第22話 一角マニアの恩恵
ヒカル君は捜査隊の人に動画を送ったり話を聞きたいと言われたようで、ロビーで別れた。
わたしたちは今日ゲットした魔石を、換金してから帰ることにした。
「武器やいろいろ買ったけど、まだ金あるだろ? なんで躍起になってんだ?」
ぼそっと聞かれる。
今日はモリモリ稼ぐつもりでいたし、稼げなくてガッカリしたのもわかったみたいだ。
「慎ましく生活できるぐらいはあるんだけど、……おばあちゃんのところに行きたくてさ」
「山梨?」
「うん。具合悪いみたいだから。顔見に行きたいなーとか思って……」
窓口は5つもあるから、すぐにわたしたちの番になった。スライムの小さな魔石とモノモノ草の魔石、一角ウサギのツノと魔石を窓口に出す。
「こ、これは!」
窓口のきれいなお姉さんの形のいい口が、まあるく開かれていた。
「これは、一角のツノではありませんか?」
「あ、はい」
「お売りになるんですか?」
「健ちゃん、思い出深い? とっとく?」
「いや?」
だよね。最初にとったやつなら、持ってるしね。あっちの方が大きいもの。
「しょ、少々お待ちください」
籠に入れた魔石などを、お姉さんが後ろに運んでいってる。
「山梨のばーちゃん、どこが悪いんだ?」
「お母さんが言わないんだ……」
お姉さんが戻ってきて手続きに入る。全額カードに入れてもらうことにして、健ちゃんがいいと言うので折半だ。
詳細を見せられ、これでいいかと確かめられる。
健ちゃんとその用紙を覗き込み。
ん?
すぐにお願いしますと返そうとして、なんかおかしい気がして。桁が変だと思った。そして数えてみたのだが。
「え? これ、金額間違ってませんか?」
健ちゃんがお姉さんに紙を突き出した。
お姉さんは目を走らせ
「いえ、ご提示価格通りです。ご納得いただけないようでしたら……」
「いえ、とんでもない。こ、こんなに高く、ありがとうございます」
お姉さんは驚いた顔をした。そっち?という感じに。
「一角のツノは滅多に出ないからマニアに高く売れるんですよ」
……マニア。一角マニアってどんなマニアなんだろう?
そっと教えてくれたんだけど、一角の中でも一角ウサギって弱い部類で、ドロップを出すことが稀。稀の二乗でなんと30万だったのだ。
その他の魔石たち、状態がいいそうで、小さいけれど合わせて31500円になった。ツノも合わせると331500円! 折半で165750円がわたしの口座へと入った。
「わたし、日曜日、おばーちゃんのところに行ってくる!」
「……お前、ひとりで行けるのかよ? ひとりで行ったことあるのか?」
「な、ないけど。電車に乗れば着くはず」
駅からはタクシーで。道は案内できないけど、住所を控えていけばナビで行ってくれるだろう。
放課後を忙しく過ごすようになると、まったりできる休み時間が貴重なものに思えてきた。
友達とのんびりしていると、メリハリがきいた生活は悪くないように思えた。
「芽衣、何見てんの?」
ケータイをガン見している芽衣へ、りっちゃんが後ろから抱きついてうざがられている。
「優梨がレンジャーやり出したからさー、興味が出て、レンジャー配信見てみたの。案外面白いね。今さ、騒がれている動画があってさー」
「へー、レンジャー配信?」
りっちゃんが芽衣のケータイを覗き込んでいる。
「レンジャー枠なんだけど、カップル配信してて。ライブでダンジョンに挑んでるんだって」
へー。
「私もよくわからないんだけど、そのダンジョンや配信がいろいろ変で画像解析とかかけようとしたらしいんだけど、セキュリティーがすごくて、切り取りとか画像チェックができないんだって」
「何、よっぽど怪しいことしてるってこと?」
りっちゃんが首を傾げる。
「よくわからないけど、凄いことだらけらしい」
切り取りとか画像チェックとか、ヒカル君に教えてもらった気がするけど、何だったっけかな?
「優梨は、配信やらないの?」
芽衣がわたしを見る。
「いずれやりたいと思ってるんだけど、やっぱり難しそうなんだよね。でも、ヒカルチャンネルっていうのに、出してもらうんだ」
「え、そうなの?」
「うん、昨日撮ったから。そのうち配信デビューかな?」
「へー、凄いじゃん。配信する時、教えて、見る見る!」
「私も!」
そう? わたしは気をよくして頷く。
「優梨」
のんびりと声をかけられる。
「お、旦那がきた」
「ちょっと、りっちゃん」
せっかく健ちゃんと、前みたいになれたのに、そんなことでまた溝ができたら悲しすぎる。
健ちゃんはりっちゃんと芽衣に軽く挨拶をして、わたしに言った。
「マイケルさんから連絡きた」
芽衣ちゃんに背中を叩かれる。
「話してきな」
「え? うん」
ここで話すじゃダメなのかな?
健ちゃんについて、教室から出ていく。
「マイケルさん、なんだって?」
「近いうちに潜ろうって。話もあるみたいだ。日曜誘われたんだけど、用事があるって言っといた。だから来週月曜、いいか?」
「大丈夫だよ」
「じゃあ、そう返しとくな」
「うん、ありがとう。お願いします!」
部活にも入っていないのに、健ちゃんは顔が広い。廊下を歩いていく人たちは、知っている人ばかりで、なんかしらの合図を送ったり、送られたりしている。
「日曜は何時出発だ?」
「え? あ、一応、新宿9時2分発の特急に乗ろうかと」
「切符買ったのか?」
「え?」
健ちゃんは頭をガシガシ掻いてる。
あ、緑の窓口! そっか予約しないとなのか。
「今日窓口行ってくる」
「いや、アプリ……あ、ダメなのか……。俺たち未成年だもんな」
「じゃあ、今日、買いに行くか」
「悪いからいいよ。このところ毎日付き合ってもらってるもん」
鼻を摘まれた。
「にゃにするのぉー」
健ちゃんが気持ちよく笑う。
「俺も行くからさ」
「え? 健ちゃんも? おばあちゃんのとこに?」
「お前、そんな遠くまで、ひとりで行ったことないだろ?」
「……健ちゃんだってないでしょ?」
健ちゃんは咳払いをする。
「絶対、お前よりマシだから」
機嫌よく笑ってる。
でもさ、健ちゃん。わたしにばっかかまけてると、誤解されちゃうよ?
成り行きを知っているって、油断しているんだろうけど。
それに、あんまり優しいと、わたしだって勘違いしそうになる。
でもそれも全部、わたしが頼りないからだ。
そして、本当のところ、ひとりで山梨に行くのは心細かったので、すっごく安心しちゃってる。
もし今健ちゃんがやーめたって言ったら、頼み込みたいぐらいには。




