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七津守 Primitive  作者: 甘樫楓馨
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序章

序章




ーーーーーーー3000と数百年前、世界は数回目の終末を迎えた。



焦土と化した大地、未だ熱を持つ歪な形に刳れた岩壁、炎をあげる森林、黒煙が覆う上空では時に閃光が走り、そして、霧散する。所々見られる雲にかつての純粋さは一切なく、紫がかった瘴気が文字の通り渦巻いていた。

その天の下を歩み行く人の気配さえ感じられず、また、地が生存の権利を拒むかの如く、一切の生き物の呼吸がそこには無かった。


そこはまるで地獄をそのままこの世に顕現したかの様であったが、気味が悪いほど静寂に包まれていた。



しかし、全ての生命体が息絶えたわけではなかった。

智と術を以ってこうした逆境に立ち向かおうとする"人"も存在したのだ。



【最後の洞窟にて】


洞窟に息を潜め、多くの人々が外界に怯える中で一人の男は思考に思考を重ねていた。

地を蹂躙し、人類を滅亡の危機へと導き得る凄惨な存在。それが今まさにこの地の近くを往来しているのだ。彼らの通った後は草木一本残らない。そして、この惨状を作り出したのは地より這い出る悪魔でも天から舞い降りる使徒でも異形をした化け物でもなく、あくまでも「人間」である。

どう言った経緯で彼らがそんなことをするのかは噂ではあるものの、人々は知っていた。

噂の内容はこうだ。


各地に住まう七人の人々が神に選ばれた。

それを契機として強大な力を得ると同時に神託を授かった。その神託の内容は以下のようなものであったと言う。


〝その力を以って世界に覇を唱えよ〟


それが事実なら人類の滅亡に疑いの余地はない。しかし、それが事実でなくとも強大な力を得た人間が七人も存在するのは事実であり、生きる過程において彼らとの接触もまた避けられないものであることは誰もが分かっていた。彼らの共通点は依然として不明であり、事実の究明もままならない。とにかく切羽詰まった人々の中に不穏な空気が漂い始める。


なにせ国という概念がない時代である。安全のための共同体や自衛のための軍隊などが無いために救援の見込みなど皆無で、暗闇に身を潜める人間は衰弱の一途を辿り、滅ぶのは時間の問題。もはや抵抗の意志などとうに失せていた。

「どうせ死ぬんだ…ならばこの命を投げ打ってでも一人狩りに行こうか。」

誰かがそう呟く。

「よせよ、そんなことしたら俺たちの居場所がバレちまう。死ぬなら一人で勝手にしろ。」

「お前も死ぬんだ、それが早いか遅いかの問題だ。」

生への執着など既に無であるがために、投げやりのような口論が交わされる。徐々に波及し、ヒートアップした喧騒の中、ただひたすらに心を落ち着かせて打開策なるものを練り続ける男がいた。


すると男は突如立ち上がった。

不満と悲しみに包まれた一帯を見廻し、唾を飲み込むと大きく息を吸って言い放つ。


「静かに」



—————————




若い見かけによらず厳かで低い声が人々に沈黙を齎す。だが、彼が作り上げた沈黙はわずか一瞬。人々の溜まりに溜まった不満の矛先が次第に彼へと向けられる。

「こんな状況下でどうして落ち着いていられるんだ。」

「死に際を悟ったんだぞ!一刻の猶予も無駄にしたくないんだ!」

「そもそもあんた誰だよ…見ねぇ顔だが…」

口々にそんな言葉を言い放つ人々の顔に余裕がないことは手に取るようにわかる。

だがそれを承知した上で彼は再びこう言った。


「静かに」


と。

今度は先ほどと訳が違う。こうまで圧をかけられ、緊迫した空気の中誰もが萎縮してしまうのは当然のはず……


なのにその男は特に怯える様子もなく堂々とその場を制したのだ。

加えてその姿勢が、表情が、声が、視線が、人々から僅かながらに不安を払拭するのであった。が、ある疑問が人々の中で生じた。彼の意図である。

何の為に彼がここで立ち上がり、これから何をしようとしているのか、それを察した者は残念ながら一人もいない。だから彼の次の一言を逃すまいと人々は視線を彼に集め、静かに待った。

男が言う。


「私は戦う。」


—————????


人々の疑問に応えた一言はさらに大きな疑問へと導かれた。

「戦うって……はは、本気で言っているのか?」

ある人が失笑気味に彼へ問う。他の人々も同じくそう思っていたであろう。

この人は何を言っているんだ?と。

なんせ相手は天災に等しい存在。何の力も持たないであろうこの男が奴らに勝つなど天地がひっくり返ってもない、そう考えるのは当たり前だった。

「相手が誰か理解しているのか?神の力を本当に得たかもしれない人間離れした人間…つまるところ、もはや神的存在に他ならない、そんなやつらだぞ?」

衆知の事実を改めて言葉にする。相変わらず悍しい響きである。


「ああ、"それ"と戦うんだ。」


男は小さく頷き、人々に視線をやると拳を握って上に掲げる。ついつい視線を拳に合わせた人々はその行動の意味が読めず首を傾げた。

「死に場所が欲しいなら一人でやってくれ…俺たちをまきこまないてくれよ?」

弱腰な一人の男がそう呟く。

しかし男はそれを無視して言葉を続ける。


「私と共に来てくれる者はいないか」


男は再度、あたりを見廻した。

場は騒然とした。当たり前だ、一緒に死にに行こうと言う呼びかけに他ならない、と誰もがそう思う。やはりこの男には生きる意志もなく、共に行くメリットもない。戦いが終息するまでこの洞窟に篭っていれば今より多くの人は生き残れる。多少の犠牲を払えども復興の兆しが見込めるならそれでも厭わないという共通意識がその場の空気を包む。


が、その犠牲に自分がなると考えると、、、


俯く人大多数。もはや協力は見込めない。人々の反応からそう察した男はさらに言葉を発する。


「死なせはしない。私はこれ以上死人を見たくはない。」


———————矛盾


それならこの洞窟に篭っていれば少なくとも奴らに殺されることはない。

つまりそれは延命を表す。

「こっちから打って出る必要はなくないか?」

誰かがそう言う。

すると、覚悟を決めたように男は自らの思いを告げる。


「ここは運命の分岐点だ。決定権は君たちにある。故に私が強要することはない。」


男の頭の中に既に構想が練り上がっているのだろうか。男の目には燃え上がる闘志と現状を見つめる冷静さが共存する。しかし、男の成そうとしていることはあまりにも現実味が無い。それ故に人々の疑いの念は一向に晴れない。

既に男に構わず船を漕ぐ者、視線だけはこちらへ向けて何やら陰口らしき行いをする者、中には石を投げつける者も居る。

次第に人々はその流れに乗って、よってたかって石を投げる。

怒声が響き、暴力を振るう者まで現れるが、男は一向に抵抗しない。

寧ろ、男は皆を見つめ、信じるような視線を向ける。


次の瞬間その憐れな姿に耐えかねたのか、一人の青年が涙を流して叫ぶ。


「もう止めようよ!」


ぎょっとした皆は青年に視線を向ける。


「もうやめようよ…この人が死んじゃう。」


よく見ると男の腕には痣ができ、足にはいくつかの傷ができていて、血も出ている。


「僕はなんの役にも経たないかもしれない。でも、僕はあなたに協力したい。」


一人の青年の勇気ある発言に心を打たれたのか皆は黙り、ただ呆然と青年の姿を見守る。人々はありえない事態が起きたことに理解が追いつかないのであろうか、視線を交わし合う。


「私は信じていたよ。君のような立派な少年がこんな薄暗い洞窟にもいることを。」


優しく微笑んだ男はその痣だらけの手を重そうに持ち上げて少年の頭を撫でる。魂が抜けたような顔をしていた少年はハッと気がついたように


「やめてくださいよ…僕、もうそんな歳じゃないし……」


と、手を優しく握ってその手を頭からどかす。ばつが悪そうに青年は皆の前へ進み出て拳を握るとキッと前を向いてこう言い放つ。

「僕らが君たちを救う。だから、ここで待っててくれないか。」

青年の一言一言には奮起と焦燥感と微かな希望を感じる。どうやらそれを感じ取ったのは、この男のみならず皆、同様であったようである。

「こんな餓鬼が勇敢に立ち上がってんのに、狭っ苦しい洞窟ん中でじっとしてられっかよ。」

立ち上がったのは燃えるような赤髪の男である。

男はわかっていた。自身が皆に語りかけ、協力を申し出る時、この赤髪の男は一切男から目逸らすことはなかった。それ故にこの赤髪の男には桁違いの強さとそれを打ち消すような心の弱さが共存していることを。


この赤髪の男は男をバッシングする人々の一言一言に胸を打たれ、その周囲の人々が醸す同調圧力に飲まれていた。そして、自身の本意を塞ぎ込み、自身の運命を根本的に変えてしまうかもしれぬ第一歩を踏み出せずにいた。


それが今、勇敢なる青年の行動がこの赤髪の男を鼓舞したのだ。


赤髪の男は青年の隣、皆の前へ進み出た。

これ以上名乗りを上げるものは居ない。


そこで男は今一度、心中を明かした。


“この戦いは、運命の分岐点だ。ここでずっと怯えていたって、戦いが終わる保証などない。だからと言って、打って出れば生き残れるなんて保証もない。ただ私は、私たちが明るい未来を掴むために、こうして立ち上がったんだ。そして戦いを終わらせる。これが持たざる者たる私たちの決断であり、私たちの一歩である。”


圧倒的な剣幕に伴う意志の強さと気迫に人々は戦慄する。が、その合間合間に希望も見出す。ひょっとすると、この人たちが成し遂げてくれるかもしれない。そんな希望である。

こうして大きな志を抱いた男たちを目の当たりにして、人々は小さな英雄神話の序章の序章を見ている心地になりながら彼らに賞賛の拍手をおくる。

初めまして。甘樫楓馨(あまかしふうか)と申します。今作品が初の掲載作品となり、何かと拙い所が目立ちますが仏の顔でお許しください。さて、今作、七津守(ななつかみ)Primitiveは後から書く予定である七津守のサイドストーリーであり、実はあらすじにある通り本編ではございません。ゴメンナサイ ところで“Primitive”とは“原初”を意味し、その文字通り今作は世界秩序の始まりを描いています。(本編すらないのに…)今作の主人公の名前すら明かされず序章を終えてしまいましたが、物語はまだまだこれからです。お楽しみにお待ちください。またこちら側の話となりますが、物語の構想自体はほぼ成っておりますが、表現にこだわりという点や筆者自身がまだ学生で十分に時間が割けない点によって、更新は不定期となりますが、是非気に入っていただけた方は首を長くしてお待ちください。それでは失礼します。

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