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第七十八話 「一致団結?」



 一年A組のエースである久世。彼のたぐいまれなる才能によって白を圧倒し、あっという間に詰めの一手まで追い込んだ。


 それまで場はC組の優勢であったが、主力の一人を討ち取ることができればこちらに天秤が傾くはずだったのだ。

 しかしあと一歩のところで黒い何かが介入し、久世の魔法が断ち切られる。そしてあろうことか、また一人A組から脱落者が増えて――、


 その者の妙技に目を見張るより、時は少し遡る。


 影武者作戦のためにと三つの部隊に分けたA組一同。

 そのうちキングのいる第一部隊が思わぬ急襲を受け、早々に壊滅状態に陥った。

 智也たち第三部隊はその危機に加勢しようと試みたが、五十嵐含めた三人の襲撃によって足止めを食らってしまい。


「東道さん!」


 迎撃に努める東道にしかし、軽やかな動きでそれを捌いてみせた女生徒二人によってその身が拘束されてしまう。

 そんな彼らの息もつかせぬ攻撃に気圧される中、清涼の叫び声によって智也は我に返り、


「く……Reve29――」


 一瞬の逡巡がそこにあった。

 ここで智也が攻撃に転じれば影武者に扮していた意味がまるでなくなる。かといって迫る旋風を見過ごせば、唯一のアタッカーである東道を失ってしまう。


 国枝は岩壁を生成したばかりで次の手が間に合わず、清涼も対する手立てを有していないよう。当然ながら後ろの男に頼ることはできず、もはや猶予もない。

 そうして咄嗟に言霊を唱えようとした智也を、まさかの東道本人が呼び止めた。


「いいから!!」


 それに智也が言葉を詰まらせて息を呑んだのと、岩壁をぶち抜いた旋風が東道の身を襲ったのはほぼ同時だった。

 そして、直前で拘束を解いて離脱を図った女生徒――そのうち一人に、東道が手を伸ばしたのも。


「Reve16【半月切り】!」


 とぐろを巻くように進行する旋風を真正面から受け、後ろに吹き飛ばされる東道を国枝が抱き止める。その一方で、置き土産を受けた女生徒が地面に転がった。


佳奈(かな)!」


「いててて……とりま、道連れ成功??」


「無茶しすぎだよ、東道さん」


 国枝に背を預けながらそう笑みを浮かべる東道。それに眉尻を下げつつ、瓦解する岩壁の向こうから歩み寄ってくる五十嵐の姿に、国枝の表情が一変する。


「勇ましいね、恐れ入ったよ。けれど君の存在を失うのは痛手のはず……何故あの時間魔法を用いなかった?」


 と、東道に向けていた視線が、ふと智也に注がれた。

 つまりその問いは智也に対してのものだと思われるが、まるで心当たりがない。


 ――時間魔法?


 そう口の中で呟きつつ頭を回して、どうにか記憶の中に一つ心当たりを見つけた智也は咄嗟に言葉を紡いだ。


「とっておきってのは、そう易々と見せびらかすもんじゃないんだよ」


「……随分と似通った言葉を口にする。ともあれ、僕の読みが正しければ君たちの中に攻撃手はもういないはず。――違うかな?」


 五十嵐のいう時間魔法が何を差しているのかを察し、咄嗟に勘違いを利用した智也。そのハッタリに対してこちらの眉を読まんとするような眼差しが向けられ、内心肝を冷やしながら智也は問いを投げ返す。


「そう断定できるだけの情報はまだ出揃っていないだろ。仮にその憶測がたまたま当たっていたとして、それでどうするつもりだ」


「言っただろう? 対抗戦が控えている今、無闇やたらと手の内を明かす気はないと」


「ここで無駄話に付き合えってか。そんなことするわけが――」


「無駄だよ。君たちの主力はすでに抑えてある」


 打倒C組を目標にクラス一丸となったのだ、自分たちだけ無為に過ごしているわけにはいかない。

 いきなり窮地に立たされた以上その思いは一層強くなっており、反撃の狼煙を上げるべく指示を飛ばそうとして、しかし、智也たちはそこに幽閉された五人の姿を見ることに。


「そんな……!」


「いつの間に……」


 初めて目にする魔法だ。中級以上のレベルのものだろうか。

 一見してただの立方体に思えるが、中で斬撃を飛ばしている久世のその魔法が、内壁に呑まれて消えている。

 捕らえた者を隔離する魔法――そう考えて、どこかあの炎の檻と近しい印象を智也は受けた。


「どうやら単なる当て推量だと揶揄される恐れはなさそうだ。僕の推測は、いま確信へと成り代わったよ」


「……」


「君はこの期に及んで手を下そうとしなかった。それは暗に制約によって禁じられているからなのか、或いは制約によって――小羊を演じさせられているからか」


 どちらにせよ打つ手はないだろうと、今度こそ断定してみせた五十嵐に智也は二の句が継げない。

 そうして彼の推論力に舌を巻いていたところ、右方で爆炎が、土の塊が、旋風が水世たちに襲い掛かった。


 壁に叩きつけられた水世と膝から崩れ落ちる千林の様に、智也は顔をしかめる。その眉間に寄った皺はしかし、すぐに綻んだ。

 

 ――状況は悪化の一途をたどっている。


 だが、悪化しているだけであってそれで終わりではないのだ。ゲーム終了の合図が為されないということは、万が一のときにと頼んでいた任を千林が果たしてくれたのだろう。

 つまり、水世はC組の攻撃によって吹き飛ばされたわけではないということだ。

 右手を斜めに切り、それで脱落判定としている先生の身振りに智也はそう確信する。


「さて、彼方は片付いたようだけれど……やはり不知火君の見当違いだったか。全く、だから僕は」


「いいのか? 本当にそう結論付けて」


 肩をすくめながら悠長に独り言ちている五十嵐に、智也が口を挟む。

 彼はその夜空を映したような瞳をこちらに向けると、真意を測ろうとしてか訝しげに目を細めた。


 ――釣れた。


 そう思いながら智也は右手を後ろに回し、時間稼ぎのためにと噛んで含めるような口調で語る。

 正確には、そうしないと同時に二つのことをこなせないからだが。


「清涼も俺も、まだ手の内は明かしていない。つまりキングか、或いはルークである可能性は、完全には否定できないはずだ」


「焦りが目に見えるよ。今更どれだけ弁舌を振るおうと、もはや議論の余地はない。現に、君達自信の立ち振る舞いがそれを物語っているじゃないか」


「さぁ、どうだろうな」


 力強い眼差しで紺の瞳を見つめ返し、智也は腰を落とした。


「国枝!」


 いきなりそう叫んで地を蹴った智也に、多少なりとも五十嵐と女生徒の顔に動揺の色が見えて。

 何の合図も指示も出していなかった国枝が智也の意図を察し、地面に手を付けた。


「何を……佐藤君!」


「Espoir20――」

「Espoir13【隔壁】!」


 一直線に駆けてくる智也を拘束せんと女生徒が手を伸ばし、具現化した青い光の輪がその身を捕える――より少し早く、足元から生えた岩壁によってバランスを崩しながらも智也は飛んだ。


 自分の意図するところと多少のズレがあったものの、即席でここまで連携が取れたなら上出来だろう。

 そう思いながら五十嵐たちの頭を越えた智也は、不格好な受け身を取りながら地面を転がり、挟撃のための位置を取った。


 そして先の時間稼ぎが功を奏してか、図らずも完璧なタイミングで幽閉されていた五人が解放されて――、


「その程度の火属性魔法なんて……!」


 立ち込める白煙から飛び出した特大の火球によって、北にいた女生徒二人が脱落する。


「まさか、彼がリーダーではない……? となるとこっちは――」


「Reve11【火弾/赤鷲】」


「攻撃魔法……! いや、僕の推論に誤りはないはずだ。故にあの魔法にはなんの効力もないはずで……」


「迷ったな」


 左手を伸ばし、火球を放った智也に五十嵐が目を回す。

 そうして視界を、頭を、脳を掻きまわして錯乱させて、智也の口の端が吊り上がる。


 時間魔法――すなわち雪宮の扱う操作魔法を智也が用いていると誤認した彼は、こう考えていたはずだ。あの時間魔法は、補助と攻撃のどちらに分類されるものなのか、と。

 前者であれば東道を助けなかった説明がつかない。しかし後者だとすれば、言動に矛盾こそあれどそこから一つの可能性が浮上する。

 結果、五十嵐は智也の役職が何の力も持たないまがいものだと推定したのだろう。


 だが、もしもそれらがこの一撃のために仕掛けられた機略だとすれば?

 そこまで考えれば、もう思考の波からは逃れられない。


 手で払えば消えてしまいそうな些末な魔法だ。

 わざわざ迎撃せずともやり過ごすことは容易だったはず。けれども、慎重に考え過ぎた五十嵐にはそのための時間がない。

 そしてギリギリまで考えあぐねた末に、それでも彼は手を出してこなかった。


「Espoir15【水膜】!」


 当然、隣にいた女生徒が代わりに防御魔法を展開し、『強度』を削った軟弱な魔法は容易く消されてしまう。だから彼らは気付かなかった。

 頭上から降り注ぐ火の雨に。


「なに……!?」


 目を見開く五十嵐と、水の膜を展開させたままの女生徒が共に爆撃にさらされる。

 どうやら必要以上に魔力を含んでいたそれらは、耳を聾するような炸裂音を響かせると一瞬にして二人を火と土煙で覆い隠してしまった。


 第二部隊。そこにいる焦げ茶色の髪の少年と、誇らしげに胸を張っている灰色の髪の少女とを見て、智也は苦笑を浮かべた。


「……僕は根本から間違えていたというわけか。一杯食わされたよ」


「……!」


 風に吹かれて舞い上がる土煙。その中から聞こえた悔恨を感じるような言葉に、智也は身を構える。

 まさかあそこまで渋っておいて最後の最後に本領を発揮したのかと危惧したが、しかしその憂いは彼の口によって払拭された。


「出し惜しんだ結果がこの体裁だ。よもや素知らぬ顔でこの場に残れるほど恥知らずではないよ」


 そう言って隣の女生徒を横抱きにすると、一言「すまないね」と呟いて端の方に捌けていく。

 それから抱えていた女生徒を壁に凭れさせると、五十嵐はこちらに向き直って問いを投げてきた。


「一つ教えてほしい。君たちのリーダーは、まさかあの白髪の女性かい?」


「それは見た通りだと返しておく」


「……ふ、周到に練られていたわけだ」


 さすがの推論力だ。まだ影武者は残っているというのに、それでも五十嵐は本物を見抜いてきた。もしもこのタイミングで彼を落とせなければ、この先かなり苦しい戦いになっていただろう。

 そう思った智也の背後に、火球と半月型の斬撃がそれぞれ一つずつ迫っていた。


「お前……!」


 謀ったなと目で訴える智也に、自分は関与していないと言わんばかりに肩をすくめる五十嵐。それに歯を軋ませつつ後ろへ飛んで、智也は具現化させた火球で斬撃を撃ち落とした。

 はずが、相殺しきれずに火球を裂いて飛び込んでくる。


「く……」


 至近距離で爆発音が響き、反射的に閉じた目をゆっくり開ければ、迫り上がった岩壁が間一髪のところで智也の身を守っていた。


 五十嵐には役職を見抜かれていたとはいえ、智也にもまだやれることはある。ここでもしその正体が公に知られていたら、きっと有効打にならない智也の攻撃など誰も警戒しなくなっていただろう。

 とはいえ智也には一度だけ有効打を無効にできる権利があるのだ。必然的に優先度は低くなるはずだが、それでも身を守ってくれたことには感謝の念が堪えない。

 深いことは考えず、ただ味方だということで守ってくれたのかもしれないが。 


 どちらかと言えばその意味が強いだろうと考えながら視線を飛ばし、智也は目で感謝を伝えようとしたが、国枝はどこか別の方向を見つめていた。


「Reve12【水風船/芍薬】」


「Reve32【行雲群雨】!」


 と、引き続き北の方で膨大な魔力が形を以て具現化し、相対する者を圧倒していた。

 それに思わず息を呑みつつ敵の本陣に視線を移し、智也は思考を巡らせる。


 総勢七名。当初に比べて向こうのクラスも随分と脱落者が増えたものだ。

 そのうち前列の男子生徒二人と後ろの女生徒がそれぞれ火と風属性の魔法を用いているのを確認している。


「あと、不知火の左隣の奴が土属性の魔法を使ってたか……」


 そうなると未だ情報がないのは残り二人。二列目の男子生徒と、不知火の右隣にいる眼鏡の生徒だ。

 まず間違いなく、そのどちらかがC組のキングであろう。

 それに揺さぶりをかけるにせよ、詰みの一手を打つにせよ、実力的にも制約的にも智也一人では成し得ない。


 だから早く白との決着をつけてもらい、大詰めに入りたいと、そう思ったとき――――、



 視界の中にいたはずの男子生徒が一人、消えていた。



 刹那、黒髪の少年が二人の間に割って入り、久世の火球が真っ二つに断ち切れる。

 それを智也たちが知覚したとき、後方で神童が呻き声をあげて倒れていた。


「「……!?」」


 まるで以前、この闘技場で起きた惨事を彷彿とさせるようなその動きに、A組の生徒が揃って瞠目する。

 そして、


「リーダー、こいつじゃない」


 淡々とした声でそう呟くと、神童の背中に刺さった風の刃を引き抜き、目の前にいた栖戸へとソレを投擲した。


 本来、刃の脆さを欠点に持つ十三番の魔法は、一太刀振るうだけでその衝撃に耐え兼ねず砕け散ってしまうものだ。

 それがあろうことか火球を両断してみせた上に、人体に突き刺して尚その形状を維持している。

 同じ魔法を使用する者の中で智也が最も扱いが上手いと感じたのは虎城だったが、彼の者のソレは一線を画しているようだった――。


 軽い音を立てて突き刺さる風の刃。

 肌を裂いたというよりは、身を覆う『結界』に刺さったというべきだろうか。

 それでも、飛来する刃から栖戸を庇った雪宮の、その腕に走った痛みは計り知れない。


「雪宮くん!」


 右腕を押さえながらよろめく雪宮を、後ろで支えながら栖戸が叫ぶ。

 長い前髪で彼の表情は見えないが、唯一晒されている口元が、痛みに歪んでいる。その口が僅かに開いて、


「……16【半月切り】」


 腕を押さえたままの雪宮の正面に斬撃が具現化し、黒髪の少年へと放たれた。


 雪宮の役職がポーンであるからこその反撃。それに多少は驚いてくれたのか咄嗟の防衛本能か、後ろに大きく飛んで躱したその少年に、それまで何もしていなかった獣がようやく牙を剥く。


「ちょうど暇してたとこだ。お前相手しろよ」


 まるで良い獲物を見つけたかのように、黄土色の瞳をギラつかせて。

 そんな背後からの並々ならぬ気配を察してか、感情の読めなかった灰緑色の瞳が微かに揺れて、


「【火弾】!!」


「――――」


 至近距離から放たれた特大の火球を、瞬時に生成した二本の風の刃で受け止めた黒髪の少年。

 火球の勢いをころせず十数メートルほど地面を滑ったがしかし、交差させていた刃を振るって十字に裂いてみせた。


「おもしれぇ」


 そうして良くも悪くも藤間に目をつけられた黒髪の少年は、連続して飛来する火球の対処に追われることに。


「――今がチャンスだ」


 ここにきて、まだつわものが残っていたのかと智也は絶句したが、彼がキングでないことと藤間の目を引いてくれたことに、今は感謝するばかりだ。

 こちらもかなり痛手を被ったが、おかげで相手のキングは露呈したも同然。A組の勝利はもう目と鼻の先である。


「よもや、我の存在を忘れたわけではあるまい?」


 そんな中、やけに鮮明に聞こえた声にハッとして――その直後、再び闘技場内に蒼白い光が閃いた。



 ✱✱✱✱✱✱✱



 油断していた。いや、正しくは読み損なった、だろうか。

 あれ以来ずっと大人しくしていたのだ。それこそ知友である白の危機にも鳴りを潜めていたため、てっきり一度限りの切り札だと智也は思い込んでしまったのである。

 あれほどまでの魔法を具現化させるためには、それ相応のエネルギーを要するはずなのだから。

 しかし、現に二発目が撃ち込まれており、


「【絶対的な(アブソリュート)力の本流(ブラスト)】!」


 目にも留まらぬ速度で横切った少年に久世は完全に気を取られ、後方で煌めく光に一拍反応が遅れていた。

 それでも瞬時に言霊を唱え、彼の有り余る魔力によって分厚い障壁がその身を包んだ。

 智也たちがその保護膜一つ剥がすのに、どれほどの労力を要するか。


 その鉄壁の守りと思われた水の膜が一瞬で蒸発し、直線上にいた雪宮も左手を翳すが、共に成す術なく蒼白い光に呑まれてしまう。


 そうして事も有ろうに久世が、雪宮が、栖戸が、一緒くたに葬られた。


「さすがは桃ちゃん」


 自分の周囲に発生させた靄に紛れ、今の一撃から逃れていた白が千鳥足で壁に寄り掛かる。

 おそらく今ので魔力を使い果たしたのだろう。その表情に疲労の色を見せながらも、知友の目覚ましい活躍ぶりに笑みを浮かべ、しかしパタリと倒れてしまった不知火の姿に額に手を当てた。


「ど、どうしよう久世くんが……」


 一方智也は、頼りにしていた久世や雪宮の脱落に言葉も出ず、少し離れたところで狼狽えている清涼と何ら変わらない心境にあった。


 せっかく影武者作戦が活きているのだ、その隙に相手の本陣に攻撃を仕掛ければ勝利は揺るぎないものになるというのに、肝心の攻撃手が軒並みやられてしまっている。


「くそっ!」


「ちょっと不知火さん!?」


 やけくそ気味に放たれた智也の魔法が、ちょうど力尽きた不知火を起こそうとしていた女生徒に飛んでいったが、割って入った男子生徒が代わりにその身に受けて膝をつく。

 しかし、有効打にならなければ何の意味もない。


 A組で唯一生存している攻撃手は藤間のみ。しかし彼の関心は件の少年にしか向いておらず、まるで何の役にも立っていないのが現状だ。

 どちらかといえば不知火の魔法に巻き込まれてほしかったのは藤間だったが、少し距離を置いていた彼はその範囲外におり、同じく焼けた地面を挟んで立っている黒髪の少年は横たわる栖戸の姿をその灰緑色の瞳に映すと、今度は清涼に狙いを定めて駆けだした。


「こいつも違う」


「おい、待ちやがれ!」


 せめて彼の足止めだけでも務めてくれていれば良かったものの、投擲された刃に二の足を踏み、逆に藤間の出鼻が挫かれてしまう。

 それに慌てて智也が火球を飛ばすが、こちらには目を向けることなく躱されて、


「Espoir5【鉄拳てっけん】!」


 清涼目掛けて振るわれた風の刃が、身を挺して守りに入った国枝の拳に弾かれ、折損した。


 あの時、智也の代わりに影武者の役を引き継いでもらった清涼。その護衛を国枝は完璧にこなしてくれたのだ。

 とはいえ、その守りも長くは持たないだろう。どうにかして藤間に協力を仰ぎたいところだが、腹を切るも同然のその行いに、智也は一歩を踏み出せない。

 そんな智也に呆れたように嘆息した者が一人。


 その人物が地面に手を触れると、何故か藤間の足元が盛り上がり、迫り上がった岩壁によって藤間の身が上に押し上げられる。

 何が起きたのか、智也以上に当惑していたであろう藤間が視線を巡らせ、その者を見つけると歯を剥き出しにして大声で吠えた。


「テメェ……なんの真似だ!」


 それに対して応答があったかは分からない。ただ氷のように冷めた眼差しが「邪魔よ」と語っており、あろうことか藤間に対して弾丸の雨が撃ち込まれる。

 すぐさま岩壁を蹴って後ろに飛ぶ藤間。それを追うように二発、三発、四発、五発とやけに執拗に攻め立てた結果、藤間は観客席まで追いやられる羽目に。


「くそ、ルール違反だろうが!!」


「ルールなんて言葉、知っていたのね。それより審判、場外に出た者はどうなるわけ? まさかとは思うけど復帰可能なわけないですよね」


「あーまぁそうだな……んじゃ、脱落で」


 かなり遠くから浴びせられた怒声に鼻を鳴らし、水世がちらと背後の壁――観戦席に立つ灰の眼の男を見やる。

 その脅迫じみた問いに気圧されてか、即席でルールを追加した担任に再び「俺に対する妨害はどうなってんだよ!」と怒号が飛ぶ。


「味方に対してだからなぁ」


「そういうことなら話は早いわ。――覚悟しなさい」


 審判からの言質を取った水世がほくそ笑む。そこからはもう、あっという間だった。

 手のひらから零れ落ちた魔力が球体を成し、その場で何度か跳ねると、水世がそれを思い切り蹴飛ばした。


 推進力を得た水球は今にも破裂しそうで、さながら時限爆弾のようである。

 そんな飛来する爆弾を恐れて逃げるように、本陣にいた生徒が離散していき、


「ひいいいい!」


 うつ伏せに倒れる不知火の上を通過し、迫る水球に一人残された眼鏡の生徒が悲鳴を上げる。そしてそのまま直撃を受けると、あっけなくその場に倒れたのだった。


「そこまでだ。勝者、A組!」



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