとみんな殺すって言われたんだっ私が認めるまで一人ずつ、目の前に連れて来て殺すって!!」

(ひぃでえことしやがるな)

「私はリナと共に育った。リナはいつも私の側にいた。私が、姉様に代わって立派に王を務めて見せると思っていた。だがそう、上手くはいかなかった!・・・私は侯爵の言いなりだ。手紙など、書きたくなかった」

リナには助けるなどと言ったが、どんな奴か見極め次第で放っぽって帰ろうと思っていたのだ。この国の存在はこの目で確かめたし入国ルートも一応分かった。初手の手がかりとしては十分だった。

だがこれで謎は解けた。この少女もまた、犠牲者だったのだ。そうとわかれば、あとはぱっぱと仕事をしてとんズラするだけだ。

ここではっと気づいたようにレナは顔を上げた。

「リナが来ていると言ったな。リナは・・・ここに居てはいけない。リナが危ない!今どこに」

「船で落ち合うことになってる。」

「其方どこから・・・地下通路か!行こう!」

レオが案内する間もなくレナはさっと動き出した。迷うことなくレオが進んで来た道を戻る。

書架の間を通り抜け様、レオはさっとダンに合図した。ダンは頷くと潜んでいた場所からするりと大扉を抜け外へ出て行った。すこしして、どこかで微かに鳥の鳴く声がした。書庫の床を持ち上げて地下通路へ降りているところへ、ダンが追い付いた。


地下通路を駆けている途中で、急にレナが道を変えた。

「船着き場なら、こちらの方が早い」

よく知ってんなーと思っているレオの顔を見たわけではないのだろうが、ふふとレナは笑って言った。

「子供のころはリナとよく城中を探検した。城の中は退屈で供の者を巻くのが楽しくてな」



「レナ!」

「姉様!」

リナの行動は素早かったようだ。笛を聞くなり脱出して来たのだろう。

「よかった、無事だったかレナ」

「姉様も。」

地下道で出会った姉妹は堅く抱き合った。

「姉様、石は?」

「それならもう侯爵に渡した。部屋に閉じ込められていたところを逃げ出してきたのだ」

それなら話は早い。一刻も早く逃げ出すだけだ。一同は駆け出す。リナも手を取り合って行こうとした途端、くっと反発があった。思わず振り返る。

「私は行かない。」

「レナ!」

全員が足を止めた。

「姉様、奴の狙いは石だ。だから私は大丈夫。それに、王がいなくなれば人々は不安に思う」

「しかしっ」

「姉様、これを持っていて」

そういって首から細い鎖を脱いだ。鎖の先に蔦模様の掘られた丸い飾りが付いていた。

「おしゃべり鏡だ。子供のころ、これを使ってよく遊んだでしょう。何かあったらこれで連絡する。だから私は大丈夫」

「しかしっ・・・」

厳しい表情のままのリナにレナは強く食って掛かった。

「姉様だって分かっているでしょう!?」

姉妹の間で切羽詰まった視線が交錯した。

「大丈夫、行って。あいつの思うとおりにはさせないから。」

リナは、耐えがたい未練を断ち切るように目を閉じるとレナの手を離した。さっと走り出す。

ミレイは慌ててレナに礼を取ると後を追った。つられて二人も走り出す。

横を走るダンの目が、いいんスかね?と聞いていた。

レオも肩をすくめるしかなかった。


最も奥まで入り込んでいたフロンの組が最後に船に戻って来た。

室内を見渡し何も変わらない顔ぶれにフロンが質問を投げかけた。

「・・・姫は?」

ダンもレオも何も言わずフロンの視線を流した。

視線の先にいたリナは、俯いたまま言った

「レナは、残った。行かない、と。」

「・・・何てことを」

フロンは疲れたように手近の席に腰かけ、それっきり何も言わなかった。


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