第60話 亡き父母に捧げる受賞
―――舞台の正面中央には、アルカディアの紋章である正八面体を模した大きな旗が掲げられ、その左右では、楽団が心地よい音楽を受賞式の進行に合わせて奏でる。青色のカーペットが敷き詰められ、その中央に正八面体の図柄があしらってある。中央よりやや右側に白い演壇があり、登壇者にスポットライトが当たるようになっている。左右の舞台袖近くに目を移すと、正八面体の模型が浮いて、ゆっくりと回転している。そして、その舞台上には白を基調とした椅子が、ずらりと配置され受賞者が着席している―――
ここは、アルカディアでも最も格式が高く、大きな劇場。今、学園国家アルカディアの校長兼国家議長ニコラス・オクタエダルが、開会の言葉を述べ、受賞式が始まった。
僕はオクタエダルから、勲章と目録を受け取り、その白い演壇で受賞の感想を述べた。
「皆さん、こんにちは。ジェームズ・ダベンポートです」
と他の受賞者より、気さくな感じで、笑いを誘った。
「今日、僕は魔法学賞という、大変栄誉ある賞をいただきました。二十歳そこそこの若輩者には、身に余る光栄と感じ恐縮するばかりです。これは、ひとえにニコラス・オクタエダル先生他、先生方からのご指導の賜物であると心より感謝いたします」
僕はここで、オクタエダル他、教授陣に目を向けて一礼した後、水を飲んだ。
「さて、皆さん、ご存知の方も居られるかもしれませんが、僕ジェームズ・ダベンポートは、今はもう滅亡してしまった旧エルメルシア王国の王族の一人でした。そしてこのエルメルシア滅亡には、オクタエダル先生からも報告がされていますが、ある事件が絡んでいることは、皆さんもご存知のことと思います」
僕は会場を見回した。ヘンリーが座っていることが判り、目を合わせた。
「僕はこの事件で使われた魔法が、どのようなものかを深く理解するために分析していくうちに、二つの特徴があることに気づきました。それは、魔法残滓に、人によって違う場所があり、その人が使う魔法にはすべて共通した痕跡が残ると言うことです。丁度、人の指紋の様にです」
僕は親指を立てて、会場を見回していると、カービン・クロファイルに目に止まった。
僕は何故かカービンから目を離せなかった。
「その痕跡を逆演算して、目に見えるようにする方法と、その魔法具を錬金術を使って開発したわけです」
カービンに目を向けたまま話を続けた。
そして、
「僕は、この受賞を、この事件で僕たちを守るために命を落とした亡き父母と騎士団に捧げたいと思います」
と言って、お辞儀をした。
はじめ会場は水を打ったような静けさであったが、教授陣から拍手が起こり、万雷が鳴り響くようなスタンディングオベーションへと繋がった。
アーノルドはもちろん、シェリー、ヒーナ、そしてヘンリーも泣いていた。
◇ ◇ ◇
その後、受賞者の講演が数日に分けて行われ、より突っ込んだ議論がされた。
そして、最終日の晩餐会が始まった。
ヒーナ、シェリー、ケイはイブニングドレスになり、注目の的だった。もちろん、僕やアーノルド、兄上が付いているので、悪い虫は全く近づけなかった。
逆に、僕に近づいてくる、女の子をヒーナが追い払っていた。
「まったく、油断も隙きもありゃしない。ジェームズも、余り愛想を振りまかないで」
とヒーナが、ちょっとプンプンしていた。
ヒーナは、髪の毛をアップにして、肩が露わになった青いイブニングドレスで、ものすごく素敵だった。腰に付けているポシェット以外は。
「ねぇ、ヒーナ。そのポシェット、ちょっと合わないじゃないの?」
と耳元で囁いた。
「良いのよ。私が錬金術師って証は、今はこれしかないのだから」
「ふーん。で何入っているの? 二日酔いの薬とか?」
と僕は、ポシェットの中身を覗き込んだ。
「それもあるわね。でも、人格交換剤は大事だから持っているの」
ヒーナは、例の薬をちょっと手に持って見せてきた。
僕は上体を引き気味に
「えっ、ここで使うじゃないよね」
「流石にそこまではしません」
とちょっと、プンとしてヒーナは答えた。
「また、主達、イチャツイているぜ」
アーノルドがグラスを片手にぼやいていると、
「あら、いいじゃない、ご主人様方は、婚約も公言している事なのですから」
とシェリーが突っ込んできた。
アーノルドはユックリとシェリーの手を繋ごうとして、
パシッと気で弾かれた。
「ダンスと手合わせ以外は、拒否します」
とシェリーはキッパリ言った。
「ですよねー。ははは」
とアーノルドは笑いながら、新しいグラスを取りに行った。
拒否したはずのシェリーは、複雑な気持ちで、アーノルドの背中を見ていた。




