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一章 〈5〉

 〈5〉


 合計四人分の生命力を得た事で、当面餓死の心配はなくなった。アイテムを作る為の材料も、結構手に入れた。剣だのナイフだのは潰されていたので、作り直さなければならないが。

 一番嬉しいのは、布が手に入った事だ。これで、新しいパンツが作れる。もう一週間も同じパンツを履いていたからな。

 僕はいそいそと新品のトランクスを作ると、それに履き替えた。ああ、スッキリ。


「ダンジョンコア本体に、老廃物というものは存在しません。代謝、発汗、排泄などは、基本的にやろうと思わない限り、行われません。従って、下着も汚れませんよ?」


 まぁ、それが必要だったら、一週間も飲まず食わずでいられなかっただろうからね。でも――


「いやいや。何日も同じ下着とか、気持ち悪いでしょ?」

「そうですか? 汚れていない服を取り替える為に、新たな服を作るというのは、非合理的ではありませんか? ある程度生命力に余裕は生まれましたが、無駄遣いをできる程ではないのですよ?」


 無駄遣いとまで言われてしまった……。いやまぁ、たしかに無駄遣い……か? 人間だったら絶対に譲れない一線だが、ダンジョンコアとして必要のない行為であれば、たしかに無駄遣いと言われても仕方がないかも知れない。


「わかった……。今後はいまある二枚を使い回して、無駄遣いを控えるよ……」

「あ……、いえ。そこまで落ち込むくらいなら、別に構わないですよ? 下着を作る程度の消費は、微々たるものですから」

「いや、やっぱり我慢するよ。生命力に余裕ができたら、やりたかった事があるんだ」


 その為ならば、パンツを替えないくらい……、……なんか想像するだけで、やっぱりちょっと気持ち悪いな……。


「やりたかった事とは?」

「グラの体を作る」


 僕がハッキリとそう述べると、グラが驚いて絶句するのがわかった。

 だけど、不可能じゃないと思うんだ。魔物は生命力によって受肉する。だったら、生命力でグラの体を用意し、そこにグラの意識を乗り移らせる事ができれば、この二心同体状態を解消できる。

 そうなれば、グラがもっと自由に活動できると思うのだ。


「元々のダンジョンコアがグラだったとすれば、こちらの体を明け渡すべきなのかも知れないけど……」

「いえ、それは無理でしょう。ダンジョンコアとしての主導権がショーンにある以上、本体を放棄して私に委譲するというのは、理が通りません」

「そうなの?」

「【魔術】の一種、死霊術を用いれば、あるいは可能かも知れません。ですがそれは、ショーンと私がダンジョンコアのアンデッドとなるのが前提です。非推奨です」

「ああ、それはダメだね」


 まぁ、それ以前にこの体、なぜか男のものなんだよね。グラは声からして女性だし、こんな体を渡されても困るだろう。


「まぁ、そんなわけで、グラの体を作りたいんだ。どう思う?」

「……不可能ではない、ですね。生命力の理で、魔石を核に肉体を形成する事は可能ですし、そこに私の意識を移す事も不可能ではありません。ですが、かなりの生命力を消費しますよ?」

「まぁ、必要経費かな」

「ショーンは、そうまでして私と別れたいのですか?」

「いやいやいや! そういう事じゃないよ!? 別に、グラが疎ましくなったから別れたい、とかじゃないから!」


 って、これじゃまるで恋人に対する言い訳みたいじゃないか? そんな経験、皆無だが……。


「僕に主導権がある体で、たまに使用許可を与えられるという環境は、不自由そうに思えたんだ。それに、これは元人間としての感性かも知れないけど、話すときは面と向かって話したい。君の表情を見ながら――」


 グラって無表情そうだよな……。


「そりゃ、グラに体があれば、別行動をする事もあるかも知れない。だけど、その分やれる事も増えるだろう? それに、別に精神を移したら二度と戻れない、とかじゃないんだろう?」

「たしかに。勉強などは、口頭で伝えるよりも、はるかに効率的になりますね」

「あ、うん……。そうだね……」


 い、いや、別に勉強が嫌ってわけじゃないんだよ? 命がかかっている問題だしね。

 ただ、睡眠も排泄も食事も不要なこの体だとさ、勉強時間が一日二〇時間を超える日も多かったじゃん。特に、グラは教えたがりだから、体を得たら余計張り切っちゃうと思うんだよね。

 大丈夫かな……? 一日二五時間くらいのスパルタ教育とか、しないよね?


「それにさ、二心同体っていうのもいいけど、体が別だからこそ、一心同体って言えるようになるだろう。それもまた、良くないかな?」

「……ふむ……。……そうですね。では、私の体を作る方法を模索しましょう。ついでに、生命力の理について、もう少し深く勉強しましょうか。どうせなら、私が作るのではなく、ショーンに作ってもらいましょう」

「あ、ハイ。そうだね……。体を作るなら、理解を深めないと無理だもんね……。もっともっと、勉強しないとね……」


 少なくとも、しばらく一日二〇時間以上の勉強は確定したようだった。


 剣二振り(圧壊)。ナイフ六振り(圧壊)。布の服、四着(血みどろ)。革鎧、三人分(血みどろ)。靴、三足。靴のような布袋、二つ。

 そして硬貨、銅貨三枚と、銀貨四枚。


 これが、昨夜の侵入者たちから得られた戦利品だ。

 銀貨がある! これで、冒険者登録に憂いはなくなった。大手を振って、冒険者ギルドを再訪できるぞ。

 実を言うと、武器なんかと同じく財布も潰されていた。銅貨が少ないのは、それ以外は潰れてしまって使い物にならなそうだったからだ。

 銀貨が無事だったのは、人攫いたちが大事に懐にしまっていたおかげだ。肉体と鎧がクッションになってくれたのだろう。


「ところでさ、その地面から物を取り出すのって、どうやるの? 【魔術】だったら、外でも使える?」

「これは、ダンジョンの保管庫にしまってあるものを取り出しているのです。そういえば、まだ教えていませんでしたね。まぁ、出し入れする物がなかったので、仕方がありませんが」


 最初に装具を作ってから、ダンジョンの調整を行なったからね。保管するものなど、皆無だった。

 でも、小さいものから作ったおかげで、生命力をうまく扱えたというのもあるので、グラの教育方針に文句などない。うん、スパルタ教育だろうと、文句なんて全然ないよ。


「ダンジョンの通路からは切り離された地中に、生物やモンスターを入れない前提の空間を作り、そこに物資を保管するという方法があるのです。その場所を保管庫と呼び、ごく少量の生命力を消費する事で、自由に物が出し入れできるようになります」


 グラの説明に頷きつつ、僕はちょっとガッカリしていた。この段階で、この保管庫というものが、異世界ファンタジー御用達の、アイテムボックスとは違うものであるというのがわかったからだ。

 いやまぁ、そんなトンデモ能力があったとしても、現状で活用する方法は見当がつかないのだが。


「保管庫に干渉できるのは、ダンジョンを操作できるダンジョンコアだけです。それ故に、内部の物資の安全性が保てますし、品質も保てます。ですが当然、ダンジョンから離れれば、保管庫に干渉できなくなりますので、なかの物を取り出す事も不可能になります」


 うん、十分に便利な能力だった。


「じゃあ今日は、保管庫の作り方を一から教えてもらおうかな? 勿論、物を出し入れするのも練習しておきたい」

「そうですね。とはいえ、物資の出し入れはそれ程難しくはありません。なにせ、ダンジョン内部の操作ですから」


 なるほど、そうか。ダンジョン内部をいじる事に関しては、ダンジョンコアってめっちゃイージーだもんね。

 実際、やってみたらすごく簡単だった。意識すれば、保管庫のなかも確認できたし。自分の保管庫も作ってみたが、これもそんなに難しくなかった。

 保管庫内部から、湿度や余計な空気を抜くのが、ちょっと難しかったくらいか。

 流石に階段だの部屋だのを作ったときと同じではないようだ。もう少し繊細に、生命力を操る必要があった。

 これまでは、直接手で鷲掴みにしていたのを、おたまを使って掬ったような感覚だ。この感じだと、いずれは箸を使うような、より繊細な操作も必要になりそうだ。


「保管庫の隅の方にある、あの黒い立方体ってなに?」

「あれは、ダンジョンを作る際に収容した土砂です。ああして圧縮して保管してありますが、なにかに利用したければご随意に」

「ふぅん。まぁ、たしかになにかに使えるかも知れないね。とっておこうか」


 とりあえず、保管庫についてはこれでいい。生命力を用いてダンジョンを操るのも、結構慣れてきたな。

 これにて、昨日までの課題についてはひと段落だ。ならば次に取り組むべきは、これから、だ。


「さて、それじゃあ本題といこうか」


 僕は居住まいを正して、そう切り出した。


「生命力に余裕ができた以上、喫緊の食糧問題は解消したとみていい。だとすると、次に問題となってくるのが、現状をどう発展させるのか。すなわち、どうやって人間に見つからずに、ダンジョンを拡張するのか、だ」

「そうですね……」


 グラの声が暗い。この問題に関して、妙案がないのだろう。

 それもそうだ。なにせ、ここは町のなかなのだ。周囲には人間が犇めいており、ひょんな事からこの場がダンジョンであると露呈しかねない。

 だが、ダンジョンを拡張しなければ、僕らはいつまでも危険と隣り合わせだ。いつ人間に見つかるのかと、肩をすくめてそのときを待つしかない。

 行動するには発見されるリスクを冒さねばならないというのに、行動せず潜伏に徹しても発見されるリスクはなくならない。むしろ、問題の先送りで、いずれは発見されると考えるべきだ。


 動くべきか動かざるべきか。僕らはいま、そんなジレンマに頭を悩ませている。


「以前、ダンジョンを急激に拡張させると、人間に気付かれる危険があるって言ってたよね? 人間が、どういう方法で僕らの存在を探知するのかって、グラの知識にはある?」

「いえ、詳しい情報はありません。ただ、ダンジョンを拡張するという事は、地面を掘り進むという事ですから、地表に近ければ近い程、周辺には振動が伝わります」

「あ、そういう……」


 もっとこう、特殊な魔力が周囲に伝わって気付かれるとかじゃなく、地面を掘る振動なんだね……。ダンジョン拡張の方法がアナクロなら、発見の方法もアナクロなのか。

 いやまぁ、他にもダンジョンを探知する方法とかがあるのかも知れないけどさ。


 やっぱり、人間側のダンジョンに対する認識と、対抗策を知っておきたい。となると、やはり……。


「いずれはダンジョンを広げなければいけない。そのタイミングを測る為にも、やはり冒険者ギルドに入り込もうと思う」

「……、……そう、ですね」


 やっぱり、グラ的には不本意なんだろうな。人間なんて放っておいて、ダンジョンを深くできれば、それに越した事はないのだろう。町中に生まれてしまったからできないが、そうでなければひたすらに地中に向かっていたに違いない。


「それと同時に、ダンジョンを少し広げようと思う」

「本気ですか?」

「少しだけだよ。具体的には、この家の敷地面積分くらい」

「ふむ……」

「毎日、少しずつ広げていく予定だ。それなら、振動で気付かれても、住処の拡張工事だと言い張れる」


 たとえば、この部屋の隣にもう一つ部屋を作って様子を見て、大丈夫そうならもう一つ、という具合に掘り進めたい。

 もし震動で周囲に勘付かれても、地下室を広げているだけだと言い張れるだろう。


「震動以外に、ダンジョンを見つける方法があった場合にはどうします?」

「たしかにその点は危険だけど、それは拡張を先送りしても解決しない問題だ。もしそんな方法があったら、町中にいる限り、ダンジョンを広げれば結局発見される。だったら、思い切ってこのダンジョンを放棄し、この町から離れる決断をすべきだと思う」

「無理です」


 おや? 随分とキッパリ否定された。これは予想外だった。


「ここにダンジョンを作る以前であれば、その決断もできたかも知れません。ですが、ダンジョンを作るには、ダンジョンを拡張するよりも多量の生命力を必要とするのです。ダンジョンは、ダンジョンコアにとっての体であり、口であるのです。食物を捕食する手段を全て放棄して放浪するなど、正気の沙汰ではありません」

「なるほど。その言い分はもっともだ」


 それでは、このダンジョンを棄てるという行為は、危機からの逃避ではなく、緩やかなる自殺でしかない。グラが断言するのも当然か。

 まだまだ人間としての意識が強いのか、追い詰められたらダンジョンを放棄して逃げればいいと思っていたが、どうやらそういうわけにもいかなそうだ。


「ですが、ダンジョンを拡張しなければ、いずれ人間に発見されるというのは、間違いありません。また、既に一度ダンジョンを作り、その内部を改装したという実績もあります。もしもダンジョンの掘削を探知する術があったとしても、常時監視できる類のものではないと、推察できます」

「うん、それはそうだね。それでもやっぱり、発見されるリスクは下げておきたい」

「そうなるとやはり、必要なのは人間側のダンジョンに対する認識と対抗策の把握、となりますね」

「ああ。だからやっぱり、僕が冒険者になるしかないと思うんだ」


 僕の言葉に、逡巡するように黙ってから、諦めるような声音でグラが言った。


「そう、ですね……。どのみち、このままではジリ貧です。いずれは、なにかしらのアクションを起こさねばなりません。そのタイミングを測るにも、情報は必須でしょう。冒険者になって得られるメリットと抱えるリスクの比率は、ならなかった際のそれとは比べるべくもありません。その選択がベターであるとわかってはいます」


 それでも、本心では頷きたくはないと言わんばかりのグラ。まぁ、たしかに危険だからね。

 人間に擬態し、その社会に紛れ込む。僕からすれば普通の事に思えるが、グラからすれば肉食動物の群れのなかに、着ぐるみで混ざるくらいの状況に思えるのだろう。そしてそれは、あながち大袈裟というわけでもない。

 昨日のあの男みたいなのが、他にもいるかも知れないのだから。


「十分に気を付けるよ。死にたくないしね」

「そうしてください」


 グラは再度、仕方がないとでも言わんばかりにそう言った。

 とりあえず、今後の予定として、もう一度冒険者ギルドに向かう。あとは、ダンジョンについての情報収集。できれば、ダンジョンを探知したり、ダンジョンの拡張を察知するような方法があるのかどうかも。

 あとは……。


「いまはダンジョンの拡張ができないとして、他に覚えるべきダンジョンの必須技能とかはない? 勉強してればいい?」

「そうですね……。少し前にショーンが言っていた話を、覚えていますか?」

「うん? 僕が言った事?」


 なんの事だろう。話した事が多すぎて、見当もつかない。


「ダンジョンを拡張する、洗練された方法について、です」

「あ、ああ、思い出した! っていうか、グラも良く覚えてたね、あんな与太話」


 生命力で掘り進むのが面倒に思えて、画面を操作するだけで手軽にダンジョンが作れないものかと、そんな風に言った気がする。うん、紛う事なき与太話だな。

 生命力の理も、魔力の理も、文字通りの意味での理なのだ。そこには法則が存在し、理屈で摩訶不思議な現象を発現させている。

 ダンジョン内の操作に関しては、そういった法則がかなり緩いとはいえ、それはあくまでも、ダンジョンが自分の体内だからだ。

 生命力の理は、己の生命力に干渉する理なのだから、体内で操作するのが一番効率的なのだ。

 そういった理屈を一切無視して、ちょちょいのちょいって……。いっそ忘れていて欲しかった。



「不可能ではないかも知れません」



………………は?


「え? は? な、なに? それ、どういう意味? 僕には、お手軽にダンジョンが拡張できるって言っているように聞こえたんだけど?」


 僕は混乱も露に、グラを問いただす。当の本人は、常の通りのクールな声音でそれに答えた。


「その通りです。ダンジョンの拡張が簡便に行えるようになれば、人間に対する大きなアドバンテージになり得ます。研究に値するテーマでしょう」

「はぁ!? え? 冗談だよね? だって理屈が通らないじゃない! 画面をちょちょいだよ?」


 生命力の理、魔力の理について、まだまだ本格的に習ってはいないものの、それでも概要くらいはきちんと覚えている。それは非常にロジカルな代物で、拡大解釈やとんちの入り込む余地などない、徹頭徹尾、理屈で成り立つファンタジーなのだ。

 だが、僕のそんな思い込みを、グラが否定する。


「つまり、ダンジョン内でのみ使えるインターフェースを用意し、入力に応じて生命力の理を、半ば自動で操作する方法を確立すればいいのですよね? 無論、理屈を抜きには作れませんが、逆にいえば、理屈にさえ適っていれば、不可能ではないでしょう。とはいえ、まだまだ仮説の段階です。可能とも言い切れません」

「うわぁ!! すごい! グラ、すごい!!」

「まだなにも成していません。その賞賛は、実際に可能となった際に受け取らせていただきます」


 クールぶってるけど、ちょっと誇らしげなグラ。やっぱり自分でも、結構画期的だと思っているみたいだ。

 そりゃそうだよね! つまり、便利ツールがないなら、便利ツールを作ればいいじゃない、って事だ。無論、制約はあるだろうし、物語みたいに日本のものを作ったりはできないだろうが、それでもワクワクしてくる。


「さて、ではまずそのダンジョン拡張用ツール、仮にダンジョンツールと呼びましょうか。そのダンジョンツールは、生命力の理と魔力の理とが複雑に絡み合った術理となるでしょう」

「うん、まぁ、そうだろうね」


 生命力の理と魔力の理。この二つは、違うようで似たようなものだ。

 誤解を恐れず、本当の本当に単純化するなら、生命力とはHP、魔力はMPといえるかも知れない。

 ただし、魔力は生命力より生成されるエネルギーである為、必ずしも別物ではない。

 そういった観点からみると、生命力の理というのは、ゲームなんかでは回復、支援バフ、スキルみたいなものを指す。生物が食物などを得て、体内で生成する生命力を活用し、なんらかの効果を生む理だ。

 そして、魔力の理は、いうまでもなく【魔法】とか【魔術】とかの事だ。

 ゲーム脳の僕には、この生命力と魔力との関係が、ちょっとややこしく思える。完全に違うものではないのだが、同じとするには分野が違いすぎる。電気工学と電子工学みたいなものだろうか? いや、余計わかりにくい。


「そのダンジョンツールって、ダンジョン内で使うって事は、生命力の理を主軸にするの? ダンジョンの拡張や改装なんかは、生命力の理で操作するんだからさ」

「そうなるでしょう。ですが、すべてを生命力の理で扱うには、複雑な操作と情報処理が必要となる面が多くなりそうです」

「うわぁ……。聞いてるだけで、頭こんがらがりそう……」


 この段階で、本当にできるのだろうかと、ちょっと弱気になる。ただまぁ、難しい事はグラに任せて、僕は言われた通りにやっていればいいかなと、無責任な思考も、頭の片隅にはあった。


「それで? 結局僕はなにすればいい? そのダンジョンツール開発の研究には、まったくお役に立てなそうだけど」

「そうでした。ショーンには、魔力の理のうち、【魔術】の幻術を優先して覚えてもらいたいと思っています」

「幻術?」


 それって、提灯鮟鱇に刻んだアレ?


「はい。ショーンは既に、ダンジョン内でモンスターの作成に成功しています。つまり、生命力の理において、幻術を使っています。親和性が皆無というわけでもありませんので、魔力の理において幻術を修得するのは、そう難しくはないでしょう」

「ああ、なるほど。言われてみればたしかに」

「加えて、私の依代を作るともなれば、生命力の理における幻術にも熟達しなければなりません。魔力の理における幻術に長けておくのも、あなたの望みを叶える助けとなるでしょう」


 おお、それは朗報だな。たしかに、モンスターを生み出す方法を応用して、グラの体を作ろうとしているんだから、幻術の勉強は必須だ。どうせなら生命力と魔力、双方の理を学んでおいた方がいいだろう。


「そして、ダンジョンツールの根幹として私が想定しているのも、幻術なのです。下手に生命力と魔力とを干渉させ合うよりも、ショーンが己自身に幻術をかける方が、術理が複雑になりません」

「おおっ、なるほど! もう幻術を習わない理由がないな!! ……ってあれ? それってつまり、ダンジョンツールという幻覚を、僕が自分自身に見せて、その幻覚の画面を操作し、僕自身は無自覚なまま生命力を操作して、ダンジョンを作るって事なんじゃ?」

「そうですよ。よくわかりましたね」


 てっきり、なんでもできるすごい魔法を作るのかと思ってた。思ったよりも単純な方法らしい。


「いやまぁ、言うは易し、行うは難しってヤツなんだろうけどさ」

「そうですね。現状の想定ですら、問題点が多々あるのはわかっています。ですが、実現すればダンジョンの保全には絶対に役立ちます。シンプルですが、間違いなく画期的なブレイクスルーとなるでしょう。ショーンは己の功績を、素直に誇っていいと思いますよ」

「え? いやいや。これって、グラの功績でしょ? 僕なにもしてないよ?」

「この発想の根本は、ショーンの発言です。あれがなければ、私は単純に生命力で掘り進む程度にしか、考えていませんでした。方法とて、ショーンが幻術を覚えねば、実行できません。まず間違いなく、賞賛されるべきはあなたでしょう」

「いやいやいや!!」


 どう考えても、褒められるべきはグラだ。僕はただ単に、横着したいなぁと愚痴を漏らしたにすぎない。

 それを実現できそうな段階まで、仮説を立てたのは間違い無く彼女なのだ。それを、ただ元となった与太話をしたというだけで褒められるなんて、逆に恥ずかしい。


「……って、そもそも誰に賞賛されるんだって話か」

「それはそうですね。ですが、私は間違いなく、あなたの功績だと思っています」

「僕は間違いなく、グラのお手柄だと思ってるよ」


 そう言ってから、二人して笑う。結局、僕らは二心同体なのだ。もし賞賛される事があるならば、二人一緒にその栄誉に浴せばいい。

 いやまぁ、それでも僕が半分も賞賛を受けるのは、どうかと思うけどさ……。


「じゃあ、今日からは魔力の理、【魔術】の幻術も学んでいこう。できれば、これを優先的に」


 ふふふ。ワクワクする。

 それ以外の事って、なんていうか必要に迫られて仕方なくやるって感じだけど、これは僕が本心からやりたい事だ。なにせ、魔法使いや魔術師になる訓練なのだ。いや、この場合幻術師か。

 いやぁ! 楽しみだなぁ!


「語学が優先では? 次に冒険者ギルドを訪ねる際にも、私が体を操作するのですか?」

「あぅ……。忘れてた……」


 そうだね。やりたい事があるからって、やらなきゃならない事を疎かにしちゃ、ダメだよね。そもそも、魔術を修めるには語学も必修らしいし……。

 なにより、グラにとって人間と接するのはストレスなのだ。できればやりたくないだろう。早い段階で、僕が日常会話レベルの語学を習得するべきだ。

 でもやはり、幻術の習得は優先しなければならない。なにせ、覚える事で得られるメリットが多すぎる。

 グラの体。ダンジョンツールの研究。僕自身の身を守る術。ダンジョンで魔物を生むのも、そのルーツこそ違うものの、幻術の一種である。ならば【魔術】の幻術を学ぶ事は、理解を深めるきっかけにもなるだろう。

 結局、語学と幻術、この二つを同時にみっちりやる事になった。語学は、日常会話に加えて、幻術関連の用語や言い回しを優先するらしい。


 睡眠時間? 極論すればダンジョンコアには、他の生命活動と同じく、睡眠の必要なんてないんだよ……。


 それからさらに一週間。

 僕の語学のお勉強は、定型文ならほぼ問題なくヒヤリングもスピーキングもできるまでになっていた。なんせ、スパルタ教師グラのお墨付きだ。

 読み書きも、特に持って回った言い回しでなければ、ある程度難しい文章でもできる程度になった。

 ホント、頑張った……。たった二週間で、たいして頭の良くない僕が、良くもまぁ未知の言語をここまで理解するに至ったよ。

 今日だけは、自分を褒めてあげたい。よく頑張ったよ、僕……。


「では、今日は再び、あの冒険者ギルドに行くのですね?」


 だが、そんな感慨など意にも介さず、グラは淡々と本日の予定を確認してきた。もう少しこう、褒めてくれてもいいんじゃない?


「そうなるね。騒ぎのほとぼりも冷めた頃合いだろう。情報収集は早い方がいいし、一度訪ねた際にも、問題は起きなかったしね」

「問題は起きたでしょう? 【鉄幻爪】提灯鮟鱇であしらいましたが、こちらに敵意と害意を向けてきた男がいたのを忘れましたか? あの男が、こちらに恨みをもっている可能性は、低くはありません」

「あ、ああ、うん……」


 ごめん……。できれば【鉄幻爪】は忘れて欲しい。提灯鮟鱇だけなら、物干し竿とか髭切とか蜻蛉切とか、ちょっとコミカルな感じの武器の通称っぽいけど、【鉄幻爪】はちょっとイタかったかなぁ……って。


「ま、まぁ、そういう危険はおいといて、僕が言っているのはダンジョン的な危険だよ。身バレしたり、警戒されたりする心配はなさそう、って意味」

「なるほど。たしかに、武装を整えた現状で、あの程度の相手は、取るに足らない脅威でしかありません」


 グラの言うように、今日の僕は完全武装である。

 以前の服装に近い、ダークブルーの革鎧、手甲、脚絆に、腰には素人の僕でも取り回しができる程度の小剣。これらすべてはグラのお手製であり、当然魔力の理が刻まれている。

 さらに、理は刻まれていないものの、革靴ではなく編み上げ(レースアップ)のブーツに履き替えている。つま先には鉄板が、踵部分には鉄製のスパイクが付いており、より走りやすくはなっているが、革靴と違って理が刻まれていないので、足はむしろ遅くなっている。生命力に余裕ができたら刻むとの事。

 以前理を刻んでもらったベストは、この下には着ていない。なんでも、魔力の理を刻んだ装具が長時間接触状態にあると、干渉し合って効果が落ちたり、最悪使用不能になってしまうらしい。ブーツに理が刻まれていないのも、脚絆と接触するからだ。

 だったら、シャツも脱ぐべきなんじゃと思ったが、身体能力の補助はどちらかといえば生命力の理の領分だから干渉しないんだとか。

 そりゃそうか。普段から、シャツとベストを一緒に着てたしね。

 しかし、ううむ……。ベストの理と、シャツの理でなにが違うのか……。まだまだ勉強不足という事らしい。

 ちなみに手甲は、前腕を覆う程度の代物なので、右手の提灯鮟鱇とは長時間接触しない。


「しかし、十級かけだし冒険者の装備にしては、上等すぎないかな?」


 いや、この世界の武装の基準とか知らないけどさ。革鎧とか手甲とか脚絆とか、銅で装飾されてて、かなり派手なんだよ。補強の意味もあるらしいんだけど、だったらこんな意匠は必要ないと思う。

 ちなみにこの銅は、潰れてしまった銅貨が元になっている。


「大丈夫でしょう。人間の視線を気にして、見窄らしい格好をする理由がありません。身だしなみを整える手段があるのにそれをしないというのは、怠慢であり失礼です。誇り高いダンジョンコアは、常に洗練された姿であるべきです」

「そう言われちゃうとねぇ……」


 僕の姿は、ある意味ではグラの姿でもある。そう考えると、わざわざ汚いものを身に付けるべきだとも思えない。まぁ、なんとかなるさ。


「それじゃあ、いま一度冒険者(てき)の巣窟へ向かうとしようか。より良い未来の為に!」

「ええ。この窮地を脱し、地中深く潜る為に」



 そうしてやってきました、冒険者ギルド! 道中特に問題など起きず、今回は衛兵さんに道を聞く必要もなかった為、本当にすんなりと、石造の建物まで到着できた。

 ただ、ここまでくるとやっぱりちょっと緊張するな。前回があんな感じだったし。


「ふぅ……。よし! 行くか!」


 気合を入れ直し、冒険者ギルドの扉に手をかける。相変わらず、手入れの行き届いた、スムーズな開閉である。

 ギルド内部は、前回と然程変わらない光景が広がっていた。受付の職員と、掲示板の前にちらほらといる冒険者。その冒険者のなかに、前回のあの男がいない事は確認した。白人系仁王像みたいな男だったので、見間違えるおそれはないだろう。

 だが、油断はできない。別人であろうと、あのような男は他にもいるのかも知れないのだから。

 僕は警戒しながらも、前回と同様に受付に向かう。前回の受付嬢はいないな。今日は非番かな。

 事情を知ってるあの人に応対してもらえれば、話は早くすみそうだったんだが。


「こんにちは。ようこそ、冒険者ギルドへ。ご依頼でしょうか? それとも、他になにか御用でしょうか?」


 あまり特徴のない容姿をしている、三十代くらいの男性職員の受付に向かうと、柔らかな声音でそう聞かれた。人柄の良さそうなおじさんって感じだ。


「冒険者になりにきました。これが登録料です」

「はい、間違いなく。失礼ですが、以前当ギルドに来られた事はありませんか?」

「え、あ、まぁ、はい……」


 僕は曖昧に頷いた。

 できれば紋切り型のやり取り以外はしたくない。ついでに言うと、丁寧な口調で話さないで欲しい。僕のヒヤリングは、まだ日常会話レベルなんだ。


「もしかして、六級冒険者モッフォさんに幻術を使って逃走した、冒険者志望の方ではありませんか?」

「え、えーと……」


 どうしようか……。もしかしてこれ、不穏な流れってヤツ? ああ、提灯鮟鱇外してくれば良かったっ! それ以外はあのときとまったく違う装備なんだし、誤魔化せたかも知れない。


 挙動不審な様子に気付いた職員さんは、僕がなにを考えているのかを察したようで、柔和に微笑んでから口を開いた。


「ご安心ください。当方に、前回の件であなたを処罰するつもりはございません。といいますか、いまだ冒険者登録もされていない方を、ギルドが勝手に処罰する事はできかねます」

「な、なるほど……」


 よかった。どうやら、前回の騒動はそれ程大きな問題になっていないらしい。


「六級冒険者モッフォさんの方は、ギルド側から処分を下しました。冒険者でない方も訪れるギルド内で、武器に手をかけようとした点や、あなたに対する嫌がらせ、職員からの注意を無視する等の、不適切な行為もありまして、現在は謹慎処分となっております。ギルドからの依頼の斡旋を停止する程度で、どこかに閉じこもるよう命令したわけではありませんが、ギルドとしてはこれ以上の処分はできません。ご了承いただければ幸いです」

「あ、はい。問題ありません」


 いや、結構な大問題になっていた。まぁ別に、あの仁王像がどうなろうと興味はない。それ以上の罰も望まないし、これ以上関わり合いにさえならなければ、どこでなにをしようと知った事ではない。


「それと、このたびあなたも十級冒険者となられるとの事ですので、今後なにかあった際には、同様に処分します。できればギルド内においては、応戦ではなく、ギルド職員に助けを求める形で対処していただきたく思います。相手が剣を抜いていない状況で、マジックアイテムを使用されますと、下手をすればあなたが先制して攻撃したと見られる場合もあり得ます。前回と同様の状況であれば、双方ともに処罰されると考えておいてください。()()()()()()()?」

「は、はひ……」


 なにこの人、こわっ!

 表情は笑顔のままなのに、最後の台詞にものすごい迫力があった。周囲の温度が、一気に十度くらい下がったように錯覚したよ。

 それとマジックアイテムってのは、提灯鮟鱇の事? 人間社会では、そう呼ばれているのかな?


「では、こちらに必要事項をご記入ください。代筆は必要ですか?」

「い、いえ。だ、大丈夫です」


 受付の男性から目を背けるように、差し出されたなにかの皮紙の空欄を埋めていく。なんちゃって仁王像なんかより、この人の方がずっと怖い。

 名前はいいとして、出身はどうしよう。それ以外には、得意な武器って項目は……まぁ、剣でいいか。え? 現住所? ダンジョンの場所を、冒険者ギルドに教えろって?


「わからない点は、未記入で構いませんよ。ご自分の出身の村の名前を知らない方は、結構多いですからね。住所も、宿を点々とされている方は、無記入の場合が多いです。ただその場合、死亡が確認されても、ご家族や知人にその報告ができなくなります。その点をご了承ください」

「あ、はい。ならこれで……」

「はい。ショーン・ハリューさんですね。では、少々お待ちください」


 正直、こんなものがIDになるのかと、心配になるレベルで、記入した個人情報の量は少ない。というか、正味名前だけだ。そして、その名前すら確認もせず受理したって事は、偽名でも構わないのか。


「やっぱり、十級冒険者ってのは消耗が前提の、鉱山のカナリアなんだなぁ」


 僕は口にはせず、心中でそう呟いた。しかし、それは独白ではない。


「そのようです。日々モンスターの駆除を行う人材として、社会を支えるエネルギー源である魔石の採取を担い、最低限の扶持を与えて飼い慣らす」

「まるで炭鉱奴隷のようだ」

「まさにそうですね。そして、なんらかの異変や危険があれば、真っ先に命を落とす事で警報代りとする。それ故に、十級から八級の、所謂下級冒険者には、短期間で一定数のモンスターを討伐する義務が課され、町の周辺に配される。前回の女から聞き出した情報を精査して予測した通りの扱いです」

「だから細かい身分証明も求めないし、なにがどれくらいできるのかにも、興味はないって?」

「この冒険者ギルドという組織が、個人に対して意識を向け始めるのは、四級から上の、所謂上級冒険者と呼ばれる人材のみでしょう」


 前回、グラが受付嬢から説明を受けた内容は、その日のうちに僕も聞かされた。

 十級から八級の冒険者が、下級冒険者。七級から五級の冒険者が、中級冒険者。四級から二級までが上級冒険者。一級冒険者はそのまま一級冒険者と呼ばれるらしい。

 下級冒険者の役割は、さっきグラが言った通り。それに加え、繁殖力の強いモンスターが増えすぎないよう、人海戦術で間引く為の人足扱いだ。ただし、そのせいで就職の為のハードルなどないも同然で、胡乱な輩も多い。下級冒険者なんて、町の住人からすれば、チンピラや浮浪者と大差ないという扱いらしい。

 中級冒険者は、そういう十把一絡げな扱いは受けない。一応は、ここからがプロの冒険者という認識のようだ。

 ただし、とりあえずノルマの緩くなる七級になろうとする者も多く、六級、七級あたりは、下級冒険者と同じような目を向けられる事も多いそうだ。

 上級冒険者に関しては、もう戦闘のプロフェッショナルとして、ギルドからも国からも頼られる存在になる。その活躍の場は主にダンジョンらしい。

……と、前回はここまで聞いたところで、あの男が絡んできたのだ。


「自然な流れで、ダンジョンについての情報収集ができそうだったのに……」

「まったく、忌々しい……」


 僕は嘆き、グラは不機嫌そうに吐き捨てた。

 そこで、男性職員が戻ってきた。


「お待たせいたしました。こちらが、下級冒険者用の、冒険者証となります。下級冒険者の場合、再発行はいたしませんので、紛失にはお気をつけください」


 男性職員が差し出したのは、綺麗に磨かれた銅のプレートだった。その表面に、僕の名前が彫られている。なるほど、ドッグタグってワケか。


「再発行されないって、それでも冒険者を続けたい場合、どうするんですか?」

「再登録し、もう一度十級からやり直していただきます。十級冒険者は、一週間で四個の魔石を納入できなかった場合にも、冒険者資格の失効処分となります。再登録には、当然銀貨一枚が必要になりますが、登録料に関してはギルドに借金という形で、依頼料から前借りもできます。ただし、これを繰り返された際には、詐欺として当局に引き渡す事もありますのでご注意ください。その場合、当然ではありますが、ギルドはその者の身分を保証しません」


 なるほど。どうやら、前回銀貨がなくても、登録自体はできたらしい。まぁ、商人の係累って偽ってたし、それはそれで不自然だったろうけど。


「わかりました。そういえば、受付さんのお名前を伺ってもよかったですか?」

「おや、自己紹介が遅れ申し訳ありません。私はセイブンと申します。今後とも、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 そう言って僕は冒険者証を受け取り、首にかけた。

 こうしてとうとう、僕は正式に冒険者になった。


「冒険者の階級について、説明をいたしましょうか?」

「それは以前きた際に聞きました。下級、中級、上級、一級ですよね?」

「一応、枠外の階級として、特級冒険者という資格もあります」

「え? じゃ、じゃあ、その特級についてお願いします。あ、なら上級冒険者についても、改めて説明していただきたいです。以前は、その説明を受けている最中に邪魔が入ったので」

「なるほど。わかりました」


 セイブンさんの話を要約すると、上級冒険者が期待されているのは、ダンジョンを討伐する実力だそうだ。

 一応は戦闘のプロフェッショナルである冒険者ではあるが、中級冒険者では、ダンジョンの最奥に潜むダンジョンの主を討伐する事は、難しいと考えられている。それが可能だと思われる人材を、上級冒険者として手厚く遇しているそうだ。

 四級で、浅いダンジョンの主の討伐が可能。三級で、中規模ダンジョンの主が討伐可能。二級で、ある程度大規模なダンジョンの主の討伐が可能だと見られている。

 そして一級冒険者は、実際にその偉業を成した英雄がそう呼ばれる。


 ダンジョンの主ってのは、たぶんダンジョンコアの事だろう。なるほど、グラが忌々しいと言っていたのがわかる。僕としても、自分を殺しにくるとわかっている存在を、英雄やそれに準ずる者として語られるのは、ちょっと嫌な気分になった。

 ただ、特級冒険者はそういった戦闘のプロフェッショナルたちとは、毛色の違う人材らしい。一見すると、特級は一級の上かと誤解してしまいがちだが、そうではない。

 前述の通り冒険者の評価基準は、戦闘能力である。しかし、冒険者のなかには戦闘能力は然程高くないものの、ギルドにとって有益な技能を有する人材もいる。そういう才を、戦闘で磨り潰すなど愚の骨頂だ。特級の資格を与えて、上級冒険者待遇で囲っているらしい。


「勿論、戦闘能力に優れた者が特級に選ばれる場合もあります。例えば、指揮能力に優れたパーティリーダー、飛び抜けて斥候能力に優れた者、情報収集に長けた者、なんかですね。こういった人材は、冒険者としても大成する事が多いので、特級資格を与える意味はそこまでありません」

「だったらなんで特級にするんです?」

「人材管理の面で便利なのですよ。誰が、なにを得意としているかという情報をギルドで共有し、緊急事態に際し、迅速に人員を配置できます。情報収集、斥候に関しては、申し上げるまでもないでしょう?」

「まぁ、わからなくもありません」


 ぶっちゃけ、その二つの違いがわからないという意味では、説明をして欲しくもあった。ただ、話の腰を折るつもりはない。緊急時の情報収集が大事だというのは自明だし、ニュアンス的には言葉通りわからなくもない。


「冒険者というのは、本来個人主義的で、最大限でもパーティ単位でしかまとまれません。しかし、緊急事態に際し、現場で指揮がとれる人材がいると、とても助かるのです。いない場合など、冒険者の損耗が激しくなりますから」


 淡々というセイブンさんに、ちょっとひく。やっぱり、冒険者ギルドにとって、冒険者なんてものは消耗品扱いなんだろうか。

 この人に指揮させればいいんじゃない?


「その他の特級となりますと、類稀なる運搬能力を持ったポーター、モンスターの巣から卵を盗ってくる能力に長けた斥候、生命力の理である【回復術】を修めた、あるいは魔力の理である【神聖術】を修めた回復術師、特別な知識を有する研究者、誰もが魅了される歌声の吟遊詩人、同じような理由で踊り子等ですかね。例をあげ始めたら、キリがありません」


 っておい。後半のやつは、冒険者なんてやめて本職になれよ。どうやら、冒険者のイメージをよくするのに、吟遊詩人や踊り子は重宝するらしい。いや、だから、本職に任せようよ……。

 特に、回復術師は緊急時に召集される事が多く、下級や中級冒険者と一緒に戦闘に参加して、命を落とされたくないそうだ。

 それでも、現場の冒険者たちから反発が強く、中級、もしくは下級冒険者とともに行動している回復術師も多いらしい。

 まぁ、どっちの言い分もわかる。現場は死にたくないだろうし、ギルドとしては貴重な人材を、むざむざ危険に晒したくはないだろう。


「なんだか、斥候が多く特級に認定されている印象を受けましたね」

「それは仕方がないでしょう。冒険者は、鬱蒼とした森林や、罠の張り巡らされたダンジョンを探索する仕事だというのに、その評価基準が戦闘一辺倒になりがちです。そうなると、斥候が不遇な扱いを受ける場合が、それなりにあるのですよ」

「なるほど」


 たしかに、戦闘を専門にする職と、斥候は評価の基準が噛み合いにくそうだ。


「まぁでも、まともな冒険者なら斥候の重要さは理解していますよ。腕のいい斥候がいないパーティは、寿命が短いですから」


 あー……。なんでにこやかに言いますかね、そういう事。この人、ホント怖い。

 話題を変えたかったので、セイブンさんに十級冒険者の主な依頼について聞いた。

 十級冒険者の仕事は、繁殖力の強いモンスターの駆除であり、魔石の供給だ。といっても、所詮は駆け出しか胡乱な連中。モンスターの根絶まで期待されているわけではない。精々が、ある程度間引ければ、捨て扶持を与えてやる意味もあるか、程度の期待だ。


「繁殖力の強いモンスターには、いくつかの種類があります。この辺りでは、ウサギ系、ネズミ系、昆虫系、粘体系、鬼系のモンスターですね」


 資料も見ずに、テキパキと説明するセイブンさん。なんというか、デキるビジネスマンといった雰囲気だ。

 外見は普通のおじさんなのに、実に強キャラ感がある。いやむしろ、外見が普通だからこそ、凄みがあるように思えるのだろうか。


「十級冒険者に依頼されるのは、基本的には角ウサギ、牙ウサギ、剛毛ウサギ、脚長ウサギ、大ネズミ、赤ネズミ、長毛ネズミ、舌ネズミ、毒ネズミ、■■ネズミの駆除となります」


 お、おおぅ、どうやら下級冒険者というのは、齧歯類スローターらしい……。そしてなんという安直ネーミング。

 最後の聞き取れなかった部分は、グラに訊ねたところ、『擬態』らしい。周囲の色に同化するタイプの体毛を持つネズミなんだとか。カメレオンネズミ? ちょっと見てみたい。

 先程と同じく、資料も見ずにそらんじたセイブンさんは、表情を変えず説明を続ける。


「依頼の最中に、他のモンスターに遭遇するという状況も多々あります。そうなると、戦闘を避けられない事もあるでしょう。ギルドとしては、下級冒険者が身の丈以上のモンスターと戦う事は推奨できません。ですが、現場には現場の判断もあります。戦う事そのものは、禁止していません」

「まぁ、そうですよね」


 下手に厳命すれば、逃げに徹するあまり、背中に食い付かれかねない。倒しても評価されないとなれば、骨折り損だ。怪我人や死者がでていた場合、ギルドに対する不満も高まるだろう。

 そもそも、ギルドが下級の冒険者の保護を、そこまで熱心に考えているとも、僕は思っていない。


「駆け出しの方の場合、遭遇した相手が、単独の昆虫モンスターや小鬼であれば、討伐してもいいでしょう。昆虫系は種類にもよりますが、小型のものであればそれ程苦もなく倒せるでしょう。問題は、群れていた場合です。極力戦闘は控え、逃げられるなら絶対に逃げていただき、ギルドに情報を持ち帰っていただきたいのです」

「群れた昆虫系モンスターや、小鬼は厄介なんですか?」

「はい。そういったモンスターの対処は、パーティを組んだ中級冒険者向けの依頼となります。複数人で役割分担をし、複数の敵に対処する技量と経験が必要となります。下級冒険者は単独ソロの方も多く、また技量、経験ともに不足している為、生還はほぼ絶望的と思われます」


 な、なるほど。うん、怖いから僕も、昆虫や小鬼にはノータッチでいこう。相手が単独であっても、近くに群れがいる可能性が〇というわけではないだろうし。


「ただ、そういった不意遭遇の戦闘でモンスターを倒した際にも、ギルドはその実績を評価します。きちんと討伐証明を提示していただければ、実績として記録いたします」

「実績があると、昇級しやすいんですか?」

「はい。ノルマ以上の魔石の納入、戦闘能力の証明、ギルドに対する貢献などが実績として評価されます」

「それって、大量に魔石を購入してギルドに納入すれば、すぐに中級になれるんじゃないですか?」

「可能です。ただし、こちらとしても、そういう方法で昇級した人材として見ます。また、魔石の小売価格から考えて、わざわざ七級冒険者の資格を得る為にそこまでの費用をかけるくらいなら、その資金を元手に商売でも始めた方がいいでしょう」

「なるほど」


 でも、僕の場合、魔石は自由に作れる。費用の面から考えれば、そこまで負担じゃない。情報収集の為に、ある程度階級を高めておくという観点からなら、その方法もありだな。

 なにより、一週間で最低四体、昇級も考えるならそれ以上の魔物を討伐しなければならないのはキツい。勉強もしたいし、幻術の練習もしたい。ダンジョンについての調べ物もある。

 うん、やっぱり冒険者は腰掛けだな。さっさと魔石を納入して、昇級しとこう。


 いやまぁ、それでもやっぱり、一度はきちんと戦闘を経験しておくべきだとは思うけどね。


 一通りの事を聞きおえ、いよいよダンジョンについての情報収集に移る。


「ダンジョンについてですか? ここアルタンの町から一番近い場所にあるのは、中規模ダンジョンの【バスガル】となりますね。ここからシタタン方面に、馬車で二日といった距離にあります。もし【バスガル】をメインに活動されるなら、シタタンの町を拠点にした方がよろしいかも知れませんよ? あそこからなら、徒歩半日程度で通えますから」

「いえ、ダンジョンには興味がありますが、攻略がしたいわけではありません。そうですね……、ダンジョンに関する資料とかって、冒険者ギルドで売っていたりしませんか?」

「資料ですか?」


 これまで柔和な笑顔を一切崩さなかったセイブンさんが、初めて表情を困惑に染めた。


「失礼ですが、ショーンさんはその資料をどうするおつもりで?」

「興味があるので調べたいだけです。そうだ! ダンジョンを探す方法とかって、ありませんかね? こういう、マジックアイテムみたいな?」


 そう言って、提灯鮟鱇を見せる。その姿を見て、ただの興味本位と判断してくれたのか、セイブンさんは困ったように苦笑する。


「ダンジョンを探知するマジックアイテムは、ない事もありません。ただ、非常に高価なものですし、この町全域くらいの広さを調べるのにも、かなりの費用が必要になります。個人での使用は、おすすめできませんね」

「なるほど……」


 やっぱり、ダンジョンを発見する方法はあったのか。しかも、それなりに費用がかかるとはいえ、町全域を調べられるような手段らしい。


「それでも、結構探知できる範囲が広いんですね?」

「町に住む我々からすれば、広く思えるでしょう。ただ、使うのは大抵町の外ですからね。広い世界から見れば、針の穴より狭い範囲でしょう」

「ほ、ほぉ。大抵は町の外で使うんですか。ダンジョンが見つかる事は、多いんですか?」

「とても浅いものであれば、それなりに見つかります。ただ、先程も申したように、費用がかかりますからね。それ程頻繁にはできません。普段目にしないモンスターなどが発見された場合、ダンジョンの誕生や、最悪氾濫(スタンピード)の可能性も考慮して使用される事もあります」

「次はいつくらいになりそうですか?」

「おや、どうしてそのような事を?」

「ぜ、是非見学をさせていただけないかと!」


 やべ。ちょっと食い付きすぎて、不自然だったかも。もし本当に使用するタイミングがわかっても、ダンジョンコアのまま見学なんてしたら、身バレする危険もある。焦って余計な事を言ってしまった。


「そうですね……。前の観測からそれなりに時間も経っておりますし、近々行われるかも知れません。ただ、こればかりは領主様の懐事情次第という面もありますし、十級冒険者では警護の依頼は受けられないでしょう。せめて六級くらいにまで昇級していたら、こちらからお声がけしますよ」

「ハハ、お願いします……」


 ギルドから信用を得て、より深く情報を探りたいとは思っているので、階級は上げたい。ただ、六級など先の先だろう。できれば、次にそのマジックアイテムが使用されるタイミングと、場所を知れるくらいの信用は得たい。


「ショーンさんはそれ程ダンジョンにご興味が?」

「はい。できれば、ダンジョンを専門に調べてみたいと思っています。まぁ、どこまで理解できるかはわかりませんし、挫折して普通の冒険者になるかもですけど」

「なるほど。ダンジョンの攻略を求められる中級冒険者であれば、ダンジョンの情報に精通していれば必ず役に立つでしょう。もし志半ばで諦めようと、知識はあなたを裏切りません」

「そうですよね。じゃあ、ちょっとダンジョンを詳しく勉強してみたいと思います」

「はい。頑張ってください。それと資料ですが、冒険者ギルドが集めた情報を、閲覧する事はできますよ」

「本当ですか!」

「ええ。ただ、閲覧を許可されるのは、中級冒険者からになります。それも、七級では少々難しいでしょうね。ですが、ショーンさんであれば、許可がおりるかも知れませんね」


 なるほど。ダンジョン探索で戦力になるとみられているのが、中級からだからな。下級や、とりあえず下級から抜け出しただけの七級じゃ、資料を見る事すら許されないのか。妥当ではある。

 ただ、僕には許可がおりるかもしれない、という言葉の真意は不明だ。まぁ、ただのリップサービスかも知れない。


「より詳しい資料を閲覧するには、さらに上の階級が必要になります。ただ、ダンジョン探索の諸注意を記した冊子でもよければ、本日差し上げる事もできますよ?」

「え? 本当ですか!?」

「ええ。中級に昇級した冒険者に対して、ギルド職員が口頭で注意を促す為の資料ですが、それでよろしければ」

「お願いします!」


 それは、僕らにとっては、値千金のお宝に等しい。なにせ、侵入者がなにを気にするのか、どこに着目するのかが書かれているという事なのだから。


「わかりました。では、少々お待ちください」


 そう言って席を離れるセイブンさん。僕は彼を、上機嫌で見送ったのち、心中でグラに話しかける。


「上々だったね」

「ええ。随分と、得難い情報を得られました。特に、すぐにダンジョンを探知するマジックアイテムとやらが使われる心配はない、というのは重要な情報です」

「それを使う為に、かなりの費用が必要だってのもいい情報だね。上手く誘導できれば、町から離れた場所で使わせられる」

「なるほど。それは思い付きませんでした。もしそちらで使わせられれば、再びこの町の付近で使われるまでには、さらに時間がかかるという目論見ですね」

「ああ。まぁでも、十級のままじゃ、そんな情報操作は無理だ。そのアイテムが使われるまでに、階級を上げないとダメだね」

「あとは資料とやらに、なにが書かれているか、ですか」

「まぁ、そこで情報を得ても、僕らのダンジョンにはしばらく、冒険者は来ないだろうけどね……」


 声に出さず、そう気楽に述べた僕は、まさかその日のうちに、冒険者が侵入してくるとは知るよしもなかった。


 戻ってきたセイブンさんから資料を受け取った僕は、そろそろ帰ろうと思い暇乞いを告げた。そのとき、セイブンさんが声をひそめつつ、話しかけてきた。


「お気を付けください。先日の一件で、あなたがマジックアイテムを保有しているという情報は、冒険者の界隈では有名になっております」

「は、はぁ……」


 曖昧に頷いた僕が、言いたい事を理解できていないと察したのか、セイブンさんは小声のまま付け加えた。


「冒険者のなかには、素行のよろしくない方もそれなりにいます。ギルドとしては恥ずかしい限りではありますが、そういった輩があなたのマジックアイテムを狙って行動を起こさないとも限りません。重々お気を付けを」

「なるほど。ご忠告、ありがとうございます」


 セイブンさんにお礼を述べて、僕はそそくさと冒険者ギルドをあとにした。

 帰り道、市場でオレンジ色のリンゴのような果物を購入する。ちなみに、銀貨一枚。結構高い……。銅貨で何枚か聞いたら、今日の相場は銀貨一枚、銅貨二四枚と三分の一だとか。

 え? 細かな相場変動とかすんの? そして枚数が中途半端で計算しづらい!!

 まぁ、お金なんてほとんど使わないだろうし、相場とかどうでもいいけどさ。


 微妙にすっぱ苦い、でもほんのり甘い茶色の果肉を齧りながら、僕は帰路につく。食感はシャキシャキとしたものではなく、ホロホロと崩れるような、水分がないリンゴっぽい。僕は、こういう食感のリンゴも嫌いじゃなかった。味はイマイチだと思うが。

 まぁ、肉串よりは美味いから、銀貨を払った甲斐はあると思おう。

 セイブンさんが最後にくれた忠告について考える。

 あの発言から考えて、マジックアイテムはそれ程普及しているものではないらしい。この提灯鮟鱇も、結構な値段で売れる代物なのかも知れない。

 だとしたら、全身マジックアイテムで揃えているいまの僕って、かなり豪華な装備って事になるよね。バレたらめちゃくちゃ目立ちそうだ……。

 糊口を凌ぐ為に、鉱山の鉱夫兼カナリヤとして生かされているような下級冒険者が、それを知ってどう思うか。その後なにが起こるのか。火を見るより明らかだろう。

 僕の目の前に、四人の男が立ちはだかった。


「■■、■■■? ■■■■食って■■■■■? 先輩■■、■■■■奢ってくれよ?」


 うん、スラング多めで聞き取れないけど、言いたい事はわかる。

 逃げた。そらもう、一目散に、一言も言葉を交わす事なく。あちこちからゴロツキなんだか、冒険者なんだかわからない連中が現れて、追いかけ回された。

 町中を駆けずり回って、ようやく撒く事に成功し、僕らは拠点へと戻ってきた。


「はぁ……。疲れた……」

「すべてここに誘い込んで、一網打尽にしてしまえば良かったのでは?」


 うん、実にグラらしい意見だ。ただし、それはちょっと短絡思考だと思うぞ。


「第一に、彼らはゴロツキ紛いとはいえ、社会的には冒険者だ。つまり、一度に大量に消えたら、問題になる可能性がある」

「む。なるほど」

「第二に、このダンジョンの処理能力を超える人数が押し寄せかねない。いまのこのダンジョンで相手にできるのは、精々三組までだ。それ以上は、吊天井で一網打尽にでもできない限り、僕らの部屋まで到達する」

「それもそうですね」

「最後に、せっかく情報を得たんだから、早めにダンジョンを広げたい。だってのに、侵入者に煩わされるのは面倒だ」

「納得です。では、以前言っていたように、もう一部屋作るのですか?」

「ああ。いや、一部屋じゃない。下手をすると、下級冒険者がこの家に押し寄せかねない。ご近所さんには多少不自然に思われるかも知れないけど、二部屋作りたい」

「侵入者に対する処理能力を向上させたい、という事ですね」


 そういう事だ。というわけで、僕はちょっとドキドキしつつ、ダンジョンの拡張作業に移る。

 部屋の壁に両手をつき、その先にある地面に向けて生命力を流し込む。ただの土の地面を、生き物であるダンジョンに作り替えていく為に、どんどん生命力を流し込む。

 やがて、少しずつ地面がダンジョンに変わっていくのを感じる。そこにあった土を、生命力をドリルのように操って掘削してみる。すぐに山のように積まれる土砂だが、さっさと保管庫に放り込んで圧縮しておく。

 たしかにダンジョン内を改装するよりも、はるかに手間がかかるし生命力も消費する。だがやはり、事ダンジョンを広げるという点においては、不親切な事に定評のある僕の転生においても、かなりイージーモードなようだ。


 ダンジョンを拡張すると、やっぱり揺れる。だがそれは、現代日本で重機を用いた工事と比べれば、本当に些細な揺れでしかないように思えた。


「こんなので、周りに気付かれるかな?」

「一気に生命力を流し込んで、広範囲を取り込む際には、周辺の町が気付く程度には揺れるみたいですよ」


 なるほど。掘削する範囲の問題か。だったらやっぱり、ちまちまやってけばバレなさそうかな。


「そういえば、最初に会った男も、足元にダンジョンができているのに、まったく気付く素振りはなかったね」


 まぁ、僕もだけど。


「まぁ、ダンジョンと呼ぶのも憚られる程に、小さなダンジョンですからね」

「それを言っちゃあお終いよ」


 ダンジョンの基準では、五メートル四方なんて広さは、逆に想定外だったという事か。周囲に揺れを感知されるような掘削は、探索に数時間、下手すれば数日かかるようなものを基準にされていたのかも知れない。


「まぁ、大規模に拡張できる程生命力に余裕はないし、できてもやらないけどね。町の住人たちに余計な不安を与えて、件のマジックアイテムを使われるのはごめんだ」

「そうですね。例のマジックアイテムとやらは、この町から離れた場所で使わせるのが、最善です」


 その為には、町の住人たちには、平穏な生活を享受していてもらいたい。いや、僕だって平穏に暮らせるなら、それが一番なんだけどさ。




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