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放課後レンジャー  作者: kyo
第1章 だってそこにダンジョンがあったから
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第6話 新しい朝

 ケータイのアラームで起きる。すっきりした目覚めだ。起きて最初に思うことが〝頭痛い〟じゃないのって久しぶりだ。健ちゃん家は落ち着くからかな。

 数週間前から朝起きると、頭がガンガンして困っていたのだ。1時間ぐらいで治るんだけど。


 お母さんからメールが来ていた。おばあちゃんから目を離せなくて、電話をとるタイミングが難しいこと。おばちゃんにはお礼のメールと電話を後で入れておくと書かれていた。お姉ちゃんのことは何も言われなかったので、ふぅと息をつく。普段からよく友達のところに泊まりに行っているから、おかしいとは思わなかったんだろう。


 目が離せないって相当悪いってことかな? お母さんに聞いてみる? メールを打とうとした手が震える。決定的なことを聞くのが怖くて、また返信メールを打たせるのも悪いかと、尋ねることから逃げた。


 わたしは客間で眠らせてもらった。

 家に戻って学校に行く用意をするために、少し早起きだ。おばちゃんはわたしの分のお弁当も作っていてくれて、朝ご飯を加藤家でいただいてから家へと帰った。


 自転車を直していないことを思い出した。

 学校まで歩いて行くには時間がギリギリすぎたので、健ちゃんがバイセーに乗せてくれるという。

 健ちゃんはバイセーの資格持ちだ。自転車に含まれる電動マウンテンバイクのようなバイセーはかなりスピードも出るし、馬力もある。〝山を走ることができる〟がバイセーの定義で、高い運転技術が求められ資格を取るのは難しい。それにバイセー自体のお値段も、普通の電動自転車よりもさらに高いと聞いた。わたしは電動自転車も許されなくて、普通の自転車になった。バイセーはサドルの後ろに人を乗せる用のキャリアーが標準装備。だから2人乗りもオッケー。

 健ちゃんのヘルメットをかぶせられた。

 小さい頃は2人乗りどころじゃなく3人乗りをして、ヨタヨタ走らせていたことを思い出す。今は、電動だとはいえ、すっごく安定した走りだ。


 行きがけに、真由を追い越していくことになり声をかけた。わたしたちを見て目を大きくする。真由は自転車登校だと髪型が乱れるからと、バスを利用したり、歩いて通っている。昨日の真由との一部始終を健ちゃんに話せたからか、その後の出来事の方がよっぽど衝撃的だったからか、真由に対してナーバスにならずにすんだ。


 休み時間に真由がわざわざわたしの教室にやってきた。久しぶりのことだ。入学して3日目から、真由は一緒に帰ろうと誘いに来なくなった。わたしから行くと先約があると断られ、それが何度か続き、わたしも声を掛けづらくなった。

 どんな用事かと思えば、健ちゃんと付き合い出したのか?と聞かれる。

 そんなんじゃなくて自転車が歪んでしまったからで、今日は遅刻しそうだったからだと言うと、昨日のことを思い出したみたいで、修理代を出すと言った。わたしは首を横に振った。

 助けられたならよかったけど、あの場面でわたしはただの役立たずだったから。


 授業が終わると、健ちゃんが迎えに来てくれた。

 クラスの仲良し、りっちゃんや芽衣から付き合い出したの?と聞かれる。本日2回目だ。

 そうじゃなくて一緒に行くところがあるのと言えば、明日報告するようにと言われた。

 バイセーに乗せてもらい駅まで行って、駐輪場に預ける。電車に乗り、乗り換えの池袋のトイレで私服に着替えた。

 秋葉原まで行くと駅ビルから、ダンジョンへの通路があった。

 真由がこっそりついてきていることに、わたしたちは気づいてなかった。



 ダンジョンへと続くゲートを抜ければ、劇場のパンフレットやグッズ売り場のように、いくつかに区切られてお店が開かれていた。

 リュウジさんの配信で言ってた、武器や防具を買うこともでき、そして魔石やダンジョンで得たものを売ることができるお店だね。

 うわっ、剣がある。大きな斧や、あれが棍棒かな? バットみたいのも売っていた。防具もいろいろあって……けれどどれもわたしの普段の買うものと桁が違った。隣を見上げれば健ちゃんも死んだ目になっていたから、あまりの値段に〝無理〟と思っているんだろう。


 ダンジョン入館の受付は?とキョロキョロしていると、スーツ姿の優しそうなおじさんが歩み寄ってきた。


「私は秋葉原ダンジョン案内係の紺谷といいます。こちらには買い物に?」


「いえ、ダンジョンに入りに来ました」


「おふたりさまですか?」


「はい」


「ダンジョンは初めてですか?」


「はい」


「一応確認です。おふたりは13歳を超えていらっしゃいますか?」


「? はい、15歳です」


 健ちゃんとわたしは顔を見合わせた。


「12歳以下はお断りしております」


 そーなんだ。


「おふたりは13歳以上ですので、入館が可能です。入館の同意書にサインをいただき、入館料を払っていただきますと、入館できます。初めてダンジョンに入られる場合は、レンジャーと一緒に入っていただきます」


「それは追加料金がかかりますか?」


 わたしが尋ねると、紺谷さんは優しく笑った。


「入館料以外はいただきません」


 よかった。


「ダンジョンに入られますか?」


「はい、お願いします」


 健ちゃんの力強い言葉に、わたしも頭を下げた。

 カウンターになっているところに案内され、用紙を渡される。



 同意書だった。要約するとダンジョンに入って体の一部や全部、破損することがあるのを理解している。何が起きたとしてもそれは自分が望んだことで、責任は自分にある、と書かれている。

 名前と生年月日は必須、後の住所や電話番号などは任意になっていた。

 〝破損〟ってのが胸にくる言い回しだ。

 わたしは任意の欄もしっかりと記入した。

 横を覗き込めば、健ちゃんは必須のところのみの記入だった。



 書き終わる頃、紺谷さんがやってきて、その後ろには立派な防具で固めた、マッチョな男性と、ナイスバディーの無表情な女性がいた。

 入館料をそれぞれ払う。以降は3000円だが、初回価格で今日は2500円だった。


「レンジャーのおふたりです。わからないことはなんでも聞くといいですよ。次回からもレンジャーをつけることはできますが、それには料金が発生します」


 お礼を言えば、紺谷さんからわたしたちは丁寧にダンジョンへと送り出された。


「行ってらっしゃい」


 45度に頭を下げている。大人にそんなふうにしてもらって、わたしは少し浮き足立った。



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