反逆者は監視者と共に依頼を投げられる
「…………お待たせ致しました。
では、お二人とも此方にどうぞ」
訓練所での試合から少しした頃、またしても同じ受付嬢から移動の指示を受ける事となるシェイドとサタニシス。
一応、あの条件の通りに力を示して見せた以上、シェイドだけでなくサタニシスにも昇格試験を受けるだけの資格が在る、と判断されての指示なのだろうが、二人は揃って首を傾げる事となった。
てっきり、受験資格を有していると示して見せた事により、このまま中級相当の依頼の一つでも投げられて、それを見届け人を連れた状態で達成して来い、と言われるとばかり思っていた為に、わざわざ別の場所へと移動する、と言う事態になるのが不可解であったからだ。
違和感の在る対応に、思わず傾げていた首を戻して視線を合わせて相談する二人。
「…………どうする?
明らかに、何かしらの厄い案件を押し付けられるか、ソレか面倒事の気配がプンプンするんだが……」
「でも、ここで昇級しておかないと、君の目的は果たせないんでしょう?
無理矢理国境越えをするだけならともかく、その後で武器を造って貰う予定で物事を考えているんだから、話に聞くだけでも手形は必要になるんじゃないの?君が求めるレベルの得物を拵えようと思うのなら、尚更必要なんじゃない?」
「だが、あからさまに厄介なネタをぶん投げられる予感がするんだが……」
「だとしても、必要なのは代わり無いでしょう?
……なら、こうしない?取り敢えず話を聞くだけ聞いてみる。それで、君の言う通りに厄介なネタを投げられた、って言う事なら今回は諦めて断るなり、逃げるなりして別の方法を使えば良いのよ!それで、只単に重要なお話でした、って場合は普通に達成して正攻法でレオルクスを目指す。
ね!コレなら、どうなってもどうにかなるでしょう?」
「………………まぁ、ソレもそうか。
気配からして、そこまで強そうなのはこのギルドに今は居ないみたいだし、いざとなったらこの建物自体を吹き飛ばしてやればどうとでもなるか」
多少物騒な結論ながらも、二人の中で意見の合意を見た為に、誘導をしようとしていた受付嬢の後を着いて行く事にするシェイドとサタニシスの二人。
それを目の当たりにし、取り敢えずは同行する事にしてくれた、と言う事に対して安堵の吐息を漏らしながら胸を撫で下ろし、二人を先導して建物の奥へと向かって進んで行く。
流石に、内装自体はソレなりに似通っているとは言え、カートゥに在ったソレと全く同じ、と言う訳が無く、二階へと昇る大階段や吹き抜け状になっていたり、と言うモノは無いが、それでも造り自体はそれなりに似た様なモノとなっているらしく、少し奥まった処に設置されていた階段を登ったその先には『支部長室』と書かれたプレートの掲げられた扉が存在していた。
…………コレは、どう言う事なのか?
そう、視線にて問い掛ける二人からのプレッシャーを冷や汗を流しながらもどうにか回避し、先導した受付嬢が扉をノックして入室の許可を求める。
すると、程無くして内部からソレを許可する声が掛かり、受付嬢は明らかにホッとした表情にてその扉を押し開けて二人を部屋の内部へと入る様に促して来た。
ソレに従い敷居を跨いだ二人に対して、部屋の中で書類にサインをしていたらしい人物が落としていた視線を上げ、手振りで応接セットに座る様に促してから口を開く。
「どうも、初めまして。
仕事をしながらで申し訳無いが、私がこのウィアオドスに在るクロスロード本支部の支部長としてギルドマスターの席に着いているアルテリアと言う。
もう少しでキリが良くなるから、先ずは座って待っていて貰えないだろうか?」
怜俐な美貌に長く伸びた耳、長く煌めく金髪と外見的な年齢不相応な落ち着きを見せながら書類にサインする手を止めずにいるアルテリアと名乗ったその男(?)は、人類諸族の内の一つである『精霊人族』とも呼称され、独特な魔術理論にて特殊な魔術を扱う事で有名なエルフ族であった。
基本的に排他的な傾向が強く、種族の本拠地であり伝説の世界樹が生えている、と噂される森の奥の国からあまり出てこない事で有名な種族であり、職に就いたとしても装飾系統の職人か、もしくは魔術の発動体を作る職人と言った戦闘とは直接的に関わり合いになる様な職種は避ける傾向に在る、と言う話は割りと有名だ。
それ故に、そう言う話を耳にしていた覚えが在り、かつ冒険者として登録しているエルフ族を見た覚えの無かったシェイドとしては、こうしてアルテリアと名乗ったエルフが冒険者ギルドに居る事に驚いていたが、サタニシスとしては特に驚く様な事でも無かったらしく、促されるままに応接椅子へと腰を掛け、受付嬢が出して来たお茶に手を伸ばしていた。
遠慮も何も無い彼女の姿に呆れると共に『まぁそんなモノか』と変な納得をしながらシェイドも出されたお茶に手を伸ばしていると、取り敢えずの目処が立ったらしくペンを置き、肩を回しながら二人が座る対面へと腰を下ろして行くアルテリア。
「どうも、お待たせしました。
いやぁ、しかし。年のせいかも知れませんが、机仕事は肩が凝っていけませんね。こんな事になるのなら、報酬に釣られてギルドマスターなんて引き受けるんじゃ無かったですよ、全く……」
そう愚痴を溢しながら肩を叩くその姿は、外見が若々しいだけに違和感満載となっているが、妙な処で現実味を帯びており、何故か目の前の男にはしっくり来る動作であると思えるモノとなっていた。
とは言え、こうしてわざわざ呼び出されている以上は二人に対して何かしらの用件があるハズなのだし、ソレを切り出すまでに無駄話に付き合う必要性も皆無であった為に、半ば強引にシェイドが話を切り出して行く。
「…………それで、ギルドマスター・アルテリア?俺達をこうして呼び出した理由はなんですか?
俺達は、昇級試験を受けに来ただけなんですが?」
「そうそう。お年寄りの長話に付き合って上げるのも若者の義務だとは思うし、別段私達も急ぎ旅の最中に在るって訳じゃないんだけど、だからって無駄に引き留められるのはあんまり面白く無いなぁ。
と言う訳で、さっさと説明よろしく~。でないと、ここでの昇級は諦めて別の処に行く必要が出てきちゃうからさぁ~」
「………………やれやれ、最近の若い人達はせっかちですね。
私が若かった時は、もう少し老齢に在る者を尊重し、その者の知恵を借りて生活を向上させたモノですよ?」
「だとしても、俺達には関係無い。
それに、呼び出しておいてそんな糞ほども関係の無い話しかしないのならば、大した用件でも無いのだろう?
なら、悪いが俺達は別の処に行かせて貰う。行くぞ、サタニシス」
「はいは~い。
そう言う事だから、じゃあねぇ~!」
「ちょっ!?ま、お待ちなさい!
分かりました!用件をお話しますから、お待ちなさい!」
「…………なら、最初からそうしろ」
「で?用件って一体なに?
私達に、何をさせようとしている訳?」
中々本題を切り出そうとしないギルドマスターに業を煮やしたシェイドとサタニシスが、まるで予め打ち合わせていたかの様に席を立とうとした為に、慌てて引き留める為に本題についての事柄を口にし始めるアルテリア。
何かしらの事情が在るのならばともかくとして、こうして切り出せたのだからさっさと説明してしまえば良いものを……と呆れを隠そうともしない視線を二人に向けられる中、居心地悪そうにしながらも本題の説明を始めて行く。
「……では、ご説明します。
お二人には、ここ最近このクロスロードの交易路の一つを荒らしている盗賊団の壊滅を依頼したいのです」
「…………盗賊団の壊滅?この、クロスロード国で?
なんで、今の今まで放置していたんだ?この交易国家にとっては、交易を邪魔する盗賊団なんてモノは、多少高値を付けてでも真っ先に排除しなくちゃならない害悪だろう?」
「なのですが、頭の痛いことに割りと最近までその存在が認知されていなかったのですよ……小規模な商会の商人のみを狙い打ちにして、徹底的に情報や痕跡を潰してくれていた様子でしてね?
お陰で、複数の商会からの行方不明捜索依頼が寄せられるまで、全くもってその存在を知る事が出来ずにいた、と言う訳なのですよ……」
「だとしても、ソレをわざわざ私達に投げる意味って何なのよ?
私は彼が切欠で冒険者活動してみよう、って程度だから相場とかお決まりだとかは良く知らないけど、でもそう言うのは地元の有力な冒険者とかに依頼するのが筋ってモノじゃ無いの?
私達は、あくまでも旅路の途中で寄っただけの初級冒険者と、その初級冒険者未満の未登録者でしか無いんだけど?」
「えぇ、ですか、その初級冒険者は下手な上級冒険者パーティーよりも強大な魔物を、より多く討伐している事は記録から読み取れましたし、もう片方の未登録者はこの依頼を割り振ろうとしていた『オルレイド』をたった一人でのしてしまいました。
なら、下手な人員を送って不確実な成果を待つよりも、戦力的にはほぼ間違いなくやれるであろう方々に投げてしまうのが良いだろう、と言う事ですよ」
「…………それで、昇格試験として使うに丁度良かったから、ソレを名目として俺達にやらせよう、と?
ソレを受ける事に、俺達に何の利益が?聞くだけでも、ソレって上級相当の依頼だろう?わざわざ俺達がやらなくちゃならない理由は無いハズだが?」
「寧ろ、だからこそ、ですよ。
これさえ達成できれば、貴方達は『上級相当の実力を持つ冒険者である』と言う何よりの証明になります。
であれば、後はソレを手に昇格試験を受ければ良いだけです。それは、冒険者を続ける上では何よりの報酬だと思いますよ?
寧ろ、ここで上級冒険者に昇格して行きますか?」
「残念だが、まだ強制義務に縛られてやるつもりは無いんでな。
そいつはお断りさせて頂く」
「おや、それは残念。私の功績になったのですが、そう言うのならば諦めますよ。
で、依頼の方は受けて頂けるのですよね?」
「ちゃんと正規の報酬が貰えるなら、私は別に良いけど?
後、何処に居るだとか、どのくらいの規模なのかだとか、そう言う情報くらいは貰えるんでしょうね?」
「では、交渉成立と言う事で。
資料はここに纏めてありますので、出来るだけ早目に取り掛かって頂けると有難いです。よろしいですね?」
「………………あんまりよろしくは無いが、それでもやらなきゃならないんだったらやってやるよ。
但し、報酬をけちったりだとか、昇格の約束を破った時には…………分かっているよな?」
「…………え、えぇ、それは、もちろん。
現役時代の私より、余程大きな魔力を秘めている貴方を騙して、無事でいられる、だなんて思える程に図太くも現実が見えていない訳でも無いつもりですので、その点は保証させて頂きますよ」
「…………なら、良い」
それだけ返事をすると、差し出された資料を受け取って封を開き、早速中身を確認しながら二人で連れ立って支部長室を後にするのであった。




