第117話 逆襲
―――かつての壮麗で巨大なローデシア王都はそこには無かった。魔族、魔物たちが闊歩し、廃墟と死体と骨、吊るされた人属、気の狂った人属の女、内臓がはみ出た人属の男。それらを魔犬が引っ張り合い、生きたまま食いちぎっていた―――
遠くから、魔法具の望遠鏡で見ていた父上は吐き気を催したようだ。さっき私も見たが、気分のいい物ではない。
「かまわぬ、あそこに居る人属は既に息絶えている。生きていたとしても、もう正気ではない。葬ってやる事こそ人属の道だろう。すぐに魔族共々葬れ」
とファル国王は兵たちに指示した。
兵たちは躊躇したが、王の命令であるため、
「御意」
と言って、魔法部隊の方に伝令が走った。
「皇太子よ、あそこを落としても、街は作りたくないな。お前が指揮して少し外れたところにファル副都を建てよ」
とファル王は私に向かって述べた。
「御意」
とだけ答えた。
もはや城壁は落ち、魔物、魔族たちは連携もない。ファル正規軍は野で狩でもやるような物だ。将校たちだけで手際よく攻撃し、殲滅していく。私や王が出る幕もない。
「敵の将軍たちがいる場所が硬いです」
と伝令がやってきた。
ローデシア城の内郭に位置する場所らしい。
「構わぬ。攻撃を続けよ。王のいない烏合の衆だ」
と父上は伝令に告げた。
その時、明らかに最前線で動揺が走った。
これまでは快進撃が、恐怖で停止した。
◇ ◇ ◇
―――デーモン王は、北の大陸の自分の城の中心で床に手をつき、呪文を唱えた。黒い点から、輪となり、その縁が水の波紋のように広がていく。そしてデーモンの城全体を囲んだ―――
「なっ、なんだ、なんだ」
今まで、ファル正規軍の攻撃を凌いでいた四大将軍たちは口々に驚愕の言葉を発し、現れつつある巨大な物を、驚きの目で見つめていた。遠くに控えた下級魔族たちは、畏れおののき、ある者はひれ伏し、ある者は、逃げ出した。人属は、ただ茫然とした。そして猛烈な爆風と共に大音声が鳴り響いた。
「諸君、俺は証文の魔法を克服し、今ここに復活する。俺は、お前たちの主人にして、魔族最強の王、デーモンである。証文の呪いは最早存在しない。俺のもとで、このロッパを思う存分蹂躙し、貪り尽くし、魔族の領土としようではないか。 俺に従うものは千年の栄華を与えよう。俺に刃向かうものは千年の苦痛と死を与えよう。……… ひれ伏せ、俺の意に従うものはひれ伏せ!」
その声は大地を震わし、空気を裂き、ローデシア全土に鳴り響いた。聖素を元にする生きとし生けるもの全てに恐怖と絶望を与えた。そして、ローデシア城の有った場所に黒い岩肌をむき出しにし、無計画に組み立てられた不気味な城が現れた。
「さあ、俺に従う者たちよ、ここにやって来た蒙昧なる家畜どもを狩尽くせ」
この言葉を機に魔物、魔族は一斉にファル正規軍に食らいついた。
四将軍も王の復活に、安堵し、恐怖した。この体たらくの責めを追及されるに違いないと思い奮闘せざる負えない心境に追い込まれた。
そして、ムサンビは配下のスケルトン兵を大地から呼び寄せ、大軍をもって、ファル正規軍を襲った。デレクはキメラを数十体を出現させ、ファル軍の攻城兵器を破壊し、人属を食いちぎった。ラスファーンは、大量の大蛇を地に這わせ、ファルの兵をひと呑みにし、コーリンは不気味な飛行する魔物を使い、弓兵を空に釣り上げ、引っ張り有って引き裂いた。
「父上、すぐに撤退を」
とブライアンは腰が抜けて尻餅を付いている父王を抱き上げ、馬に乗せて自身も走って逃げた。
―――固まった場所に魔法部隊がいて、結界を張り、数々の魔法を繰り出して抵抗していた―――
「ふっ、豚どもが」
とデーモン王は城から、その羽を使って飛び出し、魔法部隊の上辺りにやって来た。
そして呪文を唱えながら、両手を上にあげ、黒い塊を作り出した。
「ふっ」
と掛け声のもと、黒い塊を魔法部隊に向けて投げ落とす。
―――魔法部隊の中心に落ちた黒い塊は、断末魔の悲鳴とともに人属を溶かしていった。その溶解の速度は遅く、あるものは手が溶けていき、あるものは足が溶けて這い蹲り、ある者は、出てくる内臓を必死に抑えて、自分の腹の中に収めようとして、その手が溶けていく。自分の体が溶けていく様子を見ながら絶命する―――
「ガハハハ、愉快だ。家畜供が、蝋でできた人形のように溶けていくぞ」
そして、デーモン王は女の騎士が混じっているのを見つけた。
「雌がいるのか」
と言いながら、右手に魔法陣を出し、それを握り潰した。
すると、女の騎士たちは、突然、戦うのをやめて、鎧を脱ぎだし、裸になって、勝手に身悶え始めた。ゴブリン、ホブゴブリン、他の魔族がやって来て、体を裂かれるまで犯された。
また、王都内の一部ではトロールたちが、聖素抜きの液体の入った巨大な水槽を持ち出し、生死にかかわず、鎧や服をはぎ、その中に放り込んだ。ほぼ一杯になってもギュウギュウと限界まで押し込めた。こうして百余の人属詰め水槽が出来上がった。
「愉快だ、愉快だ。さあ、魔族、魔物供、家畜を食い尽くせ、犯し尽くせ」
とデーモン王は叫んだ。




