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「なんか祐二最近さ自分堕落したなーって思うことないか?」
俊弥はふとそんなことを口にした。改装を目前に控えるだけあって、大分年期の入った学生食堂で僕と俊弥は昼食を取っていた。いつもと同じ二百六十円のカレーライス。値段とボリュームのアンバランスさが学生の絶賛の的になっている。
「急にどうしたのさ。てかどういう意味?」
「去年の自分思い出してみ?めっちゃ一日一日を大事にして生きてたと思うんだよね。それに比べて今の自分達ってどうよ?毎週のように飲み会を開いて、次の日の朝は二日酔い、んで結局午前の講義はサボって昼登校。つまり今の俺達なんだけどさ」
ウコン飲んどきゃ良かったなと俊弥は声をあげて笑った。
ああ、そういうことか。と納得し、去年の自分を振り返ってみた。
僕達は四月に大学生活をスタートさせた。俊弥が言っている去年の自分達とは受験の一年のことであり、確かに激動の日々であった。一日一日どころか一時間一時間を僕は大切にしていた。一日のほとんどを勉強時間にあてる日々、毎日が同じような作業の繰り返しでそれが永久に続くかのように感じていた。でも実際に入試直前を迎えると、もうこんなに経ったのかとも感じた。そんな頑張りが実ったのか、入るのが大変と言われている日本の中で難関といわれる神名大学に合格することが出来た。今でも様々なことをまるで昨日のように思い出せる。
「確かにそうかもね。でも去年あんなに頑張ったからこそ今年は休養って僕は考えてるけど。来年からは院試の勉強始めるつもりだし」
僕達は法学部であり、二人とも法科大学院に進むことを目標としていた。
「そりゃそうなんだけどさ、俺この前のゼミの飲み会で言われたんだよね」
「飲み会?」
「祐二は参加してないやつだけど。良い感じに酔ってきてうちの大学の話題になったわけ。そしたら由紀が『神名大って高校の時は真面目で勉強オタクみたいな人しかいないって思ってたんだけどいざ入ってみるとチャラい人結構いますよね』って先輩に言ったんだわ。そしたらその先輩『でも見た目チャラい人はいるけど中身はやっぱ真面目じゃない?』って答えた。ここまではまあありそうな会話だろ?」
「うん、まあ」
「そしたら由紀、俺の方見て『でも俊弥って見た目チャラくて中身カスだよね』って言ってきたんだぜ、有り得なくないか?」
僕は声をあげて笑った。由紀らしい、と思った。由紀は僕達が仲良くしている数少ない女子の一人でさっぱりした性格の持ち主である。僕は由紀のそのすがすがしさが気にいっていた。
「笑いごとじゃないだろ、俺結構へこんだんだぜ」
「ごめん、ごめん。で、俊弥は自分堕落したなーって思ったんだ?」
「思い当たる節が無いわけじゃないからな。で、今の自分にはなにが足りないのかを考えた。祐二はなんだと思う?」
こういう所で変に真剣になる俊弥が僕は好きだった。由紀は冗談で言ったんだろうけど、俊弥の中身はそこまでカスではないと思う。
「熱中出来るものかな?」
「俺も同じ考えだ。幼稚園の時は先生、小学校の時はスカートめくり、中学校の時は部活、高校の時は勉強、ときどき恋愛。いつだって俺は何かに熱中していた。でも今はそれがない。これって問題だよな」
「いまはアルコールに熱中してるじゃん」
「それじゃ駄目なんだよ。で、俺は考えたわけだ。次は何に熱中するか、色んなアイデアが浮かんだけど一つに決めた。そしてそれを今日から始めることにする。というわけで今日の放課後、俺ん家で作戦会議をする」
「作戦会議?てかそれって僕も参加するんだ」
「友達なんだから当たり前じゃん。そう、作戦会議。俺は今日をもって新しいサークル『動く会』を発足する。代表は俺、副代表は祐二だ」
腕時計に目をやると講義開始の時間を表示している。また遅刻だ。