第61話 黒狼さまとダンジョン②海の階
「あ。確かに。海の中、息できねーな」
「あ」
「なんだよ」
「空が海ってどう?」
「空が海??」
「だから、空にこう海水があって、下は空気があるわけ。わたしたちは下から水中にいる魚が見えて、それをゲットする!」
「なるほど、いいな。よし!」
健ちゃんが目を瞑る。
「よしっ」
「早っ、大丈夫?」
「多分」
自信たっぷりに頷く。言葉は〝多分〟だけど。
「よし、じゃあ、ショートカットだ! 皆さん、次の階行きますよ。次は面白い階です。海フィールドになります」
「海フィールド?」
「はい。海っていう括りだから、弱いのもちゃんといる。アンちゃんもダレン君も戦えるからね」
ふたりは嬉しそうにした。ふふ、かわいい。
「ここのドア行きますよ」
イメージで非常口だったからか、ピクトグラムのドアを潜る人が上に掲げられている。わたしの作ったショートカットの扉。
「21階へ」
その先のドアを開ければ……。
おお、岩場。海に続きそうな。
チャプンと音がする。
上を見上げれば、水が!
《お、また唐突に始まった》
《今度はなんだ》
《上に水?》
多分海水が空に。貝が下の方にいた。
布団叩きで貝のいるあたりを探る。
水の中に布団叩きは入って、貝に届いた。
わたしはそれを地面に落とすようにする。
おお、水は落ちてこないけど、貝だけ器用に落とせた!
《布団叩き、無敵!》
《貝? 海フィールドってこと? 上に海?》
地面に落ちた2枚貝は威嚇するように口を開けたり閉じたりしてガチガチ鳴らした。
《おお、ここはこういう戦い方になるのか》
「アンちゃん、ダレン君」
と呼びかけると、ふたりが貝たちを踏んづけた。
ポンと軽快な音がして。昆布のような海草に包まれたものがドロップした。茎でうまく留まっているそれを解いてみれば、アサリが5つ、貝のママの状態のものが!
おお!
《芸が細かい! ドロップ品、海藻に包まれてるよ》
《スーパーのパックをそのまま使ったりはしないんだな》
入ったドアから道はゆったりとした坂になっている。
天井にあたる、海の底の高さはずっと一緒。ゆえに奥に行けば行くほど海は深くなり、大きな魚もいることだろう。
「お」
健ちゃんが声を上げて、飛び上がって短剣を突き刺す。
イカか?
やっぱり軽快な音がして、海草に巻かれたものがドロップする。
「それ、食べられるのか?」
成人組が訝しんでいる。
お造りにされたイカのお刺身だったので、みんなで一つずつ手で取って食べる。
「ねっとりした甘さ、だな。うまい」
「コリコリしてる、おいしい!」
《イカ、食べてー》
《海藻に包まれているだけなのに、なんであんなうまそーなんだ》
みんなの目がキラリと光った気がした。
そっからは、みんな下から武器を突き出して、魚を取りまくった。
アンちゃんとダレン君には、わたしと健ちゃんが獲物を落として、それを倒させた。
黒狼が一番凄かったね。それも猫パンチ。ちょっかい出す感じに飛び跳ねて猫パンチを繰り出すと、地面に大量の魚が落ちてきた。それを尻尾で叩いたり、足で踏みつければ、大量のドロップ。拾い集めるのが大変になってきたので、ガーちゃんとカマちゃんを呼んだ。カマちゃんも飛び上がって魚を獲っていたけど、銀シャリを炊いて欲しいとおねだりしてみる。
っていうか、今更ながら、飛び上がって海水に入り、魚をガッポガッポと捕まえてる炊飯器、ビジュアルが濃いよ。忘れられない光景になりそうだ。
ドロップ品が貯まったし、時間もちょうどよかったので、お昼ご飯にすることにした。みんなイカを生で食べていたから、ちらし寿司にしたよ。お醤油も買ってあるから。大人にはワサビも勧めてみる。
カマちゃんの炊き立て銀シャリに、甘酢と混ぜて酢飯に。
お刺身を山ほど乗せて。あさりのお吸い物も作った。
みんなでいただきますだ。
どのネタも美味しい! ダンジョン凄い、使える!
でも、黒狼には暴れるにもならないね、猫パンチだもの。
「健ちゃん、こういう、休憩スペース必要かもね」
「ああ、そうだな。この階は、海から魔物は出て来ないから安心だけどな」
「セーフティースペース、作ろうね、どの階も」
「そうするか」
みんなこの階が気に入ったようだ。魔物が海から出てくることはないしね。
魚も美味しいから、もっと獲って帰って、村のみんなにも食べさせてあげたいという。それなら、と、みんなにはこの階で頑張ってもらって、わたしたちは黒狼ともっと強い階へと行くことにした。
わたしと健ちゃんで話し合って、52階へとショートカットだ。
黒狼には存分に戦ってもらいましょうか。
恐らく、誰にとっても、ものすごく戦いが大変になる階だ。




