第51話 王の決断
ローレンス・マリオリは、各地に派遣している密偵、特にローデシア皇国の状況を聞いて唸っていた。
ローデシア皇国の物資の大量輸入、被征服国からの苛烈な徴用、武器の異常な生産量、実戦さながらの訓練。
これが示すものは、戦争の準備。
しかし、一体どこに向けて?
規模から考えて、周辺小国ではない。
「ローデシア皇国は、一体どこと始めるつもりだろうか?」
とヘンリーが聞いてきた。
「まだ、判りません。小国相手ではないと考えられますが」
と答えた。
ここは、レジスタンス本部の幹部会議室である。ヘンリーと共に各地を周り、その求めに応じて人が増えてきた。もちろん、誰でも入れたわけではない。魔物狩猟者として、魔物を刈りながら、これはという人物にだけ声を掛けてきた。
世情が不安定になりつつあることを、志があるものは感じており、共感を得るのは難しくない。
しかし、一緒に事をなそうと思うには、こちらの信用が重要だ。
その点、ヘンリーの人徳、カリスマ性は素晴らしいものがある。
彼は十三年間、『何も成してこなかった』と言うことがあるが、その十三年の苦労こそが、彼の人徳を作ったと言える。
この私のように、彼の王気に触れて、決断する者が何人もいる。
そして、今、この幹部が集まる会議で、ヘンリーに二つの提案をしなければならない。
嫌がるかもしれない。
しかし一つは必ず飲んでもらう。もう一つは彼の判断となる。こればかりは私でも強制できない。
「ヘンリー、二つ提案があります。一つは飲んでいただく必要があります。もう一つはご判断にお任せします」
◇ ◇ ◇
マリオリが、提案と言ってきた。一つは、恐らく王を名乗れだろう。もう一つは、浮かばない。
「なんだい、ローレンス。そんなに畏まって」
と敢えて気さくに聞いてみた。
「一つは、君臣の序列を示されることです。ローデシアに対抗するためにも、また、王気に触れた同志のためにも、その生命を賭しても守るべき旗となるために、王が王と成ることを望みます」
私は、少し考えた。
’人心を纏めるには守るべき旗が必要だ。私にその旗の資格があるだろうか。’
しかし
’集まってくれた同志に『死ね』と言わなければならない。敵を『殺せ』と言わなければならない。そしてその責任すべてを負う者が必要だ’
王の血を引いた者が、その責を担わなければならない。
私は、腰に挿しているエルメルシアの柄を左手で握りながら考えた。
もはや逃げることができないだろう。
決断の時だ。
「ローレンス、解った。皆に異論なければ、私がその旗となり、私の配下となった者の責任をすべて引き受ける」
とマリオリに答え、皆の顔を見た。
するとマリオリが
「ここに集まった同志諸君に聞きたい。このヘンリー・ダベンポートを王として仰ぎ、忠誠を捧げることに反対のものはいるか? もし反対であっても、誰も責めない。責めるような狭量な同志はここにはいない」
「…………」
少し、時間をおいて、サン・ユアンジアが、
「マリオリ殿は、相変わらず固い。ここは、忠誠を捧げることに賛成のものは? と聞けば、皆声を上げて賛同するぜ」
マリオリが、頭を掻き、笑いながら、
「これは、失礼した。忠誠を捧げることに賛成の者は、手を上げて、賛成の意を表してくれ」
と言った途端に
「おう」、「我等が王に栄光があらんことを」、「王に忠誠を尽くします」
と口々に、全員が拳を上げた。
「皆、ありがとう。ローレンスは、君臣の序列を示せと言った。そして皆の賛同のもと、我は王を名乗る。そして、私は、君臣の義を大切にしたい」
歓声が上がった。
暫くして、マリオリが、
「陛下、二つ目の提案は、一度、弟君に会われることです」
マリオリは、頭を一度下げた後、真っ直ぐにこちらを見て言った。
「『弟君を同志に』、と言うのではありません」
誤解の無いよう強調して言った。
「あの事件の裏にはローデシアが関係していたことは間違いありません。その事件の生存者として、新たなローデシアの暴挙をお伝えしておくことが重要と思われます」
マリオリは、身振り手振りと交えながら説明してくれた。
これも、潮時だと感じた。国はまだないが、王として立った以上、ジェームズに会っておく必要がある。あの事件の精算をするためにも。
「解った。弟は、アルカディア魔法学賞を受けるために向かうはずだ。そこに出席したい」
「オクタエダル議長には、臣から伝えておきます」
とマリオリは頭を下げて言った。




