反逆者は学舎へと到着すると、そこで復讐の牙を突き立てる
言い募る二人をバッサリと切り捨てたシェイドは、一人ガイフィールド学校への道を進んで行く。
普段からして通る道であった上に、この時期にガイフィールド学校が課外授業を行うのは恒例事項となっていた為に、その周辺に住む者であれば、この位の時間に通るであろう、と言う事は嫌でも把握出来ていた事であった。
その為、彼が通ると普段と同じ様にヒソヒソと陰口が叩かれ始めるのだが、何時もと違って彼が一人である事と、彼の姿が昨日までのソレとは異なっている事、そして、周囲からの言葉を気にして顔を俯けていなかった事により、次第に周囲に戸惑いが広がって行く。
「…………な、なぁ。アレ、確かに例の『無能』だよな……」
「……あぁ、多少見てくれが変わっちゃいるが、そのハズだ」
「なんて言うか、こう…………迫力、みたいなモノを感じる様な……?」
「バカ言うなよ!
アレは、あの『無能』だぞ?例の妹でも無く、何時も一緒に居させられてたお嬢ちゃん二人でも無い、ただの『無能』だぞ?寝惚けるには、ちと時間が遅すぎるぞ?」
「だけど、アイツは昨日、馬鹿みたいにデカい魔物を倒して来た、って噂よ?
しかも、その死体を、明らかに魔術だと分かる手段で動かしていた、って話も出てるみたいだから……」
「…………もしかして、アイツとうとう魔術を使える様になった、とか言うんじゃ……?」
「はっ!それこそ、有り得ねえだろうがよ!
『無能』はどこまで行っても『無能』でしか無いんだ。そんなに気になるなら、今すぐ喧嘩でも吹っ掛けて来てやろうか?あっと言う間にボコボコにして、それでお終いだろうがよ?」
「……で、でも、アイツ、この前見た時とは違って、なんだか迫力って言うか、雰囲気が在るって言うか……」
「…………あぁ、何処が、って言うのは具体的には分からないけど、以前とは違うって事だけは理解出来るよ……」
「確かに、アイツが変わったのも気になるけど、俺はアイツが一人で居る事の方が気になるな……何時もの嬢ちゃん達はどうしたんだ……?」
「…………一つだけ、確かな事が在る。アイツは、もうこの前までのアイツじゃない、って事だけだ……」
戸惑いの声を挙げる者、何故か怯えて震える者、豪気にも笑い飛ばして喧嘩を売ろうとする者、訝しみながら思考を巡らせる者と、言った風に様々な反応を示す人々。
その反応は、最後にもたらされた一言によって収斂し、漣が退いて行く様に彼へと負の方向性にて集まっていた視線は霧散して行き、自然と消滅する事となって行った。
それを、気配と言う形にて察知していたシェイドは、気にしてはいなくても不快なソレが霧散した事へと満足感と、どうせなら掛かってくれば遠慮無く返り討ちにしてやったのに、と言う不満感から、その場で数度『コキッ、ゴキッ!』と首を鳴らして肩を回すと、目的地であるガイフィールド学校へと再び足を向けて歩き出すのであった……。
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移動を再開してからそれほどしない内に、目的地であったガイフィールド学校へと到着するシェイド。
以前までとは異なり、顔を俯けてノロノロと道を進む事も、浴びせられた罵声に唇を噛み締める事も、途中で故意的に足を引っ掛けられたり石を投げ付けられたりする事も無く、ほぼ強制的に同行させられていた二人に歩調を合わせたり、興味の無い話題に付き合わされたりする事も無かった為に、格段に移動時間が短く済んだので、比較的まだ授業の開始までは余裕が在り、ソレをどうやって潰そうか、と校門を潜りながら思案する。
……が、その時
「……あれ?あれあれ??コレはコレは、『無能』で弱っちいシェイド君じゃないか!
今日は珍しく一人なんだなぁ~!じゃあ、イザベラちゃんとナタリアちゃんに遠慮は要らないよな?ほら、ちょっと付き合えよ。
何時もの通りに、校舎裏で『色々と』楽しもうぜぇ~?」
と横合いから声を叩き付けられると同時に、無理矢理肩に腕を回して強制的に肩を組まれてしまう。
それに対してシェイドは、反射的に攻撃するでも、その粗雑な扱いにキレる訳でもなく、ただただ身体を竦めながら縮こまっている……フリをしつつ、怯えている、と言う体で返事をする。
「…………お、おはようクッソ君。
でも、今からはちょっと……まだ時間在るけど、あんまり余裕も無いし……」
「……あ?ナニ?お前、俺に逆らう訳?
じゃあ、仕方無いな。俺とダチだけで済ませてやろうかと思ったけど、他の連中も連れてきて、ナマ言ってくれちゃった雑魚にお仕置きしてやらなきゃならないなぁ~。
でも、仕方無いよね?だって、シェイド君が逆らっちゃったんだから、自業自得ってヤツだよね?ほら、さっさと行こうか~」
そう言い放って彼の首を固め、無理矢理引き摺る形で校舎の裏側へと引き込もうとするクッソ。
その腕の影にて、抵抗虚しく引きずられて行く……フリをしながら、隠された口元に半月の嗤顔を浮かべたシェイドは、誰にも聞こえない様に呟きを溢すのであった……。
「…………ゴミは、一々拾わずに、纏めてゴミ箱に、ってね……」
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ゴシャッ!!!
「…………ゲバァッ……!?」
ガイフィールド学校の裏手にて、湿った鈍い音が鳴ると同時に、くぐもった苦鳴が周囲へと響いて行く。
そして、ソレに少し遅れてそれなりに重量の在るモノが地面へと落ちる音が発生すると、その後には苦痛を堪える呻き声だけが人気の少ない校舎裏に満ちて行く。
以前から、この場にて良く起こっていた光景。
以前であれば、ここで嬲り者にされて地面に沈んでいたのはシェイド一人であり、他の連中はそんな彼の姿を目の当たりにして馬鹿嗤いをしている、と言うのが普段であれば展開されていた光景であったハズ。
……しかし、今日この場に於いて、手酷く殴打されて地面に転がっているのは、彼を無理矢理この場に引きずり込んだクッソを始めとした、クラウンの号令の元にシェイドへと暴力を振るっていた連中であった。
普段とは逆の立場にて、地面に転がって苦鳴を漏らしている連中を冷ややかに見下すシェイド。
そして、徐に今回の発起人であるクッソの元へと歩み寄ると、その頭部へと冒険者御用達の鉄板仕込みのブーツの靴裏を振り下ろし、苦痛を与える目的でグリグリと踏みにじって行く。
「ガッ!?ぐぁぁぁぁぁぁああああっ!?!?」
「……おう、痛えか?痛えだろうなぁ。
何せ、俺は良く知ってるからよぉ。お前らに、散々されて、イヤって程に知ってるからよぉ。
それで?どんな気分だ?今の今まで、散々見下して嬲ってくれてた相手に、コレだけの人数集めて一方的にボコされる気分は、どんな気持ちなんだ?なぁ、教えてくれよ」
上機嫌で語り掛ける彼の周囲にて、幾人もの生徒が地面へと倒れ伏し、苦痛の呻き声を上げていた。
どれもこれも彼には見た顔であり、以前から一度とは言わずに二度、三度と殴られた覚えの在る連中であった為に、特に手心は加えず、別に死んだら死んだで構わない、と言う心構えにて容赦無く殲滅した結果、こうして地面を舐める事となっていた。
とは言え、クッソに肩を組まれた時に、半ば反射的に展開しかけていた様な、攻撃性の高い魔術の一発でも放っていれば間違いなく皆殺しに出来ていたのだろうが、敢えてそう言う手段に出ずに素手のみにて対処している以上は、やはりある程度は手加減していると言う事だったのかも知れないが。
尤も、こうして中途半端に手加減をされてしまったが故に、地面に転がっている者の大半が意識を失う事も出来ずに、破壊された身体が訴える激痛と戦いながらのたうち回り苦鳴を発する、と言う事態になってしまっているので、一概に『良かった』とも言えないだろうが。
そうして、これまで自分の事を散々可愛がってくれた連中を好きな様にいたぶってある程度の溜飲を下げたシェイドは、この場に居る中では割りとリーダー気質であると見ているクッソの髪を鷲掴みにして持ち上げると、自らもその脇に屈み込み、一見友好的にも見える穏やかそうな笑みを浮かべながら会話を始める。
「……さて、取り敢えず、お前らも俺との力の差は、ご理解頂けたかな?ん?」
「…………クソ、ッタレが……テメェ、何処で……こんな、力……!?」
「なに、ちょっとばかり、ねぇ。
まぁ、アレだ。一度くらい、死にかけてみるのも良いモンだぞ?とは言っても、死にかけたからと言って、必ず俺みたいになれるとは思わない方がよいけど、ね」
「…………なに、訳のわかんねぇ事を……!?」
「まぁ、その辺はどうでも良いんだよ。どうでも、ね。
取り敢えず、肝心要な事を先に伝えておこうか。
まず、お前らは俺より弱い。それこそ、格段に、な。雑魚だと言っても良い」
「……テメェ、ふざけた事抜かしてくれてんじゃ……ガッ!?」
「はい、残念。今喋るのは俺の番。君の番は、大分前に終わったんだった事を理解しないと。
そうでないと、また地面にキスする事になるぞ?良いかな?」
「………………クソッ……!」
「はい、残念もう一回」
「ガハッ……!?」
「……さて、いい加減学習しようか?
それじゃ、本題に入るぞ~?
お前らは俺よりも遥かに格下だ。だから、お前らは俺に逆らう事は許さない。絶対に、だ。良いかな?」
「…………」
「よし、無言で居るって事は了承したと取るぞ~。
で、そうやって俺に逆らう事を許されなくなったお前らに命令だ。
取り敢えず、今まで俺の虐めに関わってた連中で、まだ俺にボコされて無い奴ら、俺が指示したら順番に連れて来い。全員、お前らみたいに『ヤキ』入れてやるから、さ?」
「………………」
「……うんうん、漸くルールが飲み込めたみたいだな?
取り敢えず、俺の言う事黙って聞いて大人しくしていれば、また痛い目見なくても済むんだから、頑張ってこなせよ~。
……後、因みに、ナンだけどさ?『復讐してやる!』とか『虚仮にされた!』とか考えない方が良いよ?
そうでないと、次からは本気でぶち殺しに掛かるし、そうなったらお前らの家族や友人ごと挽き肉にしてお前らに喰わせてやるから、そのつもりでやれよ?じゃあねぇ~」
すっかり心を折られてしまい、無言のままで血塗れの顔に恐怖を張り付けた状態となっているクッソを放置し、背中を向けるシェイド。
最後に発せられた言葉の通りに、軽く殺気を漏らしてやれば、流石に彼が本気でソレを実行するつもりだ、と言う事が理解出来たらしく、両手で歯の欠けた口を押さえて悲鳴すら漏れ出さない様にしていた彼は、シェイドの姿が完全に見えなくなり、校舎から始業の鐘が響いて来るのが聞こえてくるまで、その場でそうし続けていたのであった……。
虐め程度でそこまでやり過ぎ?
むしろ、殺して無いんだから温い位じゃないですかね?(過激派の意見)




