反逆者は偽善者の戦いを傍観する
「たぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!!」
気合いを込めた咆哮と共に、大上段から振り下ろされる得物。
その動作は、確実に何らかの訓練を受けた者の身のこなしであり、まともに決まれば頭蓋を割り砕くだけでなく、気合いのままに両断せしめて見せるだろう、と言う予感を感じさせる程の迫力の伴った一撃であった。
先の試合の結果から『アイツが勇者?なら、もうお終いだ……』と言った空気が流れ始めていたのだが、ソレを目の当たりにした事によって俄に『もしかしたら大丈夫なのか!?』と言う空気に変わり始めて行く。
…………しかし、そんな気迫の伴う一撃であったとしても、自分には関係無い、と言わんばかりに逆手に握っていた短剣の様なモノにて頭上に迫っていた刃を受け止め、流し、歩法と合わせて自身の身体からその軌道を逸らしてしまうズィーマ。
それには、幾ら身体能力強化の魔術も、スキルとして与えられている『限界突破』も使ってはいないとは言え、そこまでアッサリと回避されてしまった事に驚愕を隠せていない様を晒す事になるシモニワ。
ソレなりに剣術には自信が在ったのだろうが、例え以前いた世界にて優秀な成績を修めていたとしても、所詮部活動にて培ったモノが殺し合いの場でその真価を発揮するとは限らないのだ、と言う事を遅蒔きながらに理解させられた彼の頸へと、防御に使われたのとは逆側の手に握られた短剣が迫って行く。
咄嗟に得物を引き戻しで防御するシモニワであったが、その注意は完全にそちらへと固定されてしまった状態となっており、僅かな予備動作にて繰り出されたズィーマの蹴足に気が付く事が出来ず、無防備にその一撃を受ける事となってしまう。
「がはっ!?」
「…………?この程度、か……?」
式典である表彰式に出席する関係上、胴鎧すら碌に装備せずにいたシモニワはモロにその腹筋へと強烈な蹴りを貰ってしまい、吹き飛ばされながら苦鳴を溢す事となってしまう。
…………が、どうやらズィーマとしては『こうなった』事が予想外であったらしく、追撃に移る事もせずにその場で首を傾げるながら訝しむ様な呟きを溢す事となる。
彼の予想だと、ここで蹴りを防御して、その上での反撃をいなしてから至近距離戦闘へと展開し、最終的に関節技での組打ちに移行する、と言う予定であったのだが、防御される前提であった攻撃が防がれずに直撃してしまった為に、追撃に移る事が出来なかったのだ。
しかし、彼からしてみればほぼ『牽制の一撃』であった攻撃も、受けた方からすれば『手加減抜きの本気の一撃』であり、無防備にもう一撃受けるのは危険だ、と判断させるのには十二分なダメージを受ける事となっていた。
その為か、呪文を詠唱して身体能力強化の魔術を使用し、その上で更に『限界突破』のスキルを使用して自身の能力を限界まで強化すると、得物の切っ先をズィーマへと突き付けながら口を開く。
「……ふっ!どうやら、さっきの一撃が全力を出した際の威力だったのだろう?
だが、こうなってしまえば、俺にお前の攻撃は通らない!これで、俺の勝ちは揺るがない!
……だが、俺は元々一人じゃない!俺には、仲間が居る!心強い仲間達が、俺には居てくれるんだ!たった一人乗り込んで来た、お前とは違って!!」
…………ソレだけを聞けば、そこはかとなく格好の良い事を言っていた様な気がしないでも無いが、要素を分解してみれば『勘違い』と『見当違いな勝利宣言』並びに『複数人数による集中攻撃の宣言』でしか無い為に、実はそこまで良い事を言っていた訳でも無い。
しかも、特に事前の打ち合わせが在った上での行動でも無かったらしく、指名はされて居ないながらもその自覚が在り、かつ本人から仲間だと思われているのだろう、と見当が付いてしまっている者達は、頭痛を堪える仕草をしたり、彼から視線を逸らして合わそうとせずにいたりしたのだが、観客席からの
『勇者に仲間が!?これは、助かったか!?』
と言わんばかりの空気と雰囲気に押し出される形にて、レティアシェル王女とナタリアの二人を除いた他の面々が渋々と言った形で観客席から舞台の方へと歩み出て来る。
その行動を目の当たりにしたズィーマは、端正な眉を潜めて確認する様に口を開く。
「…………確か、某は言ったハズだが?
某が用があるのは勇者のみだ、と。
勇者のみを出すのであれば、某からは他の者には手出しはしない、と。
……これは、そう言う事だ、と受け取っても良いのだろうか?」
「ふっ!
例えそうだったとしても、お前はここで、俺に、俺達に倒される!
その後に訪れたかも知れない悲劇の事なんて、心配する必要は無いんだから!さぁ、皆!行くぞ!!」
最後通牒を告げるズィーマの不快そうな様子を気にする事もせず、得物を構えて飛び出して行くシモニワ。
ソレに付き従う形で、レティアシェル王女が、ナタリアが、イザベラが、カテジナが続いて進んで行く。
イザベラとカテジナは、その様子を手出しせずに傍観しているシェイドへと、話したがる様な素振りと視線を向けていたりするが、当然の様に彼にはスルーされてしまい、若干涙目になりながらそのまま進んで行く。
…………とは言え、その姿は万全とは言い難く、戦力も充分とは言えない状況に在った。
何せ、レティアシェル王女は先の試合にて切り札を切ってしまったばかりで未だに魔力が枯渇した状態に在り、得意の【憑依召喚】をするだけの呼び水とする魔力も充分に在る訳ではない。
同様に、少し前に切り札である【業火纏身】を使用しており、大分魔力を消費したままとなっているイザベラも同じ様な状態に在ると言っても良いだろう。
早々に敗退したカテジナや、比較的燃費の良いナタリアはそれなりに貯蓄魔力も残されてはいるが、やはり魔力は消耗しているし、怪我の治療やら何やらで体力も落ちてしまっている為に、やはり万全とは言えない状況に在る事は変わり無い。
とは言え、既にシモニワが勇者として啖呵を切ってしまっている以上は手出ししないでいる、と言う選択肢は残されてはいないし、何よりこのまま放置してしまっていては他の人々にも目の前の魔族によって被害が出る可能性が在る為に、やはり彼の様に傍観に回る事は出来ない。やはり、戦う必要自体は在るのだ。
そう結論を出した彼女らは、今の自分達に出来る限りの魔力を振り絞り、魔術による弾幕を形成して行く。
そして、その上で身体能力強化を施したイザベラがシモニワと共にズィーマへと向けて肉薄して行き、二人で同時に手にしている刃を相手へと向けて叩き付ける。
片方の攻撃を防げばもう片方からの攻撃を受け、両方を防御しようとすれば力で押し負ける。回避して下がろうとすれば、既に展開されている弾幕によって押されながら追撃を受ける事となり、魔術で反撃しようにも既に間合いは詰められてしまっている。
…………ズィーマの方から仕掛け無いのを良いことに、彼らとしては一方的に数の力で蹂躙出来る場を作り出してそのまま押し切る、必殺の陣形を即席で作り出したシモニワは、このまま自身が勝利する事を疑っていなかった。
このまま皆の前で魔族を討ち取り、国王からも称賛を受け、そして仲間である美少女達から好意を寄せられる。互いに想いを高め合い、そしていずれは……と言う、大変に彼にとっては都合の良い事を想像しながら。
…………しかし、ソコには二つ程誤算が在った。
一つは、彼が仲間だと、自らと想いを寄せ合い、想い合っている、と思っている事。そんな事実は欠片も存在せず、寧ろ独り善がりな彼の態度により、更に周囲が冷めて行っていると言う事に、未だに気が付いていない。
そして、もう一つの誤算。それは、彼らが相手にしているズィーマが、その程度でどうこう出来る相手であると認識していた事だ。
故に…………
ガキィンッ!!!
「……な、何だと!?」
バチッ!バチバチバチバチッ!!
「………………予想はしておりましたが、よもやこれ程とは……」
「…………やはり、この程度か……」
……故に、自らが繰り出した限界まで強化した一撃だけでなく、共に攻撃を繰り出したイザベラのモノも難なく受け止められてしまっただけでなく、彼が展開した結界により降り注ぐ弾幕の尽くが防がれる事となってしまう。
ソレにより、数を頼みに掛かってきたのにこの程度だったか、と言う失望の呟きがズィーマの口から溢され、彼の身体から膨大な魔力が迸って行く。
最早ソコに在るだけで、周囲に対して影響を与える程の魔力圧を間近に受けてしまった為に、思わずその場で硬直するシモニワに対し、今度は蹴足では無く手に握られた短剣の刃が走る。
…………が、その刃が彼の事を切り裂く直前に、同じく間近にいたイザベラによる突飛ばしによりその軌道から逃れる事に成功するが、その代わりに彼女の肩から背中に掛けてを深々と切り裂かれる事となってしまう。
「ベラッ!?」
「ボサッとしない!
ワタシになんて構ってられる余裕が、アンタ程度に在ると本気で思ってるの!?」
思わず愛称で呼び掛けるシモニワに対して当のイザベラが、苛立ちを隠そうともせずに怒鳴り返す。
すると、今度は外さない、と言わんばかりの気迫にて彼へと目掛けて刃が振り下ろされて行く。
ソレを目の当たりにし、どうにか止めようと弾幕を濃く、強くして行く三人。
しかし、ズィーマが張っている結界によって全て防がれてしまうと同時に、彼の手によって放たれた闇色をした爆裂により、一撃で薙ぎ払われる事となってしまう。
辛うじて迫る刃を手にした得物で受け止めたシモニワが、自分以外の仲間が地に伏すその姿を目の当たりにし、呆然と
「…………おい、ウソ……だろう……?
俺が、俺こそが……この世界の主人公なんじゃ、無かったのかよ……?」
との呟きを溢す。
ソレに対してズィーマは、まるでかつては聡明であったが現在は白痴に堕ちた者を見る様な憐れみの視線を向けると、切り結んでいた得物を蹴り上げる事で彼の防御を無防備なモノへと変えると、満を持して手にしていたもう片方の得物を彼の頸へと目掛けて振り下ろして行くのであった……。
「……………………はぁ、ここまでかねぇ……」
果たして、どうなる?(棒読み)




