第十一話 「原初の魔法」
部屋の扉を閉め、そこに凭れながら安堵の息をつく。
いくら覚悟していたとはいえ、やはりここから出なくて済んだのは、何よりの喜びだ。
摘み出すどころか、快く迎え入れてくれたあの家主の存在が、智也にとってどれほど大きな救いとなったか。
「でも、これで問題が解決したわけじゃない」
改めて心の中で感謝を告げるとともに、智也は罪の意識をその身に深く感じた。
自分の心の弱さ故に、向けられた優しさに甘えてしまった。だが、いつまでも肩を貸してもらうわけにはいかない。なるべく早くお金を貯め、受けた御恩を返さなければならないのだ。
それがせめてもの礼儀であり、智也にとっても意味のあることだった。
今の心疚しいままでは、いつになっても羽を伸ばすことができない。
頼る宛のないこの異界の地で、真に心を休めることができないのだ。
金銭面の問題以外にも、智也には先々の不安が数多くある。学園生活に関してもそうだし、あの金髪少女に連れてこられた理由もそうだ。このまま智也は学園生活を送ったとして、それでそのあとはどうなるのか、と。
だがひとまずは、お金の稼ぎ方について一考すべきだろう。
「明日、帰りに街を散策してみるか……」
もしかしたらいい働き口が見つかるかもしれない――そう考えた時だった。
智也の視界が、暗転する。
何事かと思い、何度か瞬きを繰り返すが、目に映るのは黒一辺倒の闇だけ。
「あれ、夢か……?」
そう思ったが、夢にしてはやけに意識が冴えている。自分の声だって鮮明に聞こえるし、手足の感覚だってしっかりとある。では、いま見ているものはなんなのか。
そもそも、眠気なんて感じていなかったはずだが――と、寸前の記憶すら曖昧になる智也の前に、小さな光が姿を現した。
不意に現れたソレに驚かされ、身構える智也。
しかし光は何をするでもなく、その場でただ点滅している。それがなんなのか智也には見当もつかなかったが、その光を注視して、僅かに揺れていることに気が付いた。
「動いてる……というか、揺れてる?」
ほんの少しだけ、その光は上下に揺れているように見えた。
まるで、この暗闇の中を泳ぐかのように。
そんな智也の声に反応してか、光は大袈裟なほどに大きく揺れだした。
全く奇妙な夢を見るものだなと自嘲しつつ、本当に自分の声に反応しているのかどうか、智也は興味が湧いた。
「そんなところでなにしてるんだ?」
傍から見れば光に話しかけている不審者だが、いまこの世界には智也とソレしか存在しない。故に羞恥心はなかった。
そして智也の期待通り、光はこちらの声に再び反応を示す。
「俺の言葉が分かるのか」
その問いかけに、首を振るかのように激しく上下に揺れる光。
続いて「こっちに来いよ」と呼びかけると、真っ直ぐ光が近付いてきて、強く発光しながらその形を変えていった。
丸かった輪郭に手足のようなものが生え、やがてソレは人の形へと成り代わり――――、
✱✱✱✱✱✱✱
「眩しい……」
あまりの眩しさに顔の前で手を翳し、窓から差し込む日の光を浴びながら智也は目を覚ました。
「いつの間に寝て――」
夕食を食べたあと、部屋に帰って扉に凭れていたところまでは覚えているが、その先の記憶がない。
寸前まで妙な夢を見ていた気がしたが、それと何か関係があるのだろうか。
と、翳していた手をどかして、壁掛け時計を見やる。時刻は、ちょうど七時を回ったところだった。
「ん? この部屋に時計なんてなかったよな」
だから智也は昨日、時間に気付かず入学式に遅刻したのだ。
ということは、気を利かせてくれた家主が智也のいない間に設置してくれたのだろうか。ますます頭が上がらない。
手早く身支度を整え、まだ着慣れない制服に袖を通し、智也は階下の食堂へと足を向かわせる。
「あ、智也くんおはよう!」
と、昨日と同じテーブルにつき、朝から溌剌とした笑顔を見せるクラスメイトの姿に、智也は小さく肩を落とした。
同じ下宿にいる以上、その可能性を考慮していなかったわけではないが、こうもタイミングが被るものなのかと、嫌な顔をする。
昨日は不服にも自己紹介をさせられてしまったが、智也としては、目の前の人物をあまりよく思っていない。
むしろ、おかしいのは紫月の方なのだ。ここまで冷たい態度を取られているのに、それでも笑顔を浮かべて接しようとしてくるのだから。
「食べへんの?」
考えたそばから、早速智也に声をかけてきた。
この無愛想な顔が見えていないのかと、顔を顰める智也を紫月が不思議そうに見つめる。
「おはよう。今日は早く起きれたのね」
「……はい、わざわざ時計まで付けてもらって、本当にありがとうございます」
「いいのよそれくらい。お役に立ててよかったわ」
紫月との睨み合いを経て、智也が改めてその忍耐力を再認識したところで家主が登場。もちろん、紫月の方は睨み合っていた覚えはないだろうが。
そして、当然のように紫月の隣に智也の分の朝食が並べられ、それに既視感を覚えながらやむなく席につく。
「どうぞ、召し上がれ」
「いただきます……」
世話になることになった手前、贅沢は言えないし言うつもりも毛頭ない。が、せめて隣の席はやめてほしかったと心の中で嘆く智也。
とはいえ、いつまでも思い悩んでいても仕方がないので、用意してもらったご飯をありがたく頂くことに。
白米、味噌汁、焼き魚、漬物といったごく普通の朝食。けど今の智也にはその当たり前が何よりの喜びで。米粒一つすらも大事に味わった。
「ごちそうさまでした」
「おばちゃんごちそうさま!」
――そうして、十分にエネルギーを蓄えた二人は、下宿屋を出て学園に向かうのだった。
「いやいや、なんでだよ」
「どうしたん?」
道半ばで立ち止まった智也に、紫月が首を傾げて疑問を口にする。
百歩譲って食事を共にしたのはいいとしても、一緒に登校するつもりまでは智也になかった。それなのに、気付けば当たり前のように並んで歩いていたのだ。
或いは自己紹介を交わしたことで、紫月は距離が縮まったと思っているのかもしれないが、智也の心の扉は分厚く、そして固く閉ざされている。
「お二人さんちっす!」
そんな微妙な空気の中、タイミングが良いのか悪いのか、声をかけてきた者がいた。昨日勇敢にも茶髪男子に立ち向かい、そして無様に返り討ちにあった残念なクラスメイトだ。
目立つ銀の髪を全て後ろに上げており、その凛々しさと不釣り合いなニヤついた顔でこちらを見つめている。
何もしなければ男前だというのに、不細工な笑顔と脳みその入っていない頭のせいで全てが台無しだ。
そんな風に智也に馬鹿にされているとは露知らず、件の者は依然変な顔で、
「朝から制服デート? くぅ~、羨ますぃ~!」
「そんなんちゃうよ~ えーっと……」
クラスメイトに茶化され、慌てて否定する紫月。その隣で、智也は馬鹿を見るような目で傍観している。
「あぁ、俺の名前? 気になっちゃう感じ?」
「あ、うん」
「――俺は神童。名前かっこよすぎワロタ」
彼の勢いに気圧されるように紫月が頷くと、半ば自主的に残念イケメン――神童がその名を誇らしげに語った。
「へ~神童くんっていうんや。ほんま格好いい名字やね! あ、私の名前は」
「知ってるぜ。未奈ちゃんでしょ」
例え変人相手でも分け隔てなく接する紫月の殊勝さには、智也も思わず喉を唸らした。それから紫月が名乗ろうとしたのを、先に神童が言い当ててみせて、
「――で、黒霧智也」
続けて、ニヤついた笑みを残したままそう告げられ、智也は彼の視線とその声に、妙な違和感を覚えた。
「なんだ……?」
心の内に湧き上がる言い知れぬ不快感。智也の表情は自然と険しくなる。
そもそも、なぜ彼は智也の名前を知っているのか。昨日の騒ぎで名字を知ったとしても、名前までは聞いていないはずだ。
「なんで分かったん?」
「つまり俺が天才ってことですわ」
「えーなんなんそれ、めっちゃ気になるんやけど」
同じ疑問を抱いた紫月が素朴な目を向けるが、神童は戯けて誤魔化している。
ともあれ、名前を知っていたからといって何か問題があるわけでもない。智也はそう考えて気にしないことにした。
✱✱✱✱✱✱✱
「ていうかさ、おかしいと思うんだよね」
学園への行き道、神童を交えた智也たち三人は、仲良くお喋りしながら歩いていた。
と言っても、会話しているのは仏頂面の智也を除いた二人でだが。
「なんのこと?」
「いやさぁ、俺みたいな秀才がさ、魔力量Cランクっておかしいと思うわけよ。え、てかCってなに? 中途半端じゃね? あ、胸の話ではないです」
「お前の頭に関してはZランクだけどな」
世迷い言をぬかす神童に、智也がそう心の中で呟いて、小さくため息を溢す。
そうして校門前の長い階段に差し掛かり、忘れていた絶望的な景色に、より一層表情を暗くさせる智也。その横から、罵倒が飛んできた。
「雑魚三人お揃いで仲良く登校かよ。ハッ、惨めだな」
「朝からうるせぇぞ、このチンピラゴボウ! お前さてはあれだろ、羨ましいんだろ? 友達いないから。ワロス」
煽りに対して挑発し返す神童に、役に立つこともあるんだなと智也は一人感心する。
人の反感を買うことに関して、彼の右に出るものはいないだろう。なにせ、言葉だけでなく憎たらしい顔とウザい身振り手振りがついてくるのだ。これ以上のものがあるとは思えない。
そんなやり取りを傍目に、智也は神童の言葉に「こっちも友達じゃないけどな」と心の中で付け加えつつ。その視界の端で、神童にやや隠れるようにして顔を俯かせる、紫月の姿が見えた。
それを知った智也が神童に加勢し、紫月を守るわけもなく。何食わぬ顔で階段を上り始める。
「おい、無視してんじゃねぇぞ」
あたかも自分は無関係だと言わんばかりの態度に茶髪男子は腹を立てたようで、智也の肩を掴んできた。
それでも、何もなかったかのように彼の手をぞんざいに払い除け、智也は歩みを再開しようとする。
「テメェ……待てっつってんだろ!」
「……何の用だよ」
「弱い癖に気取りやがって、ムカつくんだよ」
「奇遇だな。俺も他人を見下げることでしか自分の価値を見出だせない、お前みたいな奴が一番嫌いなんだよ」
仏頂面で振り返り、怠そうにため息をつく智也に茶髪男子がそう声を荒らげる。それに対し、智也も思いの丈をぶちまけた。
黒瞳と黄土色の瞳が鋭く光り、交差する視線が激しく火花を散らす。
「藤間影虎。 俺の名だ」
そんな中、急に名乗り出した藤間に智也は面食らってしまった。
この手の男なら真っ先に手を出してくると思い、殴り合いも辞さない覚悟で対峙していたのだが、思いの外冷静だったからだ。
とはいえ、その名乗りに込められた意図は交流目的などではなく、
「よく覚えとけ。今度の模擬戦、テメェは絶対潰してやるからよ」
獰猛な獣のような眼差しで宣戦布告をして、藤間は足早に階段を上っていく。その背中を興味なさげに見つめ、智也は小さく肩を落とした。
「ちきしょー、あいつ俺のことスルーしやがって!」
「智也くん大丈夫?」
「……別に」
後ろで見守っていた二人が、藤間が去ったのを見計らって智也の元へ寄ってくる。しかし、せっかくの気遣いも冷めた声で一蹴して、智也は後ろも見ずにせっせと歩いていく。
「やれやれ、照れ隠しが下手な奴だぜ」
「え、そうなん?」
その後ろで、神童がまた意味のわからない発言をしていたが、やがて二人も遅れて学園へと歩み入った。
✱✱✱✱✱✱✱
「あー今日の予定だが、午前中だけ第一体育館が使えるようになっている。つーわけで……お前らの魔力が尽きるまで練習すんぞー」
とのことで、昨日の体育館に集められたA組一同。
今からどんな練習をするのかと期待を抱く前に、智也には避けて通れない大問題があった。
それは、異世界人の智也に魔法が扱えるのかという、拭いきれない疑念だ。
もしも上手くできなかった場合、智也はこの『魔法学園』において魔法を用いず過ごすことになる。そう考えると、不安や緊張に飲み込まれそうだった。
或いは今の智也は、昨日の検査よりも手に汗を握っていたかもしれない。
そんなことを考えている間に、担任から配られた『何か』が、前に居た生徒から手渡される。
それは至極色をした書物で、表紙には魔法陣らしきものが描かれていた。
辞典ほどの厚みはないが、それでも千ページ近くはあるように見える。
「先生、これはなんですか?」
「こいつは『魔導書』といって、お前ら新入生の教本となるものだ。まずはこれを見ながら魔法の扱いを覚えてもらう。まぁ……大体の奴は『訓練校』で習ってるだろうけどな」
「これが魔導書……」
ついに智也も魔法という概念に触れる時が来たのだ。
当然不安は消えていないが、それでも自らの力で魔法を放つ姿を想像すれば、自然と胸は高まってくる。
「とりあえず、攻撃魔法の十一番からやってもらう。該当のページを開いてくれ」
慌てて『魔導書』を開き、目次からそれらしきページを開いてみる。そこには魔法の説明と簡単なイラスト、あとはよく分からない魔法陣とその説明などが、数ページに渡り記されていた。
「先生~、この……れ、れべってなに??」
「それは魔法の形式名だ。攻撃と補助の二種類……簡単に言えばその区別をするためのものだな。ちなみにReveな」
「なる~レーブね。ってか言いにく!」
そうして全員の準備が整ったところで、智也たちはまた適当にグループ分けをされ、前列と後列とで順に試し打ちする流れに。
「んじゃ、俺が手本見せるからよく見とけよー」
壁に向かって手を伸ばす担任に、智也は目を丸くする。
いま使おうとしているのは火球を具現化させる魔法のはずだ。そんなものをぶつけて大丈夫なのかと、心配になった。
「魔法を扱うには何よりも理解することが大切だ。まずは『魔導書』をよく見て、それがどんな魔法なのか頭に入れろ。次に、絵を見てイメージを固めたら、それを頭ん中で描きながら魔力を手のひらに集め……詠唱と共に放出する」
――Reve11【火弾】
最後に小さくそう呟いて、智也たちの方に顔を向けたまま、怠慢教師がいとも簡単に燃える球体を撃ち放つ。
智也は壁が炎上するのではと危惧したが、火球は呆気なくもそのまま霧散して消えてしまった。
「分ぁったか? とりあえず、前列の八人から行くぞ」
不可思議な現象は気になるが、今はその疑問を頭の隅に追いやり思考を切り替える。
これはおそらく、ゲームでいうところのチュートリアルで覚えられる最初の魔法だ。つまるところ、誰にでも扱える最もかんたんなものである。
――しかし、もしその初歩中の初歩ができなかったとしたら?
そんな不安が、再び智也の身を襲う。
少し気を抜くと、すぐ後ろ向きな考えをしてしまうのは智也の悪い癖だ。
だが実際、二日前に智也は大平原にて魔法の発現を試みており、既に失敗に終わっている。
担任の話にもあったように、そもそも魔法の原理や秩序を理解していなかったのが原因だと考えられるが、それで智也の不安が払拭できるかといえば、そうとも限らない。
「ま、ぼちぼちだなー。んじゃ次、後列」
智也が一人で苦悶している間に、刻々とその時は近付いていた。
回ってきた順番に慌てつつ、智也も他の六人の横に並び立つ。
「――これ以上恥を晒したくない。でも失敗する未来しか見えない。どうすればいいか分からない。どうすれば……」
ぐるぐる、ぐるぐると、頭の中で思考が渦を巻く。
緊張で手は汗ばみ、額には脂汗が滲んでいる。暑くなる顔面と相反して、背中だけは妙に寒い。
「始め!」
「「Reve11――」」
その合図により、周りが一斉に詠唱を始める。焦った智也は、一拍出遅れてしまった。
周りに合わせて早口で唱えたそれは、もはや詠唱とは呼べず。それで魔法が発現するわけもなく、智也一人だけが不発に終わった。
――失敗した。
それも、失敗なんてあり得ないチュートリアルの段階で。
ただでさえZランクというハンデを背負っているというのに、簡単な初級魔法すらも扱えないようでは、一縷の望みも抱けやしない。
落胆し、溢したため息と共に体中の力が抜けていく。
「落ち着け、黒霧。一回深呼吸して、しっかりイメージしてからやってみろ」
「……はい」
この世の終わりみたいな顔をしていた智也に、彼はそう声をかけてくれた。わざわざ智也一人のために、時間を与えてくれたのだ。
元の世界の教師なら絶対そんなことはしてくれなかったと、少なくとも智也はそう思った。
心の中で先生に感謝しつつ、言われた通りに深呼吸する。
それからもう一度『魔導書』をよく見て、その概要を理解する。
――攻撃魔法十一番、【火弾】。
――簡素で最も扱いやすく、最も古い原初の魔法。
――集めた魔力を球状に固め、そのまま放出する。
――火を纏った球体は、やがて爆炎を巻き起こす。
「そうか、魔力を球状に……」
見落としていた部分に気付いても、そも、魔力の扱いを智也が上手くできるのかどうか。
それでも、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせて、再び智也は言霊を唱える。
「Reve11【火弾】――!」
自分の手のひらの先、黒瞳に映る赤い球体がある。
それは他の誰でもない、智也が具現化させたものだ。
少しばかり感じた体の気怠さ。それが魔力を消耗したということなのだろう。
――それは魔法。不可思議で不可解な、未曾有の経験。
――ゲームの世界で飽きるくらい見てきた夢の力。
――元の世界には存在し得なかった概念。
確かにそれが、智也の右手から生まれていた。
「……」
声も出せないほどの感銘を受け、己の拳をじっと見つめる。
まさか、本当に魔法が使える日がくるなんて思いもしなかったのだ。
さっきまでの暗い感情はどこへやら、智也の黒瞳は宝石のように輝いていた。
例えそれが、周りと比べて見劣りするような出来栄えだったとしても。
「ハッ、んだそのクソみてぇな魔法は。真面目にやってくれねぇと授業の邪魔だぜ、Zランクさんよ」
案の定、藤間は突っ掛かってきた。
人の手落ちを見つけるや否や、ここぞとばかりに揚げ足を取る嫌な男だ。
「シャボン玉でも飛ばしてんのかよ。その程度でよくこの学園に――」
「とりあえず、まずは当てることからだな」
智也の拙い魔法を鼻で笑い、さらに追い打ちをかけて畳み込もうとする藤間を、無気力な男の声が遮った。
普段通り死んだ魚のような目をしているが、智也には心なしか、その眼差しが温かく感じられて。
「お前らも、ただ発現させるだけじゃ意味はない。実際に狙いを定めて的中させてこそだ」
そう言って、何を思ったのか先生は体育館の真ん中まで足を進めると、理解し難い提案を申し出てきた。
「――的当てゲーム。誰か一人でも俺に魔法を当てることができればお前らの勝ち。どうだ、面白そうだろ?」




