第21話 湧きと活性化
「何者って、何だよ?」
健ちゃんが笑い飛ばした。
「今日2回目ってマジ? レベルも2って本当に?」
「嘘言ってどうすんだよ?」
「あれ、一角ウサギの変異種だよ。レベル2が素手で倒せるのおかしいよ」
「その前に、優梨がハンマーで叩いたのが効いたんだろ」
ヒカル君は腑に落ちない顔を慌てて消した。そして笑顔になる。
「ごめん。湧いてびっくりして、変なこと言った。でも、健太と優梨、絶対、普通じゃないよ!」
嬉しそうに、そう言われてもなぁ。
わたしたちはステータスが思い切り普通だったんだと告げたんだけど、眉を八の字にして訝しんでいる。
入り口付近が騒がしくなったと思ったら、ベテランレンジャーっぽい人たちが何人も入ってきたからだったようだ。
報告しに行ってくれた人が一緒で、調べにきたのだろう。
「健太、優梨!」
「マイケルさん!」
「ふたりもスライムが湧いた現場にいたのか?」
わたしたちは大きく頷いた。マイケルさんは調査隊の一員なようだ。
「その上、彼ら一角ウサギの変異種倒したんです」
スマートな若いお兄さんが説明した。
レンジャーたちが揃ってわたしたちを見る。
「その上、ツノがドロップしたんですよ」
「健太、ツノ見せてくれるか?」
マイケルさんに見せる。
「一角のツノだ……」
「どうやって倒したの?」
ベテランレンジャーの一人に聞かれる。
「優梨がハンマーで地面に叩きつけて、方向転換して俺の方に向かってきたんで、脚掴んで地面にもう一回叩きつけました」
「一角ウサギを手で掴んだの?」
「え? はい」
「変異種でした。2本足で立ってる、こんくらいの背丈の」
興奮したように見ていた人が言った。
うーーん、でも昨日ウチダンジョンに出たやつの方が強そうだったからなー。
「知らないみたいだな。一角の奴らのツノがドロップするって稀なんだ。一撃みたいな倒し方しないとドロップすることないんだよ」
「え?」
「え?」
昨日もツノが落ちたので、驚くと、マイケルさんに驚き返された。
「あ、いえ……そうなんですね……」
わたしは首が傾いでしまう。
「スライムが湧いていたのはここです」
ベテランさんが携帯サイズの機械からアンテナを出して、地面に近いところを探っている。
「あのその時の動画ありますけど……」
ヒカル君が申告する。
「今、見られる?」
「あ、はい」
ヒカル君も携帯をいじり出す。
?
携帯をレンジャーさんに見せている。
ドローンに映し出させる方が見やすいと思うけど、しまっちゃったからかな。
「これ、活性化じゃないか?」
「1階で?」
調査隊の輪の中にいたマイケルさんが、こっちを見たような気がした。
「活性化って何?」
隣のヒカル君に聞いてみる。
「言葉通り、ダンジョンが活性化する。魔物が湧いたり、普段より魔物がパワーアップしたりするんだ。魔物の強さがより強くなった場合、活性化と言われたりするね」
「そっか。さっきスライムが湧いただけなら、〝湧いた〟かもしれないけど、一角ウサギの変異種が出てきたってことで〝活性化〟かもっていうこと?」
「優梨は理解力が早いね。ロストダンジョンって聞いたことある?」
「あ、うん。書籍が出てるんだよね? この世界に現れたダンジョンはもう異界で役目の終えた、本来の姿ではないダンジョンではないかってこと」
「そうそう。完全なロストダンジョンだというなら活性化はおかしいだろ?って意見があって。活性化するってことは、火山でいえばその昔の休火山みたいなもので、完全に失われたわけじゃなくて、異世界と繋がっていて時々呼応して、活性化するんじゃってロマンな話があるわけよ」
「そりゃ、ロマンだな!」
「だろ?」
健ちゃんは失われたダンジョンと聞いて、ちょっと切なかったみたいなので大喜びしている」
「君はずいぶんダンジョンの知識もあるみたいだね」
マイケルさんがヒカル君に話しかけたので、マイケルさんにヒカル君を、ヒカル君にマイケルさんを紹介した。
「いえ、全然ですっ」
ヒカル君は緊張したみたいで直立して答えている。
「いや、よく勉強しているよ。大したもんだ」
「活性化ってどういう時に起こるんですか?」
「それはどうしてなのか、わかってないんだ」
健ちゃんが尋ねると、マイケルさんは残念そうに言う。
「健太と優梨、それからヒカル君、スライムが湧いた時に何か気づいたことなかった?」
「スライム、ちっちゃかったです」
感想を言うと誰かに笑われた。
「そういえばモノモノ草が群生してて。あ、ヒカル君が魔物が騒がしいって言ったよね? あれなんで? わたし何も聞こえなかったんだけど」
「アキバの1階は土から出てくるのが多いだろ? 群生したりしていると土っていうか、周りの鉱石がちょっと光るんだ。ざわざわしている感じ、だから騒いでるんだって言ったんだ」
「君、鉱石に関するスキルがあるの?」
ライダースーツみたいなぴったりした服装のお兄さんがヒカル君に尋ねる。
「あ、ただ持ってるだけで、役に立たないんですけど」
「いや、そんなことないよ。鉱石がざわつくのがわかるってことだろ? 凄いじゃん!」
「あ、健太。スライム倒した時の魔石見せてくれるか?」
健ちゃんは頷いて、魔石をマイケルさんに手渡した。
横から覗いこんだレンジャーさんが、ぼそっと「本当に状態がいいな」と言った。
「活性化、だな」
レンジャーさんたちが頷き合った。
「活性化ってなると、何か変わるんですか?」
「全体的に魔物が強くなって、〝湧き〟も起こりやすいから、レベルの低い人はダンジョンに入らない方がいいな。逆に稼ぎたいやつとか、レベル上げたい奴はどんどん入っていく」
がーーーん。おばあちゃんのところに行く交通費が稼げない。
「あ、ヒカル君だったっけ? 今は? 鉱石ざわついてる?」
ヒカル君は周りに目を走らせ、ライダースーツさんに首を横に振った。
「今は静かです」
みんな一様に考え込んでいる。
「わかるのはこれぐらいだな。報告してこよう。あ、ヒカル君、この動画、送ってもらってもいいかな?」
「わかりました」
そんなやりとりの後、わたしたちは促されてロビーへと向かって歩き出した。
今日はとほほな結果だね。
でも、前回が、ビギナーズラックだったのかもしれない。




