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第七十四話 「城落とし」



「うーし、じゃあさっきの続きやんぞー。名付けが終わった奴から武器の指導に入るからなー」


「先生~何も思いつかないんだけど、もう適当に決めちゃってい??」


「そういうことなら、命名士と呼ばれたこの俺が考えてやってもいいぜ!」


「え、フツーに嫌なんだけど」


「そんなに嫌がります? 俺っち軽くショックなんですけど」


 昼休憩を終え、第一体育館にて引き続き『魔武器』の名付けを行っていたA組一同。

 午前中は静かにしていたと思ったら、腹を満たして元気になったのか途端に神童がしゃしゃり出てきて。それで東道に一蹴され、あえなく撃沈している。

 そもそも彼の場合、また知らぬ間に授業を抜け出していた可能性も否めないが。


「まぁ適当に決めてもいいが、これから召喚するたび呼ぶことになるんだ……あまりに適当すぎると返って恥ずかしいんじゃないか?」


「え~、それ言われたらマジ余計悩むんだけど」


「なぁなぁ、俺って嫌われてんの? そこんとこどうなのよ栖戸っち」


「きわめて好感度は低いと思われます」


「そんな、まさか、この俺が……? 一体どこで道を間違えてしまったんだ……!」


 先生とのやり取りに頭を悩ませる東道の傍らで、割と誰の目にも明らかだった真実を栖戸から聞いた神童が、わざとらしく胸を押さえながら戯けたことを言う。それに対し「最初からだろ」と智也は心の中で呟いて。

 ふと、誰かの囁き声が耳に入った。


「誰? あの人」


「他のクラスの先生かな~? 綺麗な人だね~」


 その声に釣られて目を向ければ、建物の外からこちらの様子を伺う一人の女性の姿がある。

 その見知らぬ顔に智也は国枝と顔を見合わせて首を捻り、七霧に武器の扱いを指導していた先生は、騒ぎに気付くと怪訝そうに灰の眼を細めた。


「ちょっと待ってろ七霧。――何の用だ」


「お仕事中にすみません。少し相談したいことがありまして……」


「それは今しなきゃいけない話なのか?」


「……ええ、はい。桐明先生と夜野先生が不在の件で、私が代理講師として抜擢されたのですが……やはり荷が重くて」


 遠くで話しているため会話の内容はよく聞こえないが、あまり見ることのない先生の険のある表情から、なんとなくよくない話なのだと推察できる。或いはまた授業を離れてどこかへ出向くのだろうかと智也は心配したが、


「自分の主人から任された仕事だろ」


「まさに慙愧であると承知しております。ですが、私は皆さんのような一流の『魔導士』ではありません。ですので大変恐縮ではありますが、できれば合同授業という形にしていただきたいと思いまして……」


 遠目からでも分かる女性の心苦しそうな表情にしかし、先生の態度は一貫している。あくまでそこにあるのは面倒くさいという感情と、どこか懐疑的な眼差しか。

 その灰の眼を濁しに濁して頭を掻いたあと、続けて気怠そうにため息を溢した。


「で、その生徒はどこにいるんだ」


「闘技場にて待機してもらっています」


「……それはあいつも知ってんのか?」


「はい。そういうことならと、雅晴まさはる様の方からご教示いただきましたので」


「はーん、どこまで本当なのやら……」


 言葉尻は誰にも聞こえないように呟いて、再び灰の眼が紅褐色の髪の女を見据える。

 そうして丁寧に腰を折るその人物をしばらく注視し、何か考えるように眉を寄せたあと、もう一度大きなため息がこぼされた。



 ✱✱✱✱✱✱✱



「で、なんできさらぎのとこがいるんだよ。担任が不在なのはBとDクラスじゃなかったのか」


「それが……Dクラスは自習でいいと桐明先生の方から言伝があったようで、そういうことならと、Bクラスの生徒さんが鬼先生を指名したみたいです」


「なんでだよ」


 第一体育館から闘技場へと場所を移し、智也たちはそこで待たせているという別のクラスと合流することになった。

 しかしそこにいたのは話にあった二クラスのどちらでもなく――、


「ククク……待っておったぞ、あか深影みかげよ」


「どうしてコイツだけ無駄にエンカウント率が高いんだろうか……」


「レイちゃんやっほー」


「あ、ましろさんどもっス!」


 額に手を当てながらこちらを見やる黒紅色の髪の女生徒――不知火に、智也は早速げんなりとした顔になる。

 何かと顔を合わす機会の多いその女生徒は、奇矯で珍妙な言動が多く苦手意識を抱いていたが、何故か智也は目をつけられこうしていつも絡まれるのである。

 そういう意味ではあの銀髪の男と似通った部分があると思案して、


「その紅きなんとかってなんだよ」


「以前話したではないか。貴様の二つ名を考えておくと」


「俺は頼んでないけどな」


「ところでさ、合同授業ってなにするんだろ? 前回は降魔先生がいなかったんだよね」


 そういえば入学式の時にそんなことを言っていたなと思い出したところで、誇らしげな顔を浮かべる不知火から視線を逸らし、疑問の声をあげた国枝に相槌を入れる智也。

 見れば、また大人同士でなにやら会話をしているようだ。


「授業内容については俺が決める。こうなった以上、月末のために利用させてもらうからな」


「……はい。鬼先生には後ほど弁解しておきます」


「それともう一つ。今後同じようなことがあっても俺は手を貸さない。面倒なんざ生徒ので手一杯なんだ」


「肝に銘じます」


 幾度も腰を折ってへりくだった態度をとる女性に、先生は冷めた目を向けてから身を翻すと、バラバラに散っている計三十名の生徒に視線を巡らせた。


「つーわけで、午後からはA組とC組の合同授業となった。あー、A組の担任の降魔恭吾だ。まぁ半日だがよろしくな」


「――我が名は不知火! 選ばれし十二の騎士……否。魔術師が一人、蒼魔そうま天眼てんがんである!」


「ん、お前が不知火な。他の奴も名前分かんねーからあとで教えてくれ」


「な……我が一生懸命考えた異名をたった一言で片付けられただと……!? うわーん、葵ちゃーん!」


「おーよしよし」


 馴染みのないCクラスの生徒に向けた先生の挨拶に、堂々たる態度で名乗り返した不知火。

 しかし期待していた反応が得られなかったからか、側にいた柑子色の髪の女生徒――白へと泣きついている。


「初披露だったんだよ葵ちゃん! それなのに……それなのに『ん』で片付けられたんだよ!」


「そうだねー、相手が悪かったのかもね?」


「はっ……!」


「……悪いが俺はもうお腹いっぱいだぞ」


 白の助言に何か悟ったような顔になり、期待に満ちた眼差しでこちらを見つめてくる。それに顔を引き攣らせながら智也が断ると、不知火はまた白の胸へと顔をうずめた。


「それで、降魔先生。此度の授業は何をする予定で?」


「そうだな……どうすっかな~」


「まさか……そんな曖昧な考えでこの場に赴かれたのですか? お言葉ですが、対抗戦が控えている今、ここで無闇に他クラスと接触するのは懸念が残ります」


 智也たちの方を一瞥してからそう不満を漏らしたのは、本紫色の髪の男子生徒――五十嵐だ。

 同じように散り散りになっていた生徒が歩み寄ってくる中、不知火に負けじと注意を引く彼の言動に、何人かの生徒が同調している様子。

 その光景を傍目に、智也はどこか懐かしさに近い感情を抱いていた。


 それほど前の話ではないものの、当初は智也たちもあの先生に対して同じような感情を抱いていたのだ。

 本当にあの人で務まるのだろうか――とか、A組はこんなやる気の感じられない人が担任なのか――とか、C組の生徒がいま考えているのはその辺りだろう。

 その初対面の何とも言えない不安や、自分たちしか知らない魅力を思い、智也は密かに頬を緩ませる。


「お前の言っていることは正しい。だがそれはお互い様のはずだ。手の内を晒すことに抵抗があるのなら、隠したまま渡り合えばいいだけの話だ。なんなら別に手を抜いたって構わないぞ」


「勝負に手を抜くなんて言語道断!」


「だったら、その兼ね合いを加味した上で自己錬磨に励むんだな。それとも……万が一手の内がバレたら、それで勝てなくなる程度の器か?」


「断じて否。僕たちの力量を見誤らないで頂きたい。そうだろう? みんな!」


 胸を張り、声を大にして叫ぶ五十嵐に、周りの生徒が力強く応える。それに対して先生は「誰に似たのか意外と熱いんだな」と呟いて、口の端を吊り上げた。


「んじゃ、合同授業の内容を説明する。今から行うのは……クラス対抗のチーム戦だ」


「え、今から対抗戦をやるんスか!?」


「それでは人数が余ってしまうよ。対抗戦は十人だが、この場にいるのは三十人だ。であれば降魔先生のおっしゃったチーム戦というのは、文字通りの団体戦という意味では?」


「その通りだ。あー」


「申し遅れました、五十嵐いがらし天馬てんまです。A組のみなさん、以後お見知りおきを」


 人数が増えたとはいえ、いつも通り積極的に発言していく七霧の姿勢に智也が感心していたところ、横合いからそんな指摘が入った。

 その推論に七霧は舌を巻いており、いつもと異なる場の空気に智也は新鮮味を感じつつ。言葉に窮した先生の意図を察した五十嵐が、左手を胸に添えながら丁寧にお辞儀してみせた。


「五十嵐の言う通り、今回は十五人対十五人で戦ってもらうつもりだ。大人数でやれるせっかくの機会だからな」


「言ってみればこれも一種のクラス対抗戦、ということですか」


「だが、ただ闇雲にぶつかり合うだけじゃ意味がないし面白みに欠ける。そこでお前らにはそれぞれ役職を決めてもらい、それに応じた枷を掛けてもらう」


「なんか難しくなってきたっスね……」


「え、もう?」


 久世の発言に顎を引きつつ、先生からルールの補完がされる。それを聞いて既に目を回しそうになっている七霧に、思わず国枝が苦笑い。その横で、智也は胸を高鳴らせていた。


「そうだな、分かりやすく各役職に名前を付けるが……ポーン、ナイト、ビショップ、ルーク、クイーン、キング。この全六種に就任してもらおう」


「それって六人分しかなくない??」


「あぁ。だから六つの役職にはそれぞれ人数制限を設ける。ポーン二人、ナイト一人、ビショップとルークが五人ずつで……クイーンとキングがそれぞれ一人だ」


 その呼称に、智也の頭には真っ先に思い浮かんだボードゲームがあったが、あえてその名を冠したことに何か意味があるのだろうか。

 件の駒に人員を割り当てるとして、それでどう戦わせるつもりなのか――、


「チェスですか。あえてそれを用いたということは、つまるところキングを討ち取る戦いですね?」


「畢竟するに、枷を掛けるというのも本家本元に準じたある種の行動制限、ということでは?」


「二人とも理解が早くて助かるな。他の奴等は大丈夫かー?」


 先に反応を見せた本紫色の髪の男と間髪入れずに、藍色の髪のクラスメイトがそう推測する。それで互いが互いを認識、見えない火花を散らしながら紺と瑠璃色の瞳を交した。

 そうして対抗意識を燃やす者がいる一方で、七霧と不知火は頭から煙を吹いており、共に国枝と白が介抱している。


「ま、うちの生徒は既に似たモノをやってるから分かると思うが、要は最初にやったチーム戦と同じだよ」


「なるほど、そういうことっスか! じゃあチーム漆黒の復活っスね!」


「チームダークネス、だと……!? 葵ちゃん、我らもかっちょいい名前をつけるのだ!」


「まさかアレに感銘を受ける人がいたなんてね……」


 突然息を吹き返した七霧の嬉々とした声に、離れたところで同じように蘇った者が一人。その反応を受けた七霧が更に爛々と目を輝かせ、智也と国枝は苦い顔になる。


「お前ら忙しないな……まぁともあれだ、前回と同様にリーダーを一人決めてもらう。それが今回で言うところのキングだな。そしてもちろん――キングが誰かは互いに伏せたままだ」


「なるほど。鬼先生とは打って変わった面白そうな授業ですね。先の無礼な発言は撤回させてください」


「んでもさ~ウチらは一応経験済みなわけじゃん?? ……あのときとは人数も違うけど」


 律儀に頭を下げて謝罪する五十嵐に先生は目つきで答えて、続く東道の不満とも不安とも言える発言に、口の端を吊り上げた。


「こっからが、今回やる『城落とし』のミソとなる部分だ。さっきキングを伏せて戦ってもらうと言ったが、必然的に他の役職も非公開にしなきゃいけないはずだ」


「じゃないとキングが丸分かりになるから……??」


「そういうことだ。つまりお前らは初対面な上に、相手がどんな役職でどんな枷を掛けているかも知らない状態となる。そんな手探りな状態で有効打を取るのは簡単な話じゃない。それに最悪、十五人倒さなきゃならなくなる可能性もあるからな」


 それは、特に魔力量の少ない智也にとって厳しいルールであった。

 どんな枷を掛けられるにせよ、相手の力量が分からない上に人数が多いとなると、余計に無駄打ちができなくなるからだ。

 しかしそれでいえば、最初に五十嵐が懸念していたように、ここで少しでも情報が手に入れば月末の対抗戦にて有利な試合運びができるかもしれない。

 ――と、そこまで考えたところで自分が選抜入りできる可能性は限りなく低いことを思い出し、智也は小さく嘆息する。


「ん~、なんか思ってたより頭使いそ……」


「それに加えてチーム――いや、クラスの団結力が試されるな」


「そういうことなら我がチーム、極光ルミエールが受けて立つ!」


「桃ちゃん……一応聞いておくけど、なんでルミエール?」


「さすがは葵ちゃん、我の胸懐を熟知しておるな。――説明しよう! 対敵の名が闇とあれば、こちらは対となる光とするのが定石なのだ。故に極光ルミエールと銘打ったのである!」


 頭を押さえて苦い顔をしている東道と反して、おそらく事の難しさを理解していない不知火は、全く別のことに意識を割いている模様。

 そうしてまたしてもつける必要のないチーム名が生まれたが、意外と五十嵐も満更でもなさそうな表情を浮かべており、特に七霧が嬉しそうにはしゃいでいた。


「それで、枷というのは?」


「そんな難しいもんじゃない。扱える魔法の種類を限定するだけだ」


 話そっちのけで盛り上がっている連中を横目に、久世が説明の続きを催促する。

 それに対して先生は不敵な笑みを浮かべて、


「ビショップを選んだものは補助魔法を、ルークを選んだものには攻撃魔法の使用を許可し、それ以外の一切を禁ずる」


「限定ってそういうこと?」


「でもさ秋希ちゃん、ビショップ? の人は補助魔法だけだから、有効打が取れないよね?」


「じゃあビショップの人が残ったら勝てないじゃん」


 その真偽を確かめるように目を向けた千林に、先生は無言で頷いた。


「C組の生徒も知ってると思うが、対抗戦ってのは有効打によって勝敗を分けることになるな? 本番は二回だが今回は人数が人数だ、各自一回でも有効打を受けたらその時点で脱落とみなす。んで話を戻すが――ウチの生徒が気付いたように、補助魔法じゃ有効打には至らない以上、ビショップの五人が最後に残っても勝負には勝てない」


「となると、あとはキング対決ということで?」


「だが……キングを選んだ者には防御魔法のみという枷がある」


「え? じゃあ最悪の場合どうやって決着付けるんですか?」


「……積み防止策として、キングには何か仕掛けがある?」


「さすがだな、黒霧。その通りだ」


 城落としの核の部分のその途中まで読み解いたものの、五十嵐も千林も答えには辿り着かなかった。

 単純にゲーム性とそのルールの矛盾に混乱していただけかもしれないが、やはりゲーム慣れしている智也には、その答えが容易に想像できた。


 生徒に考えさせるためにあえて全てを語らず伏せていた先生には、意地が悪いと思ったが。

 それでも、褒められると嬉しくなるものである。


「キングに関しては、自分以外に有効打を取れる者がいないときに限り、攻撃魔法の解禁を許す」


「その代わり攻撃に転じた瞬間、その正体が露呈すると」


「うわ~めっちゃムズいじゃんそれ~」


「どの役職が生き残るかで展開は変わってくる。そういう意味では唯一何の枷もないクイーンが重要になってくるかもな」


 もしも話にあった展開に陥った場合。加えて相手側に攻撃役――矛持ちが残っていたとすれば、それこそ最悪の状態でキングを動かさなければならないことになる。そうなれば自らの力で点を取れないビショップ――盾持ちは、せいぜい王の肉壁になるしかないということか。

 と、そこで追加情報が解禁され、再び場がざわついた。


「自由度の高さ――すなわち力の行使という観点からは、キングよりも重宝すべき存在かもしれない、と」


「なる~。だからキングと同じ人数制限なワケね。……あれ? でも他にも一人だけの役職ってあったくない??」


「ナイトだな。こっちも制限は一人だが、ルークと同様に攻撃魔法のみ使用が可能だ」


「へぇ~でもそれじゃ分ける意味ないじゃん。またなにか他の制約があるとみた!」


「お、分かるようになってきたじゃねーか東道」


 そう言われて、東道は「ま~ね~」と嬉しそうに微笑んだ。


「ナイト……つまりは騎士だ。てわけで騎士は騎士らしく、王を守ってもらうことにする。よって、ナイト役はキングから離れることを禁ずる」


「え、それって……」


「ペアでいれば容易に特定されてしまうということだね」


「聞けば聞くほど難しくなるじゃ~ん。んでも、辛うじて理解できてるウチ偉い」


 また面倒な役職が出てきたと、この場にいる大半の生徒が思ったことだろう。

 嫌な予感を抱いていた千林も、それをかいつまんで説明した久世も、必死に頭を回している東道も皆等しく、同じような表情を浮かべている。

 ともあれ、これで役職ごとに設けられた制約についての説明はあらかた済んだことになる。――ただ一つを除いて。


「あえて最後に持ってきたってことは、相当癖があるのか……」


 小さく呟いた智也のその声を聞いてかどうか、先生は不敵に笑うと六つ目の役職――ポーンについて語りだした。


「最後にポーンについてだが、攻撃魔法のみ使用を許可する……が、この役職に就任した者の魔法は、一切有効打と判定しない」


「マジ?? 外れ枠じゃん」


「ビショップより重い枷ってことだよね……」


「有効打にならないんじゃ戦えないよ~」


 予想を遥かに上回る制約に、智也も周りの者と同じように目を丸くさせた。

 これまでは如何にして有効打を取るか、という課題を基に取り組んできたのに、その認識を根底から覆すようなものなのだ。

 どう足掻いても点を取れないのであれば、それこそ存在意義を感じられないが――、


「だが、ルークにはもう一つだけ制約――いや、特性をつけてある」


 そのままじゃただの置物になっちまうからな、と言葉を続けた先生に、まるで適任者がいると言わんばかりに銀髪の男へと視線が集まった。


「ただの置物じゃねーし!!」


「で、その特性っていうのが……身に受けた有効打を一度だけ取り消すことを許すって感じだな」


「それって置物から肉壁に変わっただけじゃ……」


 という誰かの発言で、再び適任者たる神童に視線が集まり、彼はそれにしばらく憤慨していた。



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