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反逆無双の重力使い~『無能』と呼ばれて蔑まれた少年は、封じられた力を取り戻して『反逆者』へと至る~  作者: 久遠
一章・虐げられた少年は反逆者へと至る

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少年は思い出の名残を懐かしみ、世の理を噛み締める

 


 授業が終わった教室から、三々五々に生徒達が退出して行く。



 この日は授業が半日で終わる日程であった為に、口々にこの後どうするのか、を友人と話し合いながら、一路玄関を目指して進んで行くその人波に逆らう形で進み、教室に現れる影が一つ。



 長い髪を棚引かせつつ豊満な身体を揺らしながら歩み、廊下を行く生徒達の視線を一挙に集めるその影こそ、別の教室に所属していたナタリアその人であった。




「お疲れ様、シェイド君、ベラちゃん。

 もう今日はこれで授業おしまいだけど、これからどうしますか?」



「……う~ん。

 ワタシは、特に用事は無いから、このまま直帰するかなぁ……」



「でしたら、一緒に帰りましょう。

 シェイド君も、一緒に。ね?」



「…………あ~、ごめんリア姉さん。

 僕、この後寄らなきゃならない処が在るから……」



「えぇっ!?本当ですか!?」



「ウソッ!?」




 何故かウキウキとした様子にてイザベラだけでなくシェイドにも『一緒に帰ろう』と言う誘いを掛けたナタリア。


 しかし、当のシェイドは済まなさそうにしながらも、その誘いを断ってしまう。



 その事実にショックを受けた様子を見せるナタリアであったが、同じ様にイザベラも驚いている様子を目にして気を取り直したらしく、咳払いをして空気を変えてから再度シェイドへと問い掛ける。




「……ん、んんっ!

 その、用事が在る、との事だけれど、それは私が聞いても良い類いのモノですか?

 それが買い物の類い程度であるのなら、是非私とベラちゃんも一緒に行かせて貰いたいのだけど、ダメかしら……?」



「ちょっ!?

 勝手にワタシまで巻き込まないでよ!?」



「…………ごめん。買い物って訳でも無いんだ。

 僕、明日の課外授業の手続きをしに、冒険者ギルドまで行かなきゃならない、ってだけだから……」



「「…………あっ……」」




 慌てた様にナタリアへと制止の声を掛けるイザベラであったが、問いに対するシェイドからの答えを聞いて言葉を失ってしまう。



 彼らが明日受ける予定となっている課外授業は、このガイフィールド学校に於いては定番の実技の授業だ。


 学校内部に再現された地形を探索するのではなく、実際に魔物が出現する都市の外に出て、現地で魔物を討伐する事で経験を積ませる事を目的としている。



 しかし、その性質上生業として実際に活動している冒険者達の糧を僅かながらに奪う事にも繋がる為に、その実習が行われる際には須く冒険者達を管理・運営している冒険者ギルドへと届け出を出す決まりとなっているのだ。



 そして、その届け出は、基本的には実習を行う学校側が纏めて行ってくれる事となっているのだが、それはあくまでも一定以上の成績を修めている者のみとなっている。


 当然、その範疇にシェイドは入っていないので、彼は自らの足でギルドまで出向いて手続きを行わなければならないのだ。



 戦闘系の授業であまり芳しい成績を修める事が出来ていない彼としては、不参加で終わらせる事は絶対に出来ないので、手続きをしていなかったから、と欠席扱いされる事は絶対に避けたい、と言う事情も在る。



 そんな理由を出されては、と渋々彼を見送る二人の視線を背中に受けながら、どうにか表面上は取り繕って学校を後にするシェイド。



 そして、冒険者育成学校と言う存在であるが故に、このアルカンシェル王国の王都である『カートゥ』(コレも初代国王が由来となっている。本人は『俺は『カトウ』だ!』と言っていたとか、そうでないとか……?)の冒険者ギルド支部は、比較的近くに建てられているので、そこまで時間を掛ける事無く到着する事に成功する。



 彼の目の前に聳える、ガイフィールド学校に負けず劣らずの巨大な建物こそ、元冒険者、と言う来歴から建てられた、と言う由来が在るとか無いとか言う話の在る冒険者ギルドだ。


 このアルカンシェル王国の王都に建てられたギルドであると同時に、アルカンシェル王国のギルド支部を纏める本支部の役割も持っている上に、初代国王が最初に建てたギルド支部だから、と言う事でここまで立派な造りになっているのだそうだ。



 ……とは言え、その立派な外見が、中身も伴ったモノである、とは言い切れないのが実情であるのだが……。



 内心での暗い感情を飲み下し、それまで見上げるだけであったギルドの建物から視線を逸らして扉へと手を掛け、体重を掛けて一息に押し開いて中へと足を踏み入れる。



 するとその先は、外観からは想像も出来ない程の熱気に満ち、同じく外観からは想像も出来ない様な人々が集った光景が広がっていた。




 まず目を引くのは、やはり広々としたエントランスだろう。


 そこは、昼過ぎで比較的人が少なくなっている時間帯のハズであるにも関わらず、とても大きな鎧を着けた者、槍や剣を背負った者、杖や弓を携えた者、軽装であったり魔物を引き連れている者、と言った如何にも『冒険者で御座い!』と言った者達から、揃いの制服を着て、冒険者達から依頼の品を受け取る者、書類を抱えて行き交う者、掲示板に依頼書を貼り出す者、と言った風に忙しなく働いている様子が見て取れた。



 そこから視線を奥へと移動させると、そこには奥側の空間をカウンターにて切り取って作られたスペースと、そこに並ぶ幾つもの受付の存在が目につく事になる。



 居並ぶ受付嬢達は皆見目麗しく、美人系であったり可愛い系であったりと系統は様々であるが揃って外見は調っており、またスタイルの方もスレンダーな者から豊満な者まで揃って居るため、正に選り取り見取り、と言った様相を呈している。


 そこに並ぶ荒くれ者達も、時に男女の間で粉を掛け合い、時に同性同士で仲良さそうに会話をしている姿が垣間見えた。



 右手側に広がる広大な武具・防具・夜営等の必需品を手広く扱っている購買や魔物の素材を買取りする専用の受付には用事が無かった為に視線を向けず、また厄介な事にならない様に、左手側の酒場には故意に視線を向けない様にして進んで行く。



 真っ直ぐ正面のみを見詰めて進む訳にも行かないシェイドが視線を左には向けない様にさ迷わせていると、矢鱈と頑丈そうな柱の妙に凝らされた装飾だとか、何故か吹き抜けとなっていて階段にて繋がっている二階に在るギルドマスターの部屋の扉だとかが目に入ってくるが、それらに対して懐かしそうに目を細める。




(…………懐かしいな。

 あの装飾、以前()()()()()時に、僕が登っちゃって騒ぎになったんだったっけ……。

 二階のギルドマスターの部屋も、昔は良く遊びに行かせて貰っていたな……)




 ……思わず、そんな思いが彼の胸中にて、郷愁にも似た感傷として湧き起こる。


 かつて彼の両親が健全であり、かつ彼の特異性が広がる前までは、彼も両親に連れられて良くこのギルドに顔を出していたのだ。



 その時には既に『英雄』の名を欲しいままにしていた二人の子供として、彼らと顔見知りであった冒険者達やギルド職員、また彼らの友人でもあったギルドマスターにも良く遊んで貰っていた、と言う楽しかった思い出と過去が彼の脳裏に過っていた。




 …………とは言え、それも既に過去の話。




 彼の事を可愛がってくれていた冒険者の大半は、両親と共に魔物の大暴走である『スタンピード』に対処するべく出撃して帰還しなかったか、もしくはその際の戦闘が原因で冒険者を引退してしまっている。


 ギルド職員に関しても、既に当時を知る者は殆んど居ない。



 唯一、二人が友人として信用し、かつ自分達に万が一の事が在ったら……と彼とカテジナの二人の後見人を務める事を依頼し、その上でそれまで築いて来た財産の殆んどを預けていたギルドマスターも、今では手のひらを返した様に不干渉を貫いている。


 ……もっとも、既に『英雄の後継』とも名高い妹のカテジナとは頻繁に接触したり、冒険者ギルドの内部でも色々と便宜を図ったりしているらしい、との噂は彼の耳にも届いている為に、全く持って干渉を絶っている、と言う訳でも無いのだろが、今の処彼には関係の無い話では在るのだが。




 そんな事を倩と思い出して思考に沈んでいたシェイドであったが、特に何事も無く受付のカウンターの前まで到着する事が出来た為に安堵から胸を撫で下ろし、手続きを済ませるべく空いているカウンターを目指して足を踏み出そうとする。



 ……が、そこで気を抜いたのか不味かったのか、それとも過去の思い出に浸っていたのが悪かったのかは定かでは無いが、唐突に肩にガッチリと腕を回されて拘束されると同時に、酒臭い息にて彼の耳元へと()()()()()聞き慣れた声が掛けられる。




「……よう、クソガキィ……オメェ、ギルドに面出して、俺様の処に面出さねぇとは、随分と舐めた真似してくれてんじゃねぇか、おぉ……?」



「…………カス、グソさん……別に、僕はそんなつもりじゃ……」




 唐突な事態への驚愕と、それまでの経験からくる恐怖に声と足を震わせながら、掠れる声にてモゴモゴと言い訳するシェイド。


 そんな彼へと絡んで来たのは、彼に呼ばれた通りにカスグソと言う名前の冒険者であった。



 ザンバラ髪で所々抜け落ちた歯、一目で中級品だと分かってしまう装備に酒臭い息と赤らんだ顔に粗野な雰囲気。


 正しく、絵に書いた様な『真っ昼間から酒を呑んで管を巻く落ちこぼれ冒険者』と言った風体の持ち主であり、事実としてその通りの存在であった。



 ……とは言え、そんなうだつの上がらない容貌をしているとしても、昼間から酒に呑まれていたとしても、カスグソは『中級冒険者』である為に油断は出来ない。


 何せ、未だに『一般人に毛が生えた程度』とも言われる『初級冒険者』から卒業する事が出来ずにいるシェイドとは異なり、荒事を生業とする冒険者の中で『そこに至れれば取り敢えずは一人前』と呼ばれる『中級冒険者』に至っている以上、必然的にその戦闘力は侮れないモノとなってしまっているのだ。



 ……例えそれが、『無才な者の終着点』や『誰でも到達は出来る場所』『死ななければ必ず辿り着く行き先』とも揶揄される階級であり、才能と運に恵まれた者であれば必ず通過して『上級冒険者』や『特級冒険者』と呼ばれる真の上位者へと至る『踏み台』に過ぎない階級であったとしても、一般人にとっては『怪物』と評しても間違いではないだけの戦闘力を持ち合わせているのだから。




「『そんなつもりじゃ無かった』だぁ?じゃあ、どんなつもりだったって言うつもりだよ、ヒック……あぁ?」



「……いえ、その……学校の課外授業の手続きを、今日済ませておかなくちゃならなくって、ですね……ゴボッ!?」




 言い訳……と言うには、事実に沿いすぎている彼の言葉に、無言で拳を繰り出すカスグソ。


 繰り出された拳は無防備なシェイドの腹にめり込み、彼に耐える隙を与える事無くギルドの床へと彼を強制的に招待する。




「……なぁ、おい……!

 テメェ、その舐めた口、俺様があのクソ学校に落とされた事知ってて聞いてくれてんだよな……!?

 前にも言っただろ……おい!?ヒック……俺様の前で、あのクソッタレな金だけ集めやがるクソ学校の事、口にしやがるんじゃねぇってよぉ……!?ヒック……」




 ガッ!!ドボッ!!ベキッ!!グシャッ!!!




 自らの過去のコンプレックスと、自身を落としたハズの学校が自分以下のハズの『無能』を入学を許可している、と言う耐え難い事実を突き付けられる形となったカスグソは、自らが叩き込んだ拳で床を舐める事となっているシェイドへと言葉を投げ捨てながら、蹴りによる追撃をお見舞いして行く。



 戦闘用に鉄板が仕込まれたブーツの爪先による、配慮の欠片も込められていない蹴りを腹部を中心に受けたシェイドは、半ば意識を飛ばしつつ、悶絶しながらも丸まる事でどうにか致命傷を避け、何時終わるとも知れない暴虐にただただ堪え忍ぶ。



 周囲の冒険者は当然として、ギルドに勤める職員達の誰一人として、その光景を目にしながらも止めようとはしていない。



 何故なら、この荒くれ者が集う冒険者ギルドは当然の事として、このアルカンシェル王国には明文化こそはされていないながらも、一つの不文律が存在するからだ。




 それこそが、『力こそが全て』と言うモノ。




 初代国王が冒険者上がりであり、かつ己の腕にて国土を勝ち取った、と言う経緯から、元々荒くれ者が集まり易い土壌が形成されていた。


 であれば、必ず、と言っても良い程に治安や風紀は乱れ易い傾向にあり、実際に創立初期には無法地帯と化していたのだそうだ。



 そこで初代国王は自らが先頭に立って荒くれ者達を拳で捩じ伏せ、自らが定めた法の元に従わせる事で治安を回復させ、風紀を取り締まる事とした、と言う逸話が現在まで伝わって来ている。



 その為、現在の王家も強大な力を有しており、ソレによって順守する者には平等な法を敷いて比較的平和にこの国を治めているのだ。



 ……だが、一部の者達や、冒険者の様な荒くれ者達はその逸話を曲解し、文字の通りに『強い者がルールであり、弱いヤツはソレに逆らう事は赦されない』と言う不文律を昔から敷いて来たのだ。



 流石に、大々的に一般人にまでそれらを強要する事は滅多に無い(全く無い、とは言え無い)が、それでも相手が戦闘職に就いていたり、同じく冒険者であったりするのならば話は別。


 何の遠慮も呵責も無しに、全力でその不文律を押し付けて力を誇示し、相手にマウントを取りに行く事に欠片も躊躇う事は無くなってしまうし、周囲もソレを止める事は無くなるだろう。




 …………冒険者ギルドの最下級の冒険者であるシェイドは、運悪く丁度その条件を満たしている存在であった。在ってしまったのだ……。




 ……とは言え、そんな事は現在進行形で暴虐に晒されている彼には全くもって関係無く、ただただ魔力を全身に巡らせて少しでもダメージを減らすべく身体を強化し、ダメージを受けた部分に魔力を集中させて致命傷に至るのを防いで行く。



 しかし、受ける端から治しているとは言え苦痛は感じるし負傷も確りとしている為に、何時終わるとも知れない暴虐を前にして、少しずつ彼の意識は遠退き始めてしまう。



 ……そんな中、偶々彼の視界に入った二階の扉が開き、中から兎の特徴を備えた妙齢の美女が現れる。



 若い時間が長く、戦闘や子作りに適した身体を長く維持する事で勢力を拡大してきた『獣人』の一種族であり、聴力と脚力に優れる『兎人族』であるその女性に対し、思わず反射で手を伸ばしながら声を挙げてしまう。




「…………だ、助けで、助けで下ざいっ、ゴボッ……!?

 助けで下さい、ラヴィニアざんっ……!ガビュッ……!?」




 ……しかし、そうしてかつて両親の親友であり、現在は一応自身の後見人的立場に在るハズのその人へと伸ばされた救いを求める彼の手は、特に何の感慨も抱いていない様子の一瞥を残して振り払われる事となり、何の助けも得られる事無く背を向けられてしまう。



 それにより、頭の何処かではこうなる事が分かっていながらも、少なくない衝撃と絶望とを受けた彼は、不用意に救いを求めた事によって機嫌を悪くしたカスグソからの激しさを増した暴虐に、暫しの間耐える事しか出来なくなってしまうのであった……。




その理が、何故自らには向かないと思っていられるのか……



説明回は取り敢えずここまでになるので、次回から少し文字数が減ります

ご了承下さいませm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
うーん、徹底的にやり返し尽くしてくれるのを期待して我慢しろってことですかね? 随分、ヘイトを稼ぎますね(笑)
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