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雑貨屋の主人は錬金術師  作者: 村中 順
サキュバス事件
53/162

第53話 甘い罠

―――シン王国教会聖都、それは聖教の本部が置かれた、聖なる都市。広く、整然とした路地に植えられた並木の落ち葉によって、黄金の街道に見える大通り。そこを一歩入った路地裏には、怪しい飲み屋、盗品を売っている店、そして娼館。この世界の聖魔と同じように、光の中にも影の部分が存在する。夜の帳が降りる頃、その怪しさは一層際立った―――


「あの小僧の従者の男は、時々この界隈に顔出す。今日も宿を出たところを確認しているから、きっと来るだろう」

フードを深く被った影の頭領が部下たちに指示している。


「いいか、あの従者は、従者の女同様、腕が立つ。だから、力押しはできない。今回はあの従者の男を籠絡して、小僧をおびき出す」

と頭領が指示しているところに


「籠絡って、あたいが〜やるの〜? 」

緊張感の無い言葉を部下の一人が発した。


「ビガー、お前には、その素質は全く無い」

と頭領が間髪入れずにキッパリと言い放った。


 それを聞いた、ビガーは女の魅力を全否定されように感じ、頬を膨らまして、ふてくされた。


「エルメルシアと同じにサキュバスにさせる。ただ、時間は掛けてられないので少し手荒に行く」

13年前エルメルシアの王弟ギールを籠絡したサキュバスを使うことにした。


 本来、魔族であるため、ローデシアとは敵対関係にあるが、兵士に捕らえられ檻に繋がれたサキュバスをヌマガーが拾った。

 皇帝から、『地下牢にいるから、使えるものなら使ってみよ』と言われたらしいが、詳しい経緯は良くわからない。

 ただ、従順で指示には良く従う。一方で部下の男たちまで、虜になってしまうので、使い方には注意が必要だ。


 俺は、サキュバスに指示を言い含めた。

 その吐息は、甘い花のような香りがした。


    ◇ ◇ ◇


 アーノルドは商人風の服装に、竜牙重力短剣だけを身に着けて、怪しい路地裏を歩いている。


「ねぇ、カッコいいお兄さん寄って行かない? いい子がいるわよ。アンタみたいな偉丈夫なら、朝まで奉仕してあげる」


 俺が、こういったところを歩くと、いつもこんな誘いがある。しかし『お前、魔族だろう』というような風貌だったりする。流石の俺も、それは抱けねぇ。

 それに、最近はアイツの顔がちらついて、集中できない。


 今日も(あるじ)とヒーナは、部屋で仲良くやっているし、アイツは、メリルキンから教わった料理を作るとか言って、宿の厨房で格闘していた。それで何枚のフライパンを爆発させたか判らない。


‘どっか旨い酒を飲ませるところはねぇかな’

とぶらついていた。


「止めてよ、アンタ達みたいな奴は嫌なの」

「このアマ、商売女の癖に、なに選り好みしているだ。朝まで可愛がってやろうって言っているじゃねぇか、痛め合わねぇと判らないのか」


 バシ

「キャ」

と殴る音がした。


 女が倒れた。そこを男たちが蹴りを入れている。


 こういった路地裏には、よくある光景だ。

 たいてい、紐がついている・・・はず。

 

 ‘紐、こねぇな。独り身さんかい。しょうがねぇな’


「おい、オメェら。女ひとりに、汚いゴブリンみてぇに恥ずかしくねぇのか? 」

と俺は腕を組みながら、なるべく穏便に話したつもりである。


「あん、何だと、痛い目いあいたいのか」

と男たち4人が、刃物を出して俺を取り囲んできた。


‘面倒くせぃ’

アイツから習った、体術だけで、終わった。


 男たちは、お約束の捨て台詞を吐いて、逃げていった。


「大丈夫か? 」

と倒れた女の方に歩いていきながら尋ねた。


「えぇ、ありがとう。でも足が」

と言うので俺が足を見てやると、蹴られたのか腫れている。


 そして、華奢で長い脚をたどると、魅力的なヒップに、くびれた腰、伏せていても判るその胸、ブルネットの長いウエーブの掛かった髪にスッキリとした顔、赤い口紅に二重ふたえで大きな切れ長の目、そして、長い眉を痛みで少し寄せている顔。


 ‘こんな女が、こんな路地裏にいたら、そりゃ虫が寄ってくるよな’


「お前ぇみてぇのが、こんなところにいたら、危ねぇぜ。店はどこだ」

「店ないの。独り身さんなの」

と女は、うつむき加減で喋ってきた。


「今日は、帰んな。怪我してるからな」


 女は立ち上がって歩こうとしたら、よろけた。


俺は咄嗟に肩を支えた。


「歩けないわ」

俺の顔の近くで声がした。


 その吐息は甘い花の香がした。

 頭の心がジーンとする。


「ねぇ、家まで送ってくれない? 」

耳元で囁かれた。


 何故か、考えることが億劫になってきた。


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