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雑貨屋の主人は錬金術師  作者: 村中 順
アルバでの襲撃
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第36話 暗殺の小手調べ

 二軒目の真珠取扱の店を出て、三軒目に行く途中の海岸沿いの道。曇り空で、風が出てきた。低い草が、海の波とは違う波を打っている。


「よう、兄ちゃん、お前、錬金術師だろ、賢者の石を渡してくれねぇかな」

と柄の悪そうな、兄さんたちが寄ってきた。


 男は五人で、筋肉もりもりが三人、ヒョロっとしたのが二人、それにフードをかぶった女が一人。


「僕には若干、錬金術の心得はあるけど、賢者の石は、君たちには使えないだろう?」

「うるせーな。そんな事、お前が心配することじゃねぇ。とっとと渡せ。それとも、痛い目見ないと、解らねぇのか?」

と、男たちが息巻いている。

 後ろで、フードの女は妙な笑い声を発していた。


“ご主人様、男どもは大したことありません。しかしフードの女は、油断なりません”

とシェリーが伝えてきた。


 僕は、頷いて


「いやー、持ってきてないですよ。ほら」

と両手の甲を向けて、指を開いて見せた。多くの錬金術師は、賢者の石を指輪にしているからだ。


「どっかに隠しているんだろ。まあ、良いや。体に聞いてやる」

と言って、五人の男は、僕たちを取り囲んだ。


“フードの女はできれば捉えたい。何か知ってそうだ。でも誰も殺さないでね”

とシェリーに言った。


 男の一人が、バスターソードを振って襲ってきた。まあ、それなりに強そうだが、

 シェリーは、何もしないで、僕の横で突っ立っていた。

 でも、ソードの軌道はそれて、男は、大きく空振った。


「なんだ?」

その男は、理解できないでいる。


 シェリーが男の肩に手を乗せたとたんに、そのまま気絶した。


「この女、気を使うぞ、気をつけろ!」

他の男達が叫んでいたが、それダジャレか?


 ヒョロっとした男が、シェリーと同じ、八相掌の形を使ってきた。これにはシェリーも応えないわけには行かない。


 シェリーも八相掌の形で応え、お互いの間合いを取り、二手ほど掌で打ち合った。


 シェリーが、僕から離れたのを良いことに、刀をあげて、僕の方に迫ってきた。


「おやおや、僕の方に来るだね」

とちょっと、戯けて見せて、パッチと指を弾いた。既に術式は完成していたので、仕上げに指を鳴らしてみただけだ。

 三人の男たちの足がズボッと土にめり込んでいく。


   ◇ ◇ ◇


 遠くで様子を伺っていた、影の頭領は、


‘ヌマガーの言う通り、あの従者は玄武結界を使うらしい。王女は集中してやっとだったが、あの従者は何の変化もなかった‘


“ビガー、向こうの女が離れている時、俺が、術をかける。お前も錬金術師の方を殺ってみろ”

“はーい、解りました”

ビガーはこの場にふさわしくない、気の抜けた返事をしてきた。


 男たちの足がドロに取られている時、土の槍をジェームズに向けて発した。

 同時にビガーが、超スピードでジェームズに向けて、スモールソードの突きを放った。


 影の頭領にはどちらも、錬金術師に当たった様に思えた。しかし、土の槍は消えていた。あの丘のときのように。

 そして、従者の女は、男と闘っていたはずなのに、ビガーの横に現れ、剣を持つ右手を払っていた。その時、ビガーのフードが捲れて、虎種の耳が露わになった。


 ビガーは、さっと後ろに一度引き、シェリーに向かい刺突を浴びせている。


   ◇ ◇ ◇


 土の槍、咄嗟に土の性質を変えたが、フードの女の攻撃はシェリーが止めてくれなかったら、食らっていたと思う。


 しかし、少しすると僕は、自分の頭に血が上るを感じた。

『怒り』 あの草の中でアーノルドに抑えらていたときの、あの怒りが甦った。


 何処に居る? アルケミックコンパウンドボーを出し、結界を最大限に広げ、あの魔術師を探した。

 そこにさっきまで、シェリーと闘っていた八相掌の男が僕にちょっかいを出そうと近づいてきた。


 僕は、

「うるさい!」

と、大きな声を出し、弓を二度弾いた。


 八相掌の男の両足は、矢に貫かれ、ぶっ倒れた。


   ◇ ◇ ◇


 シェリーは、フードの女に対応している。


 虎種の女の剣は、直線的なのだが、猛烈なスピードで迫ってきて、数十回の刺突を繰り出してくる。それを避けながら、腕や体に近付こうとすると、また凄いスピードで引く。引いた後、瞬間移動でフードの女の後ろに出ても、さっと引き、そして刺突を繰り出してくる。


 シェリーは、そのフードの女の動物的感、反射神経、正確な刺突には驚いた。


 一方、ビガーも

「あたいと、やりあって、こんなに立っている奴は、あんたが初めてだ」

と一言いったあと、全神経をシェリーに注いでいる。とてもじゃないが、錬金術師の方には行けない。


   ◇ ◇ ◇


 離れたところから見ている影の頭領は、ジェームズの動きを観察していた。


 すると雨が降り出した。いや、自分の周りだけだ。影の頭領が自分の体を見ると、雨の雫が一滴も体から流れていかない。


 驚愕した。あの雨だ。


 方位干渉術や隠遁術を掛けているので、あの錬金術師には、正確な場所は判らないはずだが、多分ここら辺りに居ると当たりを付けて、あの雨を降らしてきたのだろう。

 すぐに逃げないと、水の重さで動けなくなる。しかし、ビガーを置いていくわけには行かない。


 影の頭領は、ビガーと錬金術師が居るところへ、大地を波の様にうねらせる術を発した。


 従者の女と錬金術師がひるんだ瞬間を見計らって、ビガーのところに瞬間移動し、地面を分かち、ファイアウォールを俺たちと錬金術師の間に顕現させた。

 ビガーが一緒だと、瞬間移動は使えないため、隠遁術、方角干渉術を掛けて、兎に角、雑踏目掛けて走った。


   ◇ ◇ ◇


 ファイヤウォールから、僕を守ろうとしてシェリーが瞬間移動をしてきて、そして覆いかぶさってきた。

 僕はちょっと混乱したが、シェリーを見ると火傷を負っていた。かなり重症で、これまでの怒りが吹っ飛んだ。


「シェリー、シェリー、大丈夫か?」

「ご主人様に何もなくて、安心しました」


 意識はあるが、足の火傷がひどい。僕は回復薬をかけて、


「痛いけど、コロン車まで我慢してくれ」

シェリーに重さを軽くする術を掛け、背負って、コロン車に急いで引き返した。


‘また母上に助けられた’

僕は心の中で謝った。


   ◇ ◇ ◇


 コロン車にある培養タンクを用意した。その間、双子の聖霊師が、回復魔法をかけていた。


「ご主人様、申し訳ありません」

「シェリーが謝る事じゃ無いよ。自分で入れる?」

「大丈夫です」


 横にいた双子の聖霊師が、

「シェリーも自分で立てる様にはなったようじゃ。後は我等が診ておる」「診ておる」


 双子の聖霊師は外を指差して、


「アーノルドも心配しておる様じゃ。行ってやれ」「やれ」


 僕がコロン車から出るとアーノルドが心配して、近ずいてきた。


(あるじ)、シェリーは」

アーノルドは、火炎が上がったのを見て、駆けつけてきたらしい。


「大丈夫だ、脚に大きな火傷を負ったけど、聖霊師様に応急処置をしてもらい、今、培養液に浸している」


 シェリーは、ホモンクルスなので、回復魔薬より、培養液の方が早く治る。


「そっか。俺がいなくて、シェリーには悪いことしたな。で、相手の目星は付いているのか?」

「あの時の魔法使いがいたと思う。明日、真名模様を取りに行くから付き合ってくれ」

「了解だが、シェリーは?」

「明日には大丈夫と思う」


   ◇ ◇ ◇


 次の日、シェリーの火傷は、思ったより早く回復した。これも培養タンクの外から双子の聖霊師が回復魔法をかけてくれたお陰だろう。


 僕たち三人は、昨日の海岸へ行った。

 その道すがら、アーノルドはシェリーから、スモールソードの女の剣筋を細かく聞き出していた。シェリーの記憶は、消去しない限り、ほぼ全て残る。時折、シェリーが、スモールソードの型をやって見せたりしている。それを熱心にアーノルドが見ている。


 こんな時に、なんだが、アーノルドがシェリーの話を真剣に聞いているは珍しい。


海岸で真名模様を取ってみた。案の定、悲劇の日の魔術師のものと合致した。


 スモールソードの女は一味で、他はここらのゴロツキを雇っただけだろう。危険をおかしてまで、女は救ったが、他の男達は火炎の巻き添えを食った。

 賢者の石を渡せと言っていたが、それが目的とは思えない。


   ◇ ◇ ◇


”あいつは駄目だ。正攻法の暗殺では難しい。十三年前のオクタエダルに匹敵するかもしれない。少し時間がかかるが、任せてもらえるか?”

影の頭領が、魔法通信でヌマガーに聞いてきた。


 ヌマガーも、ジェームズに恐れをなして逃げた口。とても影の頭領の言葉を否定する事は出来ないと感じていた。


「良いだろう。ただ、こちらの準備も進行中だ。その前にやった方が良いが、任せる」

ヌマガーは、曖昧な指示しか出せない自分にもどかしさを感じた。


「ところで奴の賢者の石は何処にあるか、心当たりはあるか?  指輪ではない様だがな」

と影の頭領が続けて、ヌマガーに聞いてきた。


「多くの錬金術師は指輪にすることが多い。後ペンダントという例もあるが、確かに奴の賢者の石は何処にあるかわからない」


 それを聞いた、影の頭領は、刈り損ねた禍根が、大木になった様に感じた。

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