反逆者は道化師に対し、第二の復讐の牙を突き立てる
………………ドンッ!!!!
唐突に発生した爆音により、それまで沸き起こっていた観客席の歓声が、漣が引く様にして静まりかえって行く。
一体何事か!?まだ試合は始まってもいないハズなのに!?
そんな、戸惑いを強く含んだ観客達の視線は、自然と爆音の発生源である闘技場の舞台へと集中する。
するとソコには、驚愕の表情を浮かべながらも試合の開始を告げる合図として腕を振り下ろした状態で固まっている審判と、つい先程まで二人が握手を交わしていたハズの舞台中央部に立ち込める土煙のみであった。
……試合はまだ始まったばかりのハズなのに、一体何が?そもそも、あれってちゃんと開始の合図が在ってからの攻撃だよな?いや、どっちかって言うと合図の前に行われた攻撃の様な気が……?じ、じゃあ、あれって反則なんじゃないのか!?そもそも、あれってどっちからの攻撃だ?そんなの、あの無能に決まっているだろう!そう、だよな……普通に戦えば勝てるハズのクラウン選手が、そんな事するハズが無いもんな!
情報が入って来ない事で、観客席では様々な憶測が飛び交って行く。
中には、事の正鵠を射ているモノも在りはしたのだが、他の大多数、『無能が試合開始の合図が出されるよりも先に攻撃を加えた』と言う見識によって呆気なく塗り潰され、次第に観客席は審判に対してシェイドの事を反則負けにする様に求める声と、彼に対するブーイングによって満たされる事となる。
端から見ていれば、求められて当然の反応に応える素振りを見せない審判に観客席が焦れ始めたその頃。
未だに土煙が立ち込め、爆発が発生してからまだ然程時間が経過せず、精々が一分二分と言った頃合い。
立ち込めていた土煙を切り裂く様な鋭さにて、内部から一つの影が飛び出して来て舞台の上へと転がる事になる。
…………観客席が再び沈黙に支配され、ソコから注がれる視線を一身に受けながら、苦鳴と血反吐を吐き出しつつ立ち上がろうともがき苦しむその姿は、その場に居合わせた者の内の殆んどが『勝って当たり前』と信じて疑う事の無かった、貴公子の姿であった……。
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唐突にクラウンからの握手を申し込まれたシェイドは、とある確信を抱いていた。
あぁ、これは、何かしら仕掛けてくれているな?と。
端から見ていても異常に緊張している上に、何がなんでも握手をさせようとしている素振りからするに、恐らくは何か仕込んでいるのだろう、と言う事が、彼には察する事が出来ていた。
……だが、彼はソレを周囲に訴える事もせず、促されるままに差し出された手を握り、握手に応じて見せたのだ。全てを見た上で、そのまま真っ正面から踏み潰してやろう、として。
故に、何か仕掛けられている、と分かっているその握手にも無防備に応じて見せたのだ。やれるモノならやってみろ、と言った心構えにて。
一方、ソレを知らずに応じられたクラウンは、仕掛けていたハズの側であるにも関わらず、まさか応じるとは思っていなかった、と言いたげな程に驚いた様な表情を浮かべつつ、その瞳の奥にて『やはり無能は無能だった様だな!』と言った嘲笑の色を浮かべながらも、反対側の手で審判へと合図を彼には気付かれない様に、隠れる様にして送って行く。ソレが気付かれていない、と信じきったままで。
そして、合図を送られた審判が、試合開始の宣言と共に手を振り下ろすと同時に、クラウンが醜悪な笑みを浮かべながら掴んだままとなっていた右手の平から爆発を発生させ、シェイドへと向かって蔑みも顕な口調にて罵声を浴びせて行く。
「かははっ、くははははははははっ!!
バカめ!俺が、俺の様な選民が!お前の様なクズとまともに戦うハズが無いだろうが!あの時は奇襲を受けただけに過ぎなかったし、予選もどうせ何かしらの卑怯な手を使ってくれていたんだろう?
残念だったが、俺にはそんなモノ通用しないんだよ!精々、俺が華麗に活躍して、レティアシェル王女やイザベラやナタリアに対するアピールポイントの稼ぎ役にでもなっててくれよ!」
「……………………」
「……なんだ?悔しくて、言葉も無いのか?俺の固有魔術である『罠魔術』の威力にビビって、腰でも引けてるのか?
それとも、この程度で戦闘不能になる程度でしか無かった、って事か?残念だなぁ~。こんなの、精々が腕一本使えなくなる程度でしか無いだろう?あの時、俺が受けた痛みは、こんな程度じゃ無かったんだけどなぁ~」
「………………」
「おら、どうした?痛みで碌に反論も出来ないのか?
この程度、俺の魔術からすれば、ただ単に威力が高いだけで、大した事の無いモノでしか無いんだけどなぁ~。
まぁ、お前程度の無能の雑魚の片腕を吹き飛ばす程度なら、これすらも使う必要も無かった、かも…………?っ!?」
グシャッ!!!
…………一方的に勝ち誇った様に彼へと罵声を浴びせていたクラウンは、その手の内に、未だに相手の手を握っている感触が在った事に気が付き、急いでその手を離そうとするも寸での処で間に合わず、そのまま右手を握り潰されてしまう。
湿っていながらも、それでいて確かに硬いモノが潰される音と感触と激痛に苛まれ、思わず悲鳴を挙げながら身体を折ったクラウンは、握り潰された右手を引かれて踏ん張る事も出来ずに前傾姿勢へと移行させられると、そのまま腹部に鋭い蹴りを食らって吹き飛ぶことになってしまう。
未だに立ち込めていた土煙を切り裂いて、舞台の端ギリギリの処まで吹き飛んで転がって行くクラウン。
ソレを追う形にて同じく土煙の中から姿を現したのは、一切の負傷を負ってはいない、無傷の状態のシェイドの姿。
…………予め、何かしらは仕掛けられていると分かっていて、その罠をわざと踏み抜きに行く以上、備えは万全にするのが当然の事だ。
故に、彼は最初から周囲に放つ魔力の出力を上げて防御結界として展開していたので、爆発を至近距離から受けても無傷でいられたし、何かされた時の為に、と密かに展開していた重力魔術によって、クラウンの右手を逃す事無く破壊する事に成功していた、と言う訳だ。
…………とは言え、そんな事情を観客席が察するハズも無く、この場面だけを切り取れば正に『卑怯な手を使って相手を嵌めた無能と、ソレに嵌まってしまった哀れな貴公子』と言った情景その物となっていた為に、周囲からのブーイングや反則負けにしろ、と言った諸々の罵声が会場へと響き渡って来る。
……ここで、本当に卑怯な手を使って来たのはむしろソコのクソヤロウなんだが?と自分が主張した処で聞き入れられるハズも無いし、何よりそんな幕引きは望んでいないから、このまま好きに続けちまうか。
そう考えを纏めたシェイドは、チラリと審判に視線を送り、特に試合を止める様な素振りを見せていない事を確認してから、取り敢えずまだ地面に転がっている内に追撃を仕掛ける為に距離を詰めるべく、クラウンへと向けて駆け出して行く。
だが、流石にそのまま流れで決めさせてくれる程に温くは無かったらしく、血反吐を地面へとぶちまきながらも彼の方へと視線を向けて来ていたクラウンが、無事であった左手を地面へと叩き付けると、吐き捨てる様に忌々しげな呪詛を口にしながら呪文を詠唱する。
「クソッ!!こんな処で、こんなヤツ相手に、使うつもりなんて無かったのに!!
『我、地を統べる者にして、万丈の楼閣を築く者なり!我が呼び声に応え、この地に彷徨せし試練を顕現させよ!』【迷宮創造】!!」
その呪言に従う様に、もう数mでクラウンの元へと辿り着く、と言う程度に近付いていたシェイドの目前で、地面から壁が競り上がって来る。
咄嗟の反応にて、それを避けて回り込もうとするが、ソコにも既に壁が立ち上がっており、気が付けば彼の周辺は無数の壁が乱立して取り囲まれてしまっていた。
高さも数m程在り、飛び越えたり飛び乗ったりしようと思えば出来なくは無い(重力魔術を使わなくても)と言う程度の高さであった為に、情報を得る目的で慌てる事無く周囲を見渡した彼の視界には、取り敢えず全てを方向が囲まれてしまっている訳では無く、通路の様になって仕切られているらしい、と言う事が見て取れた。
とは言え、先にクラウンが漏らしていた言葉から察するに、慌てて動くのは危険な可能性が在る、と見て、取り敢えずは不用意に動き回る事は危険と判断したシェイドはその場で一旦停止して様子を見る事にした。
すると、何処からともなく、と言うよりはむしろ、彼の周囲を取り囲む様にして乱立している壁から直接放たれた様な聞こえ方をしながら、クラウンの声が周囲に響き渡って行く。
『は、はははははっ!どうだ!コレが、俺の切り札【迷宮創造】だ!
コイツが存在している空間内部では、俺が行使する魔術以外はその威力が減衰され、満足に振るう事も出来やしない!その上、この空間内部であれば、俺の好きな様に俺の固有魔術である罠魔術を行使できる!つまり、お前はソコから一歩でも動けば、即座に様々なトラップによって襲われると言う訳だ!さっきのソレよりも、数倍は強力な爆発だって起こしてやれるんだ、って事は、最低限理解した上で行動するんだな!
元々、消費魔力が桁外れに多いから、決勝までは切るつもりの無かった切り札だ!お前程度に切ってやったんだから、感謝で咽び泣きながら、恐怖に震えて無様に敗北しろ!!ははははははははははっ!!!』
自らの勝利を確信して疑わず、喜悦にまみれたクラウンの声が周囲に広がって行く。
先程とは異なり、今回のコレはシェイドにのみ聞こえていたのでは無く、不幸にも観客席にまで普通に聞こえてしまっていた為に、会場には戸惑いのざわめきが広がって行き、どう言う事なのか?と言う困惑の声が方々にて聞こえて来る様になってしまっていた。
そんな中、迷宮の中で一人立ち尽くしていたシェイドは、暫く周囲を、まるで何かを探す様にしてキョロキョロと見回していたが、とある方向へと視線を定めると、そちらへと向けて無造作に歩き出して行く。
程無く、と言う程の距離も進まずに、通路を挟んだ反対側の壁へと行き当たったシェイドは、その場で拳を握り固めると、僅かに腰を落として振りかぶり、呟きと共に目の前の壁へと拳を繰り出すのであった……。
「…………取り敢えず、もう見るべきモノは無さそうだから、コレからは潰すつもりでやってやるよ。お前の、望み通りに、な」
対クラウン編の完結は次回
果たして、彼に訪れる末路とは一体……!?




