第七十三話 「風前の灯火」
「先生今日も遅いっスね~」
「なんかもう慣れちゃったよね」
「もしかして、また隣町に行ってるんスかね?」
「いやぁ、それだったらまた代わりの人が来てくれると思うけど……」
「――あ、きた」
もはやお決まりとなった、第一体育館に集められた十五人の生徒。
相変わらず時間にだらしのない担任を待ち侘びて、彼らは今日も暇を持て余していた。
そんな中、匂いでも嗅ぎ取ったのか不意に栖戸が反応を示し、そう声を上げる。
「わりー遅くなった」
「先生遅すぎ~いつも何やってんの??」
「色々と準備があるんだよ。ほら、コイツとかな」
体育館の入口。一身に視線を集める男は、何やら大きな風呂敷を背負って現れた。
それを顎で指し示して遅刻の理由とする男――降魔恭吾に対し、クラスメイトたちは興味を抱いている模様。
「せんせい、なにが入ってるんですか?」
「クリスマスプレゼントっスかー?」
「さすがにそれは季節外れすぎない?」
そんな話に、こちらの世界でもそういう風習があるのだと智也は一人感心して。その視線の先で、あっという間に生徒に囲まれた先生が「お、白い髭でもつけてくりゃよかったな」と薄い笑みを浮かべている。
「コイツは、お前らの預かりもんだ」
「あ!」
そう言って先生は持っていた大風呂敷を床に置くと、その中身を広げてみせた。
白い布の上に多種多様な武器が転がり、そこに自分のものを見つけた七霧が嬉しそうに声を上げる。
――持ち運ばれてきたのは、どうやら入学式の際に各々が生成した『魔武器』だったようだ。
「月末のクラス対抗戦まで日が迫っている。ぼちぼちこっちの練習もしとかないとな」
「じゃあ今日は……」
「あぁ。お前らには今日から『魔武器』の扱いに慣れてもらう」
「待ってましたっス!」
あの日から約二週間。作製させられただけでまるで使う機会のなかったそれは、しかし自分たちの半身のようなもの。
模擬戦やチーム戦では使用の許可が下りなかったが件の対抗戦ではそれが可能となっており、むしろその扱いに慣れてゆけば、この先の授業は得物の使用が前提となってくるかもしれない。
そうなったとき智也は――、
「……」
嬉々とした表情で各々の得物を手に取るクラスメイトを遠目に、智也は静かにその唇を引き結んだ。
分かっていたことだ。智也には資格がなかったのだから、いずれこうなると。
己の悲運や非才に嘆いて足を止めるのはもう辞めると決めたのだから、そうして落ち込んでいてはいけないのだ。
前を向き、力強い一歩を繰り出して、その人の背中を見失わないために。
けれど頭ではそうと分かっていても、楽しそうにしているクラスメイトの姿を目の当たりにすると、どうしても妬ましさや悔しさといった負の感情が湧き出てくる。
「てかさ、その選抜メンバーはいつ発表するわけ??」
「そうだなー、別にいまやってもいいんだが……明日まで焦らしとくか」
「えー、なにそれ。メッチャ気になるじゃん」
心のどこかでみんなが気になっていたであろう疑問を東道が代弁するかのように問いかけ、先生がそれに不敵な笑みを返す。
その話題にある者は眉間に皺を寄せ、またある者は肩をピクリと振るわせたあと、そこに複雑な表情を浮かべた。
「ま、今日はこっちの練習があるからな。お楽しみはまた明日だ。つーわけで……まずはいつでも『魔武器』の出納ができるように、各自名前をつけてもらう」
「「名前ー!?」」
「そりゃそうだろ。名前もないものをお前らどうやって呼び出すつもりだ?」
武器に名前をつけるなんて智也は黒歴史ノートにしか綴ったことがなかったが、まさかそれが公の場で行われる日が来るなんて思いもしなかった。
だが驚いた反面で、確かにと先生の言に納得もしている。
智也が唯一なんの障害もなく扱えた魔法――物の出し入れの際に使用するソレは、『魔武器』ともう一つ、主に出納していたものがある。
「確かに、『魔導書』にも名前がついてたっけ」
「でも名前なんてどう付けたらいいか分からないよ~」
「まぁいきなりは難しいだろうから、ある程度時間は設けるつもりだ。できれば今日中に決めてくれると……俺は楽だけどな」
膝を打った千林の隣、不安そうな表情を浮かべる清涼にそう補足を加えると、先生は『魔武器』を包んでいた大風呂敷を小さく畳みながら乾いた笑みを浮かべた。
思えば、武器の中には長物もあったはずなのに、どうやってそれを一纏めにしていたのだろうか。或いはただの風呂敷だと思ったそれも、一種の『魔導具』なのだろうかと智也が思案したところで――、
「んじゃ、早速だか名付けに移ってくれ」
その指示により、命名式が執り行われた。
✱✱✱✱✱✱✱
「なんか名付けって聞くと、子供に名前つけるみたいだな」
「確かにねー。実際『魔武器』は半身みたいなものだって教えもあるし、そう考えるとなおさら難しいよね……」
「でも国枝のなら、名前に盾とかシールドとかつければそれっぽくなるんじゃないか?」
「うーん、そうだね」
第一と呼ばれる体育館で適当に広がって腰を下ろした智也たちは、先生の指示通りに各自『魔武器』への名付けを行っていた。
もちろん入学式の際にうまく生成できなかった智也は、その光景を指をくわえて眺めることしかできず、命名に苦戦する国枝の隣ででただ虚しさを誤魔化すのみで。
必然、同じ黒い髪を持つ友人の手元に智也の視線は釘付けになる。
新緑を思わせる鮮やかな緑は漆黒に縁取られており、持ち手を握れば全身をすっぽりと覆ってしまうだろう大きさのそれは――矩形の、いわゆる大盾だ。
その『魔武器』と持ち主とを交互に見ながら、智也は無意識にあの日聞いた説明を思い出していた。
話では、『魔武器』の形状はこちらの意思によって創造できるものではなく、あくまで元となった『魔石』の意志によるものだという。
形の変わる魔法の石という響きにそのとき智也は感銘を受けたが、その石ころに嫌われたのか思い通りに事は運ばなくて。それでいて国枝の得物が彼の性に合ったものなのだから、今となっては何が正しいのか不明である。
「できたっス!」
そうして国枝相手に、あろうことかひねくれた気持ちを抱きそうになっていたと認識し、それを智也が自制しようとしたときだった。
いの一番に名付けを済ませた七霧が黒い渦の中から自分の得物を取り出して、満面の笑みを浮かべていた。
「もう考えたの? 早いなぁ」
「名付けて、雷鳴剣七霧丸っス!」
「え?」
「え?」
ご自慢の武器を掲げて鼻を高くする七霧に智也はその瞬間、封じていたはずの記憶が呼び起こされた気がして悪寒に襲われた。――さすがに、智也丸なんて名前は付けていなかったが。
「武器に自分の名前付けるってどうなんだ……?」
「絶妙だね……ちょっとおれには真似できないセンスかな」
「なんでっスか? カッコいいっスよね!?」
同調を迫る七霧に智也と国枝は顔を見合わせ、共に苦虫を嚙み潰したような表情になる。
それに気を損ねた七霧はどしっと腰を下ろすと、拗ねたようにそっぽを向いてしまった。慌てて機嫌取りをしようとする国枝と頑なに拒み続ける七霧のそんなやり取りに、智也は小さく息を吐いて。
更にもう一度、二人に聞こえないようにため息を溢した。
周りを見れば、色んな武器を手に取り悩ましげな表情を浮かべるクラスメイトの姿がある。
当然ながら、そういう疎外感は今に始まったことではない。そもそも異邦人である智也には、どんなに不出来でも魔法が扱えるというだけで夢のような話であったし、もっと言えばその身に魔力が宿っていることを思うだけで胸は満たされていた。
――最初はそのはずだったのだ。
しかし、常により良いものを得ようとするのが人間の性。
魔法という概念に触れられただけで嬉しかったはずなのに、いつしか周りとの違いを過剰なほどに気にして、その差を埋め尽くさんと必死になっていた。
もちろんまだ見ぬ魔法との出会いは智也の心をくすぶるだろうし、日々向上心をもって生きることは殊勝である。
だがその反面で、使い慣れた魔法にいちいち感動するようなことはなくなり、尽きぬ劣等感から余計な感情を抱くことが多くなったのも事実である。
そんな智也の複雑な心情を読み取ってか、ここぞという時にその男は声をかけてきた。
「黒霧、ちょっくらさっきの続きでもやるか」
「……降魔先生」
「なんだ、んな辛気臭い顔して。もうやる気の炎は潰えちまったのか?」
「いや、そういうわけでは……」
灰の眼に見つめられ、智也の視線が宙を泳ぐ。
と、片手に持っていた木剣をこちらに投げ渡され、智也がそれを受け取った直後――風切り音と共に重い衝撃が両手にのしかかった。
しかめた顔を直せば、刀剣を模した竹製の用具がそこに打ち込まれていたと知る。
木製より遥かに軽いはずのその得物で、智也は力負けして後ろに倒されそうになったのだ。
「惑うな、とは言わない。だが前に進むと決めたのなら俯くのはやめろ。強くなりたいんだろ? だったら……その目でしっかり俺の背中を見とけ」
「……!」
鍔迫り合いの最中。至近距離で向けられた真剣な眼差しに、智也は瞠目して言葉を失った。
どこぞの灰色の髪のクラスメイトではないが、たった一言もらっただけで全身に力が漲るようだと――そう感じながら。
「隙あり」
と、力の緩んだところを狙い、打ち合わせていた竹刀を切り返して軽く胴体を抜いてみせた先生に、智也は「卑怯ですよ」と呟く。
「いつなんどきも気を緩めるなかれ。それが心技体の心得その三だ。――その四だったか? まぁいいや」
「締まりがないっすね……いつもああだったらもっとかっこいいのに」
なんて小声で言いながら、怪訝そうな顔をする先生になんでもないと首を振り。
他の生徒が名付けを行っている間、智也は再び剣術の基礎を教わることになった。
「そういや言い忘れてたんだが、剣術つってもなにも殺人術を教えるわけじゃないぞ。お前には自分を……周りの者を守るための剣技を教えるつもりだ」
「武器を持てば、必然的に相手を傷つけるはめになるんじゃ……?」
「そうとは限らない。相手を斬らずとも降伏させる方法ならいくらでもあるからな。三殺法って言葉知ってっか?」
竹製の刀を左手に提げて覇気のない目を向ける先生に、智也は緩やかに首を横に振る。
「相手の剣を切り払い、技を封じ、心を斬る。それが三殺法――守るための剣技の極意だよ」
「理屈は何となくわかりました。でも、本当にそんなことが可能なんですか? それも……素人の自分に」
「できるさ。大事なのは、やる気と根性と忍耐力だよ」
前にも聞いたことのある男らしさの三原則(三つめはころころ変わる)を今一度説かれ、小さく顎を引く智也。その瞳の奥に宿った炎を見て、先生は不敵な笑みを浮かべた。
「素振りと構えは教えたな? んじゃ次は足捌きだ。あー、一応言っとくが一度に全部覚えなくてもいいからな」
「わかりました」
「――まず木刀にしろ真剣にしろ、刀ってのは普通左腰に差すもんだ。そしてそれを右手で抜くためには、右足を前に出しておく必要がある。試してみりゃわかるが、右と左とじゃそもそも刀を抜いた後のリーチが違うからな」
頭の中で今の説明を反芻し、なんとなくその違いを想像で比較してみる。それでまさに言われた通りだと膝を打つ智也に先生は一拍置いたあと、
「でだ、左足に関しては対面している敵の人数によって変えることになる。基本は前向きで構わないが複数人を相手取るとき……側面からの攻撃に対応できるよう重心を落とし、横に向けておくといい」
「なるほど、確かに動きやすいですね」
「構えはなかなか様になってるな。あとはそれに今朝教えた素振りを合わせれば、一応は形になるだろう」
「ありがとうございます!」
「礼を言うのはまだ早い。今んとこ初歩の初歩しか教えてねーんだからな」
木刀を構えるその側面に回り込もうとするのを智也はゆっくり目で追うが、背後にいかれたあと呑気に待っていたら、竹刀で背中に一撃もらってしまった。
「忘れてるぞ。いつなんどきも気を緩めるなかれ、だ」
「手厳しい……」
「とりあえずは、俺の不意打ちを防ぐことが目標だな」
そう言って愉快げに笑う先生。
簡単に言っているが、要は一時も気を休めることなく警戒し続けなければならないということだ。その上、先生の一撃には速さと鋭さがある。
果たして浅知短才の智也に、それを成せる日は来るのだろうか――――。
✱✱✱✱✱✱✱
「素振りの練習に受け身の稽古、それにあの重い棒振りに走り込みか……帰宅部には酷だな」
「きたくぶ?」
「あぁ……いや、こっちの話だよ」
「黒霧さん、さっき先生と何の練習してたんスか?」
「んー、ちょっと剣術をな」
学園内にある大食堂。そこで豊富なメニューから各自好きなものを選んだ智也たちは、出来上がった料理を盆に乗せ、適当なテーブルについていた。
その道中で先の授業を思い返し、ぶつぶつと独りごちていた智也に国枝と七霧が順に問いを投げてきて、それぞれに応対したところ前者には少し険しい顔を、後者には好奇心に満ちた眼差しを向けられる。
「へ~! カッコいいっスね!」
「いやいや。まだ初歩のしょの字を教わったくらいだよ」
「学ぼうとすることが凄いんスよ~」
なんて言って、やけに敬意に満ちた目で見つめてくる七霧に「ただ誘いを受けただけなんだけどな……」と苦笑して。そこへ、別の三人の声が近付いてくる。
「いいんかな? 私がお邪魔して」
「なんで?? 昨日も一緒に食べたじゃん」
「えーっと、そういうことじゃないんやけど……」
「とにかく、いまは空腹を満たすことが急務なり」
見れば、同じように盆を運ぶクラスメイトの姿があり、先陣を切る東道に栖戸と紫月が続く形で歩いてくる。――そう、なぜかこちらに向かってくるのだ。
それに智也が気付いたとき、いつの間にかテーブルをくっつけていた雪宮がこちらに会釈をしていた。
「うお、いつの間に」
「てゆーことで、お昼一緒しない??」
「いや、まぁ」
「大歓迎っス! やっぱり大人数で食べたほうが美味しいっスからね!」
「だよね~」
東道からの誘いに智也が反応するより先に、身を乗り出した七霧が即答していた。そもそも、答える前から座席を確保していたようだが――と考えながら、そんな二人を視界に捉える。
馬が合うのか、七霧と東道は授業中に一緒になって悪ふざけをしていることが多く、今も楽しそうに互いを指差して笑っている。
どこぞの暗黒魔術団の会員はともかく、そうして気の合う友達ができることは智也としても喜ばしかったし、微笑ましく思う。
そんな自分にまるで保護者目線だなと自嘲しつつ、今日も今日とて七人での食事が行われた。
「てかさ~名付けとかメッチャむずくない?? 頭パッパラパーなんだけど」
「ひじょうにセンスが問われる……」
「自分はもう決めたっスよ! 名付けて、らいめ」
「ま、まぁ得てして悩みがちだよな」
話の流れ的にさっきの二の舞になるであろうことを予測した智也は、七霧が口を切った瞬間、それを手で覆い隠して二の句を封じ込めた。
本人はなんでそんなことをするのかと言いたげな目をしていたが、人数が多い分、さきほどの比じゃない傷を心に負う可能性があったのだ。
向けられる懐疑的な眼差しに「これはお前のためなんだぞ」と智也は目で訴えて、
「やっぱ黒霧くんも悩んだカンジ?? なんかそーゆーの得意そうだから、アドバイスもらおうと思ったんだけどな~」
「え……あぁ、まぁそうだな」
流れで相槌を打ったものの、『魔武器』を持ち合わせていない智也のソレはただの知ったかぶりだ。
それで何も知らない東道に話を展開され、嘘の皮を被りきれずに二の足を踏んでしまう。
――要は、ゲームのキャラクター名を考えるのと同じはずだ。それだったら俺も軽く小一時間は悩むし、似たようなもんだよな。
なんて、心の中で自分を擁護して。
そうして智也が黙りこくっている間も、東道は会話を弾ませていた。
「んでんで、みんなはどんな魔武器持ってんの?? ちなみにウチは水鉄砲ね」
「おっきいトンカチ」
「自分は雷鳴剣っス!」
「それは名前でしょ? あ、おれは盾だよ」
「えーみんな強そうでうらやまなんだけど。紫月さんと黒霧くんは?」
その問いに紫月は少し恥ずかしそうな表情になり、智也はどう打開すべきか考えあぐねた。
東道に罪はない。ただ一言、俺には魔武器がないんだと説明すればいいだけの話だ。だがそれが智也には難しかった。
自分だけ仲間外れにされるようで、嫌だったからだ。
「私は……傘、かな……?」
「へ~、ウチとおそろじゃん」
「おそろ……?」
「なんか雰囲気似てるくない??」
「うーん?」
その理論を理解するのは難しかったようだが、打ち明けるのを躊躇っていた紫月の顔は、いつの間にか笑みが浮かんでいた。
社交性に富んだ東道の美点にいつもなら感心しているところだが、そこに割くための脳のリソースが今はない。
「黒霧くん??」
「あー、智也くんはたしか……木剣やんな?」
「なんだ、かっちょいーじゃん。んな恥ずかしがることないのに~」
「あぁ、悪い……」
しきりに智也の顔を窺い、それを気にしていた紫月が機転を利かせてくれたようだ。といっても智也の魔武器がないことは、あの日同じグループだった栖戸にしか知り得ないことなので、紫月の場合は本当に木刀がそのものだと思ったのかもしれない。
現に栖戸は、何かを思い出すように斜め上の方を見上げている。
「あれ、雪宮くんは?」
と、一人だけまだ一言も発していなかった者を気遣い、国枝が問いを投げる。
それに対し雪宮は、小さな声で何かを呟くと、自分の両手に得物を召喚してみせた。
それを見て、誰よりも早く反応したのは他でもない智也だった。
「……の、……らないやつだよ」
「コントローラー!?」
まさにそれは元の世界で馴染み深い、ゲームを操作するための器具である。
――そう、元の世界では。
雪宮たちの反応から見るに、それが本来どういう用途で使われるものなのかさえ知らないのだろう。
水鉄砲に傘と、やや変わった武器の形状が出てきたかと思えば、まさかのゲームパッドだ。
「それも、見た感じかなりボタンの数が多いな……」
さっきまでと一変して急に元気になった智也には、若干周りも引き気味か。
それでもそんなことはお構いないしに、智也の両の手は勝手に忙しなく動いている。
「あのグリップは握りやすいかな? トリガーの深さは調整可能か? 重さはどんなだろ」
なにせ、以前は肌身離さず持っていたのだ。久方振りに見たその独特の造形美には、もはや感動すら覚えて。そんな智也の独り言は、しばらく続いた。
そうして水を得た魚のように元気になってからは、智也も共に楽しい時間を共有することができた。
紫月と席を変わってもらい、真隣に来た智也から昼の間ずっと質問攻めに遭っていた雪宮は、当初かなり動揺していたが。




