アズキ メレンと面談する
メレンさんが来てから今日で一週間。その間にこの施設内はそれなりに様変わりした。
「まずは職員の引き締めを取り計らいます。私の前で業務中、身も心も弛みなど許しません」
時折行われるメレンさん主導の各部門への視察。その際たとえどんな小さなものであれ、違反や身だしなみの乱れなどがあればビシバシ取り締まわれた。
「業務中の飲酒は祝い事など事前の申請がなければ厳禁。これは没収しますので、業務終了後に取りに来るように。どうしても我慢できない場合は売店のガムでも噛む事をお勧めします」
「そこのアナタ。背筋が曲がっていますよ。あと三十分で交代なのは分かりますが、その瞬間まで業務に集中するように」
「すぐに整備班を呼びなさい。壁のこの部分に僅かですが剥離が見られます。いかに僅かであっても、問題の芽は早い内に摘み取らねばいけません」
どれもちゃんとした理由がある指摘や注意であるため大半の職員は何も言えず、数人ほど反抗しようとした職員もいたけれど、
スパパパンっ!
すぐに高速の連続ビンタを受けて強制的に沈黙させられた。ジェシーさんが言うには、あれを見切れるのはこの施設では数人くらいしかいないらしい。
あとそのジェシーさんは、メレンさんとは相性が悪いらしく顔を合わせないよう逃げ回っている。なんでも、会う度にお小言を言われるからだとか。
「まあまあメレン。何もそう細かく言わなくたって」
「隊長は職員に対して甘やかし過ぎなのです。小さな違反をなあなあで見逃し続けていれば、それは恒常的な物となりより大きな違反へと繋がります。……言いたくはありませんが、隊長は良く言えば部下から親しみやすく、悪く言えば舐められやすいのです。それは良くありません。私達は悪だからこそしっかりとした規律を保たねばならないのです」
宥めるピーターさんを一蹴し、そうしてどんどん規律の引き締めを行っていくメレンさん。
結果として、隠れてこっそり行っている人はまだ少し居るらしいけれど、たった一週間で業務違反をする職員はほとんど居なくなった。
そして、視察以外でもメレンさんは辣腕を発揮した。というよりこちらが本業らしいのだけれど、
「メレン副隊長。こちらの書類にハンコをお願いします」
「少々お待ちを。目を通します。…………この部分に若干の不備が見られますね。こちらに記載された在庫数と合いません。他の書類は問題ないようなので誤字の可能性が高いですが、念のためその部門に確認を取ってください」
「副隊長。本部からの今月の予算の件ですが」
「その件はこちらで既に手を打っておきました。正式な連絡は後日の予定ですが、先月のおよそ二割増しになっている筈です」
「二割増しっ!? 一体どんな手を使って引っ張ってきたんですかっ!?」
「現在進行形で必要な分とこれから必要になるであろう分を、きちんと筋道立てて経理に説明してきただけですよ。もう少し時間があればまだ上げられたのですが残念です」
このように、事務仕事がとんでもなく捗っている。ピーターさん達だけではいつもひいひい言いながらこなしていたという業務が、メレンさんが戻っただけでどんどん消化されていった。なので事務仕事をする職員達からはとても評判が良い。
あとこれが肝心なのだけれど、最近ピーターさんの顔色が良くなった。それというのも、
「良いですか? 失礼ながら、隊長は業務以外の事にまで気を配り過ぎなのです。だからこの通り……自分の事すら疎かになる」
「これは……ちょっと昨日は忙しくて服のアイロン掛けを忘れていてシワが」
「言い訳無用。私が居るからには弛んだ生活習慣など認めません。(悪の組織的に)規則正しく健康的で模範的な生活にして差し上げますのでそのおつもりで」
と、メレンさんがピーターさんの業務を補佐するようになって、一気に負担が減ったからだ。それは素直に嬉しい。
そして、最後にワタシはというと、
「どうぞ。そちらにお掛けください」
「……はい。失礼します」
そのメレンさんに呼び出され、一対一で面談を受けていた。
ズズズっ。
静かな部屋に、目の前のメレンさんが小さくお茶を啜る音だけが響く。
「どうしました? 一応それなりの銘茶を用意したつもりなのですが」
「い、いただきます」
促されてまだ湯気の立つ湯呑みを手に取り、一口啜る。
美味しい。母に何度か色々な所のパーティーに連れられて少しはそういう物を嗜んでいるけど、このお茶は一口で良い物だと分かる。でも、
(空気が……重いっ!?)
目の前のメレンさんから発せられる圧。一貫して微笑みも絶やしていないし言葉も丁寧だけど、仮に悪心の中型個体3体と戦うのと今の状況のどちらか選べと言われたら、間違いなく前者を選ぶくらいの圧に部屋に入った瞬間から襲われていた。
「とても、美味しいです」
「それは良かった。さて、早速ですが本題に入りましょうか。アナタの……この支部に置いての立ち位置についてです」
メレンさんはそういうと、何かの書類を取り出してぺらぺらと捲り始めた。
「永星小豆さん。政府高官である永星静香の長女にして同じく魔法少女である永星千茶の姉。魔法少女としての活動中力の源である通称聖石なる物質が破損し重傷を負っていた所、隊長の独断で邪因子を投与し生命の危機を脱する。その後第二次悪心大量発生時にこれまでにない邪因子の活性化と聖石の変質を確認。現在は聖石と邪因子の力が混ざった状態であり、その経過観察も兼ねてこの施設において外部協力者という立ち位置にある。ここまでで何か間違いはありませんか?」
「……いいえ。その通りです」
大まかなこれまでの経緯を一つずつ並べられてワタシは静かに頷く。
「結構です。では、結論から延べましょう。……アズキさん」
そしてメレンさんは、微笑みを一切絶やすことなくその言葉を口にした。それは、
「この施設にアナタは不要です。近日中にアナタの外部協力者としての任を解き、記憶消去及び邪因子の強制除去を行い、元の日常に送り返しますのでそのおつもりで」
「…………えっ!?」
唐突な解雇通告だった。




