第28話 新しい同志
―――そのころ、ヘンリーは、レオナと様々な魔物刈りパーティに入り、信のおける同士を見つける旅をしていた―――
怪しい人属が集い、ガヤガヤと少し騒がしい、村の安酒場。酒と煙草の匂いが漂い、魔物狩猟者達が、逃した魚の自慢話に花が開いている。そんな魔窟とも思える店の隅の席に、簡単な料理と酒を注文して、私とレオナは羊皮紙を前に相談していた。
「レオナ、この募集はソイ村近くに出没するトロール数体、大規模なパーティを組んで討伐するようだな」
と私は羊皮紙を見ながら、聞いてみた。
「そうです。これまでも幾つか大規模パーティ募集に応じてきましたが、なかなか、これはという人物は居りませんでした。しかしこの募集の指揮をとるのは、ソイ村に数年前から住み始めた、ローレンス・マリオリです。これまでとはちょっと違うかもしれませんな」
レオナは、手を羊皮紙に添えながら答えた。
私は、顔を上げレオナの顔を見て、
「大賢者と名高いマリオリか?」
「そうです。ローデシアに靡こうとする主君に諫言を呈して、疎まれて出奔した人物です」
レオナは前かがみだった上体を戻しながら答えた。
「お前に似ているな」
「拙者など、マリオリ殿の足元にも及びません。比べる対象にもなりませんな」
クライムは首と手を振りながら、恥ずかしそうに答えた。
「しかし最近魔物の数、種類がどうにもおかしい。トロール、ゴブリン、オーガなど、はぐれにしては多すぎないか?」
私は少し話題を変えて、最近感じていたことを聞いてみた。
「拙者もそうのように感じておりました。ローデシアが故意に手を緩めているようにも思えますな」
レオナは腕を組んで、頷きながら答えてくれた。
―――二百年前の聖魔大戦争で、魔族は北の大陸、人属はロッパ大陸とメル大陸を支配するように区分けの協定と相互不可侵の条約が結ばれた。これにより、デーモンを頂点とする、知能のある魔族(ゴブリン、トロールなどの多少人語を解する魔物も含む)は北の大陸から、基本的にロッパやメル大陸に侵入しないことになった。しかし、はぐれと呼ばれる魔族が時折、南下してくる。ロッパ大陸で、そのはぐれの侵入を防いでいたのがローデシア皇国で、各国とは違う特権を持っていた―――
「いずれにしても、ローデシアは勢力拡大のために魔物、魔族を利用しているようにしか思えない。エルメルシアもその犠牲だがな」
レオナはうなずき、募集の件に話を戻した。
◇ ◇ ◇
数日後、ヘンリーとレオナはメル村に入った。すでに十数名の魔物狩猟者たちが集まっている。騎士崩れや、怪しげな魔術師、すこし亜人の血が濃い戦士などだ。
そこへ魔法使いのローブのような格好の男が近づいてきた。初老に差し掛かったその人物は、短い白い顎髭とオールバックの白髪、背は少し高い。マリオリだろうか?
「こんにちは、募集に応じてきた、ヘンリー・ダベンポートとレオナ・クライムです」
私は少し、お辞儀をしながら聞いてみた。
「ようこそ、いらっしゃいました。ローレンス・マリオリです。お見知りおきを」
と社交辞令から始まる。
「マリオリ殿とは、あの大賢者のマリオリ殿でしょうか?」
と単刀直入に聞いてみた。
その男は少し目を丸くした後、苦笑いをしながら、
「いや、その大賢者は、もういませんよ。私はソイ村のマリオリです」
「失礼しました。ではソイ村のマリオリ殿、改めて討伐のパーティに加わりたいのですが、どうすれば良いですか」
「ローレンスとお呼びください。ではこちらへ」
と私達を案内してくれた。
◇ ◇ ◇
手続きが終わり、今後の予定を聞いた。明後日まで、募集を待った後、明々後日の明け方に出発。場所は二つ山を越えた谷間に、トロールが十二体いる。そこを襲撃し殲滅する。
「十二体とは、募集の羊皮紙より多いですな」
とレオナが聞いた。
「トロール共は安全とわかると、仲間を呼ぶんですよ。そして、その辺りを狩場にして狩り尽くすと、散っていく」
この場合、狩りの対象は人属だ。
「なるほど。放おっておくとドンドン増えていってしまう、というわけですね」
と私の返答にマリオリは頷いた。
その後、マリオリと別れて、充てがわれた場所にテントを立てて、私達は武器の手入れをした後、ちょっと肩慣らしに武器を振っていた。
すると、二人の亜人の血が少し濃い人属がやって来た。
「空気を切っても、肩慣らしにならないだろう。どうだい、俺たちと手合わせしないか? なんか骨の有りそうな奴は、あんたら以外にいなからな。」
といってきた。
一人は男で、一人は女。猫系の亜人の血だろうか。顔はあまり人と変わらないが、耳は尖っていて、喋ると犬歯が見える。何よりも違うのは体つきで、革製の衣服ということもあるが、手足が長く、しなやかという言葉がピッタリだ。
「いいですよ。二対二でどう? 私はヘンリー、こっちはレオナ、君たちは?」
「俺は、サン、こっちは妹のケイ」
レオナは何か言いたそうだったが、もう答えてしまった。
でもそう聞くや、
「では参る」
と槍を構えた。
私もエルメルシアを構えて、頷いた。
サンとケイは二人共、タガーの二刀を構えた。
私とレオナに間合いを詰めてきて、直前でサンは下へ、姿勢を低くしタガーを出しながら滑り込み、ケイは飛び上がり、回転しながら頭を飛び越え後ろに回ってきた。
レオナが槍でサンの攻撃を弾き、ケイの後ろからの攻撃は、エルメルシアで防いだ。
一撃をかわされて、二人はさっと引く。
「なかなかだな」
「それはこっちのセリフだな」
レオナとサンが褒め合う。
レオナが槍先を低い位置で、サンに間合いを詰めて、サンの眼の前で槍先を上げる。そして突いては引きの怒涛の攻めをお見舞いするが、サンは柔らかい体を活かし、すべてを避けきる。槍は突かせてから斬れと言われるが、レオナの引きは非常に素早い。
レオナの攻めを掻い潜り、サンはレオナの後ろに回り込んだ。
後ろから襲ってくる気配を感じて、レオナは一度槍の石突を当てるように背後へ突き出し牽制したあと、槍を前に出してから上から回して、体を捻りサンに向き合って、サンの喉、数センチで止めた。
サンは驚いた目で、降参した。
◇ ◇ ◇
私は、エルメルシアで防いだ後、動かず構えた。気はそれほど発していないが、ケイは明らかに動揺した。
それでも、タガーを後ろにして隠しながら、間合いを詰めて来た、左に回り込みながら、右のタガーを持ち替えて切ろうとする。
エルメルシアで防いだが、左のタガーの二撃目が私の腹を狙って来た。
私はエルメルシアをわずかに下げた。
普通なら、それだけでは二撃目は避けれないはずだが、左のタガーは軌道をずれる。
左の必殺のタガーの軌道を柔らかくずらされた、ケイはそのままエルメルシアを右タガーで抑えながら、回転し、もう一度左タガーで斬りつけてくる。
またエルメルシアを少し下にずらすとやはりタガーの軌道はずれる。
こんどは左手で、ケイの流れていく左肩を抑えて、回転を止めた。ケイの背中から抱きかかえた感じになった。
あれだけの力が信じられないほど、小柄で背丈は私の顎のあたりまでしかない。そして肩幅は、私の半分ほどにしか感じられないが、回した腕に当たる胸の感触は、柔らかく弾力を感じた。そして背中にかけて、柔らかいというより、ネコ科特有の靭やかさを感じ、髪の毛からは花の香りがした。
ケイは、
「参った」
と小さな声で答えた。
私は、はっと我に返り、
「失礼した」
とゆっくりと、体を離した。
ちょっと気まずい雰囲気のところで、
「いや、皆様方、素晴らしい武功の持ち主ですな。これならば、明後日の討伐は大船に乗った気持ちでいられます」
マリオリが拍手をしながら、近づいてきた。
「流石、サン殿とケイ殿は、ユアンジア家のお血筋の方たちだ」
「いえ、我が家系はユアンジアの傍流です。本家の武功には、遠く及びません」
サンが手を顔の前で振って否定した。
マリオリは、そんなことはないの意味を込めて、クビを振りながら、
「クライム殿の槍も凄まじものでした。私は無学ゆえ、教えていただきたいのですが、何処か名のある流派でしょうか?」
「いえ、我が家に伝わる槍術です。本物の武術家のものには及びません」
皆、謙遜するので、武術家が送る礼を三人に向けた。
「さて、ヘンリー殿、貴方は、何者ですか? ダベンポートと言えば……」
とマリオリの問が終わる前に、
「そう。あの気魄に玄武結界のような技、あれは、なに」
とケイは被せて聞いてきたが、直ぐに不味かったを思い顔を赤らめて下を向いてしまった。
まずマリオリに向いて、聖剣エルメルシアの古代の飾り文字を見せながら、
「私も、ただのダベンポートです」
とだけ言った。
マリオリはひと目みて、私の言葉を理解して頷いた。そして私は、今度はケイに向かって、
「この剣には、父と母の魂が宿っているようです。父は気魄を発することができ、母はアルカディアで玄武結界を習ったそうです。この剣の加護で、幾つか技が使えるだけです。レオナを含めて、皆さんの武功にはそれこそ、遠く及びません」
「そう。お母様、アルカディアのレン老師の門下」
と今度はサンが聞いてきた。
「いえ母は魔術師です」
サンとケイは、クビを傾げながらも、頷いてくれた。




