第120話 助力と左遷
「母上、何事が起きたのですか」
エレサは、城内が騒がしくなってきた理由を、執務室にいるシン王国女王に聞いた。
―――エレサは、アルカディア難民キャップで受けた衝撃以来、用兵術・兵法をサルモス・ウード中将、武術をタタン・ユアンジアから学び、数ヶ月で大きく成長を遂げた―――
「ファル王国正規軍が魔族の王によって壊滅したらしいわ。それで魔族達は、ロッパの方々に侵攻し始めたらしい。アルバ海運都市から国境沿いに防衛線を築く指示を出したところなの」
とシン王国女王はこう答えながらも、兵達が次々に持ってくる文書に署名をしながら答えた。
「確か、ヘンリー・ダベンポート王一行は、エルメルシアを解放するために向かったのではないですか? 」
とエレサはヘンリー達を心配した。
「ロキア様とミキア様がお戻りになられた時、そう仰っていらしたわね。私も心配している所なの。でもなにせ大陸の反対側にいらっしゃるから、如何ともし難い所なのよ」
と女王は、少し手を休めて、虚空を見上げながら答えた。ヘンリー王の人柄を評価していたし、何と言っても娘に王族としての心得を教えてくれた恩人である。
兵の救援を出すことはとても間に合わないし、今シン王国自体の防衛も重要であることは、エレサにも解っていた。
’何とか救援を送れないだろうか’
とエレサは考えていたが、一つしか答えは見つからなかった。
「母上、竜王様達にお願いして来ようと思います」
とエレサは女王に提案した。
「そうですね。それが今は一番良いと思います。あなたから、お願いできるかしら」
と女王は言ったが、エレサが、しばしば城を抜け出し竜王に会いに行っていることを知っていた。
◇ ◇ ◇
―――シン王国王宮から、王都の湖の反対側の森に竜王達が居た。何時もなら、のんびりと過ごしてた竜王達だが、非常に悪い予感を感じ落ち着かない―――
「竜王様いらっしゃいますか?」
とエレサが護衛の騎士を一人連れてやってきた。
”うむ、エレサか。数日前から如何も胸騒ぎがしての。ローデシアの方で何かあったようだ”
とバサッと羽ばたき、聖火竜王が答えた。
”今、様子を見に行こうか、相談していた所だ”
と聖水竜妃が答えた。
エレサは、女王から聞いた話を竜王達にした。
”よく知らせてくれた。早速に、大魔導士殿達を助けに行かねばなるまい”
と聖風竜王が答えた。
エレサが、何か言いたげな態度を取っていたので、
”エレサ、今はまだ、我慢しろ。お前は、将来、偉業を成し遂げる人物と我らは見た。今は、その時まで研鑽を積むが良かろうぞ”
と聖土竜王が頭を両手に乗せながら、エレサと同じ目線になって諭した。
「解っているわ。私、まだまだだもの」
と下を向き、石を蹴って答えた。
”シン王国に魔族が来るかもしれない。竜妃達は残ってくれ。我らで行ってくる”
と聖火竜王が見回しながら行った。
◇ ◇ ◇
’如何も解せない。デーモン王が復活した時、最初に俺に向かって、『ゴリスをなぜ殺したのだ』と聞いてきた。まるで俺たちが、仲違いしているのを見ていたか言いぷりだった’
とムサンビは、骨の馬の上で、顔のない顔を下に向けて考えながら、エルメルシア城攻略に向かっている。
’そして、王は、『ムサンビにはエルメルシア攻略を言い渡す。攻略が完了したら、その場に止まれ』とだけ言った。ロッパは広い。ファルを攻略するだけも、かなりの魔族が必要なはずだ。俺のスケルトン軍は、四将軍、随一の兵員数を誇る。なのにこんな辺境に押し込んでおくのは何故だ? ’
とムサンビは見えてきたエルメルシア城跡を睨んで考えた。
そして、手を上げて、軍隊を停止させた。
ザッザッ
―――スケルトン軍が一斉に止まった―――
’総勢十万のスケルトン軍。ここまで来る間に数度、魔法の罠に掛かった。最初スケルトン軍に犠牲が出たが、そのあとはゴブリンどもを前に出して、死に兵として使った。それでも、罠を取り除くのに手間取り、予定より二日遅れだ。敵には魔法と聖霊に長けた者がいるのだろう。ご丁寧に大地を清めている。その為に、スケルトンが復活しないのだ’
「おい、そこのゴブリンロード、ゴブリンどもにあの城跡に攻め込ませろ」
と横にいたゴブリンロードに命じた。
’何がゴブリンロードだ。ただ体が大きいだけのボンクラだ’
ゴブリンは何の戦略も戦術ものなく、ただ、雄叫びを上げて城に攻め寄せる。
’案の定か。結界が張ってある上に、其処彼処に魔法の罠が仕掛けてある。しかも聖水で清められた大地だ。ゴブリン供が歩くたびに脚が溶け、倒れると悲鳴を上げながら消えていく。空もシッカリと罠が貼ってあるようだ。ゴブリン供の血で聖素を中和するまで待つか。これでまた王から叱責を受けそうだ’
とムサンビは、ゴブリン達が血を流し、その血で大地が染まっていくのを顔のない目で見ていた。
’しかし、俺は『王』と言う奴らにとは、反りが合わない。それは昔からだ’




