第53話 始まりの村④ダンジョン到着
3日一緒に過ごし、わたしたちはかなり仲良くなっていた。
獣に何度か遭遇したけれど、順調に倒した。わたしか健ちゃんの補佐で、誰も怪我することなくいられた。お肉は全て塩漬けにして、冬に備えるそうだ。
ダンジョンが見えた。
健ちゃんと目配せして、ちょっとの間、みんなを引き止めていてもらう。
わたしはダンジョンを改造するのだ!
「ただいま!」
『優梨、お帰りなさい! 健太はどうしたのです?』
「現地人連れてきたよ! でも冒険者ではないの。ただ獣を倒せるから、弱いのを少し倒してもらおうと思う。でもその前に、ここの1階で農作物が取れるって言って連れてきたの、だからダンジョンを」
『の、農作物ですかー?』
「ポイント特典で、改造いいって言ったよね?」
『は、……はい。けれど、えーーー、農作物ですか』
「1階だけだから!」
わたしは手を合わせてお願いする。
『まさか、農作物が取れるとするとは、思いつきませんでしたが、一度いいと言ったことですからね。どんな農作物ですか?』
ちゃんとアンちゃんたちから、何があったら嬉しいか聞いておいたから!
ふふふ、まずは芋類でしょ。それから名前が違ったけど、にんじんとキャベツのことだと思う。あと大根、玉ねぎもいるね。なす、カボチャ。あとわたしの好きなのを入れておこう。レタスと春菊と。ごぼう、トマト、レンコン。
そして甘いものを欲していたから。砂糖をプレゼンツ!しちゃうもんね。
砂糖って作る工程が大変だよね。それを植物がやってくれちゃったらいいね。麦の穂みたいにさ、そこから真っ白の砂糖がこぼれ落ちるの! 名前は……角砂糖じゃないから……丸砂糖でいいかしら。かわいいよね、なんとなく!
イメージは固まった!
わたしがお祈りポーズで「改造」と呟くと、わたしの中から何かがごっそり抜けて行くのを感じる。魔力かなんかだね。
目を開けると、緑の楽園だ。季節を選ばず、青々と茂った葉っぱに、農作物が実っている。
「優梨?」
外から健ちゃんの声がする。
「健ちゃん、オッケー!」
あ。
慌てて、一階は魔物を出さないで欲しいとマスターさんに掛け合う。
数秒間があったけど、マスターさんはがっかりした声で「はい」と言ってくれた。
「うわーーーーー」
アンちゃんの子どもらしい感嘆の声が上がった。
「これは!」
皆さんも目を奪われている。
「優梨、やりすぎ」
健ちゃんに、こそっと怒られる。
確かに。でも野菜いっぱい取り放題って思ったら、なんかワクワクしちゃって、思いついたものを全て入れ込みたくなってしまったのだ。
「これ、トマトンだ! 取っていいの? 夏しかないはずなのに」
あはは。
アンちゃんが丁寧にトマトをもぎる。取ったことがあるみたいだ。
「お姉ちゃん、食べていい?」
「もちろんオッケーだよ」
「オッケー?」
わたしは親指と人差し指をつけたオッケーサインを手で出して、
「マル、いいよ、大丈夫ってこと!」
と伝えた。
アンちゃんがかぶりつくと、瑞々しいトマトの皮がぷつんと弾けて、アンちゃんの口の中におさまる。
「あまーい」
完熟トマトのようだね。
「どうなってるんだ? 夏に実るトマトン、秋のカボッチャ、冬のダイコンもあるぞ」
「すべてが今、収穫時のようだ」
「ユオブリアは凄いな。こんなダンジョンがあっても誰かが独り占めしようとしたりしないのか?」
え?
あ、確かに。
これを売ってお金にできるとしたら、独占しようとしたりする人が出てきそうだ。
これは何か考えないとだと、健ちゃんと顔を見合わせる。
わたしは健ちゃんの背中でアプリを呼び出し、荷車を買った。20万もした。
舗装されていない森の中を行く感じなので、丈夫そうなのを選んだ。
ピンポンとベルが鳴る音がして台車はすぐに届いた。
「どっから、出したんだ?」
「あ、魔法みたいなものです」
適当に言っておく。
「野菜はこれに入れて運びましょう。売りたい分だけ」
『優梨、小さな女の子以外なら、弱い魔物ぐらい倒せそうです。地下2階に連れてってください。現地人の戦いでどれだけエナジーが集まるかみたいんです』
マスターさんのいうこともわかる。マスターさんにはお世話になりっぱなしだし。かなりよくしてもらっている。
「ケン、ユーリ。お前たちは、最初から俺たちを助けるために、ここに連れてきてくれたんだな?」
しゃがみ込んで野菜を見ていたバーカードさんが言う。
「お前たちは収納袋を持っているんだものな、野菜だってその中に入れれば運べる。獣を倒せるぐらい強いし、町までの案内が欲しかったのかもしれないけど、それだけだ。けれど、俺たちが金も物もねーって言ったから、こうして連れてきてくれたんだな?」
そう言って涙を流した。
え。
確かにそんな意図もあったけど、こちらとしても下心があったので、居心地が悪い。
健ちゃんが言いにくそうに話し出した。
「それもあるんだけど、実はお願いしたいことがあるんだ」




