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雑貨屋の主人は錬金術師  作者: 村中 順
ミソルバ国 動乱
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第18話 ドラゴン解放

“大……魔導……師殿、我らを……助けよ、できなけ……れば、我らを……殺せ。”

強烈な思念がジェームズの頭の中に入ってきた。


“人……属に……体を・乗っ取られる……など、恥で……ある。”

ドラゴンが発しているとすぐに判った。


 ドラゴンは聖素、魔素両方を生命エネルギーにする数少ない生き物だ。非常に知性が高いが、プライドも高い。エルメルシアの一件以前は理由がなければ、人属を襲うことなどないとされていた。


 僕は矢を使って、ドラゴンの近くに移動した。城からは僕が見えない位置である。そこにシェリーも到着した。


「ご主人様、足のお怪我、回復薬で」

と言ってきたが、


「いや、大したことない。それに考えがある」

と言って断った。


 シェリーは、頷き、今度は飛行魔物を見上げながら、

「うるさいわね」

と一言呟いたあと、飛来してくる小型魔物の背中に瞬間移動して立ち、足に少し力を入れて気を叩き込んだ。


 そして、その飛行魔物が落ちる前に、他の飛行魔物の背中に立ち、次々に落としていった。


 アーノルドも合流し、ドラゴンを睨みながら、竜牙重力大剣を構えた。


“魔寄せの呪いの術者がいない。君たちは本当に操られているのか?”

と僕は思念で問うた。

 

“我ら……の角後ろ……に何か……を……埋め込まれた。……それ……が、勝手に……体を操る”


   ◇ ◇ ◇


 ミソルバ王都から離れた湖畔から、一部始終をスコープで見ていたヌマガーは驚きで声も出なかった。数時間のうちに魔物達が全滅したのである。


 ’一般人から見れば、ミソルバ国将兵と錬金術師の連携が功を奏したように見えるが、実際は、あの出来すぎた弟子一行の仕業だ‘


 特にドラゴンが、バリスタに当たって墜落したように見せかけた、あの術は大魔法のグラビティーホールと思われる。


 出来すぎた弟子、こいつはローデシアに驚異になることは間違いない。


‘しかし、奴らは何をしているのだ’

とスコープを覗き込みながら考えていた。


 隣では、三人の魔術師が魔法通信でドラゴンを操ろうとして懸命である。

すると、一瞬の間だけ重力が戻った。次の瞬間、奴の女の従者の手に記憶干渉核があるのが判った。


’! まずい。’


「すぐに通信を止めよ」

と叫んだときには、三人の術者の額には矢が生えていた。


 矢が飛んできたのではなく、生えてきたとしか思えない感じだった。

奴の矢は、時空を超えて飛んでくる。軌跡もなく、突然、目標地点に現れる。

 私は、咄嗟に空気の気圧を部分的に変えて光を屈折し、消音結界に消魔力結界を張って気配を消し、錬金術で作った最も早い馬を使ってその場を一目散に退散した。目標が判らなければ、さすがのあの矢も飛ばせないはずだと祈った。


   ◇ ◇ ◇


 僕は一瞬の間だけ重力を元に戻し、シェリーに三個の核を取ってこさせた。戻ってきたときには、シェリーはすでに発信源の座標計算が完了し、魔法通信で位置情報を僕に送ってきた。僕は矢を構えることなく、弓の弦をすばやく三回弾いた。時空矢は目標の位置が判っていれば狙う必要がない。


“ありがとう。開放された”

とドラゴンは思念で言って来たので、


“重力を戻すけど、暴れたら、今度は潰すからね。重力が戻ったら即刻飛び去れよ。他の人達は怖がっているから”


(あるじ)、大丈夫か?」

とアーノルドはドラゴンを睨みながら心配してきた。


 無理もない、アーノルドの父親は、目の前でドラゴンに食われたのだから。


「あの時みたいに、操られていないから大丈夫と思う。暴れたら、重力を1000倍にして潰す」

と声を低くして答えた。


“我らは暴れない。そもそも、人属に危害を加える理由はない”

とドラゴンは思念で言った。


 僕は城から人が来る前に重力を戻した。


“ありがとう、この恩は忘れない。今はここを去ろう”

と思念で言って、ドラゴンは飛び去っていった。


「人が来る! みんな腰を抜かした真似をするぞ」

と僕は言って、尻もちをついた形で座った。


 特に足のやけどが目立つようにした。


「えー、俺はやだぜ。いくら(あるじ)の命令でも、そんなかっこ悪いことでき……グフ」

アーノルドは拒否したが、シェリーが瞬間移動し、蹴りをお見舞いした。不意を突かれたアーノルドは、呻きながらその場に伏した様に見えた。


 その後、シェリーは僕の胸のところに現れ、


「きゃー」

と言って、抱きついてきた。


 見ると舌を出した。


 そこへ、ミソルバ王がやって来て、

「ダベンポート殿大丈夫か? ご無事か?」

と大声で心配してくれた。


 僕は、

「バ、バリスタで落ちたので近づいたら、ドラゴンは気絶しただけみたいで、突然起きて飛び去ってしまいました」

と怯えた声で言ってみた。


 何かあったらと、双子の聖霊師も連れてきたらしい。


 二人はじっと僕を見た後、両耳に両方の顔を近づけて、他の人に聞こえないように

「芝居が下手じゃ」「じゃ」

とステレオで言ってきた。


 足のやけどは、ちょいちょいと指で円を描いて、回復の祈りで直してくれた。ステレオで。


 ドラゴンが去って、三日目の正午、宴会が始まった。


 謁見の間には大きく長いテーブルが幾つも設置され、その上には鳥の丸焼きや色々な野菜、果物など、できうる限り集められたの食材で作った料理が並べられた。窓は大きく開かれ、初夏の匂いともに吹き込む風が気持ちがいい。少し熱くなってきた陽の光が明るく差し込んでいる。天井にかかる旗は儀礼用の華やかなものに取り替えられ、会場の端には楽隊が楽しげな音楽を奏でている。


 ミソルバ王と王妃は、甲冑から宮廷服に着替えて着席している。

王妃のドレスはとてもよく似合っていて美しい。が、王は羽の生えた帽子に、丈の短い服に、ぶっとい足にタイツ。ヒゲモジャでどう見ても怪しい。


 笑うと不敬罪に問われそうである。僕はアーノルドに厳しく言い聞かせた。


 ヒーナもパーティドレスを着ていたが、どう見ても似つかわしくないポシェットを腰に付けている。


「ねぇ、そのポシェット、何が入っているの?」

と僕がチキンを片手に聞くと

「薬よ。ああ、飲み過ぎ食べ過ぎには、良いのがあるわ。言ってね」

とニッと笑ったあと、ジュースを片手に答えてくれた。


 アーノルドが、何か酒を物色しに席を外しているとき、僕はシェリーに、気になってたことをちょっと聞いてみた。


「この間のドラゴンが去った後、君がアーノルドに蹴りを入れたでしょ。アーノルドに蹴りを入れられるのは君くらいしか居ないとは思うだけど、油断していたとは言え……本当に効いたのかな?」

「いえ、蹴りは効いてないです。アーノルドは直前に力を抜いて、私の攻撃を打ち消しました。私も気を打ち込んでませんので。あの男、変なところにプライドがあるので、キッカケを作ってやったんです」

「ふーん」


 何時も、なんか言い合っているけど、お互い理解しているだなぁと僕は思った。


 そこへアーノルドが戻ってきた。


「シェリー、なにニヤニヤしながら俺を見てんだよ。そんなに男前か? 俺」

「何を言っているのですか。子供のようなお爺さんが、粗相をしてご主人様に恥をかかせないか心配して監視していたのよ!」

「なに、誰が子供ジジイだって……」

とまた始まった。


 宴もたけなわになってきた頃、


「ダベンポート殿、しばしここに居ってはくれまいか? そなたがいれば、魔物も撃退できるだろうて」

とミソルバ王が切り出してきた。

 

 予想していたので、

「いえいえ、今回はミソルバ王国の将兵の方々の強さの賜物と思います。僕など、微力ながらお手伝いさせていただいたまでのことです。優秀な魔法使いを雇われれば、もっと簡単に撃退できるでしょう。何なら、紹介いたしますよ」

と言って、アルカディアの知人を何人か紹介することにした。


「それに、少ししたら、店の開業ために僕の使いのホモンクルスをこちらへ派遣します。何かあれば、そのものに言ってください。シェリーを通して連絡がつくようにしておきます」

と気休めを言っておいた。


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